ボス戦前の遭遇
『そういえばさっき通知音鳴ってなかった?』
『戦闘中に鳴ってたな』
さらに森を進んでいく中で、そんなコメントが流れてきた。
メニューからメッセージを確認してみると、確かに一件誰かからメッセージが届いている。
戦闘中だったから気づかなかったのかな……。
「えっと……リーナからのメッセージですね」
内容は……『さっき黒葉の森に入ったよー!』って感じだった。
行き先、リーナに教えたっけ……? って思ったけど、配信見たのかな。
それよりも、このメッセージが届いたのはかなり前なので早く返信しないと……えっと、なんて書こうかな……とりあえず遅れたことを謝っ――
「やっほー!!」
「っっっっっ!?」
背後からいきなり声が響いて、心臓が跳ね上がる。
「え、そんな声も出ないくらい驚く?」
どうにか後ろを振り返ると、そこにいたのはリーナだった。
「さすがに驚くよ……後ろからいきなりとか……心臓止まるかと思った…………」
「ごめんごめん。あ、君が新しい子だね~。猛禽? 肉食べる?」
「ピィー」
リーナはインベントリから取り出した肉でカイルに餌付けを始めた。
その様子を間近で見ながら、ここまでどうやって来たのかを聞いてみる。
「というか……もう着いたんだね」
「エネちゃんが迷ってる間に最短ルートで来たからね~。配信見てたから謎解きも一瞬だったし!」
「なるほど……」
結構ルートが複雑だったから最短ルートは流石に通ってないと思ってたけど、客観的に見ると迷っていたみたい……。
方向音痴ではないはず……いや、なんか自信なくなってきた……。
さて、リーナも加わって二人と三匹になったパーティで道を進んでいくと、妙なオブジェクトを見つけた。
道のど真ん中に設置されたそれは上部から水が流れていて、円形の風呂桶のようになった下部にその水が満ちている。
水の勢いが強くないけど、噴水みたいなもの……かな?
これまでみた遺跡のものとはちょっと違うように見えるし、淡く光ってるようにも見えるし、普通の障害物みたいなものではなさそう。
昔やったゲームでこういうオブジェクトに擬態したモンスターがいたことがあるのでかなり警戒しながら見ていると、そんな私とは対照的にリーナは一切警戒せずに噴水に近づいていく。
「何だろうこれ。セーブポイントとかかな?」
「だ、大丈夫なやつ……?」
「うーん、まあ大丈夫でしょ!」
そう言ってリーナは一切躊躇わずに水にざぶんと手を突っ込んだ。豪快過ぎる……!
思わず目をそらしてしまったけど、改めてリーナの方を見てみると緑色のエフェクトが煌めいていた。
「ん、これHPとMPが全快するみたい! 安全だよ~」
「そ、そうなんだ。良かった……」
なんか人柱にしたみたいになってしまってちょっとした罪悪感を感じながらも、私も水に手を浸してみる。確かに、これは回復用のものみたい。
これは使い魔にもちゃんと効果があるみたいなので、みんなにも使ってもらうことにした。
三匹ともちょっと体力が削れていたりするので丁度いい。アルルとカイルはMPの自動回復が少し追い付いていなかったし。
ただ、こういう便利なものがあるということは……
「……じゃあ、この先にボスがいたり……?」
「確かに、そういうことかもね~」
強敵と戦う前の休息地点はRPGだとお馴染みだと思う。
MMORPGではあるけど、その辺は共通してそうだし……ここまでの長さ的にもそろそろボスと対面してもおかしくない。
気を引き締めて更に奥へ進むと、予想通りボス部屋みたいな空間が出てきた。
「えっと……みんな、準備は良い……?」
私の言葉に、三匹は心なしかキリっとした表情で応える。大丈夫そう。
というわけで、私はリーナと一緒にその空間に足を踏み入れる。
――その瞬間、どこからともなく、黒い葉が風に吹かれて流れて来た。
葉はバトルフィールドを取り囲むように勢いよく舞って、ここに繋がる道を閉ざしてしまう。
その葉の壁の奥に、一つの影が揺らいだ。
「……!」
葉の壁をものともせずに悠然と現れたのは、巨大な狼だった。
全身を黒い毛で覆われたそれは姿を現してなお影のようで、その中で唯一、眼と牙だけが白く輝きを放っている。
[ボスモンスター ナヴァルーニエ・ヴォルク]
「オオオオオォォーーン!!」
黒狼は遠くまで響き渡るような声で吠えて、それから戦闘が始まったのだった。




