幕間〜フリアの家族の衝撃〜
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ティナが眠っていた時、家には考えられない程多くの王族や貴族がお見舞いに来た。セレスティナ様とカイン様は3日に一度はやって来た。いつも家にいる私は、ティナの心配と、貴族達への対応で胃に穴が開く思いだった。
お貴族様達は、私達に配慮して皆平民に変装してやって来る。フリア領主のキースボイド様だけはそのままやって来たけれど。お貴族様は必ず先触れをしてからやって来た。
「明日、セレスティナ様方が昼頃いらっしゃる」
夫のダスリーがそう言った。セレスティナ様、カイン様、フェリオルフ様の先触れは大体夫だ。
「セレスティナ様がいらっしゃると、カイン様がお茶を淹れてくださるので、恐縮してしまうわ」
とても美味しいお茶を淹れてくれるので、普段飲むお茶が味気なく感じてきてしまう。
「…お貴族様達がしょっちゅうやって来て、シラーナやカルムに負担が掛かっているのをわかっておられるのだ。お茶は少しでも安らげればと云う、カイン様のお心遣いだろう」
夫はふぅと溜息を吐いた。
「カイン様は、エリスが拐われた時も、私達が不安で潰されない様に、ご配慮くださったわ。高位のお貴族様なのに、偉ぶる事も無くて、素晴らしいお方だわ」
「ああ、そうだな。カイン様もだがティナに関わってくださったお貴族様は皆様良い方ばかりだ」
「本当ね。ティナが目覚めて貴族街に行ってしまっても、セレスティナ様なら安心してお任せできるわ」
「領主様も本当にティナを心配してくださって、感謝しても仕切れないな」
夫とは、ティナの為に尽力してくださっている王族貴族の方々に、普段から感謝しなくてはと話していた。私達には魔術の事は分からない。だから、ティナの体の中で何が起こっているのか、想像すら出来ないのだ。それを察してお気遣いくださる皆様が本当に有り難い。
…とは言え、やはり顔を合わせると胃が痛む。
ティナが眠って数ヶ月した時、何だか外がざわめいていた。水汲みがてら外に出てみると、この世の者とは思えない美しい人が、キョロキョロとしながら家の周りを飛んでいた。翼は白かったが、王族だと一目で分かった。こんな平民街にやって来る王族など、ティナに会いに来たに違いない。私はこれ以上目立たない為に、慌てて声を掛けた。
「あの…もしや、ティナのお見舞いに来られた方でしょうか?」
私が恐る恐る顔を見た。
美しい人は、私を見ると更に輝いた笑顔になった。
「ええ!もしや、ティナのお母上かな?」
「はい。シラーナと申します。粗末な家ですが、中にどうぞ」
私は急いで中に招いた。
「お母さん、外は何を騒いで…」
扉が開き、美しい人を見たエリスはまるで石にでもなった様に固まってしまった。
「やぁ、始めまして。私はアルベティウス。君はティナの姉上だね?宜しくね」
ニコニコとエリスに声を掛けた。
「エリス!ご挨拶」
私がエリスに、囁くとエリスは我に返った。
「あっ、ああ、ティナの姉のエリスと申します。あ、アルベティウス様。宜しくおね…アルベティウス様っ??」
エリスは、挨拶の途中で何か思い至ったようで、驚愕の顔になった。
「ティナに会わせてね」
と、アルベティウス様はティナに近付く。
「エリス。どうしたの?」
「お、お母さん。アルベティウス様は第一王子様よ…」
「はい?」
私はエリスが何を言っているのか、一瞬わからなかった。
「職場で王族の話になった時に、継承権を放棄して蟄居した王子の話を聞いたの。その時に、第一王子様の名前を知ったのよ」
どうして、ウチの娘はそんな恐れ多い人と知り合いになるのかしら。
「お、お茶をお淹れしなくては」
「でも、ウチのお茶なんか、王子様のお口に合わないんじゃ?」
「出さない訳には行かないでしょう?」
私がエリスと言い合っていると、扉が開いた。
「ただいま。フェリオルフ様とお会いしたので、お連れしたよ」
「お邪魔する。あ、主?!」
夫とカルムと一緒にフェリオルフ様がやって来た。ちょっとホッとしてしまった。
「…あるじ?」
夫が笑顔のまま固まった。
「第一王子のアルベティウス様だ。ここには来ないように言われていたはず」
「おうじ…?」
ああ、夫の顔が白くなっていく。
「主。供もず連れず、お一人で平民街へやって来るなど、何を考えてらっしゃるのですか」
「平民街には始めて来たけど、中々興味深いね。何とか来ることが出来たよ。帰りはフェリオが居るから心配ないね」
「…主」
フェリオルフ様が頭を抱えていらっしゃる。
とりあえず、我が家で一番上等のお茶を淹れる。
「アルベティウス様、フェリオルフ様、お茶をどうぞ」
「うん。有り難う」
昨日作った、ティナに教えてもらったお菓子、フィナンシェを出す。
「うん。美味しいお茶だよ。このお菓子も美味しいね。初めて食べたよ」
「ティナが教えてくれたお菓子なのです。離宮で覚えたと言っておりました」
私がそう言うと、アルベティウス様の顔が急に引き締まった。
「離宮でね…」
何か不味いことを言ったかしら?
「…本当に美味い菓子ですな。貴族街でも見たことがありません」
フェリオルフ様も感心なさっている。
アルベティウス様の表情が変わったのは一瞬で、また笑顔に戻った。青白い顔のエリスにティナの話を聞いたり、貴族街でのティナの話をしてくれた。
「ティナの様子だと、目覚めるまでにまだもう少し掛かりそうだよ」
「そうですか…」
まだ、目覚めないと聞いて、がっかりしてしまった。
「ティナの魔力はセレスティナ様でも感じ取れないし、様子ははっきり分からないだろうし、私も時々来るよ」
「…必ず先に私に知らせてください」
「分かったよ。フェリオは心配症だなぁ」
このお二人は、良い関係の様だ。セレスティナ様とカイン様とは違った関係に見える。
お二人は、軽い挨拶をして、私達の見送りを辞退し、帰っていった。
夫は、終始白を通り越して土気色の顔をしていた。アルベティウス様は、私とエリスには話しかけてくださったが、余り夫とカルムには声を掛けなかった気がする。
◇◇◇ ◇◇◇
夫がフェリオルフ様から預かったと云う、ティナからの手紙を見ながら、あの時の事を思い出していた。平民に変装したアルベティウス様しか知らないが、ティナの手紙によると、濃い紫のとても美しい翼をしているそうだ。
ティナはアルベティウス様と婚約した。手紙を見て驚いたが、やっぱりね。とも思った。お見舞いに来た時、アルベティウス様はティナをとても愛おしそうに見ていた。あの方ならティナを大事にしてくれるだろう。手紙でも、ティナを大切にしてくれているのが窺える。
「ああ、ティナに先を来されてしまった…」
ティナの婚約にカルムがショックを受けている。
「結婚までにはまだあるから、カルムも何とか頑張りなさい」
「…」
カルムが、じとっとした目で私を見る。
「カルムがより好みしないなら、紹介出来る子は居るのよ?」
「俺は自分の相手は自分で見つけたい」
「ならそんな顔しないの」
私がそう言うと、カルムは溜息を吐いた。
「しかし…」
夫はまた青い顔だ。
「どうしたの?」
「アルベティウス様は現王の子だ。ティナと結婚したら、王様と親戚って事か」
「「!!」」
夫に言われて、私とカルムはその事実に驚愕した。夫は何故そんな事に思い至ってしまったのか。気が付かなければ、考えなくて済んだのに。
「ま、まぁ、対外的には何の関係も無いし…」
今更そんな事を、言っても遅い。
「王子様には勝てない…」
カルムまで頭を抱えてしまった。
余計な悩みが増えてしまったが、ティナが幸せならそれでいい。私は頭を切り替え、ティナへの返事を考えていた。
婚約を思い切り喜んであげよう。そう誓って、手紙を書く準備を始めた。
また遅くの更新すみません。




