7話 娘を想うミレーナ
現在ミレーナ達は、寝室でアリスちゃんとみんなでおままごとをして遊んでいた。勿論ご飯も食べて、お風呂も済ませて後はみんな寝るだけの状態である。
「くまたん〜♪」
「アリスちゃんは、そのくまたんの人形が好きだね。今度他のも買ってあげようか?」
「やっ、ありすはこれがいいの! だって、ままがくれたものだもん!」
「アリスちゃん……うぅ……」
何と健気で優しい子なの……うちの娘は。このクマさんと呼べるかどうか怪しいぬいぐるみを手作りしたのは私です。だって、娘にどうしても自分で手作りした物をプレゼントしたかったんだもん!
「主ぃ、良かったね♪ お嬢様が喜んでくれて♪ 主が夜遅くまで頑張った甲斐があったね」
「ふふん♪ 私に掛かれば朝飯前です。あれ? 何でフェンちゃんがその事を知ってるの?」
「いつも寝たフリしながら横目で見てたんだよ?」
「なぬっ……!?」
フェンリルとサラマンダーは知っている。アリスちゃんが寝静まった頃に、深夜にミレーナが子育て本を読んでお勉強したり、裁縫の練習をして指を何度も怪我しては涙目を浮かべていた事を。ミレーナが娘の為に必死にプレゼントを作ろうと頑張る姿を毎晩見て来たのだ。
「俺も見てたぜ、針で怪我する度に指にポーション振りかけて……ぷぷっ」
「あ! サラちゃん今笑ったね? 裁縫はめっちゃ難しいんだよ? 核撃魔法覚えるより難易度が高いのよ!?」
いつか立派なママになってやるわ! やっと最近、料理も少しずつ……簡単な物だけど出来るようになって来たんだから! 私も日々成長をしているのよ!
「アリスちゃん〜ほーら、たかいたか〜い♡」
「うわぁ……!? ままぁ! ありすとんでゆよ! しゅごいしゅごい!!」
「うふふ……」
幼い子は感情が豊かで素直ですね。私のママも自分が小さい時にはこうして居たのだろうか……今思えばママは凄い偉大だったな。シングルマザーで、仕事掛け持ちしながら働いて私を養ってくれて……今思えば、私はママに何一つ恩返しも出来なかった。大賢者、理事長、Sランク冒険者になった所で、もう死んだママには恩返しは何一つ出来ない。恩返しする前にママは天国へと旅立って……
「ん? ままぁ? どうちたの?」
「ん? いや、何でもないですよ〜少し目に埃りが入っちゃっただけ」
「ままぁ、だいじょーぶ? よちよち♪」
「まぁ……!?」
小さい手でアリスちゃんが私の頭を撫で撫でとしてくれました。小さなアリスちゃんの手が、物凄く暖かく感じます。
「うふふ……♡ えい!」
「きゃっ! ままぁ、くすぐったいよ!」
「ほ〜ら、妖怪こちょこちょ大魔神の降臨でちゅよ〜♡ アリスちゃんをこちょこちょする為に人間界に舞い降りたのです!」
アリスちゃんが私の膝の上で笑いながら悶えています。見てて癒されますね♡ フェンちゃんやサラちゃんも暖かい目でアリスちゃんの事を見ています。
「フェンねーたん、サラねーたん、たちゅけて!」
「お嬢様、私はどうやら何者かによって身体が操られてしまいました。あ! 手が滑っちゃいました!」
「あぁ! 俺も身体が言う事聞かねーぞ!? あぁ、手が!!」
傍から見たら、良い歳をしたお姉さん3人が、小さい女の子をこちょこちょして虐めているように見えますが、これは愛情という名のスキンシップなのです♪
「もう! ままぁきらい! ふんだ!」
「なっ……!? アリスちゃん!?」
「ぷいっ!」
か、可愛い……拗ねてるアリスちゃん、まじやっべぇ! あ、涎垂れ出ちゃった。何だか少し、意地悪したくなって来ちゃいましたね。よし……
「そっかぁ、ママの事が嫌い何だ。しょうがないわねぇ」
「ふぇ? ままぁ? どこ行くの?」
「アリスちゃん、バイバイ……」
私がアリスちゃんをベッドに降ろしてその場を立つと、アリスちゃんは信じられない物を見たかのような表情を浮かべてから、直ぐに私の身体に抱き着いて来ました。
「やっ! ままぁ、いかないで! ぐすんっ……」
「うふふ♡ 私は何処にも行きませんよ〜意地悪してごめんね」
「もう! いじわるはメッなの!」
小さな身体で、必死に私の身体にしがみつくアリスちゃんが尊い……今度は鼻血が出そうです!
「よちよち♡ じゃあ、そろそろママとお寝んねする?」
「しゅる! ままとフェンねーたんとサラねーたん、ちゃんにんで……ぴったんこちてねりゅの!」
「うふふ……だそうですよ? フェンちゃん、サラちゃん」
我が家の小さなお姫様……甘えん坊さんは人肌が恋しいお年頃の様ですね。アリスちゃんには寂しい思いをさせません。沢山愛情を注いで、将来真っ直ぐに健やかに育って欲しいですからね。
「しかし、今の時点でお嬢はめっちゃ可愛いのに、大きくなったらどれ程の美人になるのやら。これはもしや、主より美人になるんじゃね?」
「少なくともサラマンダーの人化形態よりは、美人になるでしょう」
「俺は可愛いとかに興味ねーよ。ただ、心配なのは……将来お嬢に、男が寄ってたかって群がるんじゃねえかな? お嬢もいつか彼氏を作って連れてくる可能性も」
は? アリスちゃんに彼氏? 駄目、そんなの駄目よ! 私が目の黒いうちは、娘はやらないわよ!
「サラちゃん、フェンちゃん。今からこの大陸に住む男達をちょっと根絶やしにしてくるわ」
「主ぃ!? 落ち着いて下さい! もしものお話しですよ! 冷静になって下さい」
「やだやだ! 私の娘は誰にも渡しません!」
うちのアリスちゃんを欲しいのであれば、まずは私を最低限倒してからでないとお話しになりません。有象無象の輩に決して渡しませんよ!
「んぅ? ままぁ?」
「何でも無いよ〜さあ、そろそろお寝んねしましょうね」
「フェンねーたん、もふもふさんになって!」
「了解です。お嬢様」
フェンちゃんは人化状態を解除して、白銀の狼の姿へと戻りました。フェンちゃんは、アリスちゃんの身体をそっと包み込むようにして優しく抱いています。フェンちゃんを毛布に使うとは、流石私の娘ですね♪
「ままぁ〜だいしゅき♡」
「あらあら♡」
私の身体に抱き着いてるアリスちゃんの頭を優しく撫でてあげると、アリスちゃんは次第にスヤスヤとお寝んねしてしまいました。そして、私の反対側にはサラちゃんが同様に私の身体に抱き着いて居ます。
「あら、大きな赤ちゃんね」
「ふん! 主が寂しくないように抱いてやってるだけなんだからな! そこん所勘違いするなよ!」
何だ、ただのツンデレですか。たまにデレるサラちゃんも可愛いですね♪
「お嬢様、寝ちゃいましたか……」
「小さい子は寝るのも早いわよね」
「はい、お嬢様が将来どんな子に育つのか楽しみですね」
「そうね。でも、私はアリスちゃんが心配よ。今は良いけど、いつかは私と血の繋がりが無い事がバレる日が来るかもしれません」
本当なら父親もアリスちゃんには必要です。私がママとして、愛情は沢山注いであげますが、アリスちゃんが事実を知った時に現実を受け止められるかどうか……流石に父親役は私にも無理ですからね。
「大丈夫だよ主、僕達も頑張るから」
「そうだぜ、お嬢に寂しい思いはさせないぜ」
「フェンちゃん、サラちゃん……ありがとね」
2人ともすっかりとお姉ちゃんですね。わたしもママとして、もっと頑張らなくちゃね!
「12歳を迎えたら、習わしでアリスちゃんは、3年間学園に通う事になります。勿論アリスちゃんが、魔術に興味があって、名門セントミナス高等魔術学院に行きたいとなれば、私が色々と根回しをして入学をさせてあげるけどね。他の学園に行きたいのであれば、お金は惜しみも無く積んで無理矢理にでも編入させるわ」
「主、それは人間社会で俗に言う賄賂なのでは……?」
「うふふ……寄付してあげるだけですよ」
「そ、そうか……」
まあ、今からこんな話しをするのはまだ早いかもしれませんね。そろそろ私達も寝てしまいましょう。またその時が来たら考えよう。