14話 一方その頃、大賢者【慈愛の女神】ハイラル・メナス
「へっくしゅん......あらやだ、誰か私の噂をしているのかなぁ?」
とある白亜の美しい城の一室にて、雪解け水のように純粋な水色の髪。光を浴びるたびに細い糸のように煌めき、ふとした瞬間に消えてしまいそうなほど儚い美しさを放つ美女が、ソファの上に寝転がりながら静かに読書をしていた。
「はぁ、フェンちゃんのあのモフモフが恋しいです。フェンちゃんを超えるお布団は未だかつて見た事がありません。もし、ミレーナちゃんが契約してなかったら私がフェンちゃんと従魔契約したかったくらいですよ」
ミレーナちゃんが学院の理事長を退任してから、音信が不通に......私の直轄でもあるセイルダムの精鋭を集めた諜報機関【暁】の情報に寄ると深淵の森に居るのが濃厚だと言う報告が上がっています。
あの誰もが恐れ忌み嫌う禁断の土地、高難易度ダンジョン【深淵の森】。私もいつか行ってみたいなと思うけど、私は戦闘に特化しては無いし、本質は癒しと回復。相性が良くない......今では自分の立場の都合で自由に身動きが出来ません。もういっその事、この地位を捨てて田舎で悠々自適に暮らしたいわ......
「フェンちゃんとミレーナちゃん......今頃どうしているのかしら?」
正直、今のこの生活は窮屈でつまらない。毎日溜め息しか出ません。私がまだ若い頃、最高権力者になって、お金持ちになって誰もが羨む贅沢な暮らしをしてやると言う夢があって、必死に頑張って今の地位に登り詰めました。
ですが、いざ最高権力者と言う席を手にしてみたら、そこには孤独で空虚な果てしない深淵が続いているだけ......初めて私はそこで気付きました。本当に欲しかった物は権力でも名声や金でも無かったのだと......
「はぁ......この地位に付いてからもう105年......退屈。昔は貧乏でお金無かったけど、あの頃の方が今より自由で楽しかったわねぇ。今の楽しみと言えば、魔導書を見て想像力を鍛えながら、横になってポテチとジュース飲む事くらいかしらね」
清楚でお淑やかな雰囲気を纏う彼女の名は、ハイラル・メナス。大国である宗教国家セイルダムのトップに君臨する絶対的な権力者で、大陸に3人しか居ないとされる大賢者の一人【慈愛の女神】とも呼ばれている。宗教国家セイルダムは、ハイラル・メナスを神様と崇め奉る国で、武力や国力も非常に大きく周辺国への発言力も甚大なものである。
「むむ!? この魔導書......この世の真理を突いているわね」
かつては【深淵の魔女】とも対立をしていたが、今では家族みたいに良好な関係を築いており、メナスはミレーナを実の妹の様に可愛がっている。
「ぐふふ......最近王都で流行っているエロ本......ごほん。この魔導書、実に面白いわね♪ 素晴らしい......この本の作者に勲章を授けたいレベルね。この本を至宝院やセントラル魔術学院の方にもカリキュラムに組み込むのもありかもね。あ、誰か居ますかぁ?」
「失礼します。メナス様お呼びでしょうか?」
メナスが一声掛けると扉の向こうから一人のメイドがノックをして室内へと入って来たのである。
「あ、フレちゃん〜これ見てよ!」
「はぁ......メナス様、またそのような下賎な本を......」
「やれやれ、フレちゃんは分かってないなぁ。これは芸術よ! ゲイ術! この国に足りないのは圧倒的な娯楽......げふんっ。ゲイ術なのよ! 筋肉マッチョなガチムチの男と男が紡ぐ、禁断の愛とチ〇ポが絡み合う(R-18規制)の素晴らしい物語何だから! 殿方の股間から生えている、この貪りたくなる様なビンビンのビックフランクと粗挽きソーセージを見てご覧なさい!」
「ちょっ......!? 意味不明な事仰らないで下さい! メ、メナス様はご自分の立場が分かっていらっしゃいますか!? メナス様はこの国を統べる宗教国家セイルダムのトップにして神、更には大陸で名を馳せている大賢者の一人【慈愛の女神】で......!」
「そんなクソつまらない肩書きはどうでも良いのよ! 私は権力と名声や地位に興味が無いの。それよりもこの次のお話しの方が興味があるわ! ジョニーとルークが○○○○○○の(自主規制)の展開がどう動くのか非常に気になります! フレちゃん買って来て! と言うか作者連れて来なさい! VIP待遇で国賓として招き入れて良いから!」
「はぁ!? な、何を仰いますか! メナス様、お願いですから良い加減にして下さい! それにそのお下劣な本を買う為に私がいつもどれ程苦労をして、変な目線で見られて精神を消耗したと思っているのですか!? 挙句の果てに店の店主に【フレちゃんの好きな、とっておきのアレ。入荷したわよん♡】何て言われるのですよ!? 私の趣味じゃないのにぃ!」
「まあまあ♡ フレちゃん大丈夫、慣れたら全然平気よ♡」
「全然平気じゃありません! 私の尊厳とプライドはもうめちゃくちゃですよ!」
彼女の名はフレア・ミルローグ。鮮やかなオレンジの髪は、まるで燃える夕日のようで、小走りに進むたび、高い位置で結ったポニーテールが元気よく跳ねる八重歯がチャーミングポイントの小柄な女性である。ハイラル・メナスに仕えて、かれこれ50年のダークエルフ族だ。元奴隷として幼少を過ごしていた彼女だが、ハイラル・メナスに助けられたと言う過去があり、現在に至る。
―――フレアはハイラル・メナスの事を実の姉の様に慕っており、唯一無二のかけがえの無い家族だ。彼女に対して、フレアは決して揺るがない忠誠心を誰よりも持っている。
「フレちゃんは分かってないなぁ〜このエロ本......ごほんっ。魔導書には【叡智の知恵】の内容が記されているのよ?」
「へぇ〜何処に記されているのです?」
「ほら、ここ!」
「はい? メナス様、頭大丈夫です?」
うわぁ......久しぶりに見たよ♪ フレちゃんのゴミ虫を見るようなジト目。これよこれ! きゃわいい褐色美少女のジト目は最高の栄養剤! ここまで私に意見を忌憚なく言うのはフレちゃんだけよ♪ うふふ♡ 他の配下やメイド達何て、いつも私の顔色伺うだけ何だもん。
「メナス様、今日もお説教ですからね?」
「ま、まって......フレちゃん、一旦落ち着こう? 早まっては駄目よ。そんなにカリカリしてるとまた可愛いお顔に皺が増えるわよ?」
「3時のおやつ......プリンは不要ですね。分かりました」
「あ、あぁ!? フレちゃんそれはずるいよ! そんな残酷な事......悪魔! 鬼! 変態貧乳ロリ! プリンに罪は無いのよ!?」
「それ、メナス様に罪があると認めた様なものでは......やれやれ。良いですか? メナス様は......」
―――フレちゃんのお説教から1時間後―――
「メナス様はこの国の民を導く御方、そんな怠惰では行けませんし......(以下省略)」
私を呪い殺す気かしら!? 呪文!? 私も魔道の深淵を覗いた物の一人ではありますが、フレちゃんのお説教......呪文はこの私にここまで甚大な精神ダメージを負わせるなんて......フレちゃんたら恐ろしい子。と言うか最近、フレちゃんが私のママみたいだわ。しかも、ママよりもうるさいかもしれません! 休憩やお昼寝するのも立派な仕事だと言うのに!
「出会った当初は、メナス様は清楚でお淑やかな、何処か儚い雰囲気を身に纏ったミステリアスな女性でしたのに......いつからそんな道を踏み外してしまったのです?」
「フレちゃん、現実の女性に清楚何て期待しちゃ駄目よ? それに私みたいに長生きしていれば、性癖の1つや2つくらい歪むのは当然よ」
「ふーん、あそ」
「え、まさかの塩対応!? ちょっと流石にその反応塩くない?」
「塩くないですよ。呆れていると言うか......もう、悟りを開きそうです」
フレちゃんも普通に喋ると普段の敬語が段々と崩れて行くのよね♪ 気軽にタメ口でお姉ちゃん♡と呼んでくれても良いのにぃ〜
「ねぇ、フレちゃんも良い加減私に毎日お説教するの疲れない? 私が怠惰なのは、最早自然の摂理。摂理に反する事は出来ません。これは自然現象......だから無駄なのよ?」
「私はメナス様に人として成長をして欲しいから毎日言ってるのです。少しでも更生の可能性があるのなら、私は毎日悪魔にでも鬼にもなります」
「お、おぅ......そ、そこに愛はあるのかしら?」
「愛しかありません♪」
「うぐっ......」
本当にフレちゃんは成長したわね......私と出会った頃、フレちゃんは奴隷で、人生に絶望した様な死んだ魚の目をしてたのに。本当にここまで感情豊かになって、ママは嬉しいですよ♡
―――そして、今では私の唯一無二の家族......一番信頼出来る頼れるメイド長です♡
「所でメナス様、今日は何の日か分かりますか?」
「え、ん〜っと......あ! 新しくケーキ屋さんがオープンする日だぁ!」
「ちっがーう!!! 今日は豊穣祭とロスタール評議国の代表との面会です! 昨日あれ程言いましたよね!?」
「あらやだぁ、すっかり忘れてた♡ まぁ、てきとーにやるね♡ まあ、失敗しても賄賂に私のエリクサーを数本あげればちょろいものよ♪」
「あぁ......もうやだ。胃が痛いです」
「あらあら、それは大変! 私が治してあげるね♡ はーい♪ 魔法魔法♡」
「ちょっ......誰のせいで!? えっ、あれ? 何だか身体が急に軽く......胃も痛くない!?」
全く、私を誰だと思ってるのかな? 大賢者にして、癒しと回復に特化した大陸最高峰の魔道を極めし者の一人だぞ♪
「しかも、今のは高度な詠唱破棄......あんなふざけた詠唱で、第十位階魔法【万物を癒す奇跡】を発動させるなんて......」
「詠唱破棄と魔力総量学は私が編み出した分野だよ〜詠唱破棄に関して、私を超える者はこの世におりません♪」
「ただの怠惰な女神だと最近マジで思ってましたが、メナス様の事を少しだけ見直しました」
怠惰な女神.....うぐっ。否定出来ない自分がかなちい。まあ、第十位回魔法は最上級の魔法クラスで、使用出来るのも私とミレーナちゃんとマリーちゃんくらいなものよ。
「ああああぁ!? ちょっとメナス様!」
「あらあら、今度は何かしら? 今日もフレちゃんは元気だね〜うふふ♡」
「うふふ......じゃ、ありません! それは神器【パナケイアの盃】! 何しれっとそれでオレンジジュース飲んでるのですか!?」
「お洒落でしょ♪ 最近、埃被ってたからね〜たまには使ってあげないと♡ それに神器に新たな使い方を見つけたの♪ ほら、あれを見て♡」
メナスが指を指した方向に、フレアは視線を向けると目を大きく見開いて信じられない物を見たかの様な表情を浮かべた。
「あ、ありえない......セイルダムの至宝【ヒュギエイアの神杖】を洗濯物の竿として使ってる......しかも、洗濯カゴの中にパンツと神器【エイルの羽衣】が一緒に入ってる......」
「まあまあ〜フレちゃん、とりあえず落ち着こう? ね? そんなカリカリしてたら、また血圧上がっちゃうよ? もうそろそろトマトジュースだけでは誤魔化しきれないんじゃないのぉ?」
「一体誰のせいだと思ってるのです!? 脱いだ服はそのまま! 自分でパンツも履かない! 物は片付けない! ゴミはそのへんに捨てたまま! 目覚まし掛けても大声で叫んでも起きない! エリクサーを栄養ドリンク感覚で飲んだり、寝癖も治さないで聖杯祭には出ようとするし! 他にも色々と言いたい事が山のように!」
「わーわー聞こえなぁ〜い♪」
あらあら、またフレちゃんのお説教が始まってしまうわねぇ......
「良いですか!? 今日と言う今日は......!」
「フレちゃん、よしよし♡」
「んにゅ......はっ!? 不覚にも頭なでなでが気持ち良いと思ってしまった自分が恥ずかしいです」
「昔は良くこうして、フレちゃんの頭をなでなでしたり、怖がりさんなフレちゃんを夜中トイレに連れて行ってあげたり♡」
フレちゃんのお説教を回避する時は、こうして頭を撫で撫でしてあげると効果的です♪ フレちゃんはメイドとして優秀ではありますが、幼い頃から愛を知らずに育ったせいか、私の海の様に深い母性に惹かれて、たまに甘えたりもするのですよ♪
「い、いつの話しをしているのですか! あ、そこもっと撫でて下さい」
「あらあら、素直じゃありませんね」
私は結婚した事も無いし、子供も産んだ事はありませんが、時折普通の主婦と言うのも良いなと思う時があります。
「メナス様......相変わらず大きいですね」
「えぇ〜なになに? フレちゃん、私のパイパイが欲ちいのでちゅかぁ?」
「ち、違います!」
「最近お胸がまた成長しちゃったのか、肩が以前よりも凝るのよねぇ」
彼女が歩くたび、柔らかな質量が空気を震わせた。薄手の白いドレス越しでも隠しきれない大きく豊かな膨らみは、見る者の視線を否応なしに引きつける。ふとした仕草で服の生地がぴんと張り、そのたびに極上の柔らかさを想像させた。
「な、何で私の胸を見るのですか!?」
「フレちゃんの小さなお胸が羨ましいなぁ〜って♪ 私の胸少し分けてあげたいくらい♪」
「ぐぬぬ............」
―――実は最近のフレアの悩みはお胸の発育が良くない事と背が伸び無くて、こっそりと毎日牛乳を飲み続けていたりと健気な努力をしている。
「よしよし〜♡ 昔みたいにメナスお姉ちゃんって呼んでくれて良いのに〜baubau♡」
「メナス様、確かに貴方は誰よりも美しいですが、良い歳してそれ恥ずかしく無いのですか?」
「えぇ〜私はまだまだピッチピチだよ♡ 殿方の皆様は、私のこの我儘ボディにメロメロだよ♡」
「ふ〜ん、今年何歳ですか?」
「え、えっ〜と......少し盛って30ちゃい♡」
「はぁ〜130歳じゃ......もう良い歳したBBA......マダムです。そろそろ現実を見ないと、きゃああああ!?」
「100歳は誤差誤差〜♪ 私は老いを知りません♪」
「ちょっとメナス様!?」
今日もメナスとフレアは、実の姉妹みたいに仲睦まじく穏やかに日々を過ごしているのであった。




