ゴスロリと軍服
ぼやけた景色が徐々に鮮明に変化していって、今自分がどこにいるのかが分かるようになった。
まず自分の目の前には噴水があって、辺りを見回してみると大勢の人がいる。どこかの町……みたいな感じ?
NPC結構多いんだなあと思っていたけど、よく見ると彼らの頭には名前が書いてある。
名前にはいろいろなバリエーションがあって、平仮名だったり片仮名だったり英語だったり記号だったり……そこで気づいた。
「これもしかして他のプレイヤー……?」
もしかして、MMOってそういうジャンルなのかな……いろんな人が同時に同じ世界で遊ぶみたいな。
そうだとしたら自分では絶対に買わないジャンルだけど、人見知りをどうにかするって意味では確かに適してるだろうし、そういう理由で選んだんだろうな……。
わざわざゲーム内でまで他人と関わるなんて……と思ってしまうけど、これも条件なので仕方ない。人混みからそそくさと離れつつ、莉奈にチャットでSOSを送る。
まだ莉奈はキャラメイク中らしくちょっと時間がかかるみたいなので、とりあえず身だしなみチェックをしてみることにしようかな。
そう思ってフォト機能を使って自分の姿を見てみると、その姿に私は思わず硬直してしまった。
「……これ、ちょっと……」
キャラメイクそのものに問題があったわけじゃない。
髪の毛の紫色は日の光が当たるとちょっと銀っぽくなる感じで思ったよりも明るかったけど、そこは大丈夫。
問題なのは服装……黒を基調としていて、フリルがすごい付いてて、アクセントに赤が入っている。こういうの、確かゴシックロリータって言うんだっけ……?
ファンタジーらしくてそれは新鮮でいいと思うんだけど、スカートの丈が短すぎて落ち着かない……! ミニスカートなんて全然履いたことないし、膝下20cmはないと安心できないのに……
「うー……そもそも初期装備でゴスロリってどういうこと……?」
早く装備変えたいなー……なんて考えつつなるべく人の少なそうなところに動いていると、莉奈から『今すぐ向かうよ!』と連絡が入る。
とりあえず今自分がいる場所を伝えようと、周囲に目立つものはないか探そうとして――「あ! いたいた!」――えっ。
振り返ると、そこには黒い軍服に身を包んだ少女が立っていた。
頭上に表示された名前はリーナ。莉奈だ!
「無事会えたね〜!」
「うん! で、でも、場所教えてないのになんで分かったの?」
そう聞くと、リーナはきょとんとした顔で「え? 恵那ちゃんのことなら普通なんでも分かるよ?」と当たり前のように言ってくるものだから、私もそういうものなのかぁと納得するしかなかった。
「あ、ちなみに私の名前はエネにしたので……」
「エネちゃんね! 呼びやすくてよかった〜!」
「リーナも、呼びやすい……!」
一応人の少ないところに来たので周囲に人はまばらだけど、ゴスロリと軍服という珍しい組み合わせのせいかやたら視線を感じる。
「えっと、リーナの職業って何?」
「私の職業は大軍師! なんか特殊職ってやつらしいんだよね~、基本はバッファー……補助をするタイプって感じ」
「そ、そうなんだ。実は私も特殊職みたいで……従魔姫っていうテイマー系の職業だった」
「テイマー! いいね~、エネちゃんって感じでいいと思う!」
「えへへ……リーナも似合ってる……!」
リーナは顔は現実と変わらないけど、私と同じように髪を少し変えているタイプみたい。
リアルから既にすごくかわいいし、ファンタジーな服もなんなく着こなしている。凄いなぁ……。
「さて、じゃあ無事に合流出来たことだし早速配信しよっか!」
リーナが私の肩をガシッと掴みながら笑顔で言う。
そうだ……これがあったんだった……。
「で、出来るかなぁ……?」
「私も一緒に映るから安心して! なるべくサポートするから!」
「そっか……それなら安心……」
相変わらず怖くはあるけれど、なんか……リーナが一緒にいてくれるなら頑張れそうな気がする。
というわけで、私たちは配信の準備にとりかかった。