視線の先に
「僕は特殊職『制空姫』のフタバ=フォークローブ。君たちのことはリリィに教えてもらって、それで興味を持ったんだ」
特殊職プレイヤーフタバさんの登場に、コメント欄が盛り上がる。
『フタバさんだー!?』
『なんか乱入クエストみたいな感じで出てきたな』
『空飛ぶ幼女』
『制空姫というか戦闘姫』
「なんか僕についてすごい色々言われてる気がするけどまあいいや。リリィが言ってた二人組って君たちで合ってるよね? 確か、従魔姫と大軍師」
「そ、そうです。えっと、リリィさん……ってあのリリィさんですか?」
「そうそう。城塞騎士のね」
やっぱり特殊職同士つながりみたいなものがあるのかな。数が多くないからこそ集まるみたいな。
「私がいなかったときにエネちゃんに配信について教えてくれた人だよね?」
「うん。特殊職の人で、配信も見てくれてるみたい」
「そうなんだ。じゃあこの人は敵じゃない?」
「あ、僕のこと敵だと思ってたの? なんか警戒されてるなーとは思ったけど」
フタバさんは肩をすくめて、それから背中の翼を変形させてジェット噴射を止め、着地した。
「君たちを見守りに来たんだからむしろ味方だよ。特殊職に関する情報に価値を持たせておきたい人からしたら、特殊職が配信してるのなんかどうにかして止めさせたいって思うだろうし……色々配信の邪魔とかしてくる可能性もあるから」
「情報に価値を?」
「まあほら、特殊職に神秘性を持たせておきたいとかそういう感じなんじゃない? その辺は僕にはよく理解できないけど、特殊職が身近な存在になってしまうと特別感が薄れるとかそういう感じかも」
「そ、そういう人もいるんですね……」
そんなことをしたら反感を買いそうだけど……というか、そもそも私がそういう人たちから既に反感を買ってる状況ってことだよね。
配信者ってそういうの多そうだと思ってたけど、いざ自分が対象になると結構怖いなぁ……。
「……それでわざわざ見守りに?」
「えー、君まだ警戒してない? ……まあなんていうか、色々妨害されて本当に配信やめちゃったりしたらリリィが悲しむから。そうならないようにちょっと見に来たんだけど、今のところは杞憂っぽいかな」
「え。リリィさん、そんなに楽しみにしてくれてるんですか?」
「楽しみにしてるっていうか、なんか崇拝しているというか……たまに拝んでるよ? というか君たちさっきさり気なく密着してたし、今まさに拝んでるかも」
「お、拝む……?」
『崇拝対象みたいになってて笑う』
『リリィさんならやりそう』
『百合の騎士だからなぁ』
そんな風にコメントが流れていく。リリィさん、結構面白い人みたいな扱いをされてるなって思ってたけど本人が結構特殊な人っぽい……?
「まあとにかく、怪しい人には気を付けてね。困ってることがあったら僕かリリィに連絡を。今まさに襲われてる~ってときは僕に連絡してくれればどこにいてもすっ飛んでいくから」
フタバさんからフレンド申請が送られてきたので、すぐに受理する。リーナとリリィさんに次いで三人目のフレンドだ。
「ちなみにこれからどこに行くつもり?」
「えっと……棄てられた神殿ですね」
「あー…………せっかくだし良ければ少し一緒に、って思ったんだけどあそこは屋内だから厳しいかな。まあそれはまたの機会に。強いプレイヤーが入ると難易度ぬるくなっちゃうしね」
「じゃ、また会おうねー!」と言い残して、フタバさんは背中の翼を展開し、勢いよく飛び去って行ったのだった。
「急に現れて急に去っていったね」
「うん……」
なんか嵐のような人だった。
最初はどういうことなんだろうって思ってたけど、少なくとも良い人だと思う。
「とりあえず、配信の妨害とかは怖いからちょっと気を付けないとね……」
「うん、そうだね。でも多分しばらくは平気だと思うよ。あの人、わざわざカメラにばっちり映った状態で喋ってたし配信を通して牽制してたんだと思う」
「なるほど……」
確かに、フタバさんが呼ばれたらすぐに飛んでいくと公言している以上妨害してくる相手もあまり手荒なことはやってこないはず。
意識していたかどうかは聞いてみないことには分からないけど、仮に無意識だったとしても牽制になっているのは確かだ。
「というかリーナ、ずっと私のこと守ってくれてた……よね?」
フタバさんと話している間、リーナは自然に私をかばうような位置に立っていた。
言われてた通り、リーナはフタバさんのことを警戒していたみたいだったからそうなのかなって…………あれ、これもし違ったらめちゃくちゃ恥ずかしいのでは……?
「ち、違ったらごめん、聞かなかったことに……」
「ううん、合ってるよ。急に人が来たから敵だと思ったの。エネちゃんって人のこと結構よく見てるよね」
「え、そうかな……?」
「そうだよ! ちゃんと相手のことを観察してて、そういうのって良いことだと思う」
確かにそうかもしれないけど、でも私の場合は嫌われないように人の様子を常にうかがってるって感じだからそんなに良いことだとは思えないかな……。
その辺は捉え方次第なんだろうけど、
そう考える私の横で、リーナが小声でなにかを呟いた。
「まあでも……だからこそ私だけ見ててくれたらいいのにって思っちゃうけど」
ちょっと考えこんじゃっていたせいで、リーナが何を言ったのか後半上手く聞き取れなかった。
……ってなんかコメントの流速が大変なことになってるけど何? 全然目で追えないんだけど……。
「ごめん、なんか言った……?」
「……ううん、独り言!」
何でもないとひらひら手を振って、リーナは笑顔でそう答えたのだった。
面白い!と思っていただけたら下の「☆☆☆☆☆」から評価していただけると嬉しいです!!




