表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/59

嘘から出た実(まこと)

フラグ回収回

 そして最初に用意したバケツがコインでいっぱいになった頃、そいつらは現れた。


「おう兄ちゃん。誰の許可を得て商売してやがんだ。ええ!!?」

「おら、見せもんじゃねぇぞ、散りやがれ!」


 お~なんというかテンプレ?

 来るかな~とは思ってたけど、期待を裏切らずに来たか。

 しかも見た目もザ・ヤクザって感じの3人組だ。

 俺は後ろ手で子供たちに教会の中に入るように合図を送る。

 来ると思ってたからその辺りも指示済みだ。

 料理を手伝ってれてた子供たちがサッと他の子の手を取って離れていく。

 よし、これで後ろは大丈夫だな。


「俺はただ教会で焼肉を焼いてただけですよ。

 さっきの人達は教会にお布施に来てただけじゃないですか?

 その証拠に俺は一言も焼肉を『売る』なんて言ってませんし」

「屁理屈こねてんじゃねえよ。ぶっ殺されてぇのか!?」


 凄みながらナイフを取り出すヤクザの兄貴。

 それを見たシスターが慌てて俺の前に飛び出してきた。


「待ってください。その人は悪くないんです!」

「おおぉ。これはこれはシスター・ローラ。今日もお美しい。

 それで、お金は用意出来たんですか?

 みたところそのお布施とやらも大した額ではなさそうですが。

 支払い期限までもう時間も無いですよ」


 シスターを見たヤクザは下卑た視線を隠そうともせずに、いやらしい笑みを浮かべた。

 って、『ボロ教会+美人シスター=ヤクザに借金』って、どこまでもテンプレに忠実だな。

 どうせこの後、借金のかたにシスターをってなるんだろうな。


「あぁ。もちろん貴女が体で払ってくれるっていうなら良いところ紹介しますよ。

 なんなら今から俺達が最初の客になってあげても良いですしね」


 そう言って一歩踏み出すヤクザ兄貴。

 これこのまま放置したらどうなるんだろうな~って頭の片隅で考えつつ、凌辱モノは求めて無いので俺なりに介入させてもらおう。


きらんっ!

「ん、なんだ?」


 踏み出したヤクザ兄貴の足元で光がはじける。

 そう、それは。


「おい、てめぇ。よくも俺の従魔を殺しやがったな!!」


 従魔(本当は召喚獣)のスライム(の分体)がヤクザ兄貴に倒された光だ。

 この世界には召喚士とは別に従魔術士が居る。

 違いは召喚士は召喚する度に別固体を呼ぶのに対し、従魔術士はユニークな個体を時間を掛けて育て上げるそうだ。

 つまり従魔っていうと早々替えの利かない個体って勘違いさせられる。


「はぁ!?知らねえよ」

「知らねぇで済むか。どう落とし前付けるんだ。あ"ぁ!!?」

「グッ、グゥ」


 さっきとは逆に俺がヤクザ兄貴の胸倉を掴んで吊り上げる。

 どうやらレベルや力はこっちの方が上らしいな。

 こういう時は強引にでもこっちの土俵に上げてしまうに限る。


「それとさっき借金がどうの言ってたな。

 証文はあるんだろうな!? おら、とっとと出しやがれ」


 ガックンガックン揺すりながら煽り続ける。

 ……うーむ、これじゃあどっちがヤクザか分からないな。


「グッ、それならここに」


 そう言って差し出された1枚の用紙。

 さらっと内容を確認すれば、この教会に対し利子込みで金貨約100枚=1億Gの借金があるという。

 どう考えてもおかしい金額だな。

 というか、よく見たら0のインクの色が他と違うんだけど。後から書き足した?

 この証文作った奴馬鹿だろう。俺としては有難いけどな。

 俺は鷹揚に頷いて見せる。


「ふむ、なるほど。なら存分に取り立てをやってくれ。

 ただな。そこにいるシスターと子供たちはついさっき俺が買い取ったぞ」

「なに!?」

「へっ!?」


 後ろで素っ頓狂な声が聞こえるけど無視だ。


「だからこの借金とシスターたちは既に無関係だ」

「な、なにを言ってやがる!? でたらめ、言ってんじゃ、ねぇ!!」

「いいか。目かっぽじってよく見ろ。この借金は教会に対してだ。

 だからこの教会のシスターなら払う義務はあるかもしれないが、そうでなければ払うのは別の人、いやこの教会そのものか。

 もっとも、こんなところにある教会を手に入れたって不良物件にしかならないだろうがな」

「ばっ、それで『はい、そうですか』と引き下がるとでも、思ってるのか!!」


 ヤクザの矜持がまだ残ってたのか吊り上げられながらも俺を睨む兄貴。


「まぁそうだろうな。

 なら明日の昼過ぎにお前達の事務所に挨拶に行くから茶を用意して待ってろと伝えろ」


 そう言って突き飛ばす。


「クソっ。来なかったら承知しねぇからな!!」

「あ、兄貴ぃ」


 尻もちをついた所から華麗に(笑)立ち上がって捨て台詞と共に逃げ去るヤクザ達。

 後には示し合わせたようにぴらっと1枚の案内図が残っていた。ご親切な事で。


「あの……」

「ん?」


 振り返れば若干顔色の良くない顔のシスターが残っていた。

 って、そうだ。シスターたちを置いてけぼりに話を進めてしまったな。


「すみません、私達の事情に巻き込んでしまったようで」

「いえ、むしろ勝手に話を進めてしまったこっちの方が怒られるでしょう」

「いえいえいえ。私達のことを思っての行動でしょうし、私達は怒ってなどいません。

 それより金貨100枚なんて大金、用意出来るのですか?」

「金貨は無いですけど、代わりのお土産持っていくから心配しなくても大丈夫ですよ」

「そ、そうなのですか?

 あとあのその……私たちはいつの間にシュージ様のものになったのでしょう」

「あ~~」


 顔をポッと赤く染めるシスター。

 さっきの借金逃れの方便を真に受けてしまってるようだ。


「はっ!? もしかしてさっきのお肉ですね!

 なるほど。確かに私たちには過ぎたるお肉。

 あれを食べたからにはシュージ様の庇護下に入ったという事だったのですね。

 確かに私達に返せるものと言えば、私達自身。今後はシュージ様の為に身を粉にすると。

 そういう事でしたら、どうぞ至らないところも多々あるかとは存じますが、これから末永く……」

「ストップストップ!!

 突然暴走しないでください。俺は別に皆さんをどうこうしたい訳ではないですから」

「でも……」

「俺は冒険者ですし、皆さんと一緒に居続ける事は不可能です。(リアルの生活だってあるし)

 だから皆さんには今まで通り生活してもらって、もし何か手が足りない時にちょっと手伝ってもらう。

 それくらいで十分ですから」

「そうですか」


 いや、なんでそこでシュンって落ち込むかな。

 うーむ、このままここに居ると変な方向に話が進みそうだな。

 なら逃げるか。


「じゃあ俺は明日の為に準備がありますので、これで」

「あ、ちょっと」

「ついでに残ったお肉を渡しておきますね」

「えええぇぇ!!」


 シスターの両手が埋まるようにどさっとウサギ肉を渡して、あたふたしている間に調理場を撤収して教会を後にした。

 そして翌日の昼すぎ。


「ここ、だな」


 地図で示された場所に行くと、そこは酒場だった。

 『CLOSED』の札が出ているが気にせず中に入る。


「おや、まだ開店前ですよ」


 カウンターに居たマスター? が声を掛けてきたので、教会の件で来たことを伝えた。

 すると最初の接客モードから相手を見下すヤクザモードにチェンジした。


「ほぉ。酔狂な事で。

 じゃあ付いてきな。ボスに会わせてやる。

 おっと、武器はしまっておけ。魔法も使うそぶりを見せたら即斬られると思いな。

 あとその丸いの。それもここから先は立ち入り禁止だ」

「ああ、分かった」


 俺はスライムにこの階に留まるように伝えてからマスターに続いて地下への階段を下りた。

 表向きは酒場で地下のアジトを隠しているって。どこまでもお約束に忠実だ。

 地下に降りるとムッと漢臭くなった。地下だから換気が出来てないんだな。

 まぁその方が好都合なんだけど。

 カツカツと足音を響かせて歩くマスターはまっすぐ通路の奥へと行き、扉をノックすると中から返事が返ってきた。


「誰だ?」

「私です。例の教会の件でガキが一人来ています」

「あん? ああ、そう言えばそんな報告が来てたな。まぁ入れや」

「失礼します」


 部屋の中には20後半くらいのオールバックの男性が葉巻を吹かせていた。

 ヤクザのボスっていうから50くらいの壮年をイメージしてたけど意外と若いな。

 あと、部屋に煙が充満している。


「それよりジェンキン。また換気孔が詰まったんじゃねぇか?

 さっきから全然煙が出ていかねぇ」

「先月掃除したばかりなんですがね。このあと見ておきましょう」

「そうしてくれ。

 で、そいつが無駄な正義感出した馬鹿か。

 ……ふむ、その度胸だけは買ってやっても良いがな」


 そう言って立ち上がると、ツカツカと俺達の方に歩いて来て、至近距離でジロジロと顔を覗き込んできた。


「はん。まぁ最低限の能力はありそうだな。

 お前名前は?」

「シュージだ、ぐっ」


 名乗った途端、ボスのアッパーが俺の顎を捉えた。


「おい、口の利き方をママに教わって来なかったのか?

 次そんな口を利いたら二度と喋れないようにアゴ砕くからな」


 いってて。今のゴブリンファイター並みの攻撃力があったな。

 わざと後ろに飛んで吹き飛ばされたフリをしてみたけど、そのせいで更にボスは俺を見下すような視線を送ってきた。


「じゃあシュージ。

 お前に与えられる選択肢は2つだ。

 余計な事に首を突っ込んでここに来たことを後悔しながら死ぬか、俺達の下っ端になるか。

 一応言っておくが扉の向こうには既に俺の部下たちがいつでも突入出来るように待機してるからな。

 この地下の事を知って無事に出られると思うなよ?」


 その言葉と同時に目の前にウィンドウが出てくる。


<闇ギルドに参加しますか?(一度参加すると脱退は出来ません。また参加しない場合、今後闇ギルドに狙われることになります)>


 ここって闇ギルドだったのか。

 というかこれ、闇ギルド参加クエストだったんだな。

 闇ギルド……好きな人は好きなんだろうけど、俺の趣味じゃない。

 きっと暗殺とかの依頼を受けて、今度は衛兵や賞金稼ぎに狙われるんだろう。

 そう考えるとどっちに転んでもデメリットだらけだな。なら。


「悪いがどっちもごめんだ」

「ほぉ。なぶり殺しをご希望か。おいっ!」

「……」

「ん? 野郎ども入って来い!!」

「…………」


 ボスが扉の外に声を掛けても何も起きなかった。

 訝しんだマスターが扉を開けると……イッちゃった顔をした男たちが床に倒れていた。


「ふへへぇ~~しあわせ~」

「お~いぇ~」

「うひひひひひっ」


 あまりの惨状に呆然となったボスが慌てて倒れている一人に駆け寄った。


「……な、なにが起きたんだ。おい」

「いけませんボス。恐らくこれは毒です!」


 マスターがボスを慌てて引き戻すもちょっと遅かったみたいだな。

 既に目の焦点がぶっ飛んでしまっている。

 それを見たマスターが歯噛みしつつ俺を睨んだ。


「きさま。一体何をした!!」

「さっき武器と魔法はダメだって言ったけど、アイテムまでは制限してなかったからな。

 階段を降りたところにお香を置いて来ただけだ。恍惚薬のね。

 ちょっぴり毒薬も混ぜたお陰で良い感じにイカれてくれてるね」

「くっ。馬鹿な。きさま分かっているのか!?

 こんな街中でそんなことをすればこの建物だけじゃなく近隣住民まで巻き込むんだぞ。

 それに通路がこのありさまではお前自身、無事では帰れない筈だ」

「あぁ、大丈夫。俺自身は無効化スキルを持ってるし。

 それに今、この建物は空気を外から遮断してるからね。さっきボスが言ってたでしょ? 換気孔が詰まってるって」


 店に入る前にスライムを使ってそれらしい穴を塞いでおいてもらった。

 こういう悪人っていうのは地下にアジトを作るのが定番だからね。

 俺達が降りてきた階段も残してきたスライムが封じてくれる手筈になっている。


「あはははっ。ここは天国だ。そうですよね、神様」


 ボスも毒が回ってきたみたいだ。

 俺を見て神様とか言ってる。

 恍惚薬、というか麻薬おそるべし。


「そうだな。だから例の教会の借金はチャラにしなさい。

 他にも不正な借金なんかは全部破棄。

 今後闇ギルドの活動はまっとうなもののみにしなさい」

「わっかりましたははははっ」

「ボス……」


 沈痛な顔をしているマスターだけど、すまない。

 そろそろこの部屋も恍惚薬の効果が出る頃なんだ。

 あー言ってるそばから、マスターの目が虚ろになってきた。

 うーん、これ以上は見てられないから帰るか。


 俺は各部屋の換気孔を内側から密閉しながら機密書類なんかを全部回収して地下を後にした。

 にしても昨夜急いで回収してきたこのキノコ。こんなに危険で大丈夫なんだろうか。

 一応効果時間は30分って説明に書いてあったけど。


<闇ギルドの支部を壊滅させました>

<称号『闇を照らす者』を獲得しました>

<隠しイベント『廃教会を救え』をクリアしました。

 以後、シスター・ローラおよび教会の子供たちが傘下に入ります>


 さ、傘下ってなんですかぁ!?



後書き掲示板:

No.211 通りすがりの騎士団員

神聖騎士団の訓練厳し杉


No.212 通りすがりの冒険者

むしろあの入団試験をパスできたのが凄い


No.213 通りすがりの清掃員

一度所属すると抜けるのは大変


No.214 通りすがりの暗殺者

クックックッ。

月の無い夜に外を歩くと危ないぜ


No.215 通りすがりの冒険者

暗殺者て

むしろそんな投稿してると消される気がするぞ


No.216 通りすがりの暗殺者

ハハハ

そんなことある訳、ちょっ、誰だ。何をす---


No.217 通りすがりの冒険者

そして216を見たものは誰も居なかった


No.218 通りすがりの冒険者

はいはい、一人芝居乙


No.219 通りすがりの冒険者

にしてもこのゲーム色々盛り過ぎじゃね?

進みが千差万別過ぎて攻略Wikiが大変なことになってるんだけど


No.220 通りすがりの冒険者

初期ジョブだけで500超えてるんだっけ


No.221 通りすがりの冒険者

その癖、水棲種族を選んでも初期街は一緒という適当さが殴りたい


No.222 通りすがりの冒険者

陸上でもマイナス補正は無いんだから良いじゃん


No.223 通りすがりの冒険者

いや、まめに水分補給をしないとバッドステータス付くよ

水魔法必須だから魔力切れ起こしたら死活問題


No.224 通りすがりの従魔術師

それ言ったら従魔術師はもっと大変。

最初から独力で魔物を屈服させないといけないし、その後の好感度上げの為に出費がヤバい

強い魔物を従えるにもそいつを倒せるくらい強くなる必要があるしな


No.225 通りすがりの冒険者

2番目の街に行くと従魔用の魔物売ってるよ?


No.226 通りすがりの従魔術師

マジか。ちょっと行ってくる。


No.227 通りすがりの冒険者

いてら~



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ