空を制する姫
特殊職の名前は性別などで変化したりします。例えば男なら王で女なら姫になるような感じ。
エネが男だったら従魔姫は従魔王になってました。
木片みたいなクッキーとかほろほろと崩れるガラス玉みたいな謎のスイーツとか、いろいろと食べながら歩いているといつの間にかスイーツエリアを通過していて、今度は実用的なものを売っている店が立ち並ぶエリアに入った。
武器とか防具とか、ゲームの店としてすごく一般的なものが立ち並んでいる。さっきの通りの店はプレイヤーが経営しているところが多かったけど、ここはNPCの店がほとんどみたい。
「ちょっと道具屋さん見てくるね」
「わかった! 私は防具屋見てこよっかな」
一旦別行動というわけで、私はすぐ近くにあった道具屋に入ることにした。
「いらっしゃいませー」
店内を見てみると、思ったよりいろんな種類のアイテムがある。松明とか縄とかは分かるけど、なんかまきびしとか手裏剣も売ってる……忍者用の店?
メニューから一覧を見てみると他の職業の専用アイテムみたいなものも売っていて、中にはテイマー用のものもあった。
・カウラーの生肉
畑を荒らす害獣カウラーから採れる生の肉。
癖が強く好んで食べる人は少ないため、主に動物の餌として使われる。
肉食系モンスターを仲間にしやすくなる。
・ケルタスの野草
ケルタス草原に生える瑞々しい野草。
草食系モンスターを仲間にしやすくなる。
・乾燥カクリクス
カクリクス類の昆虫を乾燥させたもの。
栄養価は高くないが味は良いらしい。
昆虫を主食とするモンスターを仲間にしやすくなる。
どれもモンスターを仲間にしやすくなるものらしい。餌で釣るって感じかな?
相変わらず戦闘ごとにテイムを試してるのでいくつか買っておこう。
サクのパッシブスキルに同行している使い魔の数だけステータスが強化されるというものがあるので、現状はとりあえず戦闘ごとにテイムを試みている。
休眠状態の使い魔も数に含まれるので結構壊れてる……と思っていたけど正直あまり変化は見えない。具体的に検証したわけではないから実際のところは分からないけど、10匹ごとにステータスが1増えるとかそういうレベルなんじゃないかな。
とは言え休眠状態にしておける使い魔の数にもまだ余裕はあるし、塵も積もれば山となるってことで。
……と、珍しいものに意識が行って元々の目的を忘れてた。
私が道具屋で仕入れようと思っていたのは、MPを回復することのできるアイテム。
とりあえずHPの回復に関しては回復モードのアリスがいるし、緊急時にはリーナも応急処置が使えるので回復アイテムは必要ない……いや、保険としてちょっと買っておこうかな……何が起こるかわからないし。
ただ、ここまで戦ってきて一番消費したのはMP回復用のアイテムだった。なんだかんだでうちの使い魔たちはみんなMPを大量に消費するんだよね。
純魔法アタッカーのカイルは当然のこと、アリスも回復モードでは結構MPが必要になる。
サクはMPがなくなっても攻撃はできるけど、でもMP消費なしだと威力が下がっているようなものだからやっぱりMPは重要だ。
アルルにもついつい《銀炎》を使わせちゃうし……全部合計すると魔法職よりもMPを食ってる気さえしてくる。
というわけで、MP回復用のアイテムを買い込んでおく。テイマーには武器が必要ないので、その分お金はこういうところにどんどん使っていきたい。
防具には使い魔を強化するような能力がついていたりするようなのでこっちは後々買いそろえる必要がありそうだけど、今はそこまで困ってないので保留。
将来的に敵が賢くなってテイマー本体を積極的に狙ってくるようになったら防御力も大事になってくるけど、今のところはサクとかアルルがヘイトを持っていくので、今は大丈夫…………うん、今一瞬不安になったけどそもそもそこまでお金を持っていないので防具一式買うのは難しそうだし仕方ない。
店から出ると、ちょうどリーナのほうも買い物が終わったようでこちらに歩いてくるのが見えた。
リーナの背中にはさっきまでなかった赤いマントのようなものがたなびいている。
「新しい装備?」
「うん! 防御力はほとんど変わらないけどバフの効果量が上がるみたい。使い魔の攻撃力が上がる装備もあったよ」
「やっぱりそういうのもあるんだね。ヴェスティアに着いたらちょっと調べてみようかな……」
とりあえずルクサーヌの観光はある程度できたし次のエリアに向かおうということで街の出口に向かって歩いていると、不意に背後から声をかけられた。
「おーい、そこの二人ちょっと待ってー!」
周囲には他にそれっぽいプレイヤーもいないし、私たちかな……と振り返るけど、後ろには誰もいない。
「あれ、確かに後ろから声が聞こえた気がするんだけど……」
私がそう言った瞬間、目の前に突如何かが落下してきた。
「え、わっ!?」
「エネちゃん!」
急な風圧に倒れそうになった私をリーナが抱き留めてくれて、手を借りながら体勢を整えると、巻き上がった土煙の中から一人の少女が現れた。
凝った意匠の軽鎧と腰に差した二本の剣。長く伸ばしたツインテールは銀色に輝いていて、顔立ちは幼いけど全体的に高貴な雰囲気を纏っている。
高貴というとリリィさんもそうだったけど、この人はまた別種の高貴さというか……なんだろう、精巧な人形みたいな……? 背が私よりも小さいからそう思うだけなのかもしれない。
とにかくそんな風貌をしているからそれだけでもかなり目立つけど、その中でも何よりも目を引くのが、彼女の背中から生えてる銀色の翼。
翼と言っても鳥や竜のものではなくて、それよりももっと無機的な…………はっきり言ってしまうと戦闘機の翼だった。
「あ、この翼が気になる?」
私の視線に気づいたのか、彼女はそう言って右手でウィンドウを操作する。
すると背中の翼が機械的な音を立てて変形し、地面に向けて炎を含んだ風が吹き出してそのまま彼女の身体がふわりと浮き上がった。
「専用武装、ウィングユニットだよ。これがあれば自由に空を飛び回ることが出来る。慣れがいるけどね」
そう言いながら彼女は空中でくるりと身をひるがえす。長い髪とスカートがひらりと揺れて、まるで踊っているかのように見えた。
というか、この人も特殊職らしい。スカイエース……まさに空を飛ぶって感じの名前だけど、何系の特殊職なんだろう?
あまり今の状況とは関係のないことを私が考えていると、リーナが少し警戒した表情で目の前の少女に尋ねる。
「えっと、どこかで会ったっけ。それとも視聴者さん?」
「そっか、まだ名乗ってなかったね。せっかくだからこのまま自己紹介をさせてもらうよ」
彼女は空中で体勢を整えて、それからビシッとポーズを決めた。
「僕は特殊職『制空姫』のフタバ=フォークローブ。君たちのことはリリィに教えてもらって、それで興味を持ったんだ」
少しのドヤ顔とともに、彼女はそう名乗ったのだった。
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