おばさん転生する
…私、泣いてる?
オギャー、オギャーと私の喉から発しているのに、まるで他人事の様に感じる。
「おめでとう。元気な女の子だよ」
私の泣き声の向こうで、優しい女性の声がする。
「ああ…良かった。かわいい子…」
泣き叫ぶ私を優しく誰かが抱き寄せた。
あ、これあれだ。転生だ。言葉を覚えるまでは前世の記憶があるっていうのは本当だったのね。あの世はなかったみたいだけど。
母親の乳を吸い、少し落ち着いた私はとても今生まれ落ちた赤子とは思えぬ回想を始めた。
私、立花つばさは、享年58歳でこの世を去った。乳癌だった。面倒くさがりで、ズボラな性格が災いしたのだ。仕事を辞めてから5年、健康診断や人間ドックは見ない振りをしてきた。たまたま温泉に行ったとき、娘が異変に気が付いた。娘にイヤと言うほど叱られ、泣かれた。帰ってから渋々病院に行ったら、即入院。それから一月と経たずに逝った。
娘も息子も、私の子供とは思えないくらい、しっかりしたいい子に育った。夫のおかげだな。2人はいい人に恵まれ、娘は1人、息子は2人かわいい孫に会わせてくれた。
さてさて、どこに生まれ変わったのかな?言葉は日本っぽかったけど。
「シラーナ!」
野太い男の声が聞こえた。
「無事か?!」
「うふふふ。ダスリー。心配しなくても、私もこの子も元気ですよ。」
さっきの優しい声。お母さんなんだな。ってことは、焦った男の人はお父さんだね。
「お母さん、お疲れさま」「お母さん、大丈夫?」
女の子と男の子の声がするね。お姉さんとお兄さんか。
「エリス、カルム、ありがとう。」
「僕、お姉ちゃんと一緒にシュラーリア様にいっぱいお祈りしたんだよ!」
「お父さんに、カストンの街の礼拝堂まで連れてって貰ったの。」
…シュラーリア?聞いたことない神様だな。日本じゃないのかな?
「シラーナ。礼拝堂で魔晶石を賜ってきたぞ。」
「魔晶石に名を刻むのも三度目ね。」しみじみとお母さんが言った。
魔晶石?地球じゃない感じ?異世界かぁ。
「お名前考えよう!」「ぷにぷにしてて可愛いね!」お兄さん、お姉さん、ほっぺつんつんしないで。
「カルムと考えたよ!」「モモチャイかネムロン」
なんじゃそれ。イヤですよ!
「まぁ。それは2人が好きな果物の名前ね。素敵だけど、食べたくなっちゃうわ」うふふと、お母さんが言う。こほん。とお父さんが注目を集めるべく、咳払いをした。
「ティナはどうかな?」
「ティナ…とっても素敵。エリスとカルムはどう思う?」「うん!ティナ可愛いね!」「モモチャイの方がいけど、ティナでもいいと思うよ!」
…モモチャイはイヤです。お兄さん。
私の名前はティナに決まったようだ。しかし、異世界転生といえば、中世ヨーロッパチックなファンタジーワールドがセオリーだけど、ここはどんな世界だろ?生まれたばっかりなので、よく見えないんだよね。赤ちゃんなのに、中身はおばちゃんって、結構ハードな人生になりそうだな、こりゃ。
魔晶石に何かしていたようだが、お腹いっぱいになった私は、眠気に勝てず、眠ってしまった。
何かとお馴染み異世界転生物語です。素人作品ですが、暇潰しにどうぞ。