出発!物言わぬ電信所
「う……」
「はぁ……はぁ……」
二人は顔面蒼白で今にも倒れそうだ。それもそのはず宮廷に残っていた車は装甲車しかなかったのだから。居住性を犠牲にした代償は大きく急ぎ飛ばしたために振動と騒音で二人の三半規管は叩きのめされた。
「何で……あれしか……」
「運転……してた師匠まで……酔うんですね……」
「うるさいし……視界悪いし……中狭いし……」
ご覧の有り様だ。
「普通に……歩け」
「これが限界です……」
もし今戦闘になれば二人に勝ち目は無いだろう。もはや男は歩くのが精一杯。おまけに少女は男の半身にしがみつき体重を掛けてるので歩みは劇的に酷い。
「そうだ……歩くように指示する術式を自分に埋め込めば……」
「そんな怖いこと……できるの?」
「なぜ出来ないと?前にもやったことが……」
「色々と裏でやってるんだな……だがやめておけ」
しかし幸運にも戦闘など起きず第一の目的地、電信所にたどり着いた。ゾンビ発生の報告を発したところだ。
「ぱっと見は問題なさそうだな」
「では中に入りましょうか」
二人は扉を開けて中に入る。
「妙だ。灯りがついてない。この暗さでは仕事は厳しいだろ」
「それに何か匂いがしませんか?」
建物は不快な臭い匂いで満ちている。小さい建物とはいえ不自然極まりなかった。
「まともでは無いな」
「知らせを受け来ました!誰かいませんか?」
「大声を出すな。何がいるか分からないんだぞ」
「襲うつもりなら最初からバレてますよ」
ガタンと音がする。二人とも聴き逃しはしなかった。
「足音がします」
「こちらを認識したな」
足音はジワジワと近づいく。変に早歩きで異質な感じを漂わせる。
「近いぞ」
「いつでも戦えます」
男は拳銃を出し消音器を付けた。自らの指を吹き飛ばしたのと同じ形式のものだ。
「それ持ってたんですね!」
「処分方法が分からなくて……」
「理由が酷い!」
ギーと奥の扉が開く。薄暗くシルエットから二足歩行生物である事は分かるが何かがおかしかった。
「止まれ!動くと撃つぞ!」
だがそれは止まらない。全く意に介してないようだ。
パシュン!パシュン!
抑制された銃声が鳴り響くがそれでも止まらない。こうなると答えはどちらか。男の射撃が下手か痛みを感じないかだ。
「やはり化け物か!」
「そもそも当たってます?」
「ならさっさと燃やし切る!」
男は炎魔法で焼き払う。体内に溜まった腐敗ガスに引火したのか敵の腹部は爆発四散した。
「正面から1体だけなら楽勝だな」
「あの……さっきのゾンビの服装見ました?」
「いや?燃やすことしか考えてなかった……」
「少しは考えてから動いてください。受話器が頭にあったので恐らくここの電信士です」
男は燃やした物をすぐさま見たがもう何も分からなかった。短絡的に動きすぎたのだ。咄嗟の出現にも少女の方が冷静に見ていたこと、自身の軽率な動きに男はやっと気付く。
「驚いても冷静に判断できるとは……凄いな」
「咄嗟に燃やし切る方が多分難しいと思います」
「考える前に動いてしまった……そしてさっきのゾンビはどう見ても死後数日は経ってる……交信記録を見てみよう」
爆散した死体をよそに奥へ進むと通信装置のある部屋にたどり着く。被膜された電線は見るも無惨に切られ、電鍵も叩き壊されていた。
「これで通信は無理だ。記録帳は……これか?」
「最後の記録は何日も前ですね」
「じゃあ今日の電信は……」
「城に戻りますか?それとも街へ進みます?」
「一応街まで行こう。城には他にも人がいる」
「分かりました」
二人はまた装甲車に乗り街へ進む。緊張状態で今度は酔うことも無かった。
「そういえばその銃塔には弾は入ってるのか?」
「確かめます」
少女は左側、その後右側の銃塔を確認した。
「両方とも装填されてます。銃は水冷機関銃ですね」
「入れっぱなし?……規則だと使用後は全て抜き取るはずなのに」
二人は正式な許可など取っていない。だのに弾があるのは常日頃から規則など守られていない証拠だった。
「ですが好都合。敵が来たらこれでズババババ!蜂の巣にしてやります」
「だが最近の魔術師は小銃弾も当然ながら想定している。過信は禁物だ」
「魔術師?どこにいるんですか?」
「今回の騒動は明らかに人為的。敵も魔術師と考えるのが筋だろう」
「でも新鮮な人をゾンビにする魔法って何でしょう?私が知るのは葬られた古い死者を動く死体とするのだけです」
「一応ゾンビに噛まれたら偶にゾンビになるんだっけ?でもあの場には他にいなかったし……まああるんだろ。禄でも無いだろうけど」
そして二人は森の隣にある街の入り口に着いた。
今まで状況説明がなさ過ぎることにやっと気付きました。今回の執筆にあたり電信を調べましたが正直活かせなかったです……