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薔薇と林檎と百合

男には決して踏み込んではいけない戦場があるんです。

というか、何をどうしたらこのルートに入り込んだのか。

 コンディさんを連れて屋敷に戻ると一様に驚いた顔に出迎えられた。

 特に興奮しているのが伯爵だ。


「信じられん。まだ1日と経っていないんだぞ」

「普通はどれくらい掛かるんですか?」

「私が行ったときは中間地点までで5日掛かった」

「え、そんなに? だって正しいルートは分かるんでしたよね?」

「いや、それが分かるのは後半のみだ。前半は純粋な迷路となっておる」


 そうだったのか。

 それならそんなに時間が掛かるのも納得かな。

 俺の場合スライムのお陰で虱潰しに道を調べることが出来たけど、それが出来ないと延々と行ったり来たりする必要があっただろうしな。

 それもきちんとマッピング出来てれば良いけど、それが出来ないと同じコースを何度も通る羽目に。

 やっぱりそう考えると、うちのスライムはチートだな。

 伯爵にスライムの事を伝えるとしきりに感心していた。


「しかし、君の場合後半はどうしたのだ?

 純粋な人族では最奥部の魔物が放つ香りをたどることは出来ないはずだが」

「それもスライムで何とかなりました。

 うちのスライムは以前境界の向こう側に生息している同様の魔物のアイテムを取り込んでいたので、臭いの識別が出来ましたし、微細な風の流れも感じ取ってくれたので、それらに気づいてからは一直線に奥まで迎えました」

「はぁ……信じられん。最弱の魔物と言われるスライムに、まさかそんな活用法があろうとは」

「あ、ちなみに他のスライムじゃこうはいかないと思いますよ」

「ふむ。スライム教の開祖は伊達ではないという事か。

 これを機に我が領も全面的に改宗を進めるべきだな」


 あれ、スライムの自慢をしてたらいつの間にか宗教勧誘になってる!?

 なんかいろんな所で言われてるからもう否定する気も失せて来たけど、ローラさん達は大丈夫だろうか。

 現行宗教から嫌がらせを受けてないかだけが心配だな。

 って、それはまた後で考えるとしてだ。


「結局、最深部到達の証明ってあれを見せればよいのですか?」

「ん?おぉ、そうだったな。

 見せてくれ。君はどんな新種の果実を授かってきたのだ?」

「え?」

「ん? 違うのか?

 最深部に居るユグド様の問いかけに答えたのであれば褒美に新種の果実をさずかったであろう?」

「いえ。俺が預かったのはこれです」

「なっ!?」


 ポンっとアイテムボックスからユグドの枝を出して見せると伯爵は腰を抜かす勢いで倒れてしまった。


「こ、こここ、これは。まさか」

「はい。ユグドの枝です。確か分霊が籠められてるって言ってました。

 そしてこれを然るべきところに植えてほしいというのが、ユグドからの依頼です」

「何という事だ。これは急ぎ陛下に報告を上げねば。

 シュージ君。いや、シュージ殿。

 今日はもう遅い。今晩は当家で休んで行かれるが宜しかろう」

「は、はぁ」

「済まないが私はこれで失礼するよ」


 そう言って足早に走り去ってしまった伯爵。

 態度の豹変といい、いったい何があったんだろう。

 ここに居る中で分かるのは伯爵夫人のコリンさんくらいかな。

 って、コリンさんはコリンさんでめっちゃニコニコしてるし。


「えっと、説明を頂いても?」

「ええ。一言で言えばシュージさんは当家と同等かそれ以上の立場になったということよ。

ディーちゃん、良かったわね。

あなたの旦那様はもしかしたら1国の主になるかもしれないわよ? ふふふっ」

「1国のあるじ……王……」


 また随分話が飛んだな。

 コンディさんも王と聞いてフリーズしてるし。


「シュージ様。わ、わたし……」

「こらっ」

「あいたっ」


 急に傅こうとしたコンディさんの頭をコンっと叩く。


「周囲に流されないの。

 俺は俺。周囲から何と言われようと俺自身が変わった訳じゃないんだから今まで通りでいいんだ。

 家族に平伏されるとか嫌すぎるだろ。俺は亭主関白は趣味じゃないから」

「は、はい。すみません」

「分かればよろしい。

 で、さっきの伯爵の様子からして、明日明後日にも魔王様に会いに戻る必要がありそうですね」

「ええそうね。いま夫が陛下に報告に上がっているはずだから、明日には呼ばれるでしょう。

 なので今日のところは早めに休んでおいた方がいいわ」

「ええ、そうさせてもらいます」


 コリンさんに挨拶して宛がわれた客室へと下がった。

 そして翌朝。

 朝食を終えた俺達は揃って魔王城を訪れていた。


「この前は当分帰らないって雰囲気だったのに、すぐ戻ってきたな」

「ふふっ、そうですね。みんなどう思うかしら」


 そう言ったら転移門から案内してくれていたメイドがにやっとこちらを振り向いた。


「『彼に振られちゃったのね!』とか揶揄おうと思ったんですけどね~。

 そんな仲良さげな姿を見せられたら言うに言えないわ。

 それで今回は何の報告?

 流石にデキちゃうにしては早すぎるしねぇ」

「デキるって……」

「はぅ」


 幾らゲームの世界でも流石に1日2日で赤ちゃんは出来ないだろう。

 というか、子供作れるの?っていう疑問が先だな。

 まぁもしかしたらゲーム的超機能で同衾したら翌朝には、なんて可能性もゼロじゃあないけど。

 そんな事を話してたらいつもの会議室に着いた。

 部屋の中には既に魔王様と宰相が待っており、俺とコンディさん、伯爵と伯爵夫人の計6人で机を囲んだ。


「さて。デルモント伯爵から報告を受けたが、シュージ。

 ユグドの枝を授かったそうだな」

「はい。お見せしますか?」

「いやいい。流石にこの部屋には収まらんだろうしな。

 それと確か、死の大地の一角に拠点を設けたとも言っていたな?」

「ええ、向こうとの行き来を便利にするために、黒龍王さんに造ってもらいました」

「ふむ。そしてスライムか……」

「すらっ?」


 スライム?

 今の話の流れでスライムがどう絡んでくるんだ?

 一瞬考え込んだ魔王様だったけど、ひとつ頷くと横の宰相に視線を送った。


「宰相」

「はい、条件は満たしているかと」

「うむ。

 シュージよ。この世界で国を興す為には幾つかの条件がある。

 1つ、固有の領土を持つこと。

 2つ、神に匹敵する存在に認められること。

 3つ、象徴となる存在があること。

 4つ、既存の国家が認めること。


 これらを満たせば良いのだ。

 1つ目は死の大地で良かろう。かの地の魔物たちとも良好な関係を築けているようだしな。

 2つ目はユグドから枝を授かったことで証明されている。黒龍王たちもそうだな。

 3つ目はシュージの場合、スライムで良いだろう。というよりそれ以上に適したものなどないだろう。

 4つ目は私が認めれば……」

「ちょぉっと待ったーーー!!」


 バンッと扉を開けて入ってきたのは真紅のバラのような美しいドレスを身に纏った、ミーシャだった。

 会議室に入ってきたミーシャは俺の胸倉を掴む勢いで迫ってきた。


「……」

「ミ、ミーシャ?」

「……」

「えっと……ドレス、似合ってるよ?」

「ふぅん。言いたいことはそれだけなのかしら?」

「他には……その指輪? ミーシャの髪の色と一緒で綺麗だね。

 あと、その~、顔がちょっと近いかな~」

「ふふふふっ」


 ちょっ、怖いんですけど。

 よく見れば後ろにはやれやれと言った感じのリャンさんも居る。

 こんな凄まれる覚えがないだけど、誰か説明を!

 と、その願いが叶ったのか、コンディさんが助け船を出してくれた。


「シュージ様。もしかして、そのドレスはシュージ様がミーシャ様にお贈りしたのですか?」

「え、ええ。多分。リャンさんにお願いして作ってもらったものかと」

「まるで誂えたかのような、フィット感ですが」

「はい。換装の魔道具で着替えるために、ぴったりサイズにする必要があったので」

「指輪までお送りになられたのですか?」

「それは身に覚えが……って、もしかしてそれが換装の魔道具なのかな」


 あ、あれ?おかしいな。

 助け船かと思ったコンディさんからも喚問を受けているような。

 いかん、背中の冷や汗が止まらないぞ。


「はぁ~~。シュージ様。

 女性にドレスを贈るというのは、それもぴったりサイズともなると『私は貴女の全てを包み込みたい』という意味があるんですよ。

 そこに更に指輪ともなると、完全にプロポーズと思われても仕方がないかと」

「え、そうなんですか!?」

「そうなんです。そして……」


 そこで言葉を区切ったコンディさんはミーシャと目を合わせるとにっこりと笑った。


「贈られた服を着て、贈り主に会いに行くというのは、プロポーズを受け入れたという事です。

 ですよね?」

「うっ。それは、その……」


 途端に真っ赤になるミーシャ。

 これはこれで可愛いな。

 って、そんなことを考えている場合じゃないか。


「リャンさん? もしかしなくても全部知ってましたよね?」

「はっはっはっ。ナンノコトカナー」

「うわっ、白々しい」

「と、とにかくっ」


 真っ赤になったままミーシャが魔王様を睨みつけた。


「国家の結びつきを強めるには政略結婚と相場が決まっているでしょ。

 だから、仕方ないから、私が行ってあげるわ!!」

「そう言って、政略結婚はただの口実なんですよね?」

「ディーっ!?」

「ふふふっ」


 真っ赤になったまま慌てるミーシャと楽しそうに笑うコンディさん。

 あの、出来れば俺を間に挟まないでくれると嬉しいんですけど?

 助けてくれスライム。

 え、無理?

 だがそこに、救世主が姿を現した。


「その話、是非とも私も混ぜて頂けますでしょうか?」

「誰!?」

「うっ、眩しい」


 ミーシャが開け放った扉から、誰かが後光と共に入ってきた。

 って、この声は!


「ローラさん!?」

「はい、シュージ様。ご無沙汰しております」


 そう言って静かに礼をしたのはイニトの街のローラさんだった。


「向こうの教会に居るはずのローラさんがどうしてここに?」

「あら、国家間の転移門を開いたのはシュージ様だと伺いましたよ?

 それなのになかなか帰ってこないので、こっちから会いに来ちゃいました」

「来ちゃいましたって、ここ曲がりなりにも魔王城なんですけど」

「皆さん快く道をあけてくださいましたわ。

 それよりも。

 シュージ様の家族会議ならば私も混ぜてもらいますね」


 朗らかな笑顔のローラさんだけど、不思議と抵抗してはいけないと俺の第六感が警鐘を鳴らしまくっていた。


「さ、シュージ様はまだそちらのお話が済んでいない様子。

 私どもは別室でお茶にしましょう」

「ええ」

「そうね」


 なぜかローラさんの仕切りの元、別室に移動していく3人を俺はただただ見送るのだった。


<ミーシャ(ミラシャンティリス)が傘下に入りました>



後書き掲示板:

No.422 通りすがりの冒険者

もうすぐ、あとちょっとパラダイスが俺の手に


No.423 通りすがりの冒険者

うへへぇ~マロンちゃんの水着は俺のものだ~


No.424 通りすがりの冒険者

……大丈夫か?何があったかは大体想像がつくけど


No.425 通りすがりの冒険者

イベントの準備だろうね~

今回、ガチ攻略組とエンジョイ組で完全に分かれたからどこも人手不足なんよ


No.426 通りすがりの冒険者

特にエンジョイ勢は3次に辿り着いてないのがほとんどだからな

素材の収集一つとっても時間が掛かる


No.427 通りすがりの冒険者

攻略組に頼ろうにもあいつらはあいつらで船と要塞づくりで手一杯だしな


No.428 通りすがりの冒険者

あと一番心配なのはこの計画に運営が乗ってくれるかどうか、だな


No.429 通りすがりの冒険者

今までの傾向から考えれば大丈夫だと信じたいが


No.430 通りすがりの冒険者

海岸の北側にガチ組、南にエンジョイだからな。

これで南側に魔物の大群とか押し寄せたら目も当てられない。


No.431 通りすがりの冒険者

その場合、北側は放置プレイか

ちょっと見てみたいかも


No.432 通りすがりの冒険者

あとこれをきっかけに西の島国に渡ろうって計画してる奴らも居るな


No.433 通りすがりの冒険者

無理じゃね?なんか西に行き過ぎると急に渦巻いてたり嵐になったりするぞ


No.434 通りすがりの冒険者

ワンチャン、漂流覚悟で突っ込むか……


No.435 通りすがりの冒険者

だめだ。俺の髪は赤じゃない


No.436 通りすがりの冒険者

>>435

いや、誰もイ〇スに行こうって言ってるわけじゃないから。

双子の女神とか多分居ないぞ?


No.437 通りすがりの冒険者

ただ今回のイベントでもしかしたらあの渦が消えるんじゃないかっていう噂もあるけどな。


No.438 通りすがりの冒険者

そうなったら大航海時代の幕開けだな


No.439 通りすがりの冒険者

植民地政策だな。


No.440 通りすがりの冒険者

こりゃうちのクランで乗り込むしかないか


No.441 通りすがりの冒険者

その為にも次のイベントを大成功で終わらせないとな


No.442 通りすがりの冒険者

よっしゃ、野郎ども。

あと一息、徹夜で何とか完成まで持ち込むぞ!!




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