炊き出し?いいえ、商売です。
街の広場でせっせと肉を焼いていると周りから視線を感じた。
「……なんだ?」
屋台に並んでいる人や通りすがりの人などがちらちらとこちらを見ている。
うーん、やっぱスライムをこんなに沢山召喚しているのが珍しいのかもしれないな。
そう思っていたら、ふらふら~と小さな男の子が近づいて来た。
見ればかなり年季の入った服を着ていて、今にも涎の垂れそうな顔で焼いている肉にくぎ付けになっている。
恐らくスラムとか孤児院の子供なんだろう。
ぐぅ~~
「……なんだ、ぼうず。お腹空いてるのか?」
「うん」
「そうか」
「……」
そっけなく答えつつ、急いでアイテムボックスの中を確認する。
肉は、まだあるな。
香辛料が心許ないけど塩は十分ある。ならいっか。
恐らくこれも何かのイベントって事なんだろう。
発生のフラグはここで屋台以外で料理をすることとか?
それが無くてもこう、子供の世話を焼くのは嫌いじゃない。
俺は焼いていた肉をスライムに渡して竈の火を消して後始末をする。
それを見た少年の顔が青ざめていた。
多分俺を怒らせたと思ってるんだろうな。
「あ、あの……」
「ほれ、行くぞ。案内しろ」
「え? 行くって?」
しゃがんで目線をおどおどとしている少年に合わせるとニカッと笑って見せる。
「腹空かせてるのはお前だけじゃないだろ?
しょうがねぇから今日は焼肉祭りだ。
材料と時間の許す限り焼きまくってやるよ。
ただし今日だけだからな」
「あ、うん!」
言葉の意味が分かったのか、少年は笑顔になって広場の外に向かっていった。
俺もスライムを送り返しながら少年の後を追う。
流石にスライム8体を引き連れて街を練り歩く訳にもいかないからな。
そうしてたどり着いた先は裏町の一角、曰くスラム街かな。
その中でも更にボロい教会が行き先らしい。
「ただいま、シスター!」
「あらジョン。どこに行ってたの?」
「あのねあのね。お兄ちゃんがお肉焼いてくれるって!!!」
教会に入った少年をこのボロ教会には似つかわしくない美人シスターが出迎えた。
しかし、少年よ。流石にその説明じゃ分からんだろう。
はぁ、とため息をついたところでシスターと目が合った。
「こんばんは」
「あ、はい。こんばんは。
えっとあなたは?」
「通りすがりの冒険者のシュージです。
さっきその少年に勧誘されたんですよ。
それで、改めてここで肉を焼かせて頂きたいのですが、構わないでしょうか?
勿論、場所代代わりに焼けた肉の一部を教会に提供させて頂きますので」
「……よろしいのですか?
見ての通り、ここにはあなたにお返し出来るものはほとんどありませんが」
「それは元からあまり気にしてません」
「分かりました。ではよろしくお願いいたします」
「はい。
じゃあ、えっと、ジョン。お前には手伝ってもらうからな」
「うん!何すればいいんだ?」
「まずは手を綺麗に洗ってきてくれ。あと手伝えそうな奴を2,3人連れてきてくれ」
「分かった!」
元気よく教会の中に飛び込んでいく少年を見送った俺はいそいそと教会の正面で竈の準備を始めた。
竈の横には作業用の台を用意して複数人で作業出来るように準備する。
それを見ていたシスターが気遣わし気に声を掛けてきた。
「あの、良ければ私も何か手伝いましょうか?」
「ありがとうございます。なら水汲みに使うくらいのサイズのバケツを1つ用意してもらえますか?
もしなかったら深皿とかどんぶりとかでも構いません」
「それは、ありますが。何に使うんですか?」
「まぁ見てれば分かりますよ。きっと必要になりますから」
「分かりました」
首を傾げながらも俺の頼みを聞いて動いてくれるシスターを横目に、スライムを召喚していく。
8匹のスライムが2列になって整然と待機している。
これが今後増えたら軍隊みたいだな、なんて思いながら、教官っぽく話をしてみる。
「さてお前達。これからここで肉を焼く訳だが、こういった場合、往々にして焼いて食べて楽しかったで終わる、なんてことは無い。
まず考えられるのは近隣住民の来訪だ。
さっきもそうだったが、焼肉の旨そうな匂いがこの一帯に広まれば何事かと人が集まってくるだろう。
恐らくそのほとんどが腹を空かせている。
ならどうする? 無償で肉を提供するか? 違うな。
俺は子供には寛容だが大人にはそうではない。
大人なら立って歩けるなら自分で働いて稼ぐべきだ。
だから大人からは代金を請求する。
と言ってもここの住民はそんなに金を持っていないだろうから薄利多売で勝負を掛ける。
幸い人手はこの教会の子供たちで何とかなるだろう。
ならお前達がすべきことは何か。
残り物を食べる? 違う! ……まぁ残ったら食べても良いが多分残らないぞ。
お前達の仕事は警備だ。
人が集まれば手癖の悪い奴、頭のイカれた奴、所場代をせしめようとする奴なんかが必ずやってくる。
そう言った奴を叩き返すのがお前達の役目だ。
分かったな!」
「「すらっ!!」」
ズビシッと揃って敬礼をするスライム達。
こいつら段々頭もよくなってきてる気がするな。
そうして準備を済ませたころ、シスターが子供たち4人を引き連れて戻ってきた。
「連れて来たぜ兄ちゃん」
「あの、よろしくお願いします」
「ちょ、なにこの丸いの。え、スライム?」
「すごい、ふよふよ~」
「うわ、ほんとだ。気持ちいい~」
ジョンを含めて男の子2人と女の子2人。いずれも8~13歳くらいか。
スライムが珍しいのか、恐る恐る触っては感触を楽しんでる。
「ほらあなた達、お手伝いに来たんでしょ?」
「そうだった」
シスターの声で我に返った子供たちにこれからやる作業を伝える。
と言っても、俺が取り出した肉に串を刺して、網の上に置いて、塩と香辛料を振り掛けながら適度にひっくり返して、焼けたら串を抜いて一口大に切り分けるだけだ。
切り分ける時に刃物を使うので、普段から料理の手伝いをしているという年長の女の子に任せる。
俺とシスターは子供たちの後ろからやり方をレクチャーしたり危なくないように見守る係だ。
そうして程なくして肉の焼ける匂いが立ちだすと、まずは教会の子供たちが追加で3人出てきたので、焼けたお肉を食べさせる。
「しっかり噛んで食べるのよ」
「「はーい」」
恐らくかなり久しぶりの焼肉だったんだろう。
子供たちのはしゃぎっぷりが凄い。
その声と肉の匂いに釣られるように、教会の外に段々と人の姿が見え始めた。
その人達に向けてアナウンスをする。
「えー、皆さん。今焼いている肉は1切れ10Gで提供します。
食べたい方は、こちらのバケツに10Gコインを入れてください。
一度に提供するのは一人3切れまでです。それ以上食べたい場合は改めて並んでください」
俺がそう声を掛けると外の人達がざわざわと話しながら離れていった。
……あれ? 金取られると思ってなかったから帰っちゃったか?
って違った。続々と戻ってきた。
多分、お金を取りに行ったんだな。
予想以上の大人数で、このままだと暴動になりかねないので慌ててスライムを使いながら列整理をすることにした。
「はい、お肉が欲しい人は右側に並んでください。
お金を払ってお肉を貰ったら左側から帰ってください。
そこ! 割り込むなとは言わないけど、それで喧嘩になったら叩き出しますからね!!」
思ったより治安は悪くないのか暴れる人はほとんど居なかった。
いや、最初に暴れた人をスライムが3体掛かりで吹き飛ばしたのが良かったのかも。
ステータスも上がってきたし、鍛えてない人となら1対1でも戦えそうな強さになってきたからな。
後書き掲示板:
No.135 通りすがりの冒険者
冒険者ギルドの生産クエが難易度おかしい件について
No.136 通りすがりの冒険者
また出たよ
No.137 通りすがりの冒険者
初心者あるあるだね
No.138 通りすがりの冒険者
生産クエはサブジョブ扱い=初心者向けではない
No.139 通りすがりの冒険者
生産活動がしたいなら初期ジョブでそれ系のジョブに就けって話だしな
No.140 通りすがりの冒険者
個人的にはクエ関係なく調合師のレスさんが好き。
あのふと黒くなる瞬間がたまらない
No.141 通りすがりの冒険者
あーあれな。
普段優しいのに、毒草の処理をお願いしたら突然目からハイライトが消えたから驚いた
No.142 通りすがりの冒険者
あの笑い声、時々外まで聞こえてくるからな。
夜聞いたらちびりそうだ
No.143 通りすがりの冒険者
釣りクエで主釣りしようとしたら逆に食われた
No.144 通りすがりの冒険者
初期で出てこない時点で難易度察しないと
No.145 通りすがりの冒険者
小魚(30~50センチくらい)を釣ると鳥魔物が奪いに来るから漁夫の利を狙えるよ
No.146 通りすがりの冒険者
小魚→鳥→巨大魚の流れは鉄板
No.147 通りすがりの冒険者
そのまま自分も食われるんですね。分かります。