フェイク
目を滑らせたかった
「どうしよう……」
スケルトンドラゴン(仮)は微動だにせず、宝箱の前にじっと立ちはだかっている。
たぶんこれ、近づいたら目が光って動き始めて戦闘になるような感じじゃないかな……。ここまでいろいろなモンスターが出てきたけど、配置が結構嫌らしいというか死角から飛び出してくるから結構びっくりするというか、そういうダンジョンなのでこのモンスターも驚かせてくる可能性は結構あると思う。
「ちなみにリーナはあのドラゴン、平気?」
「うーん、まあドラゴンはドラゴンだし平気かな? 特に怖くはないよね」
「そ、そうなんだ……」
私としてはむしろこっちのほうがある意味怖いんだけど……。
まあとにかく、こうなったら戦わないわけにはいかないので作戦を立てよう。
まず、こういうモンスターってどういう攻撃をしてくるんだろう?
屋内にいる時点で機動力とかは完全に削がれてるし、固定砲台的な戦い方をするのかな……。炎を吐くにも骨しかないからそういう体内器官はないだろうし、まあそれは魔法で代用できるから大きな問題じゃないか。宝箱を守っている以上大きく動き回るようなことはしないだろうし、仮に部屋中を動き回るタイプなら宝箱から離れたタイミングで中身をゲットしてすぐに逃げるって方法が正解になりそう。でも生身のドラゴンならともかくあれが激しく動き回るのは少し想像しにくい気もするしやっぱり固定砲台タイプなのかな。そういう方向性だとしたら問題になってくるのはどういう魔法を使うかだけど、ドラゴンらしく炎なのか、それとも他の属性なのか。道中出てきたスケルトンソーサラーは主に闇属性の魔法を主体に攻撃してきたし、同じスケルトンなら魔法も同じ感じなのかも。少なくとも弱点になる光属性はないだろうけど、仮に闇魔法だとすると厄介なのが回避の難しさ。これが例えば炎のブレス的な攻撃なら攻撃の始点はドラゴンの口の部分になるし攻撃範囲も始点からの扇形になって予測がしやすい。口から漏れ出る炎で発射タイミングも測れる。ただ闇属性の魔法は現実の現象に則った動きをしないので、スケルトンソーサラーがやってきたような暗い場所から飛んでくる魔法とか足元から這い出てくるような魔法とか、このダンジョンの暗さを利用するようなものに気を付けないといけない。スケルトンソーサラー相手ならある程度狭い空間で戦うというのもあって対処できていたけど今回はドラゴンが相手で戦闘フィールドも通路よりかなり広い。ランタン一個で全部をカバーするのは難しそうだし、予備で買っておいた松明に火をつけて部屋の四方に置いたりできるといいかもしれない。これで不意打ちじみた魔法は防げるとして、そしたらあとはこっち側の動きだけど、まずはアルルが――
「キュ、キュイ?」
「……はっ」
アルルの鳴き声で、私の思考が引き戻される。完全に頭の中でぐるぐる考えこんじゃってた……。
はたから見たら完全にフリーズしてるように見えちゃうし、話しかけられても答えられないからなるべく人がいるときはこうならないように気を付けてるんだけど、ちょっとドラゴンのインパクトが強くて……もっと気を付けないといけない。
と考えつつリーナのほうを見るけど、なぜかそこには誰もいなかった。
「あれ、リーナ……?」
「エネちゃんこれ偽物みたいだよー?」
「えっ」
声がしたほうを向くと、いつの間にか中ボス部屋に入っていたリーナがスケルトンドラゴンの前足をつんつんしていた。
油断してると動き出すやつ――! と思っていたけどスケルトンドラゴンは一向に動く気配がなく。
「えいっ」
リーナが細剣でスケルトンドラゴンを小突くと、スケルトンドラゴンを構成していた骨はそこからガラガラと崩れ落ちていき、最終的に全部崩れてただの骨の山になってしまった。
「……えっ??」
『これ普通に偽物なんだよな』
『初見だと本当にビビるやつ』
『実はこれ恐怖状態のデバフが掛かったまま見ると動いて見えるようになってる』
「わ、私が考えてた時間返してほしい……」
すっごい色々考えてたけどまったく意味がなかった。なんなの……。
まあ何はともあれ、これで宝箱を開けることが出来る。
――――
鍵の石板
謎の模様が彫られた正方形の石板。
何かに使うことが出来るようだが……?
――――
中身は予想通り、あの行き止まりの壁に嵌め込めるアイテムのようだった。
壁に開いた穴と大体同じ大きさだし、模様も同じ感じ。さすがにこれも偽物ってことはない、よね……?
分岐に戻ってもう一度さっきの壁まで行く。道中ゾンビの群れが1グループ復活していたけどそれをサクっと突破して、すぐにさっきの壁にたどり着いた。
模様を合わせて石板を嵌め込むと、重い音を立てて壁が横にスライドするように開き、その先の道があらわになった。石板はちゃんと本物だったみたい。
ランタンをかざすと、すぐに小部屋につながっていることが分かった。
入口から見る限りでは小部屋の中にはモンスターは一体もいなくて、代わりに中央に白い石で造られた噴水がある。水の勢いは弱いけどずっと流れ続けているようで、あふれ出した水が欠けた縁から流れ出していた。
いつものボス戦前の回復ポイントだった。あまり体力は削れてなかったけど、とりあえず全員回復して、さらに先へと進む。
細い道を通ってたどり着いたのは、これまでにないほど大きな部屋だった。
「わ、広い……」
思わずつぶやいた声が反響する。
ランタンを掲げても全体の構造はよくわからないけど、近くの壁を見た感じドーム状になっているみたい。
そしてそんな部屋の中心に、何かが立っていた。紫色のぼろきれを纏った、何かが。
「あれがボスかな?」
「多分、そうだと思う」
私たちが戦闘態勢を整える中、そのモンスターはゆっくりと振り返った。
身体はよく見えないけど、人の頭部がある位置には髑髏が浮かんでいる。ここまで出てきたスケルトンとはデザインが明らかに異なっているように見えた。
表示された名前は『キャリアンマスター』。
キャリアンマスターが手に持った杖をゆっくりと振るうと、壁に設置された松明に青白い火が灯っていく。
そして全ての松明に火が灯った時、私たちの身体を重圧が襲って――戦闘が始まったのだった。
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