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θ 幼馴染に巻き込まれて異世界転移した俺。勇者じゃないしチートスキルもないけれど、成り行きで手に入れたロボットと変身グッズで無双する!?

作者: smaller

石造りの建物が並ぶ市街地にて、肌は緑、眼球は垂れているゾンビ馬。それに乗った頭のない鎧、デュラハンの一団が兵士の群れに突撃している。


「重装兵は前へ出ろ!」「弓兵と魔法兵を守れい!」


中世の騎士のような全身の鎧と大きな盾を携えた重装兵たちが一列に並んで盾を構える。その一段後ろに構える弓兵と魔法兵は号令に合わせて飽和攻撃を仕掛けた。


無数の矢と魔法がデュラハンの一群に着弾する。そして巻き上がった土埃の中にシルエットが見えてきて、馬から降りたデュラハンたちが煙を抜けた。


「総員近接戦闘用意!」


兵士たちは役職関係なく小剣を取り出して迫ってきたデュラハンたちと交戦する。


揉みくちゃになりながら、兵士たちはデュラハンの鎧の隙間に刃を刺しこんだり、あるいは逆もしかり、しばらくすると遠くから騎馬兵のシルエットが浮かび上がってきた。


「新手だと!」「今で手一杯なのに!」「黙って集中しろ!」


そんな集団の頭上を飛び越える影が一つ。黒い装甲にフルフェイスのヘルメット。バイザーが怪しく赤色に光ると、スライディングしながら地面に着地し、背中の小型ジェットパックで起き上がりながら走りのフォームへ移行する。


新手のデュラハンは弓を持っている者がおり、そのサイバーパンクな兵士に矢を放つ。走りながら一本目の矢は手の甲で弾き、二本目の矢は掴み取った。


兵士は矢を投げる。それは一体のデュラハンの胸に突き刺さり、力なく倒れた。デュラハンの群れの距離が近づいたところで兵士は飛び上がり、もう一体のデュラハンを蹴り飛ばす。


そして空中で後方を向きながらホルスターからハンドガンを取り出し、もう一体のデュラハンを撃ち抜いた。


後方に転がりながら着地し、また走り始める兵士。残りのデュラハンたちは踵を返して彼を追いかける。


兵士は突然に右腕を突き出すと、そこから先端に金属の返しが何個もついた太いワイヤーが射出される。ワイヤーは建物に引っかかり、自動で引かれる。


そして壁に接したところでワイヤーは元に戻り、兵士は壁を走って屋敷の二階の窓に突入した。


中は長い廊下で、敵の魔法使いがいた。それをハンドガンで撃って走る。


それと同時に曇天を抜けてくる鋼鉄の物体。廊下の向こう側に着地すると衝撃で窓ガラスが割れた。


割れた窓から外に飛び出ると、そこには鋼鉄の巨人がいた。人型を模しているが完全に人型というわけではない、7から8メートルの鉄の塊が、胸のハッチを開けて腕でパイロットである兵士を矢や魔法から守りながらコックピットの中へと入れた。


そしてハッチが閉じると、内部はモニターとなり、外の景色を映し出す。中は座席になっていて手もたれに腕を置くと自動で拘束具によって固定された。


空を飛ぶ巨大なトカゲ、ドラゴンが急降下してきてロボットを襲う。しかし持っていた巨大な大砲を向けて引き金を引くと、ドンドンドンと弾丸が連射されてドラゴンを粉微塵にした。


周囲にはそのロボットと同じぐらいの背丈の岩石でできた巨人、ゴーレムが数体ばっこしている。また遠距離には魔法使いの兵士がおり、ロボットに対して火や土、風や水の様々な魔法を放った。


それらに対してロボットは銃を持っていない左手をさし伸ばす。すると掌を中心に青いバリアが発生して、それらの全てを受け止めた。そしてそのまま近づいてきたゴーレムに左手を向けて、バリアを閉じる。


バリアで防いでいた魔法がリリースされる。胸一点に集中した魔法が直撃し、ゴーレムは爆発四散した。


その横にいるゴーレムを銃弾で破壊すると、後ろから殴りかかってきた別のゴーレムを後ろ回し蹴りし、更に左のストレートで打ち砕く。そしてその更に左にいたゴーレムがロボットに腕を振りかぶり下ろす。


その腕を掴みながら巴投げをするロボット。投げられたゴーレムは他のゴーレムとぶつかって共々崩れ、破片が兵士を追ってきたデュラハンたちを潰した。


立ち上がりながら側面からやってきた新手を撃ち壊し、また背面からやってきたゴーレムの腹部を至近距離で撃つ。弾が切れた銃で殴ってそのゴーレムにトドメをさし、残りの横並びになった四体に目を向ける。恐怖を知らないはずの岩石に怯えが見えた。


二体が同時に走り込んでくる。ロボットは銃を投げつけて片方を破壊し、自身も走り込んでゴーレムと向かい合う。


ロボットは飛び上がり、ゴーレムに膝蹴りをし、そのままの勢いで後ろの二体の首を掴み倒して地面に叩きつけた。


全てのゴーレムを破壊した鋼鉄は悠然とその場に立つ。その後ろ姿を遠くから見ていた魔法使いの兵士たち。


「化け物め…」


緑の肌、額の小さい二本の角。杖をついて黒いローブに身を包んだ老婆が独りごちた。


「…!なにか、何かを発射しました!飛翔体!」


「何?」


側近の兵士らしき人型の魔物が叫ぶ。確かにロボットから何かが発射されたようだ。それは空に向かって、雲に突入。


「まさか…」


老婆が空を見上げたその瞬間、何かが雲を抜けたのが見える。そして次の瞬間、魔法使いの集団が爆発した。


轟音が鳴り響き、衝撃波が周囲を襲う。転移魔法で咄嗟にワープして逃げていた老婆は衝撃波により地面を転がるが、命からがら立ち上がった。


そして傍に、乗り手を失ってただ怯えているだけのドラゴンを見つける。老婆はそれに飛び乗って空を飛び、逃走を図った。


「逃がさん!」


ロボットは振り返るとハッチを開き、手のひらに兵士を乗せる。兵士はコックピットの中にあったのだろうか、手に持っていた小銃を構えて遠くの遠くを飛ぶドラゴンに向かって乱射した。


「ギャオーーーーーーーーーン!!!」


「!?」


数秒遅れてドラゴンが苦しみ出す。老婆が驚いて状態を確認すると、羽の部分にいくつかの弾丸による穴が開いていた。降下を始めるドラゴン。


ロボットは砲丸投げのような体勢へ移行し、少しの助走の後兵士を投げた。


鱗状の装甲の隙間から小さなロケットエンジンが無数に出てきて、兵士の体を加速させる。


迫る背後の影に怯える老婆。影はドラゴンよりも高く飛び上がってから急降下を始めた。


「ひ、ひ、ひぃやぁーーーっ!!!」


老婆の悲鳴。それには容赦なく兵士の飛び蹴りが老婆の背中に直撃する。そのまま一体となってドラゴンと共に急降下し、兵士は地面にドラゴンと老婆を叩きつけ、着地の反動で後方に跳んで宙返りしてから再び着地した。


二つの死体の前、火の海と化した街の中で、一人立ち尽くす兵士。司令塔を失ったことでもはや残党と化した残りの敵兵士たちは、既にその兵士を倒すことしか頭にない。


兵士の正面に残り全ての魑魅魍魎、モンスターが並び立った。そして兵士に無数の魔法や矢、投槍や石などを放って飽和攻撃、残りの気力を振り絞って突撃を敢行する。


攻撃に対してただ立っている兵士。その背後から重い足音、やはり鋼鉄の巨人が現れて全ての飛び道具をバリアで吸収しながらコックピットに兵士を入れた。


兵士にロボットの操縦権が移行する。そしてゆっくりと左手をモンスターたちに向けると、ロボット、『ダイダラ』の一つ目が赤く光った。











木陰で硬いパンを食いちぎる青年。根元が染まりきっていない金髪で、14才の割には長身だ。


ダイダラは自己修復と装備の充填を行っている。全身から出たロボットアームがそれぞれ忙しそうに別々の作業を進めていた。


自身の胸板ぐらいの大きな干し肉を噛みちぎり、バケツに入った水を飲む。粗食と言って差支えのない内容の食事をしていた。


「調子どう?大貴」


「ぼちぼち、かな」


青年の背後から一人の少女が現れる。青年と同い年で、美しい黒髪を腰まで伸ばしたスタイルと顔の良い美少女。


「これ、この街の特産品だって」


少女が投げた大きなオレンジのような果物を青年はキャッチした。


「ありがとう、茜」


茜は大貴の隣に座る。昼間の太陽が葉と葉の間からこぼれて芝生を照らした。


皮を剥いてみると、オレンジのような食べ物ではなくオレンジそのものだった。一口食べてみると甘い酸味が広がる。


「ああ…おいしい…」


魔王討伐の旅の中の食事は生きる為の活動でしかなく、大貴は頬が痛いぐらいの久しい甘味を楽しんだ。


「明日の作戦、本当にあれでいいの?」


茜が大貴に問う。大貴は軽く頷き、最後の一切れを飲み込んだ。


「あれが一番安全で効果的だと思う」


「でも最近無理しすぎじゃない、今回だって…」


「仕方ないさ…」


大貴の肩に頭をもたれさせる茜。太陽の暖かさを感じて、大貴はこくりこくりと眠りに落ちそうになる。


「大貴?」


「悪い、今日整備で寝れてなくて」


「…こんなに急がなくてもいいのに」


「いや、相手の損耗が激しい今、仕留めなくていつ…」


大貴はよっぽど疲れていたのか、話しながら寝てしまった。茜は大貴を横にして、見張りをする。


ふと茜は大貴の寝顔を見た。そして頬を撫でて口付けすると、再び見張りに戻った。


大貴が目を覚ます。夕日は沈みかけていて、街は昨日魔王軍による襲撃を受けたにも関わらず活気があった。


「あら」


「あ…寝てたのか」


「それはもう、気持ちよさそうにスヤスヤ寝てたわよ」


「悪い悪い、じゃあ飯食いにいくか…」


大貴は立ち上がって背伸びをする。ダイダラはまだ作業が終わっていないのか、薄暗い中、自身の数倍の大きさはある何かを作っていた。


街を歩いてある店に入る。席に着くと店員が注文を聞いてきた。


「じゃあ…この『肉肉肉盛り合わせ3kg』と水を」


「私はこの『カリパスタン』と赤ワインを」


「かしこまりましたー」


「茜…お酒は」


「いいじゃない、誰も見てないんだし」


「あ、アカネちゃんにダイキくん!」


自身を呼ぶ声に反応して、その声の主に目を向ける。店の入口にて大貴たちと歳の近そうな男女二人がおり、その内の少女の方が声を上げていた。


元々四人席に大貴と茜は向かい合うようにして座っていたが、大貴の隣には青年、茜の隣には少女が座って注文をする。


「ステーキとエールを」


「私も同じでお願いします」


しばらくすると注文がそれぞれ届いた。四人は乾杯をして食事を始める。


「大貴ってば頭が硬いんだから。前も話したけど私たちの世界は二十歳までお酒を飲んでは行けないのだけれど、それは私たちの世界の話であって…」


ワインに口を付ける茜。大貴は肉を飲み込んで水を飲んでから反論した。


「だって、ビール一本で脳細胞百万個しぬんだぞっ」


「だったら世の中の人皆脳みそスッカラカンじゃない」


「そうだよ、だからみんな脳みそスッカラカンなんだ!それに、俺は乗り物乗るから」


「それはそうね…」


「なあなあ、ダイキがいつも乗ってるアレ、なんなんだ?」


大貴の隣の青年が訊く。


「さあ…?俺もよく分かってないんだ」


「なんだよそれ」


「少なくとも私たちの世界で一般的なもの、って訳じゃないの。創作物ではよく見るけれど…それとも少し毛色が違うような」


エールをおかわりする青年。大貴も水を頼む。


「白ご飯が恋しいなぁ」


「パエリアならあるわよ」


「パエリア?それなあに」


今度は茜の隣の少女が尋ねた。


「パエリアは私たちの世界のタニスザカリアのことよ」


「そうなんだ、私なんだか食べたくなってきたな、タニスザカリア」


「じゃあ大盛り頼んで四人で分け分けしよっか」


青年の提案に大貴たちは乗った。四人のテーブルの中央にタニスザカリアもといパエリアがやってくる。


「エ〜ルおねがいしま〜す」


「ちょっと飲みすぎだよっライ」


「そうそう、ナナちゃんの言う通りだ。明日に響くぞ」


「ど〜せアンタがぜ〜んぶやってくれるんだろ〜?」


「ちょっとライ、本当に酔いすぎ」


ライは既に酔いが回っており、半分寝ながら食事をしている。申し訳なさそうにナナが謝った。


「ごめんね、イヤな思いさせちゃって」


「大丈夫、きっと疲れてるんだよライも。多少飲みすぎても大丈夫さきっと」


「ん…私も酔ってきちゃったな」


茜は大貴を足でつつく。


「大貴は今日どこで泊まるの?」


「まだ決まってない」


「なら私のところ来なよ、ダブルベッドにしてあるからさ」


「じゃあ…お言葉に甘えて」


大貴はパエリアをパクパク食べる。元々少食のナナに酔っ払い二人、大盛りのパエリアの大半は大貴が処理しなくてはならなかった。


「おなかいっぱい…」


「コイツら…へべれけになるまで飲みやがって、明日は大変だぞこれは」


大貴は茜とライをそれぞれ両脇に抱えて歩く。


「お酒おいしいもんね」


「ナナちゃんはお酒強いよね、今日も結構飲んでたのに」


「意外とね?」


ふふんと胸を張るナナ。それを見て笑う大貴を見てナナも笑った。


ライを宿まで届け、茜も部屋のベッドに寝かせる。大貴はすっかり暗くなった外へ出て夜の風を感じた。


「ダイキっ」


「じゃあ行こっか、ナナ」


二人は指と指を絡ませる手の繋ぎ方をして歩いて、ダイダラの近くのさっき昼寝をしたところまで歩いてくると、そこに座って夜空を見上げる。星空は二人の日課だ。


この世界の星空は地球と異なる。そんな世界に来てしまったのだから、大貴も茜も転移当初は右も左も分かりっこない。


そんな二人を助けたのがナナとライの二人で、特に大貴とナナの二人は言葉の教え合いをきっかけに親密になった。


「やっぱり、綺麗だな…」


「それって、私と星、どっち?」


ナナはいたずらっぽく笑う。長いブロンドの髪に青い目、小さい体躯はまるで人形のようだ。


「どっちだと思う?」


「えーっ?どっちかなーーー」


大貴はナナと唇を重ねた。ナナも離さまいと大貴の首に腕を回す。


唇が離れると、唾液が二人に橋を掛けた。無言で再び口付けをする。


しばらくして今度は本当に接吻を止めると、ナナは名残惜しそうに大貴の顔を見つめる。


「…ダイキはさ、なんでそんなに戦えるの?」


「ん?」


「ほら、ダイキってさ、私たちみたいに勇者とか聖女の力に選ばれたわけじゃないでしょ。普通だったら他の異界から来た人みたいに王都で待ってるよ」


「俺は…元いた世界に、どうしても帰りたいんだ。一瞬でも早く」


人任せにしてるといつになるか分かんないしな、と大貴ははにかんだ。


「…それって、どうして?」


「…会いたい人がいるんだ」


それってーーーと声に出しかけるナナ。しかし、言わなくても、大貴の声色で十分に伝わってきた。


「もう帰らなきゃ」


大貴は立ち上がって背伸びをして、ナナに手を差し伸べる。ナナがその手を取って立ち上がり、宿へ帰ろうとしたその瞬間、意を決したようにナナが声を出す。


「ね、え、ダイキ」


「?どうした、ナナ」


「ダイキってさ、魔王を倒したら…やっぱり、元の世界に戻っちゃうの?」


「…ああ」


「…どうしても?この世界に残ったり…」


「…ごめん、それは出来ない」


「そっ、か」


少しの間の沈黙。そして再び決心したナナが声を出した。


「私…恋って、したことなかったの。私ずっと村でライと一緒に居て、ライのことが好きなんだと思ってた。でも、ダイキと出会って…本当に好きな人と触れ合えるって、すばらしいことだって知れたの」


「…」


「私たちの思い出って、きっと私は忘れない。忘れないけど…やっぱりさみしいよ」


「ナナ…」


「それでね、私っ…、私っ、ずっと一緒に居られないなら…せめて形に残るものがほしいの。その…つまり…ダイキとの…」


ナナは一拍おいて落ち着いて、


「子供がほしい、な」


大貴はしばらく黙りこくった。ナナは顔を上げて、明るく振る舞う。


「…なーんてね!ダイキにはアカネちゃんがいるもんね!ごめんね、困らせてっ」


「…明日」


「…え?」


「茜には…コイツの整備を夜通しするって伝える。だから明日は…特に夜は、予定空けといてくれ」


「っ、ダイキっ!」


ナナは大貴に抱きついた。大貴もナナの背中に手を回す。ナナは大貴の顔を上目遣いで見つめて、少し顔を赤らめて言った。


「その…わたしっ、そういう経験なくて…上手くできないかもしれないけれど…」


「大丈夫だって、俺、多少は勝手が分かるから…」


その発言にナナは頬を膨らませる。


「それいや!」


「あっ、ごめん」


「ふーんだ、許しません」


「ごめんってば」


「…ふふっ、嘘」


でもちょっと嫌だったのは本当なんだからね、とナナは大貴に言った。大貴はナナに平謝りするしかなかったが、二人はとても幸せそうに見える。


少し離れた場所で、茜は爪を噛んでいた。











「助けてッ!!!いやッ!!!いやーッ!!!」


少女の胸を割くような悲鳴にハッと目を覚ます。玉座から立ち、外の景色を見る。


「来たか」


緑の肌に屈強な体が少し反射している窓の外を睨む。その視線の先には空を飛ぶVTOL。


ドラゴンに乗った緑の肌の小人、ゴブリンたちが既にそれを迎撃している。が、ゴブリンの王、ゴブリンキングでありその中でも鍛錬を重ねて遂には魔王軍の四天王にまで上り詰めた『ゴブリンブレイブ』はそれが無意味であると知っていた。


「この悪夢を見る時は、いつも変革が着いてくる」


ゴブリンブレイブは玉座の間を去った。一方大貴の乗るVTOLは今機銃によるドラゴンの掃討を行っている。


そして城をロックオンすると、無数のミサイルが飛んだ。建物の剛性の事前調査に基づく計算によって最適化された破壊はまるで芸術で、難攻不落と名高いその城はミサイルの飽和攻撃を受けてあっさりとペシャンコに潰れる。


今度は無誘導ミサイルで城下町を無差別に爆撃した。ゴブリンを初めとした魔物たちは戦闘員と市民の区別もなしにその破壊を受け入れるしかなく、街はどんどん瓦礫と化していく。


一通り持ち弾を撃ち尽くして街が平らになった頃合いに、大貴は運転をオートに切り替えて操縦席を離れ、格納されているダイダラに乗り込んだ。


「降下開始」


床のレバーを引くと床が開く。そして自由落下で地面へと向かうダイダラに乗った大貴。機体についているジェットエンジンで減速して、着地した。


もう既に背後では作戦通りに戦闘が始まっている。茜とナナの無事を祈りながら大貴も近くの魔物を踏み潰したりして戦った。


側面から熱源の反応があり、大貴はバリアでそれを受け止める。エネルギーがあまりにも膨大だったため、直ちにリリースしなくてはならなかった。


その強大な魔法の主の方を向く大貴。ゴブリンブレイブも隣に鋼鉄の巨人を携えて大貴の方を見ていた。


「貴様との戦闘データにより完成された決戦器械人形G-98、俺はティターンとコイツを呼ぶ」


ティターンがゴブリンブレイブを掴む。


「婆さんの仇だ」


ゴブリンブレイブはコックピットの中に入り、ハッチが閉じられた。ティターンは目を青く光らせ、大貴の方へ向かって歩いた。


ダイダラの背中に担いでいる銃を取り出し、ティターンに向かって撃つ大貴。ゴブリンブレイブはそれを左手のバリアで受け止め、リリースした。


「ッ!」


大貴はリリースされた弾丸を横に転んで回避する。前を見た次の瞬間、ティターンの拳が飛んできた。


「うッ」


激しい衝撃。腕でガードをしてダメージを軽減してはいるが、コックピットは揺れる。


大貴はダイダラの肩からミサイルを数発発射した。ゴブリンブレイブは背中のジェットパックで宙に飛び上がり、それらをかわす。そして背中から銃を取り出すと二人は撃ち合いになった。


ゴブリンの銃撃をバリアで受け止める大貴。リリースしたのをゴブリンはジェットパックのエンジンを強烈に吹かして横に避けた。


今度は大貴がゴブリンに向かって銃を撃つ。ゴブリンはそれをバリアで受け止めるが、背後から衝撃を感じた。さっき大貴が放ったミサイルは追尾を止めておらず、背中のジェットパックに直撃したのだ。


ゴブリンは弾丸を大貴に向かってリリースした。しかし大貴はバリアでそのリリースされた弾丸を受け止め、地面に落ちたティターンの機体を狙ってまたリリースする。


土埃が舞う。勝負が着いたかと思われたがその煙の中から両手にトンファーを持ったティターンが現れ、大貴に突進した。


トンファーの一撃目を銃で受け止め、二撃目を左手で受け止める大貴。しかし二撃目でトンファーから高圧電流を流され、左手のバリア機能が停止する。


なんとかティターンを蹴り飛ばすダイダラ。大貴は銃を投げ捨て、二人は向かい合って走り出す。


二人の間合いに両者が入ったその瞬間、大貴はスライディングをしながら右手で左腰からダガーを取り出し、居合切りの要領でティターンの左足を切り払った。


そのままゴブリンの背後を取った大貴。ゴブリンは振り向きながら右フックを打つが、大貴は後ろ回し蹴りでその右腕を破壊する。


そして続けて後ろ回し蹴りでティターンのメインカメラを破壊し、ダガーでハッチを切り落とす。


「ッ!!!」


そして大貴はコックピットの中に左腕を突っ込み、中からゴブリンブレイブを引っ張り出した。


「…畜生」


ゴブリンブレイブはそう吐き捨てると、ダイダラの握撃によって潰され、操縦者の居なくなったティターンは前蹴りによって簡単に倒れたのだった。











ふーっと一息つきながらその場に大の字で寝転がる大貴。周囲は瓦礫ばかりで、喧騒なんてものはない。


ダイダラは突然にコックピットの中に人差し指を入れる。その指から小さな整備用のアームが伸びてそれが何かを掴んだ。


ダイダラはそれを大貴の目の前に差し出す。それは缶のコーラだった。


「お前…」


大貴はそれを受け取り、プルトップを引く。プシュッと炭酸が抜ける音がして、一気飲み。


「ぬるい…ていうか、こんな爆発しそうなものコックピットに入れんなよ、まったく…」


「おーい!ダイキー!」


遠くからライが叫んでやってきた。少し遅れて茜とナナが見える。大貴は立ち上がって缶をポイと捨てた。


「コノヤロー!ホントに四天王一人で倒すやつがいるかっ、このこのっ」


ライは大貴と肩を組んで楽しげにする。今日は祭りだ、明日もその明明後日も、なんなら一週間ぐらい滞在しようというライの発言に大貴は同意した。


「そうと決まれば!さあ行くぞ!」


ライは三人の前を大股で機嫌良さそうに歩く。大貴もその後ろに着いていくと、ポンと横にナナがやってきた。


「一週間〜?キャー、なんてね、へへっ」


小声で大貴に囁くナナ。大貴は茜の方を向いて言葉を発した。


「なあ茜?あのさ」


「いいわよ、別に」


「…え」


大貴は背中に冷たいものを感じる。茜は大貴に詰め寄って耳打ちをした。


「でも…あまりナナちゃんを夕姫ちゃんに重ねすぎない方が、お互いの為よ」


大貴は固まって茜の方を向けない。それを心配するナナ。


「ど、どうしたの…?ダイキ…?」


ナナの方を向く大貴。ナナの方を向いたはずなのに、大貴が見たのは、元の世界に残してきた想い人だった。

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