後でスライムが美味しく頂きました?
今回の作品はなぜか1話1話の区切りが話の中盤あたりになってばかりな気がします。
その後レスさんから薬も毒も正しい使い方を知らないと危険ですからと言われて奥の調合室に強制連行された。
調合室は〇〇のアトリエをイメージしてもらえれば近いかもしれない。
うげっ。調合室に入った途端、レスさんの目つきが変わったぞ、おい。
さっきまではどこにでもいる女の子って感じだったのに、今では一つ間違うと刺し殺されるような緊迫感がある。
これがプロの職人ってやつか。
マスクと手袋を渡され、注意事項を懇々と説明された後、作業が始まった。
ゴリゴリゴリ
「あの、すり潰すのはこれくらいですか?」
「全然ダメです。ご老人でももっと力がありますよ、本当に冒険者なんですか?
気合を入れてしっかり潰してください」
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリッ
「あ、あの。これくらいで?」
「…………はぁ。仕方ないですね。最初はそれで勘弁してあげます。
ではそれを鍋に移し替えて水をひたひたになるまで入れて火にかけてください。
ただし沸騰させると台無しですからね!」
「はい」
「底の方から救い上げるようにかき混ぜてください」
「はい」
その後も火力が強すぎるとか、同時並行で木の実の皮を剥いたり、剥いたら剥いたで厚過ぎだと叱られたり中々にハードだった。
そして活力草の鍋は沸騰前に火から下ろし、粗熱を取ってから濾して薬瓶へ。
薬瓶はレスさんのものを使わせてもらったけど、今後は道具屋などで買っておく必要があるそうだ。
そうして無事に回復ポーションFが出来た。
「回復ポーションF(低):回復量90
活力草を正しい手順で処理して作成した回復薬。
活力草の加工が荒い為、通常よりも若干効果が落ちている」
HPの回復量が90か。
『(低)』って付いてるから本来の回復量より下がってるんだろうな。
まぁ今の俺のHPから考えれば十分だけど。
続いて毒草や毒キノコの加工方法も教えて貰う。
あ、そうそう。当初の予定通り、毒草の一部を使って毒団子を作った。
「ふっふっふ。これであのにっくき奴らを一網打尽だわ」
レスさん。笑みが黒いです。
今まで相当嫌な思いをしてきたんだろうな。
そうして開放される頃には陽が沈みかけていた。
「また判別できない薬草類が見つかったら必ず絶対に何があっても使う前に私や薬草の知識のある人に尋ねてくださいね」
「わ、分かりました」
物凄く強調された。
どうやら危険物を採って来る人と認識されてしまったようだ。
レスさんと別れた後、アイテムボックスの中を眺める。
回復ポーションとか解毒ポーションとか毒薬(武器に塗って攻撃すると敵を毒状態にする)は良いとして、劇薬と恍惚薬は持っているだけで危険な気がしてきた。
「……」
「すら?」
ここはスライムに処理してもらうのが良いか。
念のため街の外に出てから危ない薬を取り出してスライムに見せる。
「これらって食えるか?」
「すら」
どうやら大丈夫らしい。
渡すとパクっと体内に取り込んだ。
それが光になって消化されると同時にスライムも光になって消えていった。
「スライムーー!
食えるって言ったそばからそれか」
食えることと無事なことは別だったらしい。
まぁそこは半分予想してたけど。
それよりもっと大きな誤算があった。
アイテムボックスの中に今スライムに食べさせた劇薬が戻ってきてる。
「そ、そうだよな。お前たちが回収したアイテムって俺のアイテムボックスに入るんだもんな」
「すら?」
新たに召喚したスライムの頭をポンポンしながらため息をついた。
そして改めて危ない薬を取り出してみる。
「おっ、若干減ってるんじゃないか?」
1目盛りに満たないくらいだけどちょびっと減ってる。
多分スライムに消化しきれなかった残りがアイテムボックスに戻ってきたみたいだ。
ならこれを繰り返せば無事に処分できそうだけど。
「…………いいか?」
「すら」
「じゃあ頼む。今度旨いものでも食わせてやるからな」
任せろと力強く頷くスライムに再び薬を渡す。スライムが光になって消える。また召喚して薬を渡すを繰り返した。
合計50回ほど繰り返したところで薬が無くなった。ついでに、
<毒無効化を取得しました>
<精神異常無効化を取得しました>
スキルが二つ増えた。毒耐性と違ってレベル表記が無いから、完全無効化なのだろう。
あれ、これを応用すれば他の状態異常耐性も取れるんじゃないか?
また機会があったら試してみるか。
それよりまずは街中に戻って商店街を探す。まずは道具屋だ。
「おや冒険者のお兄さん。何か探し物かい?」
立ち並ぶ店を見て回る俺に、肝っ玉母ちゃんって感じの女性が声を掛けてくれた。
「えっと、調理器具と塩などの調味料が欲しいんですけど」
「へぇ珍しいね。男の冒険者がきちんと料理するってのは。
冒険者なら野外で使えるタイプが良いだろう?ならうちにおいで。
調味料なら向かいのソルさんが扱ってるしね」
そういってドカドカと歩いていく後ろを付いて行く。
「あたしはパンナだ。あんたは?」
「シュージです」
「そうかい。シュージは将来屋台を出したり料理人になる気なのかい?」
「え? いえ。採れた食材を自分たちで食べたいだけです」
「そうなのかい。冒険者ギルドには簡易調理具も置いてあるのに商店街に顔を出してたからてっきり料理好きなのかと思ったよ」
「簡易調理具?」
どうやら冒険者ギルドで販売しているそれを使えばどんなに料理が下手な人でも一瞬で食べられるものが出来るそうだ。
多分メニューのボタン操作1つで終わるんじゃなかろうか。
「前に一度食べたことがあるけど、お世辞にも美味しいとは言えなかったね」
「そうなんですか。なら頑張って自力で調理してみます。
こいつらにも旨いものを食べさせてやるって言ってしまいましたから」
「そりゃ良い心がけだね」
スライムを見たパンナさんは目を細めてにっこりしていた。
「さ、着いたよ。ところでシュージは魔法は使えるのかい?」
「今のところ召喚魔法だけなら使えますよ」
「なら魔力は問題なしか。生活魔法なら適性が無くても習得出来るから後で魔法屋に寄っておいき。
せめて着火の魔法と飲み水を出す魔法は覚えておかないと料理する時に困るからね」
「なるほど、分かりました」
「魔法具で代用することも出来るけど、高いからね。
で、調理器具だけど、一人用ならこの辺りかね」
鍋にフライパン、包丁などの調理器具と、薪10回分と簡易かまどセット。しめて15000G。
代金を払って受け取り、その足で向かいのお店で塩を買い、教えて貰った魔法屋で魔法習得用のスクロールを買えば、手持ちの残金は32G。
冒険者ギルドで報酬を受け取る前だから良いけど、ちょっと散財しすぎか?
ま、ひとまず料理だな。
料理をするなら、街の広場か門の外になるらしい。それ以外の場所でしたければ屋台を用意しなければならないそうな。
屋台は買うか借りるか自作するか。いずれにしてもお金がかかる。
もちろんそんなお金はないので、街の広場に向かい、空いていた噴水横に陣取るといそいそと簡易かまどセットを準備した。
この簡易かまどセットも使用後の燃やした薪はきれいさっぱり消えるそうで環境にやさしい逸品だ。
周りを見れば他のプレイヤーが屋台を出しており、小さな列が出来ていた。
後で覗いてみるのも面白そうだな。
「~~~♪」
鼻歌交じりにかまどにセットした薪に火を付けて金網を敷き、アイテムボックスから取り出したウサギ肉に鉄串を等間隔に3本差して置く。
ウサギ肉は鶏むね肉を一回り大きくした感じだ。
流石1羽2羽って数えるだけあるな。え、関係ない?まいいや。
片面を焼いている間に塩と香辛料を振り掛けて、頃合いを見て裏返す。
ジュウ~~と油の焼ける音と共に香ばしい食欲をそそる匂いが広がる。
この匂いはきっと香辛料も一役買ってるんだろう。リアルでも久しぶりに焼き肉を食うかな。
「すらら~」
「もうちょっと待ってろよ~。スライムが腹を壊すなんてことは無いと思うけどな」
いつもより気持ち垂れた感じで待つスライムにほっこりしつつ、肉の焼け具合をチェック。
「よし、まだ若干ミディアムだけど焼き過ぎたら硬くなりそうだしな」
包丁で串と串の間を切って3等分にして、そのうちの一つをスライムに渡しつつ、自分でも齧り付く。
「さてリアルでウサギ肉は食べた事が無いんだが……うん、なかなかイケるな」
ピリッとした程よい辛みと肉汁が染み出してきて存分に肉のうま味を堪能する。
ジビエ料理って言ったら独特の臭みもありそうなイメージだけどハーブが良い仕事してるみたいだ。
「すらっ!!」
「って、もう食ったのか。早えな」
俺が一口食べる間にでかい一切れを食べきってしまったらしい。
まぁこいつらに胃袋なんて概念は無いだろうしな。
「すら……」
「そんなもの欲しそうな顔されてもな。……分かったよ、もう1切れも食っていいよ。
仕方ない。もっと焼くか。幸い薪はまだ持ちそうだしな。
ってこら。一口で食うな。俺の持ってるのは俺が食うからダメ。
それとスライムはお前だけじゃないだろ。次焼くのは他の奴に譲る事」
「すら!」
ビシッと返事だけは良いんだから全く。
仕方ねぇ、じゃんじゃん焼くか。
っておい、いつの間にかスライム8体に取り囲まれてるんだけど?
え、多重召喚スキルのレベルが上がった?
俺召喚したか?無意識にしてた?ほんとかよ。
あー、わーったよ。食わせてやるからちょっと待ってろ。
後書き掲示板:
No.722 通りすがりの冒険者
久しぶりに広場で料理してる人発見
No.723 通りすがりの冒険者
料理系のジョブなら自分で屋台出してるだろうから一般ジョブかな
No.724 通りすがりの冒険者
だろうね。
スライムを肩に乗せてる。ペットかな。
No.725 通りすがりの冒険者
スライム?そんなのどこかに出てきたっけ
No.726 通りすがりの冒険者
今のところ、敵にはいないな。召喚したんじゃない?
No.727 通りすがりの冒険者
まじっ!?
召喚枠1つをペットにするとか、ネタに走り過ぎでしょ
No.728 通りすがりの冒険者
お、スライムに料理食べさせてる。
No.729 通りすがりの冒険者
いやいや。契約している精霊や魔獣なら分かるけど、召喚した魔物って好感度とかないはずだけど。
No.730 通りすがりの冒険者
やっぱ趣味プレイヤーじゃない?
No.731 通りすがりの冒険者
どっちでもいいけど、めっちゃ美味しそう
No.732 通りすがりの冒険者
俺今夜は焼肉にするわ
No.733 通りすがりの冒険者
俺も
No.734 通りすがりの冒険者
私焼肉屋に行ってくる
No.735 通りすがりの冒険者
自分じゃ焼かないのね
No.736 通りすがりの冒険者
(*´з`)