対人戦もスライムって効果的です
俺の言葉を皮切りに5レンジャー(笑)が武器を手にフォーメーションを取った。
ちなみに5人の武器は大剣、大斧、巨大ナックル、弓、魔法だ。
オダは昨夜とは違ってこっちの大剣が本命なのだろう。
近接の3人は破壊力重視らしい。盾役が欠如してるが大丈夫なのか?
あとどう考えても室内戦には向いてないと思う。
壁とか床とか壊れても知らないぞ?
まぁ良いんだけど。
この5人の中で誰が一番厄介かと言われたら魔法使いだろう。
だからそいつから潰すか。
「じゃあ、プレイボールってな」
「すらっ」
ドゴッ
俺の投げたスライムが風を纏って魔法使いの顔のすぐ横を通り抜け後ろの壁を破砕した。
その呑気な掛け声とはあまりに乖離のある状況に戦慄が走った。
「な……」
「なにをしやがったんだ?」
「スライムだ。スライムを投げたんだ。
あり得ねぇ。ほとんど見えなかった。時速200キロ以上出てたんじゃないか?」
呆然と背後の壁を見つめる5人。
唯一、弓使いだけが弾丸の正体を見極められたみたいだ。
というか、隙だらけなんだけど、やっちゃっていい?
「おーい、もしもーし」
「はっ!?」
「こ、このノーコン野郎が。びっくりさせるんじゃねぇ!!」
「どうでもいいけど次行くよ?」
「なっ。もう再召喚出来るだと!?」
「そりゃスライムだからね。てな訳で、ほいほいっ」
「すらっ」
ドガガッ
「ひぃぃぃ」
今度は2連続で魔法使いの顔を掠めるように飛んでいくスライム。
さっきと違ってスライムの威力が分かっているので恐怖もひとしおだ。
もう腰を抜かして魔法どころでは無くなっている。
「さぁ、どんどん行くぞ」
「くそっ、させるか。『神弓』」
ビシュッ、パシッ。
「すら?」
弓使いが放った矢、恐らくスキルで強化されていたんだろう、がスライムによって受け止められた。
こうしてみると、矢を射られたのはゴブリンアーチャー以来か。
あの時は身を挺して防いでいた矢も今では器用にキャッチ出来るようになったな。
やっぱこうして成長を実感できると嬉しくなるな。
よしよし。えらいぞー。
と、なごんでる場合じゃないな。
弓使いがありえないものを見た眼をしているし。
「嘘だろっ。『神弓』は3次スキルだぞ!」
「覚えたてならレベルが低いんじゃないか?」
「くそっ。ならこっちだ『爆裂連弓』!!」
「「すららっ」」
続いて放たれたのは炎を纏った矢だ。それも何本も連射してきた。
……どうでもいいけどスキル名を叫ぶのは癖なのかな?
さっきと同様に受け止めるスライム達。だけど名前の通り、受け止めた瞬間爆発するのでノーダメージとは行かないようだ。
1匹につき5本受け止めると光に変えられてしまう。
「よっしゃ、見たか!!」
いや、見てたけど。
秒間3発しか射れないのも見てたよ?俺のスライム連射の方が連射速度早いんだけど。
ただまぁ奴らからしたら、ようやくスライムに対抗する糸口を掴めて嬉しいんだろう。
「よし、俺達も続くぜ!」
「おうよ、どはっ」
「ぎゃはっ。だっせぇ、ぬわぁぁ」
駆け出そうとした斧使いとナックル使いだったけど、2歩目にしてナックル使いがこける。
それを見て笑おうとした斧使いもまたつんのめって顔面から地面にダイブした。
こうしてみると足を粘着で固定するスライムは凶悪だな。
こけた2人にすかさず組み付いたスライム達が関節を極めて体の自由を奪うまで10秒と掛かってない。
「くそっ、なんだこれ。動けねぇ」
「こんなもの、力づくで……なんでだ、外れねぇ」
そりゃ仮にステータス上で力が上回ってたとしても万全の体勢ならだ。
組み伏せられて関節極められた状態で満足に力は発揮できないだろう。
「ちっ、仕方ねぇな」
「あ、止せバカ!」
「え?うげっ、離せこの!!」
二人を固定しているスライムを外そうと手を伸ばした弓使いが、オダの制止もむなしく一緒に粘着される。
さらに崩れた態勢の上からダメ押しのスライムが降ってきて団子状態に。
あ、斧使いの尻に顔突っ込んじゃった。
すまん、ワザとじゃないんだ。
「くそっ。どいつも使えねぇ。
どいてろ。昨日の借りもあるからな。俺がぶった切ってやる。『炎熱』!」
オダが剣に炎を纏わせて慎重に距離を詰めてくる。
「(すらっ?)」
天井に張り付いたスライムから「やっちゃう?」って聞かれたけど多分それすると終わっちゃうから待つように伝えておく。
ただその動きがオダからすると別の意味に取れたんだろう。
「またそうやって俺の隙を引き出そうって魂胆か。甘いんだよ!
吹き飛べ!『爆裂円舞』!!」
オダが剣を横薙ぎに振るうと炎が波のように全周囲に吹き荒れた。
……って背後の仲間にも当たってないか?
俺はスライムが盾になってくれるお陰で何ともないんだけど。
俺の姿を確認したオダもニヤッと笑っている。
「へ。流石にこれだけじゃ死なないよな。
そう来ねえと面白くねぇ。どんどん行くぜ『劫火斬』『灼熱旋風』『溶解斬り』」
技のどれもが炎属性だな。
うーん、威力はそれなりなんだけど、避けるのも防ぐのも難しくないな。
そして避けたら周囲が盛大に燃え上がっていく。
お陰で室内の気温がどんどん上昇してるんですが。
もしかして本能寺の変ですか?
「よっしゃ熱くなってきたぜ!
お次は……」
「いや、お前が暑苦しいから」
「ぶへっ」
大技ばかりで隙がデカいもんだから、楽に懐に踏み込めた。
そしてなぜか使い慣れた右アッパーでオダの顎を打ち上げる。
そのままスライムに背後に回ってもらって前後からタコ殴りにしてみる。
某世紀末アニメなら「アタタタタッ」とか言ってそうだ。
と、あまり力を込めると死んじゃうな。回復回復っと。
最後にボケっと眺めていた魔法使いに向けて蹴り飛ばす。
「ほげっ」
「ぐはっ」
まったく。この程度で目を回すようじゃ、ウサギに瞬殺されるぞ。
さて。そろそろいい時間かな。
俺は5レンジャー(笑)がまだ立ち上がってこれないのを確認してから、最初に開けた壁の穴に向かった。
「ま、まて。逃げるのか!?」
「ああ。生きてたらまた会おう。じゃあな」
そう一言残して俺は穴から外へ飛び出した。
そして待っていてくれたクディの背中に着地してその場を後にした。
次の瞬間。
轟音と共に要塞は崩れ落ちていった。
「元々殲滅戦じゃなくて攻城戦だからな。
目標の要塞を破壊すれば文句なくこっちの勝ちだろう」
ちなみに要塞が崩壊した原因だけど、要塞の1階部分を占領したスライム達が、壁や柱を破壊して回った結果だ。
所詮土の壁だからな。黒龍王の鱗に比べれば豆腐を切るより簡単に破壊出来る。
ただちょっと範囲が広いから、破壊し終えるまでの時間稼ぎに俺が天守閣に突撃したに過ぎない。
<要塞の崩壊を確認しました。
これにより、今回のクランバトルはスライム教国の勝利となります。
戦闘フィールドは両陣営のリーダーが健在な為、引き続き維持されます。
なお、1時間後に戦闘フィールドは消滅し、同時に敗北側のメンバーは強制的にフィールド外へ転移させられますのでご注意ください>
あら。てっきり崩落に巻き込まれて死ぬと思ってたのに、しぶといな。
まぁ今も周囲にはスライムが網を張ってるし、これでもし無事に島の外に逃げられたらそれはそれで褒めてやってもいいかな。
ただ逃げた後であいつの居場所があるかどうかは知らないけど。
さて、東の海岸に行って村の青年団と合流するか。
クディに行き先を指示しながらのんびり飛んでいけば、俺の姿を見つけた村人たちが岩の影から出てきた。
俺は村人たちを視界の端に映しながら周囲の状態を確認する。
……よし。
「シュージ様」
「皆さん無事ですか?」
「はい、ですが……」
口を濁す村の青年団の代表コン。
「何か問題があったかな?」
「それが一つ謝らなければならないことがあります」
「予想は付くけどまずは聞こうか」
「はい。俺達、あれだけ啖呵切ってシュージ様の役に立とうとこの海岸で張っていたのですが、その、何もできず、奴らを船まで逃がしてしまいました。
申し訳ございません」
「やっぱりそうか」
海岸には争った跡が全く無かった。
だからそうなんじゃないかと思っていたんだ。
「一応訳を聞こうか。あ、先に行っておくけど、このことで俺が怒る事は無いから安心してくれ」
「あ、ありがとうございます。
俺達はシュージ様の作戦の通り、この海岸で逃げてきた奴らにとどめを差す為に向こうの岩の影に待機していました。
しかし、いざ逃げてきた奴らを見たら余りにボロボロで。
そんな奴らに追い打ちを掛けたら俺達まで外道に落ちる気がして、どうしても出来ませんでした」
「そうか」
これが戦争だったら、なに甘い事言ってるんだって叱る必要があるけど、そうじゃないからな。
憎しみだけで相手を殺すようなら逆に彼らの未来を心配するところだった。
「それで良いんじゃないか?
結果として失われたものが返ってくる訳でも無いし。
怖気づいたって訳でもないだろ。
なら次に守るべきものがあるときに、全力で立ち向かえればいいさ」
「はい!」
「今回は手を汚すのは俺だけで十分だ」
そう言って海に視線を送ると、沖合で火柱が上がった。
「あれは!?」
「あいつらが乗ってきた船。これで当分こっちに戻ってくることも出来ないだろう」
「…………」
青年たちの視線にそこまでするのかと畏怖の念が籠められる。
うーん、怖がられなければ良いんだけど。
ちなみに奴らの船に忍び込ませておいたスライムには出航して海岸からある程度離れた所で爆破するように伝えておいたんだ。
お陰で良い感じに爆炎を上げている。
渡した爆弾だけだとこうはならなかっただろうから、船の燃料に引火したんだろう。
これ夜にやったら綺麗だったかもな、って言うのは場違いな感想か。
その後、戦闘フィールドの消滅を確認してから、村人たちを北の避難地から村へと搬送し、奴らに破壊された家屋などを補修して回った。
あ、手伝ってくれた曇鳥たちには後日ごちそうしてあげないとな。
あと聞けばこの辺りの海流は大まかに行くと時計回りに回っているらしい。
なので北側の海にスライムを送り込むと東へと流れて、東の大陸との中間あたりで海流がぶつかるのでその辺りで南下。大きく回ってこの島と南の島の間に戻ってくるらしい。
よしよし、これで海の掃除もこっち側はある程度目途が立ったな。
後書き掲示板:
No.413 通りすがりの冒険者
これ見てるとぶっちゃけ3次職ってどうなんって思うな
No.414 通りすがりの冒険者
まあなぁ~
一応2次職からの変化を挙げると大体こんな感じかな
・基本ステータスが20~100アップ
・職スキルが軒並み1~3アップ
・より高性能のスキルが習得できる
・見た目がちょっと格好良くなる
No.415 通りすがりの冒険者
ステータスは400が500になる程度か。
そこだけ見ると10~15レベル分ブーストした感じだな
爆発的に強くなるわけではないと
No.416 通りすがりの冒険者
既存スキルのレベルアップが嬉しいね
高レベルになるとなかなか上がらないから
No.417 通りすがりの冒険者
新スキルは……威力や範囲だけで見れば既存スキルの+5レベルと思えばいいかと。
レベル1からだから上がりやすくなってるってメリットはあるけど取得したらすぐ強いって程じゃない。
あとエフェクトが派手。
No.418 通りすがりの冒険者
見た目は……まぁ人それぞれかな
No.419 通りすがりの冒険者
見落としがちだけど、ステータスの成長率が上がってるぞ
No.420 通りすがりの冒険者
じゃあ高レベルになる程、2次職と3次職に差は広がっていくけど、
ぶっちゃけ3次なりたてのレベル50と、レベル60の2次はそんなに変わらないのか。
No.421 通りすがりの冒険者
ただ個人的にはこのゲーム、ステータスよりスキルレベルの方が重要な気がする
No.422 通りすがりの冒険者
能力アップ系のスキルもレベルが上がると高性能
No.423 通りすがりの冒険者
ならさ
教主の強さの秘密はスキルレベルってことになるのかな?
No.424 通りすがりの冒険者
あの人、1次職らしいしな
延々と基礎スキルのレベル上げてれば強くはなるだろう。
物凄く地味な作業だけど
No.425 通りすがりの冒険者
なんでジョブアップしないの、あの人。
縛りプレイかなにか?
No.426 通りすがりの冒険者
謎だな。そもそもあの人、ほとんど他のプレイヤーの居るところに居ないし。
話したことある奴だって、もしかしたら片手で足りるんじゃないか?
No.427 通りすがりの冒険者
まさかな……いや、ありえるのか?
No.428 通りすがりの冒険者
最初はどうかは知らないけど、
北の岩山では背中から惨殺され、
イベント終了後は毎日のように拠点が襲撃され、
関連現地民を含め本人にも暗殺者が送られ、
……俺だったら辞めるか引き籠るな。
No.429 通りすがりの冒険者
そういうのに抵抗してた結果、今の状態になった?
No.430 通りすがりの冒険者
逆境は人を強くするっていうし?
必要は発明の母ともいうし?
No.431 通りすがりの冒険者
だからってあれはもう、どこのレイドボスだって感じだけどな
No.432 通りすがりの冒険者
ああ、そうか!
レイドボスだって考えたら3次職100人でも分散してたら勝てないのも納得だな!!
No.433 通りすがりの冒険者
やべぇ
今、北のドラゴンと肩並べてる教主を想像しちまった




