要塞攻略にもやっぱりスライムです
今回の後書きはちょっと暗い話になってます。
よし、これでこっちは何とかなったな。
やっぱり現地の人に被害が出たり人質に取られたりするのが一番気がかりだったから、そこが解決できてよかった。
「では皆さん。お伝えしておいた通り、明日一日、ここで待機をお願いします。
遅くても日暮れまでには終わらせますから」
「それなんだが」
「はい?」
「俺たちにできることは何かないか?」
「頼む。このままやられっぱなしは許せない」
そう言ってきたのは、村の青年たち。
まぁそれはそうか。
突然襲撃されて、訳も分からない内に奴隷としてこき使われたんだ。
ただただ救われて良かったね、とはならないだろう。
でも要塞攻略戦に参加させれば相応の被害が出るだろう。
せっかく助けたのに死なれたら元も子もない。
かと言って我慢しろっていうのも良くない。
どこかちょうどいい妥協点は……
「そういえば、あいつらが乗ってきた船ってどうなってるか知ってますか?」
「あぁ。それなら東の海岸に停泊してるぜ」
「今まで見たこともない鉄で出来た船だから見れば一発でわかるだろう」
って、まさか鉄鋼船を作ったのか!!
世界観ガン無視だな。
動力はなんだ? まさか石炭とか言わないと思うけど、魔石かな。
しかし、そうすると逃げるとすれば船だろうな。
「よし、なら皆さんには奴らの退路を断つ役目をお願いします」
「おう、任せてくれ」
「作戦はこうです。
明日の朝、俺が南の海岸から大々的に襲撃を仕掛け、奴らの要塞を破壊します。
その際、どうしても俺一人だと取り逃がしが発生します。
逃げた奴らは東の海岸から船に乗ろうとするはずなので、無事に逃げ切れたと油断したところを皆さんで一網打尽にしてください。
そうすれば普通に撃退するより、遥かに絶望感を与えることが出来るでしょう」
そう伝えると口々に賛同の声が上がった。
同時に幾つも質問の声が上がる。
「土魔法で作った即席の要塞とはいえ、一人で攻略できるのか?」
「ええ、あんなの泥船よりも脆く崩壊するでしょう」
「奴ら、見たこともない技を使ってたぞ!」
「大丈夫です。奴らに反撃の糸口すら与えません。
徹底的に自分たちの行いを後悔させてやります」
「そこまでしてもらっても、俺たちに返せるものが何もないんだが。
島の特産の酒も奴らに飲まれてしまっただろうし」
「そうですね。ならこれが終わった後、俺の仕事をちょっとだけ手伝ってください」
ほかにも幾つも出てきたが、できるだけみんなが納得できるように丁寧に説明していった。
そうして日付が変わる頃、作戦の最終確認をして、俺は村人たちと別れた。
そして決戦の朝を迎えた。
現地時間で午前9:00。
<ワールドアナウンス
本日10:00より、スライム教国VSクラン【バイキング】のクランバトルを開始します。
バトルの様子は完全生放送にて皆様に提供致しますが、公正を期すためにバトル終了まで一切バトル参加者との連絡は取れなくなります。
なお、バトル終了まで他のプレイヤーは戦場に入れませんのでご注意ください>
そんな放送が流れた。
クランバトルは初めてだけど、こんな放送が流れるんだな。
俺は南の島の北端にて開始の合図を待っていた。
天候は曇天。今にも嵐になりそうな空模様だ。
海は大時化。波も高く普通の船だと転覆は免れないだろう。
絶好の戦争日和ってところだ。
対岸を見れば、何人かのプレイヤーの姿がちらほらと見える。
どうやら無事に睡眠と泥酔は治してきたみたいだな。
まぁ100人も居れば回復魔法の使い手もいるだろうしな。
そして10:00。
向こうの島から鬨の声が上がったのが小さく聞こえてきた。
「じゃあクディ。頼むな」
「クディー」
死の大地に居たはずだから間に合うか心配だったけど、昼夜を問わず飛び続けてくれたようで無事に決戦に間に合ってくれた。
そのクディの背に乗って俺は南の島の北岸を飛び立った。
クディの姿は向こうから容易に視認できただろう。
すぐさま向こうの南岸が慌ただしくなったのが見て取れる。
このまま行けば遠距離攻撃が大量に飛んでくることだろう。
だけど俺達は特に気にせずにのんびりと飛び続けた。
そして弓が届く手前に差し掛かった頃。
とうとう曇っていた空から大粒の雨が降り出したのだった。
それは、遠目から見るとまるで雲そのものが降ってくるかのような光景だった。
降り注ぐ大粒の雨。いや、それは雨というにはあまりに大きい。
「クディー」
「「グケェー」」
クディの鳴き声に呼応して大音響が島中に響き渡った。
そう、降ってきたのは雨などではなく曇鳥の大群だった。
ある程度の高さまで降りてきた曇鳥は反転、雲の中に戻っていく。
その際、その背中に乗っていたスライムを爆弾のように投棄していった。
奴らの防衛拠点の位置は昨夜のうちに把握済みだ。
そこに3000を超えるスライムが集中して降り注ぐ。
島の至る所で上がる怒号、悲鳴、そして魔法やスキルと思われる爆発。
奴らは自分たちを3次職だって自慢してたけど、うちのスライムは既にLV100を超えている。
ステータスの値だけで見れば確実にスライムたちの方が上だろう。
スキルという意味では流石に向こうに軍配が上がるかもしれないが、たかだか3次職のスキルがうちのスライムに効くと思ったら大間違いだ。
こっちは1か月間、毎日のように死の大地の魔物たちを相手にしてたんだ。
あの理不尽なまでの強さに慣れてしまえば、3次職程度どうってことない。
ダンさんに殴りかかられた時、遅いなって思ったけど、速さの基準がおかしくなってたんだよな。
そうして俺はほとんど攻撃を受けることなく、各地の戦況を確認してから要塞の上空へとたどり着いたのだった。
「さて。馬鹿と何とかは高いところに居るって相場が決まってるから……あそこだな。
行くぞスライム!」
「すらっ」
スライムと共にクディの背中から飛び降りた俺は、そのまま要塞中央へと突撃した。
ドゴッと外壁に穴を空けつつ内部へ。
やっぱ黒龍王の鱗に比べたらただの土壁なんて脆いな。
「さて、徳川は居るかな?」
「オダだ!!」
部屋の中を見回しながら声を掛けたら、無事に返事が返ってきた。
声のした方を見れば、オダと愉快な仲間たちが計5人立っていた。
「誰が愉快な仲間たちだ!!」
「あ、すまん。声が漏れてたか」
いやだってなぁ。
コスプレっぽい恰好で佇む5人を見たらどうしても。
(5レンジャー(笑)だな)
うん、『五人組が逝く』というより『5レンジャー(笑)』って言った方がしっくりくる派手さ具合だ。
あの衣装用意するのも大変だったんじゃないか?
「お前が噂のスライム使いか」
「まさかこれだけ大量のスライムを使役してるとは思ってもみなかったがな」
「だけど所詮スライム。多少数が多くてもすぐに討伐出来るだろう」
「お前が卑怯な手を使って奴隷たちを解放したのは分かってるんだからな。
二度と反抗出来ないようにズタズタに引き裂いて、この先も延々と殺し続けてやるから覚悟しろ」
なにやら色々とほざいていらっしゃる。
ちなみに昨日送っておいたGMコールの結果は、
『現在状況を確認しております。クランバトルが終わりましたら改めて処罰等を行います』
という回答だった。
つまり存分にやってくださいってことなんだろうな。
なので心置きなくやらせてもらおう。
しかしこいつらの余裕っぷりは何なんだろう。
「お前たち、各地の状況って把握できているのか?」
「あん? 当たり前だ。逐一メールで連絡するように伝えてある。
大方もうすぐスライムの討伐完了の連絡が来るだろうさ」
「そうなのか」
逆に言えば連絡がこないと把握できないってことなんだな。
まぁそうだろう。
じゃなきゃこんなに冷静で居られるはずがない。
「ちなみに俺は自分のスライムの状況をほとんど把握できている訳だが。うん」
「な、何が言いたい」
「いや、影鬼と缶蹴り楽しかったなぁって」
「はぁ!?」
この島、地面は平らじゃないし木や草むらも多いしで隠れる場所は幾らでもある。
そして隠れて相手の隙を窺ったり、忍び寄ったり、逃げ道を塞いだりするのはスライムたちはお手の物だ。
お陰で俺はほとんど再召喚することもなく、各地からの殲滅報告だけを聞いている状態だ。
一応東に逃走しようとする奴については命だけは見逃すように伝えてある。
そしてまだバトル開始から20分くらいしか経っていないのに、既にこの要塞の1階部分もほぼ制圧が完了している。
2階3階にも何人か配置されているだろうけど、最上階のここには下の階の喧騒は届いてこない。
ここだけ無駄に防音がしっかりしているのか?
あー、奥にある扉がなんか怪しいな。まぁいいや。今は関係ないし。
「ひとつだけ良いことを教えておこう」
「あん?」
「こっち側のプレイヤーは今回俺一人だ。つまり俺を倒せばお前たちの勝ちってことだな」
「ほぉ、そりゃありがたい。お前を殺す前に勝負が終わる可能性があるんじゃないかと心配だったからな」
「つまり俺達は心置きなくお前をなぶり殺しにすればいい訳だ」
「出来るならね。さて、御託はこの辺にして始めようか」
一方的な蹂躙をな。
時間的にはシュージがGMコールした30分後。
某所会議室にて。
ロの字型に並べられた席に座る30人程の男女の間には実に重苦しい空気が満ちていた。
全員が集まったのを確認して最も上座に座る男性が口を開いた。
「さて諸君。すでに諸君も今回の緊急招集について議題の想像は付いていると思う。
なので初めに聞いておこう。
私は本件は黒だと断定する。レベルは4だ。
私の考えに異議があるものは手を上げてくれ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「よろしい。では具体的な処分内容の検討を行うために、改めて今回の議題について説明しよう」
その言葉を合図に部屋の照明が落とされ、中央にホログラムで1つの島が投影された。
「この島は大陸の西にある列島の1つポンシュ島だ。
今から2週間ほど前。ここがとあるプレイヤークランによって占領された。
占領したプレイヤーたちはこの島を自分たちの領土とし要塞化を進めている。
また現地住民を使役し、それらの活動に協力させている。
と、ここまでは想定の範囲内だ。
多少、こちらが考えていたよりも早くはあるが、力を付けたプレイヤー達が自分たちの国を興そうとするのは必ずしも間違いとは言えない。
問題はここからだ。
彼らは現地住民を支配するために子供たちを人質に取り、隷属の首輪を使って住民すべてを奴隷化している。
そして更には人質に取った子供たちと戦力にならない老人たちを1つの部屋に押し込めた。
これからその室内の様子を映すが、みな気を確かに持って見てほしい。
覚悟はいいな。
では、映すぞ」
サッと島の映像が消えた後、慎重に少しずつ焦点を合わせるように1つの部屋の映像が映し出された。
途端、何とか悲鳴を堪えたくぐもった声が各所から上がる。
「っ!?」
「うっ!」
「こ、これではまるで、強制収容所じゃないか!!」
「……その通りだ。しかもログを確認したところ、部屋の天窓を外から覗いていたという記録が見つかった」
「信じられん。現代でこれを平気でやる人間がいるとは」
そこでサッと画像が消され部屋の明かりが点けられた。
「さて改めて問うが、彼らに対し即刻強制アカウント停止措置並びに警察組織への情報提供を行うことに異議のあるものは?
居ないな。
なお強制アカウント停止についてだが、現在とあるプレイヤーが彼らに反旗を翻している。
それが終わるのを待って実施するものとする」
「そのプレイヤーとは?」
「ゲーム内ではシュージと名乗っている。1次職の中でも特に珍しい職のまま、恐らく全プレイヤーの中でいま最も注目を集めている者だ」
「なるほど、彼ですか。しかし、彼1人では流石に今回の件は荷が重いのでは?」
「少なくとも本人は何とかするつもりのようだ。
そして不思議な事に、この世界そのものが彼に賛同している節もあり、我々の介入に待ったをかけた」
「まさか!?確かに自由判断素子により製作者の意図を越えて動くことはありますが」
「子供は親の思い通りにはならないってことね」
「ならば見守ろうではないか。
我らが生んだ世界が、我々の想像を超えて成長していく瞬間を」
「ふふっ。所長は時々ロマンチストになりますね」
「いけないかね?」
「いいえ。そんな所長だからこそ我々はこうして集まっているのだと思いますよ」
そうして最後は若干和んだ雰囲気のまま会議は終了していった。
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補足:危機レベルについて
レベル1:領域滅亡の危機(以前、村イベントで村を壊滅させたのがこれに当たる)
レベル2:都市滅亡の危機(バイオハザードなどにより始まりの街クラスの街が住めなくなる場合)
レベル3:国家存亡の危機(国家間の全面戦争がこれにあたる)
レベル4:プレイヤー存続の危機(プレイヤーと現地住民の全面戦争もこれに当たる)
レベル5:世界滅亡の危機(運営終了)
今回の場合、西の島国を占領するだけならセーフ。
しかし強制的に奴隷化した時点でアウト。この時点で危機レベル2に該当。
またこれは全世界からの敵対を意味する行為と認識される。
またそのまま西の島国を奴隷支配する行為は危機レベル3に相当する。
問題は、この行いがプレイヤー全てに該当する行いだと判断された場合。
そうなると世界中でプレイヤーがテロリスト認定され、街に居られなくなる。
更にそれに不満を覚えたプレイヤーが現地民を襲撃した場合、そのままプレイヤーと現地住民の全面戦争に発展する。
よって今回は危機レベル4と判断された。
危機レベル3までは運営が直接介入することはほとんどないが、
危機レベル4,5の場合、そうなる前に運営が手を出すことになる。
またいずれにおいてもこれを引き起こしたプレイヤーにはリアルの国家機関へ情報が上げられ犯罪予備軍として監査が入る。




