自分探しの適職診断
ランタンさんはゆらゆらと浮かびながら言葉を続ける。
「ここではまず、貴女様の適性を測らせていただきます。すぐにモンスターが現れますが、何をなさるかは自由です。武器や杖などはお申し付けいただければすぐにお渡しいたします」
すぐに目の前にモンスターが現れた。
名前はフォレストウルフ。狼みたい。
「かわいい……」
狼ってもう絶滅してるんだっけ。それは日本だけ?
実際に見たことはないけど、こんなにかわいいんだ……
「えへへ……お手」
「ガウッ」
「~~~~~!?」
差し出した手を狼にガブっと美味しく頂かれてしまって声にならない声をあげてしまった。
感覚が凄いリアルで……痛みとかは全然ないけどすごく驚いた。
「この状況でモンスターをペットのように扱った人は貴女が初めてですね……。ですが、それもいいでしょう。趣向を変えてみます」
次に現れたのは、先ほどとは打って変わって巨大な植物だった。
荊を触手のように動かすそれの中心には花が咲いていて、多分それが顔……みたいなものなんだと思う。
かなり大きくて驚いてしまったけど、私はこういうのも結構好き。家ではサボテンをたくさん飼っている。
サボテンが動物みたいに動いてたら、なんて思ったこともあるし、こういうのもいいなあ……。
「えっと……お手?」
異種族とのコミュニケーション手段がお手の一つしか存在していない私の体は勢いよく振るわれたツタに吹き飛ばされて宙を舞った。
「ええ……度胸があるんですかね?」
ランタンさんは困惑しているような声色でそんなことを言いつつ、次々にいろんなモンスターを召喚していく。
私はその全てに――実際はゴブリンだけ人間っぽくて人見知りが発動してしまったけど――コミュニケーションを取ろうとして、その全てが失敗に終わってボコボコにされてしまった。
そんな私の様子を見て、ランタンさんは大きな魔法陣を描きながら話す。
「なるほど、エネ様の素養が大体分かりました。こちらを最後といたしましょう」
その言葉と共に、私の目の前に巨大な鳥が現れる。
カラフルな羽に、鋭いくちばし。大きな目が私を覗いていた。
「巨鳥カルカラクス。これまで通りどうなさるかは自由ですが……どうやらやけに気が立っているようで。お気を付けくださいませ」
「じゃあ、お手……あ、手はないか。じゃあお嘴……」
「クケ――――――ッ!!!!!」
高く鳴き声を上げて、巨鳥は勢いよく翼を振るった。それだけでものすごい風が巻き上がり、私の体が吹き飛ばされる。
あ、これ駄目だ……。
吹きとばされてすぐ、私は死んだふりをすることにした。効果があるかは分からないけど、現状これしかないので……。
うつぶせになって倒れているのでどうなっているのかは見えないけど、気配がすごい。いろいろな方向から私を見ているような気がする。
それでも辛抱強く死んだふりを続けていると、巨鳥は急に鳴き声を上げた。
どうしたんだろう……と思っていると、急に地面の感触がなくなって、流石にそこで目を開ける。
さっきまで私の目と鼻の先にあった地面はどんどん遠くに離れていって……いや違う、これ私が離れていってるんだ。
恐る恐る上を見ると、さっきの巨鳥がすぐそばにいる。
……これ、私運ばれてない?
「ちょっ、待って……高っ、高いところは本当に……!!」
懇願もむなしく、巨鳥は更に高度を上げて飛んでいく。
やがて目の前に大きな木が現れて、その枝の先に乗っている鳥の巣が目に入る。
そこには巨鳥の子供らしきヒナが沢山いて……あ、もしかして私エサ?
「食べないでくださいぃ……絶対に美味しくないです、お腹壊しますから……!」
しかし巨鳥は更に高度を上げて、一番上の巣へと私を運んだ。
そこにはヒナはいない。明らかに鳥ではない何かが横たわっているだけだった。
乱雑にその巣に放り投げられた私は、その何かのもとに駆け寄る。
銀色の鱗に覆われたトカゲのような見た目のそれは私を見るとよろよろと起き上がって威嚇してきた。
「弱ってる……」
急に巣に現れた外敵に対して警戒するそぶりを見せているけど、見てわかるほどに衰弱している。
近づかないほうがいい気がするので一旦離れて観察。
どうしようかと考えていると、首の後ろに何かがあることに気付いた。
「トゲ……?」
遠目から観察しているのでよくわからないけど、何か黒いトゲが……刺さってる?
私は相手を警戒させないようにゆっくりと近づいて、そのトゲに手をかける。黒い靄のようなものが溢れて私の手を黒く染め上げて来たけど、気にしていられない。
多分これがこの子が弱っている原因だ。
「ごめん、少し我慢してて……!」
抵抗するように暴れているけど、その動きには力がない。
私はそのままトゲに力をかけて……ゆっくりと引き抜いた。
――その瞬間、視界が真っ白に覆われていく。
光の波に飲み込まれるようなその感覚の中で、私は徐々に意識を失っていき――完全に意識が途絶えるその直前、何かが私の手を舐めたのだった。