夢を掴むには
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昼食後、また退屈な授業を2時限終えて、私室に戻ってきた。テスとレッドは、まだのようだ。
「恐れながら、私がお茶をお淹れ致します」
ランは強張った表情だ。一目で緊張しているのが分かる。
「ラン、カップを割ってしまいそうなくらい、力が入っているわ。貴女はまだ見習い。失敗して成長するのです。気にせず淹れて頂戴ね」
「恐れ入ります」
ランは緊張しながらも、何とかお茶を淹れてくれた。わたしが飲むのを固唾を呑んで見守っている。
…そんなに見られちゃ飲みにくいわ
一口飲むが、悪くはない。ただ、少し温度が高いのと、やや渋味が出ている。
「まだまだですが、飲めないことはないわ。しっかり練習してね。成長するのを楽しみにしているわ。いつでも淹れて構わないから」
「有り難う存じます」
ホッとした顔で頭を下げた。
「ランは水属性だから、お水を用意する手間が省けていいわね」
私がふとそんな事を言うと、ランが笑った。
「私が水属性以外だったら、侍女の夢を捨てなければなりませんでした」
と、笑顔で言う。
…おっと。この考えは改めねば。
「ラン、それは間違っていてよ」
「え?何故ですか?」
「例え風属性だとしても、侍女に成ることはできます。水属性でも騎士に成れるし、火属性でも文官に成る事は出来るのですよ。自分の属性や魔力量で夢を諦める必要などありません」
私は、まだ良くわかっていないランと、聞き耳を立てているリーネに向かって言う。
「水属性が無くたって、水瓶に水が有れば、無属性魔術で操れますし、魔力量が少なかったら魔石や魔術具を使えば良いのです。幸い、魔石を使った魔術具は沢山発明されていますしね」
二人を見て話を続ける。
「細身で、魔力も少ない。でも騎士に成りたい。そう思うなら、魔石で無属性である身体強化を使えばいい。ただし、文官になる為の知識は自分で学ぶ必要は有るけれど。この魔力が無いと何かが出来ないと云う考えは捨てて頂戴。固定観念は差別を産むわ」
私は真面目な顔をして二人を見る。二人は真顔で頷いた。
「肝に銘じます」「畏まりました」
二人が分かってくれた様でよかった。私が笑顔になると、ランが何か頷いている。
「ラン?どうかしまして?」
「いえ、やっと分かりました」
「何かしら?」
「私を差別していたのは私だと」
顔を上げたランは、憑き物が落ちた様にスッキリした顔をしていた。
「私、何故システィーナ様に重用して頂けているのか分かりませんでした。私は高位子爵の娘で、システィーナ様の様な高位王族に仕える身分ではないのに。と。きっと、同情だろうとか、父に借りがあるからだ。とか。…システィーナ様が高位の貴族でしたら、純粋に私を見込んで貰えたと、素直に喜んでいたでしょう」
…強ち間違いでもないが、ランの人となりを私が気に入ったから、侍女見習いにしたのだ。身分は関係ない。
「システィーナ様が、私の身分では無く、内面で判断してくださった事実を理解できていませんでした。でも、今理解しました。システィーナ様は高位王族で在りながら、身分で人を判断される方ではない。そう云う方が高位王族にいらっしゃるのだと。私はシスティーナ様に期待されていると」
ランが恥ずかしそうにはにかんだ。
「ええ、その通りですわ。私は見込みの無い見習いを側に置くほど懐が深くはございませんの。必ず私の為になる、と実利を持って側に置いて居ますわ。だから、子爵の娘だろうと、恥じる必要はありません。誇りなさい」
「はい!」
ランが清々しい笑顔でわらった。
「私のこの考えは、お母様の教育の賜物です。離れて暮らしておりましたが、距離は関係ありません。私の尊敬するお母様は、ずっとフリアで御遣い様として、平民を教えていらっしゃいました。お母様は、平民さえも差別せず、我々色付き同様の愛情を持って指導されていました」
「平民まで…」「セレスティナ様はそれ程まで…」
ランもリーネもセレスティナ母様の株が上がった様だ。
…セレスティナ母様に後で文句を言おうと思っていたのに、褒めちゃったよ。なんて言ってるが、セレスティナ母様には頭が上がらない。セレスティナ母様が居なければ、私は今頃生きてなかったかも知れない。セレスティナ母様の無差別主義には感謝しかない。
そんな事を言っていると、テスとレッドが授業を終えてやって来た。
「遅くなりまして、申し訳ございません」
「学年が違うのだから、仕方がないわ。その為にランとリーネが居るのだから、気にしないで」
テスは頭を下げて、お茶淹れてくれた。
「そうだわ、テス、ランにもお茶を」
「畏まりました」
ランにお茶を勧める。
「違いを感じてご覧なさい」
「はい」
ランはお茶を飲みながら難しい顔をしている。
「テスはお茶を淹れるのが上手だけれど、やはりメルやカインには、まだまだ叶わないわ。経験を積まなくてはね」
…授業が終わって、扉の前で警備ってのも疲れるだろう。よし。
「リーネ扉の前の警護は必要ないので、レッドを連れてきて頂戴」
「はっ!」
「ラン、テスから指導を受けて、レッドリーネにお茶を淹れてご覧なさい」
「畏まりました」
「テス、宜しくね」
「はい」
ランは真剣にお茶を淹れている。テスに後2つお茶を淹れてもらい、5人でティータイムにした。
カンカンカン急に音が鳴った。魔石が赤く点滅している。
暖炉の上の壁に誰かが映し出された。
「誰かが訪ねていらしたようです」
「塔の玄関にいますね」
見たことの無い男子学生だ。
「何方かわかるかしら?」
「どなたでしょう?」
テスが魔石に触り、「どちら様ですか?」と尋ねている。
「私はアドルフォス・アトワーフ・ガラファドと申します。システィーナ様にご挨拶を」
―げ。ガラファドって、例のヤバい公爵の息子じゃん。ヤダヤダ会いたくない。
テスもそれを察した様だ。
「申し訳ございません。ご主人様は只今諸用で席を外しております。お引き取りください」
「この、貴族侍女風情が!この私を部屋に通さぬ積りかっ!」
…うわぁ。絶対に仲良くなれない。
「テス、もう無視でいいわ」
魔石に触ってわーわー言ってるのが見えるが、此方が魔石に触らないと音声は聞こえない。
「今後、この人が来ても通さないように。躾のなっていない獣を通すと、この部屋が汚れます」
私は、ニッコリ笑って4人を見た。
4人は頷いて、お茶会の続きを始めた。ヤツが中々帰らないので、お茶のお代わりをしなくてはいけなくなった。




