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別題 八月の雪 はなし2  宣~戦~布…告…

実はこれを書いていることをわすれてました。わすれていてよかったのは、いかに自分が思い込みて文章を書いているか、ということでした。自分で書いた文章を忘れ、他人の目て自分の文章を見たとき、それはあきらかでした。チェックしましたが、なんとかの王子様の「まだまだだね」という声が聞こえてきそうです。

 「大先生」八島由起子は帰っていった。 

 この女と論争もとい、ケンカをしてやろうという、無謀な決断の感情が過ぎ去り、ふと気が付くと、自分の左肩に圧力を感じ、そして次に後ろに人の気配を感じた。編集長だ。俺の肩に手を置いている。

 我にかえり、自分自身に自省のこころが回復した瞬間、ゾーッとした。不覚を感じた。

 俺は彼女と対峙している間「年の功の余裕」をそれなりに持っていたつもりだった。

 とんでもなかった。八島由起子先生はやはり文豪だった。

 ある芸ごとやスポーツでそこそこの技術をお持ちのかたは、遥かに格上の能力をもった相手にあった時のことを考えてみてくれ。

 そう、俺は彼女の持つオーラに圧倒され、金縛りにあっていたんだ。

 だから、編集長がこっちにゆっくり歩いて来たことも、じっと後ろに立っていたことも、肩に手を置いたこともわからなかった。

 俺は脇の下にぐっしょり冷や汗をかいていた。

 「すまんな」

 編集長が言った。

 この一言について、以下延々と説明しとく。

 まあ、不自然だわな。編集長とはいえ、彼女とは「何の接点もない」ポップカルチャー、アキバ系の編集の人間が「すまんな」なんだからな。

 我らが「偉大な」編集長は元々文芸の人だった。まだ子供だった新人作家八島由起子についた初めての編集者だったんだ。

 文章に関することだけでなく、いわゆる「作家生活」についても、色々な助言を田端先生と共に行ったと聞いている。

 なぜそれができるのか、というと、編集長も自ら小説を書く作家だからである。日本での受賞歴はないが、英訳された短編集が欧米で話題になり、ブリテン外国人作家賞というなんだか良く分からない賞を受賞されている。

 非常に辛口の人で知られ、指摘批判も容赦ない。いや、なかった。クリエイターだったら分かると思うが、必死でこさえた作品が物凄いダメ出しを受けたりすると、作品を良くするためだと分かっていても、やはり気分は害されてしまう。そういう彼の「悪評」が日本での彼の作家としとの評価に影を落としていたかも知れんな。「仏の田端」先生と好対照だ。だか、八島由起子はむしろこの「鬼」の編集長の方に懐いていたんだという。彼女はあの地獄の編集指導に耐えて、なお、彼に懐いたんだ。

 だか、ある事件があった。それ以来、編集長は文壇のスターになりはじめていた八島由起子の担当から「永久に」外され、のみならず、文芸部門から本人が何の知識もないアキバ系の部門に異動させられた。人は「左遷」「懲罰人事」と噂した。

 編集長はまず「勉強」しなければならなかった。手始めにある人気ライトノベルを手にとったそうだ。500万部ほど出ている。学園もので、多少エロい。それまでの自分の価値観からは程遠い「アニメかわいい」女の子が表紙を飾っている。2時間で読了。読み終えた「ライト」ノベルを机に置き、その隣に5000部程出た、文芸部門時代、自分が最後に担当した作品をその隣に置いた。文壇では、まあ、好意的な評価を得た佳作だ。

 そして一晩中泣き続けた。彼は見たのだ。「文芸」という鎧をまとうことなく書き続ける「文化人」の誉れなきライターたちを。

 泣いた云々の話は、俺しか知らない。

 編集長は編集者に格下げになり、なんと有給休暇(!)をとった。そして日本のアニメやコミックを中心にポップカルチャーを始めとする自身がこれまで未知だった部分に「打って出た」のである。特にリアルロボットというジャンルを開拓したあの金字塔的作品は、その最初の一作目を「毎日」何らかの形で見ている。という。

 そして「鬼の指導」は事実上封印された。希望者のみ、である。批評もマイルドになった。

 俺のデビュー作品は彼が担当した。俺は彼が担当する初めての「その筋の」作家(?)だった。

 まず編集長は俺にこう聞いた。「普通の指導がいいか?鬼の指導がいいか?」

 俺は即座に「鬼がいいです」といった。格好をつけてた。キザで、甘かった。そして翌日にはすぐに後悔した。

 何度も何度ももう作家を目指すのは止めようと思った。精神もボロボロになって実際書くのをやめた。電話にも出ず、部屋に引きこもっていた。血の小便が出ていた

 すぐに「鬼」の編集長が俺の部屋に飛んできた。書かされた。泣きながら書いた。トイレは大しか許されず、机の横にしびんを置かされた。俺の性格からは信じられない弱音もはいた。

 「俺ってなんで小説書いているんですかね」

 編集長はすでに誰の目にもボロボロになっているのが明らかな俺の胸ぐらをつかみ、体を揺すり、怒鳴った。

 「今のお前にそんな哲学など語る資格はない!書けよオイ!」

 で、書いた。書かされた。泣きながら書いた。また血の小便がでた。

 だか、俺は変わった。そんな状態で脳は冴え渡り、実は非常に澄んだ目(編集長がそういった)でしかし悪鬼のように書いた。

 時には後ろでずっと「監視」している編集者のダメ出しにキレて、その編集者の胸ぐらを掴み、「俺ァこれがいいと思ってるんだよ!文句あんのかオラ!」と怒鳴っていた記憶があるが、まあ、妄想だろう。

 そんな風に完成した俺の処女作が製本され、その編集長自らがその本を俺の部屋に持ってきた。

 実は俺はその時眠りこけていた。目が覚めたら、仰向けに寝た俺は本を胸に抱いていた。俺の処女作だった。

 傍らで編集長が-まだそのときは編集者だったが-正座して静かに俺を見ていた。そして、起きた俺を見てニタと笑った。

そしてそれから次の日の夜明けまでずっと話し込んでいた。編集長は忙しい筈なのだか。ちなみに「その筋」の、話ばっかりではないので。ただ、あの「リアルロボットアニメ」の話しはした。編集長曰く見るたびに新しい「発見」があるという。

そのときに聞かされたのが、一晩中泣いた云々の話なのだ。先のはなしででてくる、どこかで聞いたようなセリフの数々は、要するに「アレ」の見すぎで移ってしまっているのである。文芸者がオタクになってしまった。

 そのときから俺と編集長は「戦友」となった。

 今のところ、俺が「鬼」の指導の最後の卒業者だそうだ。そして、俺、思うに、「鬼」以外の指導では、元来社会のゴミである俺は職業作家になれてないと確信している。

 そして、今は言わないが、編集長がかって起こした「事件」の性質について、みんな薄々予測してもらえると思う。

 長々と因縁話申し訳なかったが、今日までの所、八島由起子と俺の唯一の接点である編集長。そう、八島由起子と俺は姉弟弟子なのだ。だから、俺の肩に手を置いて、「すまんな」なのだ。

 「わかるか? 八島先生、お前に会うのにとても緊張していたぞ、まあ、なんだかんだ言ってまだ若いからな」

 やっと通常の回転に戻った頭脳で俺は、ああ、と合点した。彼女は編集長に挨拶しなかった。俺に会うことで頭がいっぱいになってしまったのだ。俺の小説の内容にそこまでカチンときているのか?

 そして、前回、八島由起子がこの編集室と接点がない、といったことの裏の意味も分かるわな。そう、この編集長に会うという目的では、彼女はここには来れないんだ。いわゆる「自粛」だ。俺に会うついでなら、ということだったのだろうが、頭に血が上り、それをフイにしてしまった。

 かって、共にころげまわった教え子を「八島先生」などとわざとそらぞらしく呼んでいる編集長の心中も察せられる。彼からは八島由起子に、もう、声をかけられないのだ。それでも教え子なのだ。だから「姉弟」の間に立ってえフォローした。

 これが「すまんな」ということに関する実にあつくるしい説明だ。悪かったな。

 俺の肩に手を置いて、一言 という、こんな「しょうもない」ことに編集長は十分内外という、莫大な時間を割いてくれた。だか敢えて時間を割いてくれたついでに、編集長を困らせてやろう。

 「編集長、八島先生と俺のケンカ…、のセッティングとか、出来ます?」

 編集長はじっと俺をみていたが、フ、と口を歪めて嗤った。

 「やろう」

 そんな時の編集長の飛び込み仕事の速度は鬼神の如くの早さだ。

 その日、日が落ちる頃には、ありとあらゆるアキバ系メディアに、以下のような恐るべき内容の「宣言」がばらまかれた。俺、剛田武司による八島由起子への宣戦布告状である。そのうち、作業的に間に合うものについては、いや、無理に間に合わせたんだろう。俺が、チンピラ作家の俺が、文豪八島由起子に延々と挑戦的な言葉を並べている様子が、様々な配信動画の「おまけ」として追加配信された。文章のものと、内容は同じである。

曰く

 「日本文壇の若き権威者である八島由起子先生におかせられましては、日々ご健勝のことと思います」

 おいおい今日「ご健勝」なのは互いにみてるんだがな。

 「昨今私の拙作に貴重なご高配を賜りましたこと誠に恐懼の極みであります」

 へへ。恐懼、てな、どんな人に使うか調べよう。

 「しかしながらご存知の如く、私は生まれつき希代の阿呆でありますので、当代随一の文章家の貴重なご指摘も何が何だかさっぱり訳が分からず、文壇の権威者の恐らくはまったく正鵠を射たご意見を無視する訳にもいかず、困じはてております」

 「つきましては」

 は は は

 「著述関係者の更なる研鑽と検証にも寄与することと思いますので、できましたら公開で教えを受けさせていただける場を設け、その場にてこの阿呆めにもよく分かるように御教示賜り、もって私のささやかな文学活動の後学とさせていただきたく、敢えて権道との誤解を招きかねない方法でやむなくご連絡差し上げました」

 誤解? やむなく? へえ ほお ふうん…

 「八島先生の前向きなご返答を期待するや切であります」

 これを、俺は、公共放送のニュース解説みたいな小さなスタジオを即席でこさえてもらい、ブリティッシュデザインのブラックスーツを着こなし、全くものすごくまじめな仏頂面で、おまけに抑揚のない声調子で言った。

 声調子は抑揚なく冷静に見えたかも知れない。しかし俺は口をパクパク動かすので精一杯だった。死ぬ気もないのに、自分の意志で自分の死刑執行命令書にサインするような気分だった。こんなことしたら、やってしまったが、、、どうなるか。

 そりゃそうだ。誰でも結構頭のなかでは勇気あるカッコいいこと空想するわな。でも、実際にやる、となると。な。

 ちなみにこの文面とセッティングを考えたのは編集長だ。俺が書いたように見せた、とのことだ。さすがだな。でも…編集長これをいうの…俺なんですが…

 動画撮影直前、この文面をみてさすがに息を呑んでひるむ俺に編集長は言った。

 「これで八島先生は必ず出てくる。やるからには覚悟をきめろ 」

 編集長は八島由起子の性格を知悉していた。実はな、編集長によるとな、彼女はこんな言い方をする男は大嫌いなのだそうだ。

 これはいいのだが、続けて編集長が少し気になることを言った

 「八島先生は若くして色々すでにわきまえた人だ、話せば分かる。だか、その取り巻きには気を付けろ」

 編集長の「忠告」に俺は変な「警句」を感じた。八島由起子はひょっとしたらあんな文章がふさわしいような「文豪」にさせられ初めているのではないか。「させようとしている」取り巻き…後援会かファンクラブだろうか。

 

 

 

 

 

 

この小説、じつは大まかな、いや、けっこう細かなとこまでストーリーは出来ています。脳内で荒々ながら完結しています。本当ですよ。「由起子」がどうなるか、その結果剛田がどうなるか、「取り巻き」とは何か。もう決まっています。ひとつバラします。「俺」こと剛田武司は論争はともかく、完膚なきまでに破れ去ります。彼を負かしたのは、「由起子」ではなく、取り巻きでもなく、社会でもない…続くあてのない以降のはなしが、彼が何に負けたのか、という説明です。お互生きていたらまた会いましょう。


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