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気分は小学校の遠足

 念のため1時間ほど近くで待機していたけど、毒が外に漏れてくる気配はなし、と。

 アジトの中にスライムを1体召喚しておいて毒が無くなったら出てくるように伝えておいたけど、そっちも無事に回収できたので、これで毒の痕跡はなし。

 教会に戻ってローラさん達にもう何も心配することは無いって伝えれば、今回のイベントは完了だろう。

 めでたしめでたし。


 ……え、やっぱダメ?


「駄目ですよ。ちゃんと私達を買い取った責任、取ってくださいね」


 ローラさんがにこにこと俺を見つめていた。

 あの、その手、離してもらえないですか?

 逃げないですから。ね?

 うーん、ほんとどうしてこうなったんだか。

 俺の目の前には寂れた教会の前に立つローラさん+7人の子供が立っていて期待した目で俺を見上げていた。


「えっと、まず確認ですけど。皆さんこれまで通りここで暮らすって事で良いんですよね?」

「はい。シュージ様のご尽力のお陰です。あとこちらを」

「これは?」

「シュージ様の拠点登録証明書です」

「証明書? 申請書ではなく?」

「はい」


 見れば確かに証明書だった。

 この教会ならびに付属の施設、並びに周囲の土地を俺の拠点として承認が終わった(・・・・・・・)らしい。

 いつの間に申請してたんだ?というか申し込み費用とかはないのか?


「費用でしたら、先日の焼肉のお布施から出しましたから大丈夫です」

「そ、そうですか。結構安かったんですね~」

「はい。ですから今日からここがシュージ様の拠点ですからね。

 いつでも帰ってきてくださって良いのですよ(にっこり)」

「あ、あははは。て、手を離してくれないと服がそろそろ破れそうかな~」

「うふふふっ」


 伊達にスラムの教会でシスターをしてないって事なんだろう。

 何気に俺より力強そうなんですけど。

 むしろ今回の件、俺が来なくてもシスター一人で叩き返せたんじゃないだろうか。

 ……うん、考えないことにしよう。


 さて、出来てしまったものは仕方がない。いや、赤ちゃんじゃないぞ。

 これからどうするかを考えないとな。


「普段はみんな、どうやって生計を立ててるんですか?」

「はい。多くはありませんが、中央教会から支援金がほんの少しと、日ごろのお布施。

 後は私が街の人々の治療を行ってお礼を頂いたり、教会の裏で薬草を育てていたりしています」

「薬草ってそんなに育つんですか?」

「いえ。収穫できるのは3日に1回です」

「ふむ。街の外に比べると生育速度はかなり落ちるようですね」

「はい。恐らく土の栄養の問題だとは思うのですが専門家ではないのでどうすればいいのかは分かりません」

「街の外に採りに行くには、魔物が居て危ないんですね?

 護衛を雇うのにもお金がかかりますしね」

「そうなんです。森の入口まで安全に行き来できれば良いのですが、私も殺生は避けねばならない立場ですし」


 棘バットを持ったシスターとかナイフを舐める神父とか時々居る気もするけど、ダメらしい。

 でもまぁ森の入口までならやりようはあるか。


「召喚:スライム達」

「「すらっ」」


 8体のスライムを召喚してみせる。

 最初の頃とは打って変わって、こいつら1体1体がスキルも相まって初心者冒険者よりも強くなったからな。

 ゴブリンくらいまでなら余裕を持って勝てる。


「こいつらを4体お貸しします。

 こんな見た目ですけど、街の近くなら十分戦えますし、いざとなったらこいつらを囮にして逃げれば良いですし」

「そうですね。年長の子たちはそろそろ外の世界を知っても良い頃合いですしね」


 そんなわけで俺はローラさんと焼肉を手伝ってくれた4人を連れて薬草採取に行くことになった。

 残りの子供たちは留守番+裏の薬草園の世話をお願いしておいた。

 こういう時、上が居なくなると自然と次のリーダーが立ち上がる場合がある。

 今回も残った3人の中から男の子が「こっちは心配しなくていいからな」って息巻いてくれたので「しっかりな」と激励しておいた。

 あと念のため、スライムを1体置いていくか。

 無いとは思うけど闇ギルドの奴らが顔を出すかもしれないし。

 そうして教会を出ることしばし。


「……」

「……」

「あのぉ」

「ん?」

「私達、何か見られてませんか?」

「気にしたら負けです。こういう時は堂々と歩けば良いんですよ」


 確かに道行く人たちほぼ全員から見られている。

 それはまぁプレイヤーが現地の子供たち(1人1体スライムを抱えている)+美人シスターを連れて歩いていれば気にならない方がおかしい。

 俺達が堂々としているお陰か声を掛けられたりしなかったで、そのまま街の門まで向かった。

 さて、門の外を見れば街道と草原、そして青空が広がっている訳だが、ここでまずやる事と言えば……挨拶だ。


「良いかい、皆。今後街を出る時と戻ってきた時に必ず門番のお兄さんに挨拶をすること」

「「はい」」

「こんにちは」

「「こんにちは~」」

「おう、こんにちは。今日は随分大所帯だな」


 子供たちを見て顔をほころばせるお兄さん(30代後半)。

 やっぱり元気な子供たちの笑顔はいいな。


「今日からこの子達が薬草採集の為に朝夕とここを通ることになるので、よろしくお願いします」

「「よろしくお願いしま~す」」

「へぇ、中々に礼儀正しいな。俺はゴックっていうんだ。

 大抵ここで門番をしてるからな。何かあったら声を掛けると良い」

「ありがとうございます。この子達は問題が無ければ夕方には街に戻ってくるように伝えてあります」

「なるほど。もし戻って来なかったら捜索に人をやってほしいって事だな。分かった」

「よろしくお願いします」

「ああ。それでその、子供たちが抱えてるのは何だ?」

「俺の召喚した従魔です。今後は子供たちの護衛をしてもらう予定です」

「そうか。まぁ気を付けてな」


 街を出た俺達は周囲を観察しながら森を目指す。

 途中、ウサギが居たので倒し方のレクチャーもしておくか。


「街を出た後は周囲の警戒を怠らないこと。

 あそこに白い魔物がいるだろ?

 ウサギって言うんだが、この前食べた焼き肉があいつの肉だ」

「お肉」

「ごくりっ」


 俺が肉だって言ったら子供たちの目の色が変わった。

 まぁ、やる気になるのは良い事か。

 そういえば、現地の人が魔物を倒したらどうなるんだ?

 ま、やらせてみればいいか。


「ああ見えても魔物だからな。油断すると怪我をするぞ」

「は、はい」

「倒すときは1体ずつだ。君たちが抱えている4体のスライムの内、2体に攻撃するように指示を出す」

「うん。ほら、お肉取ってきて」

「違うよ。肉ウサギだよ」


 前に居た2人がスライムを地面に置いて指示すると、スライム達はポンポン跳ねながらウサギに向かっていった。


「見ての通りスライムは決して速くはない。

だからウサギを倒して戻ってくるまでは、残った2体が君たちの守りを固める。

間違っても他のウサギを攻撃させたりしなうようにな」

「はい!」


言っている間にスライムがウサギの元にたどり着いた。


「すらっ」


 ボンっと1体目が体当たりで攻撃するとウサギのHPが4割削れる。

 ウサギが反撃しようとしたところで1体目が後ろに下がる。

 すると前のめりになったウサギへ、もう1体のスライムが先端を尖らせながら攻撃を加えた。

 あれが恐らく刺突力アップスキルの効果だな。

 見事スライム達はダメージを受ける事無くウサギを倒した。

 戻ってきたスライムを囲む子供たちは大興奮だ。


「すげぇ。お前本当に強かったんだな」

「普段こんなに柔らかいのにね」

「すらっ」


 心なしスライムも誇らしげだな。

 さてドロップアイテムはというと……俺のアイテムボックスに入ったか。

 まぁ、俺の召喚したスライムが倒した訳だしな。

 折角の初討伐の成果なんだし子供たちに渡したいんだけど、毎回出さないといけないのか?


<アイテムの配布を行いますか?>

「ん?」


 見慣れない項目があった。

 試しに押してみると人名がズラッと出てきた。

 どうやら配布先を選べって事らしい。

 試しにジョンを選んでみる。


「おわっ」


 ジョンが後ろに引っ張られるようにたたらを踏んだ。


「なんか籠が重くなったぞ!?」

「あ、お肉が入ってる!!」


 なるほど。ジョンが背負ってた籠の中に送られた訳か。

 これなら今後こいつらが討伐した分の肉やお金は会いに行かなくても渡せそうだな。


「その肉はさっきのウサギ分だ。

 倒した直後は俺の方に来るみたいだから、それをジョンの方に送ってみた。

 これからも定期的に肉とか送るようにするからな」

「わぁ、やったぁ!!」

「ありがとう、お兄ちゃん」


 やっぱり食べ盛りの子供たちとしては、食べ物が手に入るのが一番嬉しいんだろうな。

 そこからはウサギを見かける度に倒していくことにした。

 そして森の入口に到着。

 薬草の採集だけなら中に入らなくても、この森と草原の境目付近で十分だ。


「さて、少し休憩してから薬草の採集を始める訳だけど。

 ここでもいくつか注意事項があるから忘れないようにな」

「「はい」」

「まず初めに、森の奥には絶対に入らないこと。

 森の奥にはそのスライムじゃ勝てないくらい強い魔物も居るし、木の影や木の上から不意打ちされる心配もあるからな。

 続いて採集に夢中になって4人が離れすぎないこと。

 薬草を1束採ったら顔を上げて、皆が近くに居ることを確認するんだ。

 夢中になってるとはぐれたり森の中に入ってしまってたりもするからな。

 特に慣れない内は頻繁に確認をすること。いいね?」

「「はい」」

「よし。じゃあ実際に採集をしてみようか。危なくないか俺とローラさんで見てるからな」

「「はーい」」


 そこからは子供たちが採集をする姿をのんびりと眺める。

 さっきはああ言ったけど、この辺りに出る魔物って言ったらゴブリンくらいだけど、あいつらは不意打ちとかとは無縁だ。

 むしろギャーギャーうるさいから近づかれたら直ぐに分かる。

 だから心配なのは森に入って迷子になることくらいだろう。


「ほらベック。森の中に入り過ぎだぞ」

「うえっ、いつの間に!?」

「ミーニーはさっきから同じところグルグル回ってるぞ」

「あれぇ?」


 うーむ、小学校の引率の先生になった気分だな。

 まぁこんなのんびりした日があっても良いか。



後書き掲示板:

No.443 通りすがりの冒険者

ちょっ

スライム抱えた子供たちが歩いてるんだけど


No.444 通りすがりの冒険者

ふわぁ


No.445 通りすがりの冒険者

何かのイベントかな?


No.446 通りすがりの冒険者

先頭に教会のシスター居るし孤児院の子供たちじゃない?


No.447 通りすがりの冒険者

ちょっと孤児院探してくる!!


No.448 通りすがりの冒険者

>>447

捕まらないように気を付けろよ~


No.449 通りすがりの冒険者

実際のところ護衛クエか何かか?


No.450 通りすがりの冒険者

冒険者ギルドには出てないから、ローカルクエの可能性が高い。


No.451 通りすがりの冒険者

人によってはそれを探して街を徘徊してるからな


No.452 通りすがりの冒険者

時々通報されててワロス


No.453 通りすがりの冒険者

先日現地の人から結婚を申し込まれたんだけど


No.454 通りすがりの冒険者

おめでとう。

一体何をやったらそうなったんだ?


No.455 通りすがりの冒険者

暴漢から助けたらフラグ立ったっぽい


No.456 通りすがりの冒険者

ちょっ俺暴漢探してくる


No.457 通りすがりの冒険者

ただ、助けた相手男なんだ。

俺も男なんだけど……


No.458 通りすがりの冒険者

うほっ


No.459 通りすがりの冒険者

頑張れ。強く生きろよ

俺達は生温かく見守ってやるからな


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― 新着の感想 ―
[気になる点] MPの表記はHPと同じ方がいいと思います。 第9話で闇ギルドを壊滅させた話はちょっと筋が通ってないっていうか無理矢理過ぎだと思いました。お金借りてるのは本当のことなんだしヤクザが暴利を…
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