9話 娘との時間
「ママっ! おきて! あちゃだよ!」
「んんっ……もう少し寝かせて……」
「むむっ……おきないとチューしゅるよ? しちゃうもんね!」
何だか私の頬に柔らかな感触を感じます。これが天使のキッスと言うやつでしょうか♪
「分かりました。起きますよ〜ふぁあ……」
「ママおはお!」
「アリスちゃんおはよ♪ でもね、チューの仕方はこうですよ?」
私はアリスちゃんを抱き寄せて、思いっ切り頬っぺたや唇にキスをしまくりました。アリスちゃんはくすぐったそうにその場で悶えています。このままアリスちゃんを抱いて2度寝したいです♡ 私の娘は世界一可愛いわ♡
「ぐへへ……アリスちゃんムギュっ♡」
「ぐぬぬ……ママ、くるちいよ!」
「あ、ごめんね。よしよし♡」
アリスちゃんを抱くと私の精神が落ち着きます。このまま後5時間くらい寝てたい……娘が可愛い過ぎて発狂しそうです!
「ママ! おきて! おでけけだよ!」
「うふふ……おでかけね♪ 楽しみ?」
「うん! はやくはやく!」
「はいはい♪ アリスちゃんちょっと待ってね」
アリスちゃんに身体を引っ張られながら、私は重い腰を上げました。幼い子は朝から元気一杯ですね♪
「あるじぃ〜おはよう!」
「フェンちゃんもおはよ♪」
「家の外でもう皆んな待ってますよ!」
「え、早いなぁ。準備するからもう少し待ってて」
アリスちゃんに今日は、私とお揃いの純白なワンピースを着せましょう♪ 親子お揃いのお洋服です♡
「おお! アリスちゃん似合ってるよ♪」
「ママ、アリスかあいい?」
「可愛いでちゅよ〜もう世界一だよ! ぺろぺろしちゃいたい♡ 抱きしめたぁい♡ もう食べちゃいたい♡」
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛もう無理! 全世界の私が泣いた! 可愛いしゅぎる! 何でこんなに尊いのかしら!? やめて、これ以上ママを苦しめないでちょうだい!
「ママ! おててつなご!」
「良いでちゅよ〜♡ ディフ……ディフフフフ……ママはアリスちゃんと永遠におてて繋ぎたいなぁ♡ あぁん♡ 小さなおてて……ぐへへ……♡」
「あるじぃ......変態不審者みたい」
「フェンちゃん♪ おやつのビーフジャーキー抜きね♪」
「ぎゃあああああああああ!! やだやだ! ビーフジャーキーくれないと拗ねちゃうもんね!」
「フェンちゃんたら♡ よしよし♪」
私は娘のアリスちゃんに急かされながら、急いで準備をして外に出ました。朝から騒々しいですが、この暖かい日常が今の私にとって、かけがけえの無い宝です♪
――――――――――――
「ふぁあああ! ママ! サイちゃんとユニちゃんいるお!」
「あらあら、みんなもおはよう」
家の外に出ると沢山の魔物達が座りながら待っていました。見渡せば、冒険者ギルド協会の危険指定ランクB級のマリンスパイダー、キリングベアー、ディザスターウルフ、ゴブリンキング、オーガ、ケンタウロス、グラスモンキー等おおよそ、その数100頭近くは居ます。
「おお、アリス姫!」
「サイちゃん! おはお!」
「おはようございまする〜主様もおはようですやぁ」
この大きな一つ目の魔物は、危険指定ランクA級のサイクロプスです。青色の巨体に小さな一角の角が生えていますね。この森の東で幅を聞かせていたナワバリのボスでしたが、フェンちゃんとサラちゃんがボコボコにしてから今では良き隣人関係です♡
「ワタクシの事も忘れて貰っては困りますわ! オーホッホッ♪」
「ユニちゃんもおはお!」
「姫様おはようですわ!」
この子はセイント・ユニコーンのユニちゃんです。同じく危険指定ランクA級の白馬の魔物です。お嬢様口調で喋る白くて美しいお馬さんですね。
「あ、主様!? ご、ごごご……ご機嫌麗しゅう!!」
「そんな怯えなくても大丈夫よ♡ もう馬刺しにして食べようだ何て思って無いから♪ 多分」
「ヒィッ……!? 今、多分って言いましたよね!? やっぱり私を食べるおつもりですの!?」
「無いよ……そんなおつもり」
初めてユニちゃんに会った時は、いきなり私に聖魔法をぶっぱなして来たので、ユニちゃんをボコボコにして分からせた後に、冗談で馬刺しにしたら美味しいかなって言ったら、私をサイコパスか何かと勘違いするようになって、酷く恐れるようになってしまいました。私は平和を愛する女ですよ? Love&Peaceです!
「まま、ばちゃしって、なぁに?」
「ん? 馬刺しはこれよ」
「主様!? 私は馬刺しではありませんよ!?」
「ふぇ? ユニちゃんがばちゃし?」
アリスちゃんは何だかチンプンカンプンのようですね。いつか分かる時が来るでしょう。さてと、それではそろそろ行きましょうかね。
「皆んな、準備は良いかな? 忘れ物は無いですか?」
「じゅんびおっけだお!」
「大丈夫です!」
「俺も大丈夫だぜ!」
それではレッツゴーです!
★深淵の森・グラスシエアのお花畑にて★
「あ! おはなさん!」
「おお! 綺麗な赤いお花が咲いてるね♡」
ここはとある深淵の森にある美しいお花畑。沢山の美しい花々が咲いている中アリスちゃんは私の手を引きながらキャッキャと楽しそうにはしゃいでいます。
「アリスちゃん、綺麗なお花で輪っか作ろっか♪」
「うん!」
娘とこうして戯れるのは、私にとって至福の時です♪ でも、周りが魔物だらけなので正直落ち着かないと言うのもあります。これだけの魔物達が居たら、敵国の軍隊と余裕で渡り合えそうな気がします。危険指定ランクC級以上の魔物は、プロの冒険者が戦うような魔物だ。それが100体以上とS級の魔物2体、サラマンダーのサラちゃんとフェンリルのフェンちゃんを加えたらとんでもない戦力です。
「できたの!」
「おお、アリスちゃん上手でちゅね〜♡ これはママの宝物にするね♡」
「ままだいしゅき♡」
「またぴったんこでちゅか? アリスちゃんは本当に甘えん坊さんだね♡」
私がアリスちゃんの頭を撫で撫ですると本当に気持ち良さそうにしています♪ 膝の上で無防備にも私を背もたれにして、スリスリと甘えて……しかも、私が撫でるのをやめると私の右手をアリスちゃんが両手で掴んで、何と自分の頭の上に乗せるのですよ!? これはもっと撫でて欲しいと言うサインなのでしょうね♡
「ありすね! おおきくなったら、ままとけっこんしゅるの!」
「あらあら、結婚と言う言葉を何処で覚えたのかしら? うふふ♡ じゃあ、アリスちゃんが大きくなったら、ママと結婚しましょうか♪」
「うん! やくそくなの!」
アリスちゃんが大きくなったら、どうなるのかな。いつかは好きな殿方が出来て……アリスちゃんもお母さんにいつかなる日が……
「まま?」
「ん? どしたのアリスちゃん?」
「アリスがなでなでしてあげるの!」
「まあ! アリスちゃんは本当に優しい子でちゅね♡」
私には最近悩んでいる事があります。私はアリスちゃんの母親になると決めましたが、果たしてそれが本当にアリスちゃんの為になるのだろうか……私は大陸最強とまで謳われた三賢者の一人【深淵の魔女】、私を恨む者も多く居ます。可能な限りアリスちゃんの事は、私が命を懸けてでも守るつもりだけど、そんな争い事に幼いアリスちゃんを巻き込んで良いのだろうか……前回の自称? 魔王軍の四天王が襲撃してから、何だか雲行きの怪しい事態へと発展しているのです。
「…………」
「主ぃ……やはり、あの件の事を?」
「そうね、フェンちゃんにはバレちゃうか」
今、私が一番悩んで居る事は、このアリスちゃんの親の事だ。最近になって、街の方で幼い金髪の子を探して居るという情報が私の所に入って来ているのだ。可能性は低いかもしれないけど、もしかしたらアリスちゃんの本当の親の可能性もゼロでは無い。子を探している母親は、種族がハーフエルフだと聞いた時から、私の胸は妙にザワついているのだ。こういう時のざわつきは、私の経験上おおよそ嫌な事が起こる前兆です。
「まま?」
「アリスちゃん……ママはアリスちゃんの事手放したくは無いよ。何処にも行かないで......」
無意識のうちにアリスちゃんの身体を強く抱き締めてしまいました。アリスちゃんと過ごした2年間は、濃密で時間も忘れる程にあっという間に過ぎ去って行きました。
―――アリスちゃんは私の子、誰にも渡さない―――