燃やせ!相討ち上等な攻撃
「なに!!」
男は左手首から噴水の如く血が噴き出ていることに気づいた。
「左手が!!」
手首を切り落とされた激痛で抑揚は滅茶苦茶。だがそれでも気を振り絞り手首の断面を魔法で氷漬けにした。
「やっぱりそうです。見てくださいアレを!」
「うぐっ!!」
だがそんなのを見る余裕は男になかった。如何に回復魔法で治すこともできなくは無い世界といえどいきなりの身体欠損は応えない者の方が少ないだろう。
「今の攻撃で敵はどこかへ……ってそれどころじゃないですね……」
気が動転した男に少女は術を付箋から取り出し使う。
「手首周辺の電気信号を適当に無効化しました。どうか。落ち着いて」
激痛が感じられなくなったため男はやっと言葉を発した。
「く、来るな!」
「何か誤解してませんか?さっき敵の術に当たり斬り落とした左手はあんな感じです」
そこにはゾンビと変わらない腐った手が落ちている。それを見て男はやっと状況を理解した。
「ま、まさか……ゾンビになる術……」
「斬らなかったらもっと広がってたでしょうね」
「……裏切ったのかと」
男は緊張が途切れたのか倒れ込んだ。
「私への信頼低過ぎませんか?」
「いきなり手を斬られたらそりゃ……でもありがとう。お陰で重症で済んだよ」
「ですが今修復すると私の魔力が無くなるので戦闘が終わってからですね」
「え?このまま放置?このままだと凍死……解けば出血なんだけど」
「失血を防げば宮廷で腕ごと生やせるから問題ないですよ。数時間程度で敗血症は起きませんし」
「いつも酷く合理的だ……一旦退く?」
「倒して帰っちゃいましょう。このまま帰らせてくれるとは思えませんし」
「敵の攻撃を躱しながら突破か」
「伝承通りなら指輪を取っちゃいましょう」
「結局正面突破か。聖属性が使えるやつに頼む案件だよ本来は」
ゾンビなどの亡者を倒す場合炎は範囲が広く多数相手には有効だが1番効率的なのは聖属性で倒す事だ。その場合相手が復活することもほぼ無い。
「無いものを強請ってもしょうがないですよ」
「だけど明らかに二人でする仕事じゃない……数日前にやられた電信所といい罠か?」
「罠で街ごと……ですか」
「だとしたら酷い話だ」
遠くから足音が近づいてくるのに二人は気がついた。第二波が来るのはそう遠く無いだろう。
「もう時間がない。全て燃やし尽くしてやる!」
男は火力を極力絞り一体ずつ細かに燃やしていった。
「その調子です」
「さて親玉はどこだ?早く決着を……」
「後ろ!?」
二人は背後を取られていた。だがすぐに応戦する。即座に火に包まれ7mm級の鉛玉が叩き込まれた。
「何故効かない?」
先ほどと違い燃え尽きることもなくその場に敵は立っていた。その様子を見て少女は追加で一発撃つ。
「弾が防がれた?」
「魔法の壁か……物理も魔法も効かないのは面倒だ」
「もうひくしかないですね」
「そのようだ。車まで帰ろう」
再び親玉の手元が光る。
「同じ手に乗るか!」
男は氷の壁を築き防ぐ。敵の魔法は間に物があると効かないようだった。二人はそのまま走り去る。
「対処は思ったより楽だったな」
「はい!馬鹿正直に戦わなくて良かったんですね……なんかエンジン音がしませんか?」
「まさか」
前からやってきたのは先ほどまで乗っていた装甲車。ゾンビは遥々ここまで飛ばしてきたのだ。
「ええ!?運転する知能あるんですかあれ?」
「エンジンも止めたのに」
「丁寧にクランク回したんでしょうね……」
「なら砲手もいるかもな?」
前方に装甲車、後方に敵の親玉。逃げ場は無い。
「ここまでか……二つ同時の相手はきつい」
「どうせ終わりなら道連れです!あの車を焼いてください!」
「何故?」
「街を吹っ飛ばした爆弾が2つ載ってます。中身は燃料。外から炙ればあれほどではなくても爆発します」
「なるほど。しばしのお別れだ。来世に期待かな?」
装甲車は火で包まれ暴発した銃弾が調理中のポップコーンみたいにリズムを刻んでいる。だが足を止める気配は無く二人を轢く気だ。
「思ったより爆発まで長いな」
「もう親玉にも追いつかれてしまいましたね」
「まあゾンビになるのは嫌だから氷で防ぐけど……これ周りを氷で覆えば俺たち死なずに済むのでは?」
急いで氷の壁を作り始めたが時期が遅かった。全周を覆う前に爆発が起きたのだ。
1ヶ月ぶりです。