想定外の土曜日
今日は三話くらい投稿したい気分です
土曜日の昼、私は着信音で目を覚ました。
「……だれ……?」
眠い目をこすりながら端末を確認すると、相手は莉奈だった。
「もしもし?」
『あ、おはよう恵那ちゃん! 今日の配信のことなんだけど、ごめん! 外せない用事があったのをすっかり忘れてて……なるべく早く終わらせるつもりだけど、少し遅くなると思うからとりあえず一人で配信しておいて!』
「えっ……」
用事があるのは仕方ないし良いんだけど、一人で配信……昨日の今日で……?
流石にちょっと緊張するというか、準備が出来てないというか……。
「ちょ、ちょっと流石に厳しい……!」
『昨日も結構喋れてたし、人数もそんなに変わらないから行けると思うよ! 土曜日だからちょっと増えるかもしれないけど……でもせいぜい倍になって40人とか? まあでも、きつそうだったら無理しなくていいからね。私が来てからって感じでもいいし、その辺はお任せするよ~』
まあ、思ったよりも悪くなかったなー……なんて気持ちもあるし、実際、そのくらいの人数なら意外といけそうな気もする。
目の前にいない分、そこまで圧は感じないし。
不安はあるけど、これも自分を変えるためだし、頑張ってみようかな。
「わ、分かった……とりあえず少しやってみる……」
『その意気だよ! じゃあログインできそうになったらメッセージ送るから! じゃあね!』
そう言い残して莉奈はすぐに通話を切ってしまった。
なんか勢いでやるっていっちゃったけど、冷静になるとやっぱ不安が……。
「うん……とりあえず昼ごはん食べようかな……」
そう呟いて、私はリビングへと向かったのだった。
――――――――
[ログインしました]
そんな表示が出て、周囲の景色が切り替わる。
とりあえず今の状態を確認しておこう。
今私がいるのは第一の街『アラシア』の噴水前。アルルとアリスは休眠状態になっているようで、実体化はしていない。
モンスターって街の中で実体化させてもいいのかな……? 敵と間違われて攻撃されたりとかしないかな……ちょっと不安なので、少し人のいないところまで行ってから実体化させてみることにする。
「この辺で良いかな……」
人のいない場所を探して数分。ほとんど人の通らない道で二匹を召喚してみると、昨日と同じように胸部の紋章から光の球が出てきて、すぐに元の形に変化する。
アルルとアリス。二匹とも元気そう。
……さて。ここはもうこの勢いのまま配信までやってしまおう。
ささっと設定して配信を開始すると、一分くらいでちらほらと視聴者数が増えてきた。
「ど、どうもー……聞こえてますか?」
『こんにちはー』
『聞こえてます!』
『新鮮な配信だ』
「あ、早速コメントありがとうございます……!」
『今日は軍服の子いないの?』
「今日はリーナは遅れてくるみたい……です。なので今日は自分一人で……もちろんアルルとアリスもいますけど、不安ですね……」
『なるほど』
『がんばれー』
『使い魔とじゃれるだけの放送でもいいんやで』
昨日の時点で分かってたことだけど、コメントは意外と優しい。ネットの書き込みって9割暴言だと思ってたけど、少なくとも配信のコメント欄はそうではないみたい。
そんなコメント達に感謝しつつ……ふと気づいてしまった。
「な、なんか人多くないですか?」
『確かに』
『昨日ちょっと掲示板とかで話題になってたからそれの影響かも』
「そうなんですか……た、叩かれたりしてないです、よね……?」
『それは大丈夫』
『むしろ特殊職スゲーって感じの反応だったな』
『実際凄い』
「なるほど……」
掲示板に名前をあげられるときって炎上するとき以外にもあるんだなあ……もちろん私はこれまでに炎上したことなんてないけど。
それはともかく、明らかに昨日よりも人の増え方がすごい。土曜日ってことに加えて、さっき言ってた掲示板の効果もあるとしたら、もしかしたら100人とか行っちゃうのかも……?
100人もいたら流石に焦っちゃってうまくいかないかもなぁ……そこまで増えることはないんだろうけど。
「えっと、じゃあ今日やることなんですけど……リーナがいないのでとりあえずアラシア付近でレベル上げとかをしようかなと、思ってます」
『レベル上げ!』
『いいね』
『どこでするんかな』
「えっと、ちょっと一旦調べものしますね……その間アリスを眺めててください……」
カメラをアリスの前に配置しておいて、ブラウザを開く。
えーっと、とりあえずwikiでアラシア付近のレベル上げ出来そうなエリアを調べてみよう。
wikiは結構充実していて、このゲームは結構人気なんだなぁと再確認しつつ、いくつか候補を見つけた。
現状レベル的に行けそうなのはルーディオン大草原、ヴィシス河川域、黒葉の森の三つ。
ただ、ヴィシス河川域はソロだと難しいらしいので除外。ルーディオン大草原は次の街に行くために通る必要のある場所でレベル上げにもいいらしいけど、常に人が多いらしい。
人が多いのはちょっと……というわけで、黒葉の森しか選択肢がない感じ。
とりあえず調べたかったのはこれだけだけど、ついでにちょっと職業に関することとかを調べて……それからカメラを設定し直して配信に復帰する。
「あ、いま戻りました。とりあえず今日は黒葉の森でレベル、上げ……を……………………え?」
ウィンドウに表示された情報に、私は思わず硬直してしまった。
1000人を超えてなお増え続ける視聴者数と、流れる大量のコメント。
「ちょ、ちょっと一回、映像と音切ります…………」
予想外の出来事に倒れそうになりながらも、私は持ちうる精神力を総動員してそう言ったのだった。
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