衝撃のお披露目会
今日はいよいよお披露目会だ。朝からお父さんとカルムは何かを家の外に運び出している。お母さんとエリスは何か料理をしている。
いい匂いだなぁ。なに作ってるのかな?甘い匂いだし、お菓子かな?早く私も料理したい…
前世では、しばらく料理教室の講師をやっていた。たまに、テレビの料理番組に出たりもしていた。昔から、料理や、理科の実験など、火や水を使って何かを作り出し、皆に披露するのが大好きだった。
身の回りのことすらままならない今の日常が、もどかしくて仕方ない。この世界ではどんなものを食べていて、どうやって食べるのか。どう調理しているのか、知りたくて堪らない。お菓子を作ってるなら、砂糖はあるのか?蜂蜜?それとも、全く違う甘味なのか、ああ~知りたいっ!
私が身悶えていると、お母さんがやってきた。
「お着替えしましょうね。今日は特別よ」
お母さんが笑顔で、鼻歌を歌いながら私の着替えをする。お母さんが子守唄ではなく、鼻歌を唄っているのは初めてだ。今日が嬉しくて堪らないといった感じだ。
…私のこと、本当に大事に思ってくれてるんだな。
「ほら。気持ちいいでしょ?」ニコニコしながら、私に語りかける。
「さらさらしてて、気持ちいいね!」エリスが私のお腹の辺りをさすっている。
確かに、いつも着ている服より肌触りがいいようだ。
「シュラーリア様の恵みの日の御子は、新品の一番良い服を着るのよ」
「私も着たの?」
「もちろんよ。カルムもね。その服は名納めの時に一緒に納めるのよ」
「一回しか着ないの?もったいないねぇ」
エリスが言った。うん。私もそう思う。お高い生地で作ったのに、もったいない。
「それは違うのよ。礼拝堂に納める魔晶石は、私たちの分身とも云える魂の一部なの。その魔晶石のベッドにするのだから、もったいなくないのよ。エリスも寝心地悪いのいやでしょう?」
諭すように、お母さんが言う。
「そっかぁ。ましょーせきのベットなら、フカフカがいいよね!」
うふふ、そうでしょ?なんて言いながら、2人が話していると、お父さんが帰ってきた。
「さぁ!お披露目だ。ティナをこちらに」
お母さんは、私を抱き上げ、お父さんに引き渡した。
お父さんの太い腕にちょこんと座る。大きな胸板に頭を預けると、しっかりと包み込まれるようだ。
…何だろ?この安心感。母親の頃は赤ちゃんの時の事なんて忘れて育ててたけど、赤ちゃんってこんな風に感じてたんだなって、今わかったよ。
私を抱いてお父さんは飛び上がった。
うわっ!飛んだ!
高い天井のドアの手前で、お父さんは腕をあげた。ドアは触りもしないのに開いた。
うわ…なにここ…
目の前に広がったのは、一面空の世界だった。雲の土台に家々が建ち、地面がない。全て雲の上に建って浮いている。木も、花も、何もかも。
家から出るとすぐ上に雲の塊があり、そこまで飛んだ。その雲は小さい広場のようになっていて、少し高い長椅子の様なものを、カルムと他10人くらいで囲んでいる。
お父さんは、その長椅子に私をうつ伏せに置いた。
「この子がティナか!」「本当に可愛いわね」「めぐみの日おめでとう」なんて言う声が聞こえる。お母さんと、エリスも来たようだ。
「みんな!」
お父さんが話し出すと、しんと静かになった。
「今日は、ティナの恵みの日に来てくれて本当にありがとう。この日を迎えることが出来て、本当に本当に幸せだ」
え?お父さん涙ぐんでない?ってか、お母さんも大人たちも、皆、鼻すすってるけど、この世界って1歳になるの大変なの??
「これも、シュラーリア様のご加護があってこそだ」
えー。お父さんとお母さんが頑張ったからでしょう?なんか、神様に手柄持って行かれた気分だよ。
「それでは、翼が生まれる。みなで見守ろう!」
え?なになに?どういうこと?つ、冷たい!!
何か背中に液体がかけられた。
かゆい、かゆい、なにこれムズムズする!
「さぁ!翼が生まれたぞ!」
私が、ムズ痒さから解放されたと同時に、わぁっと歓声が上がった。
…と思ったら静まり返った。
「どういうこと?」「虹色だ」「何だこの翼は?」皆ヒソヒソどよめいている。私はうつ伏せからお座りの状態になり、辺りを見渡した。
なんか、皆驚いてない?ってか、ちょっと怖がってる感じ?
お父さんを見ると、驚きで目を見開いて固まっている。お母さんも口に手を当てて驚いている。
「わぁ、ティナの翼キラキラでキレイだね~」「うんうん、とってもキレイ。すごいね!」
周りの雰囲気を物ともせず、エリスとカルムがほのぼの言った。
私の翼が、キラキラキレイ?後ろを見ようと振り返るが、どうにも翼は見えない。だが、背中の痒かった辺りに力を入れると、翼が動いた。
「動くと光が当たって、もっとキレイだね」うんうんと、エリスたちが頷き合っている。
「えー…テ、ティナの翼はここに生まれた。これを祝って、恵みの菓子を振る舞う。みなで食してくれ」
お父さんは、一旦私の翼のことは、置いとく事にしたようた。お披露目会を進めるべく、皆にお菓子をすすめた。私の丁度対面側にあったテーブルに皆が向かう。お父さんは、私を抱き上げ、そちらに向かった。
テーブルには、クッキーのような焼き菓子と、ピンク色で葡萄の一粒がミカンくらいのサイズになったような果物が置かれている。
「あ!モモチャイだ!」カルムが飛びついた。
これがモモチャイなのね。私これになりそうだったわけね。
大人はお酒、子供は果汁を飲んでいるようだ。皆はワイワイと、私の翼や瞳、髪の毛の話で盛り上がっている。
私って、ここでは色々と規格外みたいだね。普通の転生と違うのかしら。
私が皆を観ながら考えていると、お母さんが近づいてきた。
「はい。ティナ、モモチャイよ。お口を開けて」皮を剥いて小さく切ったモモチャイを、スプーンで私にあーんしてきた。
はいはい。あーん。…!なにこれ!うまっ!!お兄さんも好きになるわ。食感は葡萄だけど、味はマンゴーみたいで濃厚な甘味。歯のない私もカミカミ出来ます。
「これで明日には歯が生えるわね」ふふふと、お母さんが微笑む。
あー、日本で言うところのお食い初めみたいな、おまじない的なやつですか。
「どうして、モモチャイで歯が生えるの?」
エリスが訊ねた。
「恵の日にその季節の果物を食べないと、歯が生えて来なくて、死んでしまうのよ」うふふとお母さんが微笑む。
いや、怖いわ!なにそれ!うふふじゃないでしょお母さん。お姉さんも、そーなんだーじゃないよ!食べないと死ぬんだよ!
「それにしても、ティナはお利口さんだわ」お母さんが、ほっぺに手を当てて言った。
「何がお利口さんなの?」エリスが言う。
「恵の日の果物は、生まれて初めて食べるお乳以外の食べ物だから、普通はスプーンを向けても口を開けないのよ」
なるほど。そらそうだ。私も子供に離乳食を始めるときは、スプーンを口に当てたり、咥えさせたりして馴らした後始めたもんね。最初からスプーンが食べ物乗せる物だなんて分かるわけ無い。
「お口開けなかったらどうするの?」エリスが聞いた。
至って当たり前の意見だ。どうすんの?
「ほっぺを掴んで無理やり開けるのよ」うふふと笑っている。
え?そこ、笑うとこ?エリスもなるほどねーとか言わない。ティナは泣き叫ばなくて偉いわぁじゃないよお母さん。
色々と衝撃を受けたけども、モモチャイを食べたのだから、私が死ぬことは無さそうなので、とりあえずよしとする。
「みな、今日は本当にありがとう。明日のティナの成長を願って乾杯しよう。乾杯!」
乾杯!と言って、杯を空けると、次々に私達に挨拶をして、解散していった。
ここでは、乾杯は締めなんだね。
ふむふむと、納得していると、お母さんに抱き上げられ、家へと帰った。
赤ちゃん視点は次までです。