テイマーギルドにて
シャトーデパルフェを後にして、私たちは噴水のある広場で配信の準備をしていた。
「さてと。エネちゃんはジョブクエスト受けに行くんだよね?」
「うん、そのつもり。リーナは?」
「んー、私も自分のジョブクエストを進めてみようかな。気づいてないだけで私にも制限されてる能力があるかもしれないし」
「そ、そっか」
ということはまた一人で配信を……と考えているのを悟ったのか、リーナはこんな提案をしてきた。
「分割配信っていうのやってみる?」
「分割配信?」
「簡単に言うと、同じチャンネルで複数の配信が出来るみたいな感じかな。コメント欄が共通と専用の二つになるけどその分ある程度分散されるだろうから、一人でやるときよりは負担が減るんじゃない? なんなら共通の方のコメントには反応しなくてもいいし、そうすれば更に楽になるはず!」
「なるほど……?」
結局一人で配信することには変わりない気が……まあでも確かにコメントの数が減れば威圧感は減る気がするし、何もしないよりはマシ……かな?
というわけで、リーナのアカウントを登録して分割配信を試してみる。
レイアウトは視聴者側で各々設定できるようなのでとりあえずデフォルトの状態のままにしておいて、配信開始。
私のカメラで撮った映像が左側に、リーナのカメラで撮った映像が右側に表示された。
ついでにコメントを映すウィンドウが一つ増えている。私だけに見える専用コメント欄と、分割配信を行っている全員が見ることのできる共通コメント欄だ。
とりあえず専用コメント欄だけに反応すればいいんだっけ。とりあえず視聴者が戻って来たので喋ってみる。
「えっと、分割配信……? って言うのを試してみてます。これからジョブクエストを受けるために別行動になるので」
「うんうん、ちゃんと映ってるね~。コメントも反映されてるしこれで大丈夫! じゃあある程度進んだら合流しよっか!」
そんなわけで、私たちはそれぞれのギルドに向かったのだった。
とりあえず、まずはギルドの場所を探そう。マップを開いて検索窓にギルドと打ち込むと、この街の中にあるギルドがすべて表示された。
戦士、魔法使い、アサシン、狩人、騎士……聖職者……魔剣士……あれ? 従魔姫がどこにも見当たらない。
「ディザスタークイーンのギルド……ギルド? そもそもそんなのあるのかな……」
ギルドって同じ職業の人が集まってる感じを想像してるんだけど、そもそも数が少ないはずの特殊職が同じ職で集まるのは不可能な気がする。
というか大軍師とか城塞騎士とかもないし、やっぱり特殊職にギルドは存在しない……?
『確か特殊職って同系統の通常職と同じように扱われるんじゃなかったっけ』
『少なくとも準特殊職はそう。特殊職は知らないけど多分同じなんじゃないか?』
『だからまあテイマーのギルドに行けばいいはず』
「なるほど……」
こういう時コメントは凄く便利。これだと道具みたいに扱ってる感じがして良くないけど、やっぱり集合知は強い……基本的に最新の情報だし。
常にみられてるプレッシャーを感じるのは私にとっては凄いデメリットだけど、人並みにコミュニケーションを取れる人ならうまく活用できるのかも。それこそリーナとか。
そんなことを考えつつ、マップを見ながら数分歩いてテイマーギルドにたどり着いた。
結構おしゃれな外観をしていて少し物怖じしてしまったけど、少し呼吸を整えてから扉を開く。
中にはプレイヤーが結構いてビビりつつも一か所だけ開いていた受付にこそこそと滑り込むように移動した。
「え、えっと、テイマーのジョブクエストを受けに来たんですけど……」
私がそういうと、受付の男性は私のことを訝しむような眼で眺めて、それから答える。
「アンタ、テイマーじゃないだろ……」
「えっ」
「何者だ……? 霧に覆われた魔物と同じ気配がするぞ」
「い、いやテイマーですよ。ほら、使い魔もいます」
なんとなくみんな疲れてるような気がしたので休眠状態にしてあったけど、信用を得るためにとりあえずアリスを召喚してみせる。
アルルは普通のモンスターとは異なる存在っぽいし、カイルはレアモンスターだし、サクはこの街からも近いエリアのボスモンスターだし、その辺に普通に生息してるモンスターであるアリスが一番余計な波風の立たない存在だと考えた。
「確かにだいぶ懐いているようだが、いや……しかし……」
アリスの様子を見て、彼は唸るような声をあげて悩み込む。
そんな彼の背後に、一人の老人が現れた。
「あまり邪険に扱ってはならんよ」
諭すような声に受付の男性は後ろを振り向いて、それから驚いたように叫んだ。
「ギルドマスター! ど、どうされたのですか?」
「いやなに、少し懐かしい気配がしたのでな」
ギルドマスターと呼ばれた老人は、髭を撫でながらそう答えた。
細身で長身。白い髪と髭を長く伸ばしていて、温厚そうな表情をしているけど、私に向けた細い目はまるで鷹のようで鋭い光が宿っている。
「儂はウィードルだ。この通り、ここのギルドマスターを任されている」
「あ、えっと、エネですっ。よろしくお願いします……!」
「そう身構えずともいい。応接間は開いていたかな。儂が案内しよう」
急に面接みたいなことになってる……!? という具合で緊張しながらも、私はウィードルさんについて行ったのだった。




