これからも一緒に
さて、怒りのままにスライム投げで吹き飛ばしてしまったが、これどうなるんだ?
まぁいいや。なにはともあれ。
「召喚:スライム」
「すらっ」
「よしよし。やっぱお前はこうでないとな」
無事にスライムが召喚出来るようになってほっとした。
……って、あれ。結界は?
爺さん達が結界を止めてくれるにはまだ時間が掛かるはずなんだけど。
ま、何でもいっか。
それより外の戦いがどうなったかの方が気掛かりだな。
まずはここから出るか。でも道塞がれたままだしな。
「……よし。スライム。適当に壁をぶち破ろう」
「すらっ!」
「お誂え向きにさっき開けた穴から空が見えるからな。そっちの壁が外に続いてるみたいだ」
「すららっ」
元気よく返事をしたスライムは一瞬溜めたかと思った次の瞬間、音速を超えていた。
擬音語で表現するなら「ズドドドドッ」ってなるのかな。
まるでマシンガンでベニヤ板をハチの巣にするかのように壁が崩れ去っていく。
人ひとり分どころかもう柱しか残って無いんだけど。
「やりすぎじゃね?」
「すらっ」
「あー、お前も相当うっぷんが溜まってたのか。なら仕方ないな」
壁があった場所から外を見れば街が一望出来た。
さて、戦況は……あれ?静か?
「こういうのって至る所で火の手が上がってたり、怒号が響いてたりするものだと思うんだけど、違うのか?」
「すら……すらっ!すらっ!」
「屋根の上を見てって……あぁなるほど」
街の屋根という屋根にスライムが乗っていて、俺の姿を見るなり嬉しそうに飛び跳ねていた。
なるほど。いつの間にか街に入れるようになったから応援に駆けつけてくれたのか。
そしてもう街はスライムたちによって制圧されているから静かだったと。
これなら爺さん達の方も終わってそうだな。
そう思っていたら入口があった方が騒がしくなり、すぐに入口の壁が消えると爺さんたちが入ってきた。
「シュージ。教皇の奴はどうした?」
「え、あ~。すみません。怒りに任せてぶっ飛ばしたら、壁に穴を空けて飛んで行ってしまいました」
「は?……って、おいおい。何をどうしたらここの壁を壊せるんだよ!!」
「それはまぁ、スライムでぽーんとやれば?」
「うそだろっ」
どうやら教皇が居ない事よりも壁が崩れていることの方がショックが大きかったみたいだ。
爺さんは茫然と壁の穴に近寄って、崩れた部分を手で触っている。
「そんなことより、天界の門はどうなったんですか?」
「ん?ああ。そっちは無事に確保してある。
教皇も居なくなったのであれば、今後は自由に行き来が出来るようになるだろう。
あ、もちろん相応の資格は必要になるがな」
「資格……そうですか。
あ、あと気になってたんですけど、結界は?」
「結界か。実はな……破られた」
「破られた!?」
頭をボリボリ掻く爺さん。
本来なら強い魔物から守る為に造られた結界だから、早々破られるはずはないって話じゃなかったか?
「いったいどうして」
「結界にだって耐えられる限度がある。
Aランクを超える魔物が数千体も押し寄せてきたら、その昔、神が授けた結界だって破られるさ」
数千体の魔物ってどう考えてもスライムの事だよな。
ということは全部俺のせいか。
「ご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんかじゃねえって。むしろそれのお陰で直ぐに教会が降伏してくれて被害が減ったんだ。
感謝したいくらいさ」
「それなら良かったです」
「ああ。ところでお前さん、これからどうする?」
「どうするとは?」
「今なら聖神教の教皇になれるぞ?ちょうど世界も見ていることだしな。
ここで宣言しちまえば世界が認めることになるだろう」
親指でくいっと天井を指す爺さん。
そう言えばここの様子って全国放送されてるんだっけ。
というか、まだ止まって無かったの?
「別に俺は教皇とか興味ないので要りません。当分の間はこいつとのんびり世界を旅しますよ」
「やはりそうか。では今回の報酬は別で用意せねばな。
ふむ。なら先日、龍王様たちから挙がっていた件で良いだろう」
ん? 龍王様たちって。
若干嫌な予感がするんだけど。
「シュージ。スライムをこちらへ。なに、悪いようにはせん」
「はぁ」
爺さんがスライムに手をかざすと、スライムが光に包まれた。
突然の事に驚くスライム。だけどどうやら身動きできないようだ。
「すらっ!?」
「じっとしておれ。直ぐに終わる」
爺さんの言葉の通り、光は直ぐに収まった。
光が収まった後のスライムに、特に変わった様子は無くてほっとした。
戻ってきたスライムを抱きとめて撫でればいつもの嬉しそうな感情が伝わってくる。
「今のは何だったんですか?」
「なに、すぐにわかる。そうだな、シュージが街を出た後くらいに伝えるとしよう。
今伝えると世界が混乱するのでな。
さぁ、これから忙しくなるので、すぐに出発するが良い。
ああ、街を出る際に他のスライムも連れて行くんだぞ」
「はぁ、分かりました」
よく分からないけど、とにかく早く出て行ってほしいみたいだ。
別にもう用があるわけでもないので早々に出ることにしよう。
あ、その前に。
「爺さん、途中から背中の翼が出てきてるぞ」
「おっと、これはいかんいかん。見なかったことにしてくれ」
「はいはい。じゃあな、神様」
手を振って部屋を後にした。
しかし、いつの間に爺さんと神様が入れ替わってたんだろう。
もしくは最初から爺さんに成りすましていたのか?
ま、どっちでもいいか。
「次はどこにいこうか、スライム」
「すらっ」
そうして俺たちの冒険はまだまだ続いていく。
……
…………
………………
あれから2年後。
世界にはちょっとだけ変化が起きていた。
いま街や村で1つの遊びが大流行している。
それは……。
「いけっ、レッド!」
「がんばれ~、ミルキー」
2人の少年少女が向かい合うその間に居るのは2匹のスライム。
レッドとミルキーと名付けられた小さなスライムがぴょんぴょんと飛び跳ねながらバトルを繰り広げていた。
「よし、そこよ!」
ドンっ
レッドの身体が宙に浮いたところをミルキーが体当たりで吹き飛ばした。
「レッドーーー!!」
吹き飛ばされたスライムに思わず手を伸ばす少年。
そこでピッと笛の音が響いた。
「そこまで。勝者ミルキー!」
「やったわ、ミルキー!!」
審判役の人が高らかに宣言すると少女がスライムを抱きしめて喜ぶ。
逆に負けた方の少年も自分のスライムを抱きしめながら、キッと少女に指さした。
「次は絶対負けないんだからな!」
「ふんっ。何度来ても返り討ちにしてあげるわ」
「俺のスライムが弱いはずがないんだからな! 特訓して直ぐに強くなってみせるんだからな!!」
「ええ、楽しみにしてるわ。もっとも、それまでに私のミルキーももっと強くなってるから相手になるかしらね」
「言ったなこの」
「何よ。スライムバトルならいつでも相手になるわよ」
「ふんっ、次の勝負を覚悟してろよな!」
そう言って少年たちはスライムを大事そうに抱えてその場を去っていった。
一方。
『さぁやってきました。
第2回スライム王者決定トーナメント、決勝戦。
泣いても笑ってもこの1戦ですべてが決まる!
スライム王者の栄冠を手にするのは一体どちらなのか!!
そして今回はなんと。
スライム教の教主にしてすべてのスライム召喚士の父。シュージ・フルイム様もお見えになっております。
そのシュージ様の傍らにはもちろん。あの神獣スライム様もご一緒です。
こうして間近でみるとやはり愛らしさが一段と……はっ、失礼しました。
それでは、決勝戦。
はじめ!!!』
そうして大歓声のなか闘技場で向かい合ったスライム召喚士達の熱いバトルが始まるのだった。
これにて完結になります。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
(一応この後におまけを1話作ってあります)
最初はただの1発ネタの短編がまさか23万文字(後書きを入れればその1.5倍)になるとは全く想像できませんでした。
これもシュージとスライムさん(主にスライムさん)の頑張りと、皆様の応援があってこそです。
次回作について
次はVRで農家として頑張る少年と、料理人の少女のお話
https://ncode.syosetu.com/n1636gg/
あと、最後まで読んで感想とかあれば頂けると嬉しいです。
ダメ出しとかも全然OKなので楽しみにしてます。




