幕間〜リーネの奮闘(1)
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今日は久しぶりに貴族院に登校する。システィーナ様は3限目の実技試験を受けられる為、2限の時間に登校なさる。私も共に実技試験を受ける予定だが、早目に登校して、情報収集しようと思っている。
「おはよう。早いな」
後ろからウルフに声を掛けられた。ウルフとは幼馴染だ。ウルフが従姉妹のテスに気があるのは知っている。だから、早く卒業して離宮で暮らしたいと云うのが見え見えだ。
「張り切ってるわね」
「システィーナ様やテスに先を越される訳にいかないからな」
ニカッと光る歯がウザい。
「リーネは3限目じゃなかったのか?」
「早目に来て情報収集しようかと思って」
「オレも上級生の情報しておくよ」
「宜しくお願いね」
「ああ、任せろ」
だから、歯がウザい。
ウルフと別れて、教室へ向かう。
「いいこと?貴女は子爵令嬢でしてよ!マカリスター殿下とは婚儀を結べないことを理解出来ないのかしら?」
1年生の塔の近くで、聞き覚えのある声が聞こえる。
「影変化の術」
影変化の術で、近付いて話を聞く。
「エスメラルダ様ぁ。王族と貴族が結ばれないのは、知っておりますぅ」
「では何故、ああも馴れ馴れしくマカリスター殿下に擦り寄って居るのかしら?まるで売女の様ですわっ」
「エスメラルダ様ぁ、売女はあんまりでございますぅ」
『エスメラルダ様と、キャローリンね。相変わらずイラッとくる話し方ね。取り巻きは居ないみたいね。二人だけの様ね』
「貴女はマカリスター殿下の取り巻きだけに媚びを売っていればよいのですわ!これ以上マカリスター殿下に纏わり付くならば、お父様に言い付けますわよ。貴女のお父様が困る事になりましてよ」
「エスメラルダ様を傷つける様な事は致しませんよぅ。お父様に言い付けるのは止めてください」
「いい事?貴女は言われた事をしていればよいのですっ」
エスメラルダ様は、ふんっと顔を背けて塔へ入って行った。
「はぁ、ウゼー女。王族だからって威張りやがって。ワタシらのアレが無けりゃ何も出来ないくせに。頭の中は男の事しか入ってない空っぽがっ」
『ぶりっ子の腹の中はやっぱり真っ黒だったのね。それにしてもアレって何かしら…?ガラファド公爵の庇護を受けていると思っていたけれど、何かありそうね』
悪態をつくと、キャローリンも塔に入って行った。私も術を解除して、教室へ向かうことにした。
教室に入ると、エスメラルダが取り巻きから持ち上げられていた。マカリスター様はまだ登校されていない。
私は何時もの上段ではなく、真ん中くらいの席に着いた。
「あら?今日はお一人ですの?」
クラスメイトのアザリーヌ嬢だ。クレイトン辺境伯の長女。クレイトン辺境伯は中立の穏健派だ。
「アザリーおはよう。今日はシスティーナ様とは2限まで別行動なのです」
「何時も一緒だから、珍しいですわね」
「護衛ですもの。一緒でなければ。システィーナ様が登校されたら、近くに侍るわ」
「カロリーネが羨ましいわ。貴族院1年生で既に主と共に有るのですもの」
アザリーは、はぁと溜め息を吐きながら、隣に座った。
「でも、アザリーは経営科でしょう?主は必要ないのでは?」
クレイトン家は男児が居らず、アザリーが婿を迎える事になっている。万が一婚儀前に当主が儚くなってしまえば、婚儀を結ぶまで当主代理は長女の任となる。その為にも、経営科の履修は必須だ。
「それはそうだけれど、本当は私は侍従に成りたいの。家督は妹でも継げますわ。…とは言え、経営科を履修しなくてはならないのだけれど」
そう言って、悲しげに微笑むアザリーに少し申し訳ない気がした。我が家には男の後継ぎがおり、父の意向もあって、私は好きな事をさせてもらっている。普通の貴族では中々そうはいかない。
「本当に成りたいのであれば、両方履修為さればよいのでは?」
私が提案すると、アザリーはうふふと笑った。
「カロリーネ、それは無理でしてよ。授業の時間が重なっておりますもの」
アザリーは、物を知らない子供に諭すように言った。
「それは、本人次第ですわ。私の同僚の義兄は特別科以外全て履修完了していると聞きました。アルベティウス殿下は特別科も含めて全科履修完了されています。システィーナ様も特別科以外に経営科も履修予定ですわ」
「そんな事が出来るのですね…」
アザリーは驚いているが、何か思うところがあったようだ。
「そうですわね。早期卒業出来るのですから、違う科を両方履修する事だって出来ますわね。カロリーネ、有難う」
アザリーは輝く様な笑顔だった。
「マカリスター殿下!おはようございます」
マカリスター殿下が登校した様だ。エスメラルダ様が早速黄色い声を上げている。
「…うむ」
「マカリスター殿下、如何かなさったのですか?」
「…何でもない」
おや?マカリスター殿下は元気が無い様だ。それに、何時もの侍従が居ない。
そう思ったのも束の間、エスメラルダ様やその他マカリスター殿下に擦り寄る者達の褒め殺しで、気分が良くなったのか、顔色は戻って来た。
「まぁ、我であれば可能であろう」
何を言われたのか、すっかり気分を良くしていた。
暫くして、ルルーシェ先生とセレスティナ先生が教室に入って来た。騒がしかった教室は静かになり、ホームルームが始まった。
「皆さんに注意があります。最近、上級生から声を掛けられ、何らかの魔術を行使される事件が起きています。見知らぬ上級生には一人で対応しないように気をつけてください」
何だか遠回しな言い方だわ。本当はどんな事があったのかしら。
何とも言えない、嫌な予感がした。




