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狐と遊んでいる内に僕に本当の人間の友達が出来始めた。
不思議な事に、みんなから「明るくなった」と言われるようになった。
僕は少しずつおしゃべりをするようになったし、友達とふざける事もするようになった。
友達にサッカーやドッジボールに誘われた。僕はすごく嬉しかった。
その内、友達やそのお父さんと一緒に釣りに行ったり、家族のバーベキューにお呼ばれしたりした。昔の僕だったら世界がひっくり返っても有り得ない事だった。
狐はそんな僕を見ていた。
自分から少しずつ離れていく僕を神社の森から見守っていた。
「友達から『明るくなったね』と言われる様になった」
僕が狐にそう言うと狐は返した。
「だって、お前は『影』を無くしたのだから。そりゃあ明るいさ」
僕は少し考えた。
「じゃあ、君はもう僕の所には戻らないの?」
聞いてみた。
『影』を無くしてしまった人間はどうなるのか皆目分からなかったが、それが無かったら、大人として非常に困ることになるのではないかという不安がちらりと頭を過った。
狐は暫し考えた。そして言った。
「お前が俺と遊ばなくなっても、俺はずっとここにいるから。だから時々、会いにくればいい。そして、お前が成長して、もしも、俺を迎え入れる覚悟が出来たなら、そう言って神様にお願いすればいい」
「神様が俺をお前に戻してくれるだろう。だが、しかし、お前は一度『影』を無くした人間だ。それに神様の特別な計らいを受けた子供だ。ちょっと特殊な大人になるかも知れない。いや、きっとなるだろう……。まあそれは想定内だと思ってくれ」
「……」
「それに神様だってすぐには戻してくれるとは限らない。実を言うと神様は俺がここにこうやっているのを気に入っておられるのだ。お前の『影』になった俺は神様のお気に入りなんだ」
狐は「へへへ」と笑うと得意げに髭をぴくぴくと動かした。
「……」
僕は不安になった。
狐は一生僕に帰る気が無いのかも知れない。
「ねえ。『影』が無いとどうなるの?……もしかしたら凄く薄っぺらな人間になるの?」
僕は尋ねた。
「さあな。でも、そんな心配は無用だ。何故ならお前なんか『影』があっても無くても薄っぺらなんだから」
狐はそう言うと僕を馬鹿にした様に笑った。
僕はちょっとむっとした。
けれど『影が無い』と言う事、そして『影は神様のお気に入り』という事について何をどう考えていいのか全く不明だったから、むっとしながらも何も言い返せなかった。
まあ、神様のやることだから、悪いことはないだろうな。多分……。
僕はそう思った。
そうやって日々は過ぎた。
僕は学校や友達に慣れて、以前より数倍楽しく学校に通えるようになったし、狐と遊んで、狐と眠って、寂しさを忘れて行った。
僕はもう家に帰りたいって言わなくなった。
そうやって日々は静かに過ぎて行った。




