ルクサーヌ散策!
翌日。花の都ルクサーヌにて一足先にログインしていたリーナと合流し、私たちはさっそく今日の配信を始めることにした。
配信を開始してURLを流し、少し経ってから確認してみると視聴者数は一万、二万……もう何も考えないようにしよう。精神が持たない……。
アルルの背中に顔をくっつけて現実逃避を行う。アルルの体表は柔らかい金属としか表現できない不思議な質感で、触れるとひんやりしてて気持ちいい。
「今日はどうする?」
「うーん……ちょっとルクサーヌを見て回って、それから次のダンジョンに行くって感じかな」
昨日リーナがルクサーヌを観光したがっていたのを覚えていたし、私としても次のダンジョンに向かうための単なる中継地点とするには惜しいなと思うくらい綺麗な街なので、少し見て回ろうと思う。
「ちょっと目立つかもしれないけど……今更だよね」
通常のモンスターであるアリスとカイルはともかく、アルルとサクは入手経路が特殊なので目立ちそうだと思ってたけど、そもそも私もリーナも服装が目立ちやすいうえ配信をしているという話はすでに広まっているだろうし、今更ちょっと特殊な使い魔を連れていたからと言って特に変化はなさそう。
噂は広まるのが速いというのをゲーム内で再確認する羽目になるなんて……まあ、人目を気にしてみんなを休眠状態のままにしておく必要がないのはいいことなんだけどね。
というわけで休眠状態にしておいた三匹を召喚して、みんなで散策することにした。
「えっと、今日はまずルクサーヌを散策しようと思います……!」
「おすすめのお店とかあったら教えてね~!」
カメラに向かってそう話しかけると、コメントの流れがさらに速くなる。
低速モードにしてるのに恐ろしく速いコメント……ほぼ全て見逃しちゃってるけど、その中からどうにか一つ二つくらいをさっと抜き取って反応していくことで何とかなってる。なんとかなってるのかな?
ともかく、カメラを追従設定にして、それから私たちはルクサーヌの大通りを歩き始めた。
アルルはいつも通り私の肩に、カイルは基本的には飛んでいて、たまにアルルが乗っていないほうの肩で羽を休めてる。アリスは今日はサクの背中に乗っていた。
街のあちこちには風車があって、どの風車も花を象った形をしている。
回転してる部分がひまわりとかバラとかそういう感じになってたり、建物部分が植物みたいになってたり。
風車以外の建物もどことなくメルヘンな雰囲気で、童話の世界みたいだった。
そんな街並みを見ながら歩いていると、ふとすれ違うプレイヤーがみんな何かを食べながら歩いているということに気が付いた。
人気のお店でもあるのかなと思いつつ先に進むと、辺りの様子が少し変化した。具体的に言うと、屋台をちょっと豪華にしたような小さなお店が通りを挟むようにいくつも並んでいる。
スイーツ系のお店が密集してるみたい。
「エネちゃんエネちゃん、そこのブーケクレープっていうのが美味しいみたいだよ」
コメントを見ながらリーナが指さしたのは、水色のパステルカラーで彩られたおしゃれなお店だった。
名前はフラワークラウド。リーナが行きたいところならどこにでも行くつもりだけど……これ本当に食べ物売ってるお店なのかな。
ショーケースの中には色々な花が並べられていて、クレープどころか食べられそうなものは一つも置かれていなかった。正直花屋にしか見えない。
コメントが間違えてる可能性まで考えたけど、軒先にちゃんとメニューが書いてあった。リーナが言っていたブーケクレープは主力の商品みたいで、一番大きく書かれてる。
リーナに連れられて、それぞれブーケクレープを注文。
十秒ほどで出来上がったようで、「お待たせしました、ブーケクレープです!」という声とともに店員さんが笑顔で花束を渡してきた。……え、花束?
本当に花屋だった……と思ったけど、よく見てみると花束を包むラッピングペーパーがクレープ生地でできてる。だからと言ってクレープに見えるかと言われると本当に花束でしかないんだけど……。
「これ、食べれる花……ってことだよね? 実は飾りで外してからお食べくださいとか……」
「いただきまーす!」
私が怖気づいている間にリーナは一切ためらわずに花束をパクっとくわえて、すぐに彼女の顔がぱぁっと明るくなる。
「これっ、これすごいよエネちゃん! 食べてみて!」
ちょっとまだ迷いはあったけど、リーナが食べたんだから私が迷っているわけにもいかない。
意を決して花束を食べて――
「えっ、なにこれちゃんとクレープの味がする……!」
予想外の味に、思わず驚いてしまった。
食感は完全に花というか野菜を食べているような感じだったけど、味は全く違う。
バラのような花はベリー系の味がするし、茎の部分はホイップクリームの味がする。それ以外の花もそれぞれ見た目とは全く違う味があって、それが重なることですごくおいしいクレープになっていた。
本当においしい。そう思いながら食べていると、物欲しそうな視線が私に向けられていることに気づいた。……およそ四匹くらいから。
「あ……みんなも食べたいよね」
「キュイっ」「ガウッ」「ピィーっ」
鳴き声で答える三匹と、頭の上に載ってきた一匹。
私は追加で四つのブーケクレープを注文したのだった。




