百合の騎士
本当は12時に更新したかったやつです。
おのれ低気圧
「貴女がエネですね?」
背後から聞こえた凛とした声に私は慌てて振り返る。
そこにいたのは、白い鎧に身を包んだ女騎士だった。
「な、なんで私の名前を……!?」
「名前は頭上に表示されるので誰でもわかりますが……まあ、私は貴女のことを少し探していたので」
「えっ」
な、なんか私やらかした……?
「怯える必要はありませんよ……いや、確かに急に話しかけたのは怪しかったと思いますけど。私は貴女の手助けに来たんです」
「え……?」
「特殊職は相応に視線を集めますし、その上で配信するのは難しいでしょうからある程度心得を……と。迷惑でしたら立ち去りますが」
「い、いえ! 迷惑なんてとんでもないです……!」
思ってもみない幸運だった。
流石にリーナのいないこの状況を一人でどうにか出来る気がしなかったし……。
配信がやばいことになっているせいか初対面の相手なのに緊張しないで喋れているのもある。
理由はよくわからないけど、ここは頼るしかないよね。
「……と、自己紹介がまだでしたね。私は『城塞騎士』のリリィ。貴女と同様、特殊職に就いた人間です」
「城塞騎士……」
その職業名には覚えがある。私が適職試験で提示されたもう一つの特殊職がそんな名前だった。
「ところで、今日はもう一人の方はいないのですか?」
「あ、はい……リアルの都合で……」
「そうですか……尊さを補給できるかと思ったのですが、まあ良いでしょう」
「尊さ……?」
「いえ、こちらの話です」
よく分からない言葉が聞こえた気がする……と首を傾げる私をスルーして、リリィさんは配信画面を覗き込む。
「ふむ……とりあえずコメントを低速設定にしておくと良いと思います。その時の視聴者数に応じて調整しておくと良いのですが、今回はかなり速いので……そうですね、1分間隔くらいにしておきましょうか」
言われた通りに設定してみると、確かにコメントの数が少なくなった。指定した秒数が経つまで書き込めなくするような設定みたい。こういうのがあったんだ……。
「それと、コメントは無理に全て追う必要はありません。目に付いたものにだけ反応すればいいですし、何なら一切反応しなくても問題ありません」
「え、それで大丈夫なんですか……?」
「大丈夫です。視聴者は貴女たち二人が楽しそうに遊んでいるだけでも勝手に満足する種族ですから、気にする必要はありません」
「ええ……」
そういうものなのかなぁ……と思ったけど、コメントも『実際そう』『分かる』『稀に音を発する観葉植物みたいなものだから』という風にみんな書いているので本当にそういう感じらしい。稀に音を発する観葉植物は普通に嫌だけど……。
「配信に関してはそのような感じで。ついでですから、特殊職に関しても教えておきましょう。このゲームの人口は50万人前後ですが、その中で特殊職に就いた人間は何人いると思いますか?」
うーん……1万人とかなのかな。50人に1人って感じで……いや、これだけ人が見に来てるわけだしやっぱりもっと希少ってことだろうから……
「……1000人くらい、ですか?」
「残念。その十分の一です」
「えっ」
「もちろん具体的な数はわかりません。隠している人もいるでしょうから。ただ、多めに見積もっても100人行くか行かないかしかいないんですよ」
「そ、そんなに少ないんですか……!?」
「ええ。ですから情報もあまり出回りませんし、特殊職でないプレイヤーは特殊職になるために情報を求めます。常に飢えている状態なんですね。そんな中で、希少な特殊職が二人仲良く配信をしている状況……貴女の配信がこれだけの人を集める理由、分かりましたか?」
確かにそういう状態ならこうなるのも当たり前なのかも……。
普通の人ならこの状況を喜ぶんだろうけど、私にとっては完全に想定外というか……そもそもリーナも視聴者が少しずつ増えていくのを想定してる感じだったし、運が良いのか悪いのかって感じ。
「ちなみに、配信をやめるって選択肢もありますけど。見た感じ自分から配信者になるようなタイプではありませんし」
「それは……まあそうなんですけど。でも、これは自分で決めたことなので」
「そうですか。それなら良いんです。ですが、あまり無理しないでくださいね。別に全てを配信する必要はないんですから、頻度は少なくても問題ありません」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。視聴者は配信者が配信していない時間も色々と妄想で補うことができる種族ですからね!」
そうなのかなぁ……と思ってコメントを見てみると『いや、それは……』『リリィさんだけでは』『上級者だなあ』という感じだった。
これは違うんだ……。




