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転生先は大空でした  作者: 高木 藍
第一章 日本ではない世界と自分ではない自分
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セレスティナ先生の社会科講義

 「まず、これをご覧なさい」

 セレスティナ先生が、さっと手を振ると、教壇と私達の間に、立体映像が表れた。

 「これは、この国アトワーフを縮小して可視化したものよ」

 …ふむふむ。


 「…しゅくしょう?かしか…?」

 ランツくんが、意味不明って感じだね。

 「縮小が小さくして、可視化が見えるようにって意味だよ」

 分かりやすく教えてあげた。

 「そうか。なるほど」

  …お。ちょっと素直じゃないかい。ランツくん。

 

 私が満足げにランツを見て、ふと先生を見ると、目を細めて、何やら不吉に微笑んでいる。


 …しまった。5歳が解説したらダメじゃない!何か勘ぐられてるかも。今の言葉もわざとっぽい。気を付けなければ…


 「ティナ、解説ありがとう。では、続けるわよ」


 立体映像で映し出されたアトワーフは、指輪の様な形で浮かんでいた。一番上の大きなお城を飾りとして、ドーナツを重ねた街がぐるりと連なって、リングになっている。


 「この、指輪の様な形をしているのがアトワーフ。飾りの部分に当たるのは、王都。現王アルサザール・アトワーフがおわす場所よ」


 「質問いいですか?」私は、ぴしっと手を上げた。

 「何かしら?」

 「他の街は層になっているのに、王都はなぜ層じゃないのですか?」

 先生はニコッと笑った。

 「面白いところに気が付いたわね。王都は王がおわす場所。即ち、王は一番高いところに居なくてはいけない。この世界では、位が高い人ほど高い場所に住む。建て前では、王が一番でないといけないけれど、先王や先王妃も立てないといけない。そう言うややこしいのを避けるために、王都に層はないの。わかるかしら?」

 ちょっと困った顔をして笑った。

 ランツは首を傾げている。

 

 「ランツくんは、お父さんとお母さんどっちが好き?」私が唐突に聞いた。

 「何だよ。急に。そんなの比べられる分けないだろっ」

 「もし、二人を呼ぶときは、お父さんとお母さん必ず好きな方から順番に呼びなさい。って言われたら困るでしょ?」

 「…うん」

 「王様に遣える人たちも、先王様と現王様、どっちが偉いなんて言えないのよ。高さをつけてしまうと、先王様を下にしたって思われるし。それは困るでしょう?だから、王都には層がないんだって」

 この世界では、高い場所には偉い人っていう概念が幼い時から刷り込まれるので、この解説で解るはず。


 「そっか!ティナお前賢いな。意味解ったよ」

 ランツが初めて私に笑顔を見せた。

 …やだ。萌えちゃう。うふふ。…はっ!やってしまった


 恐る恐る先生を見ると、不敵な笑みを浮かべている。


 …気を付けようって思った端からやってしまった。

 

 「王都の左右に隣接する街は、向かって左側が首都カストン。右側が商都リシパル。首都カストンは六層からなり、三層と四層の間に真正教シュラーリアの大礼拝堂があるわ。大礼拝堂は知っているわね?」

 私達は、うんうんと頷いた。

 

 「ランツくんは、首都の礼拝堂のこと覚えているの?」

 1歳の時の事なんて覚えているのかと、何気なく聞いた。

 ランツはさっと青ざめ、下を向いてしまった。

 …聞いちゃいけなかった?

 「な、なんかごめん。言いたくなかったらいいよ」

 焦って言った。


 「…一昨年、妹が生まれたんだ。去年、首都の礼拝堂へ行く直前、1歳になる前の日に星になったんだ…」

 俯いたまま、言った。


 私は、かける言葉もなく俯いた。


 「ここ数十年、貴族、平民で、1歳まで生きられない赤子が増えているの。1歳を越えれば心配はほとんどないのだけれど。ランツ。つらかったわね。5歳まで生きた貴方は奇跡なのよ。妹の分もしっかり学び、生きなさい」

 先生は、そう言ってランツに微笑みかけた。

 「首都は学都や研究都市とも言われているの。三層には貴族院や王立研究所、四層には王立学園があるわ。そこで、赤子が死なぬようになるための研究が行われているのよ。沢山勉強して、ランツも研究を手伝ってちょうだい」

 先生が見つめると、ランツは

 「はい!」と顔を上げた。


 …ランツの元気が戻って良かった。いらん事を言ってしまった。そういうことなら、町の子供が少ないのも納得した。しかし、何で1歳なのかな?研究所も気になる。行ってみたいなぁ…


 「さぁ、続けるわよ。首都の一層は貴族の役所や裁判所、議事堂が在って、二層は貴族街。特に位の高い貴族は、王都や一層に住んでいるの。このフリアや商都に隣接するルスツ、首都や商都から3つ目くらいまでの町の領主は、辺境伯といって位の高い貴族が治めているわ」


 「4つ目以降の、町の領主は辺境伯ではないのですか?」疑問に思い聞いてみた。


 「4つ目以降の辺境伯は、王都から遠いので、首都の子爵程度の力しかないわね。辺境伯には違いないのだけれど、辺境伯を呼ぶときは、本人の名前を使わずに、辺境伯の後にその町の名前を付けるのが礼儀なの。例えば、ここフリアの領主を呼ぶときは、「辺境伯フリア」とね。…なので、辺境伯の位はすぐわかるのよ」


 …なるほど。この世界では、高い場所ほど位が高いから、王都と離れる事は、身分が低くなるわけだ。じゃぁ、王都と一番遠い町はどうなるんだろう?


 「次に、商都リシパルについてね」


 私が考えていると、話が先に進んでいた。


 「商都は商業都市であり、工業都市でもあるの」

 と、先生が言うと、遮るようにランツが手を上げた。


 「知ってます!一層には、貴族様のお店があって、二層には、貴族様の品物を作る工場があります!」

 得意気にランツが言った。


 …まぁ、常識なので、私も知っている。平民は王族や貴族に遣えるか、商都の一層二層で働く事こそ憧れなのだ。所謂平民の花形職業だね。


 「そうよ。ランツ。よく知っていますね。商都リシパルは五層からなり、首都の一層から三層と同じように、一層、二層は、王からの許可の無い平民は立ち入ることはできないの。商都の二層と三層の間には、商業ギルドがあるわ。富豪と呼ばれる平民は、ほとんどが首都の三層四層か、この商都の三層に住んでいるわ。商都の四層は、平民向けの工業地なのよ」


 「先生!」また、手を上げた。


 「はい、ティナ」


 「首都と商都は領主様がいないと言うことは、直轄地

という事でしょうか?」

 私は疑問をぶつけた。


 「ちょっか…?」ランツがまた首を傾げている。


 …やっべ。またやっちまった

 私が、焦っていると、先生はニヤリと笑って言った。


 「そうね。カストンとリシパルは現王様が直接治めている土地になるわね。」


 「首都と商都は、それぞれ名前がありますが、王都には無いのですか?」


 はぐらかすことにした。


 「王都は国名と同じ、アトワーフという名前なの。だから、都市名ではなく、王都と呼ぶのが一般的ね。正式な文書などには、当然アトワーフ国アトワーフと記されるけれど」


 …なるほどね。この講義で大分国のことが分かったけど。以前からの疑問をぶつけてみるか。


 「先生。どうして床は不浄なものなのでしょう?」


 この世界では、床は不浄であり、足を付けることも忌み嫌われている。落としたパンを拾って、食べようとしたら、物凄い剣幕で皆から怒られた。散々床は不浄だって言われたけど、綺麗に掃除してあるし、なんで?と思っていた。はたけば食べられるじゃん、勿体ないと。理由を聞いても不浄だからとしか言われなかったんだよね。


 「その理由を話すには、建国の神話を語らなくてはいけないわね」


 セレスティナ先生は、さも、面白いという風に、私とランツを見た。


 私とランツは、ゴクリと唾を飲み込んで、頷いた。



次回は建国神話です。

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