谷の奥で
更新が遅れてしまって申し訳ないです……!
色々な種類のゴブリンを倒しながらダンジョンを進んでいると、ふと足元に水が流れているのに気付いた。流れは進行方向に続いている。
少し歩いてみると、ひび割れた岩壁から水が流れ出して、壁の途中の少し大きめの窪みに水が溜まっていた。
水はとめどなく流れ出していて、窪みから溢れたものが地面に流れていたみたい。
それを見るや否やリーナは水の溜まった窪みに手を突っ込んだ。
「回復できるみたいだよ!」
「あ……ボス戦前のかな?」
先の方を見てみると、確かに少し広い空間になっていた。
サクのときもボス戦の場所は円形のフィールドみたいになってたし、道中は大して迷うこともなかったので確かにそろそろボスが出てきてもおかしくない。
ボス戦に備えて全員分のHPとMPを回復していると、リーナが「少しやりたいことがあるからちょっと待ってて!」と声を上げた。
「ジョブクエストで新しいスキルを覚えたから、せっかくだから使ってみようかなって!」
「そうなんだ。どんなスキルなの?」
「んー、実際にやりながら説明するのがいいかな。まずは設定画面を開いて……っと」
リーナが指揮杖で地面をなぞると、そこから青い光があふれ出して半透明の机のようなものが現れた。
その上部はディスプレイのようになっていて、いろいろな記号や図形が表示されている。どういう感じなんだろう?
「今までのバフって実は第一段階で、新しく覚えた《展開》を使うことで大軍師としてのちゃんとしたバフになるみたいなんだよね」
『マジで?』
『あの時点でかなりバフ強かった気がするんだけど』
『あれより上があるのか……』
「《展開》を使うと、効果時間中にパーティの陣形があらかじめ設定しておいたものに近いほどバフの効果が強くなるって感じかな。効果的な設定は一通り覚えたからとりあえず簡単に設定しちゃうね!」
リーナは机の上の記号をスイスイと動かして、何かの設定をしてる。陣形に関することなのかな。
よくよく見てみると、円形のアイコンにはそれぞれ番号が振ってあって、今のパーティメンバーの並び順と対応しているみたいだった。
「今までの戦闘を見てたけど、エネちゃんは結構前に出るんだよね~。だからとりあえずエネちゃんを中心に配置して……」
最終的に私を中心とした陣形が出来上がった。簡単に言うと、後ろにリーナ、前にサク、私の近くにアリスがいて、離れた位置にアルルとカイルがいる感じ。
それぞれ設定が異なっていて、リーナとサクは基準とした人間から見た方向が条件で、アリスは私の周囲にいることが条件。アルルとカイルは逆に一定以上の距離を保っていることが条件になっている。
この陣形に近いほど、攻撃バフが強くかかる……って感じでいいのかな。
一回聞いただけだし、視聴者さんも特殊職の具体的なスキルまで知っているわけもないのでコメントの集合知を頼ることも出来なくてちょっとあやふや。
「他のはほとんどデフォルトのままでいいかな。本当は戦闘エリアの地形も情報として加えておくといいんだけど、時間がかかるし今回は割愛! ここから見た感じだとただの円形フィールドみたいだしね」
なんというか、大軍師感が出てきた気がする。
さて、どんなボスが出てくるんだろう。……と言っても、ここまでゴブリンしか出てこなかったのでボスもゴブリンなんだろうけど。
なんて考えながらボス部屋に足を踏み入れるけど、ボスみたいなものは出てこない。
部屋の中を見回してみても、円形のフィールドの端にゴブリンが一体いるだけだった。
「……あれがボス、なのかな……?」
「んー? 普通にここまで倒してきたゴブリンと変わらなくない?」
リーナの言う通り、正直あのゴブリンがボスだとは思えない。
というか名前を見たらごく普通のスカウターゴブリンだった。レベルもここまで出てきたゴブリンたちと同じくらいで、特に変な様子もない。
とはいえ状況が状況なので警戒しながら様子を観察していると、途中でゴブリンがこっちに気付いた。
「ギエッ」
ゴブリンは慌てたように走り出し、出口のすぐそばにあった大きな鉄の扉へと駆け寄った。
そしてその近くにあったレバーを思いっきり引くと、地響きのような音を立てて鉄の扉が開き始める。
その中は暗くて、ここからでは何があるのか全く分からない。
扉を開けたゴブリンにもよく分かっていないようで、そのゴブリンは中を見ようと扉の方へと近づいていき……現れた巨大な手がゴブリンを素早くつかんで闇の中へと引きずり込んでしまった。
「うわっ……」
「なんかホラーみたいな演出だね」
闇の奥から、巨体がぬっと顔を出す。
予想通り、ボスはゴブリンだった。しかしその大きさはこれまでに倒してきたどのゴブリンよりも大きくて、その身体には異常に膨れ上がった筋肉や腫瘍のようなものが浮かんでいる。
目の焦点はあってないし、足取りも少しふらついているような動きをしていたけど、巨大ゴブリンは私たちの方に顔を向けると大きく口を開いた。
「ゴ ァ ア ア!!!」
叫び声が地響きのように辺りを震わせる中で、確認したその名前はオーバードゴブリン。
こうして私たちの二度目のボス戦が始まったのだった。




