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ある日、神社に行ったら狐が待っていた。
「やあ」
狐はちょこんと座って言った。
僕はびっくりした。
野生の狐を見たのは初めてだし、狐がしゃべるのを聞いたのも、勿論初めてだ。
狐は続けた。
「俺は神様の使いだ。そして俺はお前だ。けれど全くもって、全てお前だと言う訳ではない。俺はお前の『影』だ。
お前は自分と遊びたいのだろう?だから神様がお前の『影』を俺と言う器に入れて、お前に寄越したのだ。だから俺と遠慮なく遊べばいい」
狐はにこりともせずにそう言った。
僕は自分の影を探した。
影はちゃんとそこにあった。僕はほっとした。
狐は言った。
「その影じゃない。俺はお前の心の中の『影』なんだ。お前という物体がそこにあって、そこに光が当たれば、お日様でも月の光でも、そこには必ず影が出来る。そんなのは剥がしようが無い」
僕は首を傾げた。
狐は僕の顔をまじまじと見て、そして続けた。
「あまり賢くは無い様だな……。まあ、いい。その影じゃ無いという事だけ理解しろ。俺はほぼお前自身だ。お前が二人いる様なモノだ。お前が望んだ通りだ。ところで、何をして遊べばいい? かけっこか?鬼ごっこか? かくれんぼか?」
「お前とやっても負ける気が全くしない。お前は本当にどんくさそうだな」
「……」
狐に姿を借りた自分自身にどんくさいと言われてしまった。
「狐のままじゃ困ると言うなら人間に化けてもいい。でも、お前と同じ姿にしてはならないな。そんな事をしたらお前の爺さんはびっくりしておっ死んでしまうだろう。それに友達だってびっくりする。今以上にハブられるのは目に見えている」
狐は賢そうな目をして言った。
僕は、僕の影のくせに狐は僕よりも賢いのだと思った。
狐は僕と遊ぶときは「隣町の小学校に通う知り合い」と言うことで少年の姿に化けてもらった。
名前は「コン田君」。
爺ちゃんは孫の初めての友達として「コン田君」を歓迎してくれた。
どこの誰かも知らないのに。
そんな事は全く気にしていなかった。
僕と爺ちゃんは彼を「コンちゃん」と呼んだ。
僕は「コンちゃん」と一緒に町の中を歩いたり浜で遊んだりした。家の中で宿題をしたり(宿題を教えて貰ったり)、家事を伝授してもらったり(掃除や洗濯の仕方など)、おやつを食べたり、一緒にテレビを観たりした。彼はよく僕の家に泊まって、二人で布団を並べて眠った。
狐はいろんな事を知っていて、寝ながら僕に話をしてくれた。
宇宙の事や、神様の話や、うんと昔の出来事や植物の事や小さな生き物のことを。
僕は狐の物語を聞きながら、そして眠った。




