ここは魔界の動物園?
そして、無事に死の大地に降り立った俺だったが、その後が平穏無事だったかと言えばそんな訳がなく。
「ガルルルルっ」
「うおぉぉぉ。スライム、あっち向いて右だ」
「すらっ」
「ニャフフフッ」
「お次は釣り竿で餌をぶら下げるように目の前でゆらゆらして」
「すららっ」
「カメッシュ」
「亀!?いや、亀ってカメッシュとか鳴かないからな普通。
じゃなくて、えとえと。そうだ。スライム。段々重ねになりながら走って」
「すらららっ」
襲ってきた犬っぽい魔物はぶつかる手前でスライムが横に逃げる事で、ボールやフリスビーを投げる要領で視線誘導させ。
トラより大きい猫っぽい魔物は釣り針にくっついたスライムを猫じゃらし代わりにしてじゃれつかせ。
何故か並走してきた4段重ねの亀にはスライムが7段重ねで対抗しつつ一緒に走る。
「はぁっはぁっはぁっ」
予想通りではあるんだけど、どいつもこいつも戦えば全く勝てる気がしない。
唯一の救いは向こうに殺意が無い事か。
多分滅多に人が入ってこないから、俺の事を新手の玩具くらいにしか見てないっぽい。
「今どの辺りだ?」
どこまで言っても荒野が広がってるし、無我夢中で逃げてきたから帰れる気がしない。
それに何よりも、だ。
「ウォンウォンッ」
「ニャフッ」
「カメッシュ」
俺の走力で逃げ切れる訳が無いんだよ。
なぜか今はどいつもこいつも俺の周りを駆け回ってる。
「なにお前ら。めちゃ退屈してた感じか?」
「ウォンッ」
「まさかと思ってたけどそうなのか。
ちなみに普段何食べてるんだ?
見渡す限り食えそうなもの無いけど」
「ニャフッ」
ビシッと俺を指さす猫。
俺、というより、弱肉強食ってことなんだろうな。
「まぁ俺なんか食っても美味くないからな。食うならこっちにしとけ」
「ワフッ」
「ニャンッ」
「カメッシュ」
アイテムボックスからガイエスの街で買い込んできたリンゴを取り出すとみんなして目をキラキラさせていた。
「でもただ食べさせるのも芸が無いよな。
という訳で、今から俺が投げるからまずは早い者勝ちにしよう。
じゃあ、まずは俺から5メートル離れてくれ。
そうじゃないと投げ終える前に食いつけるだろ、お前ら」
「ワフッ」
「ニャンッ」
「カメッシュ」
俺の言葉にうなずいてタタタッと離れていく魔物たち。
きっちり5メートル離れた所で振り返って、期待の眼差しを俺に向けていた。
よし、じゃあやるか。
これでも投擲スキルはだいぶ上がったからな。
今なら雲の上までだって投げ飛ばせる。
「行くぞ~~。
それっ、取って来~い」
「ウォンウォンッ」
「ニャルルルルッ」
「カメッシュシュシュ」
1投目を見事キャッチしたのは意外にも亀だった。
他の2匹も空を駆け上がって行ったけど亀は段々重ねになっている子亀を投げ飛ばしての空中キャッチ。
今亀のお尻からジェット噴射して飛んでなかったか?
流石、死の大地。
普通の常識なんて全く通用しないな。
「ワフッ」
「ニャンッ」
「カメッシュ」
「あぁはいはい。次な。お前達の体格から考えれば1個2個じゃ小腹も満たせないもんな。
嬉しそうに尻尾振りやがって。
じゃあ今度は連続で投げまくるからな」
こうなったらアイテムボックスの在庫が無くなるまで投げまくってやる。
そうしていると気が付けば最初の3匹以外にも色々増えていた。
犬、猫、亀は数が増え、他にサルにパンダにキリンにゾウなどなど。
もちろんどいつもリアルとは姿形とサイズが違うんだけど、遠目から見たらそう見える。
まるで動物園だな。
「よし、次がラストだ!!」
最後の1個を全力で真上に投げ飛ばした。
すると飛んでいった先の空がバックリと切り裂かれた。
「「!?!?」」
「なんだあれ」
真っ暗な亀裂の中に吸い込まれていったリンゴはむしゃむしゃと咀嚼された。
それを見た俺を含め周りの魔物たちはすっかり静まり返っている。
って事はもしかして。
「あれが黒龍王なのか?」
『いかにも。我が黒龍王ゾートである』
亀裂からズゴゴゴゴッと空間を揺らしながら現れたのは真っ黒なドラゴン。
サイズ的には炎帝龍マグールさんとそれほど違いは無い。
でも一切の光を反射しないその体は見るものに恐怖を与えるようだ。いや畏怖かな。
『皆、そうかしこまる必要はない。
何やら面白そうな事をしている人間が居たから見に来ただけだ。
お主がシュージだな?』
「はい、そうです。
俺の名前を知っているという事はマグールさんから聞いたんですか?」
『おおとも。あ奴め。
久々に会いに来たかと思えば変わった人間に美味い肉を食わせてもらったと自慢げに語って行きよった』
マグールさん何してんだろう。暇なのかな。
『お主がここにきた理由は大体察している。
ここに来る人間はここに居る魔物を討伐するか、ここでしか取れない素材を求めているかのどちらかだ。
お主からは戦う意志は見られない。ならば後者であろう』
ふふんっと鼻を鳴らすゾートさん。
なんだけど、俺の場合そのどっちでも無いんだよな。
「すみません。俺の場合、そのどっちでも無いです。
そもそもここで何が取れるのかも知らないですし」
『何、そうなのか!
ならば命を賭してここまで理由はなんぞ?』
「えっと、魔王から受けた依頼は和平交渉、みたいなものだったんですけど。
ここに来て分かったのは皆と仲良くなって、欲求不満を解消することなのかなって思ってます」
『どういうことだ?』
「ここの皆って、別に魔族を恨んでて滅ぼしたいとか思ってないですよね?
強いて言えばヒマ過ぎて他にすることが無いから魔族領に攻め込んだりしてたんですよね」
『ふむ。確かにな。
我々は恨みつらみで争う事はまずない。弱いものが強いものの糧になる。それだけだからな。
魔王が言っている危険な魔族を襲う魔物であれば恐らくもっと北に居る者たちであろう。
奴らは破壊衝動のみで存在しているようなものだからな。
あれと我らを一緒にしてほしくは無いものだ」
なるほど。おなじ魔物って一括りにしてしまいがちだけど、危険な魔物はごく一部だったのか。
この情報だけでもかなり有用だろうな。
さて、あとはその問題の魔物をどうすればいいかも考えないと。
この感じだとそっちに俺が行っても交渉の余地は無さそうだ。
ここは力を借りるべきか。
「ゾートさんにその魔物たちをどうにかする方法はありますか?」
『定期的に狩るくらいしか思い当たらんな。
まぁその場合我ではなくここにいる者たちが動くことになろう。
だが我らとてただでは動かんぞ』
「お金が欲しいわけじゃないですよね」
『無論だ。そんなものに興味は無い。
まぁ強いて言えば、偶には美味いモノを食いたいと思うくらいか。
ここで手に入るものはいつも代わり映えのないものばかりだからな』
「それでここにこんなに集まったんですね」
『そう言う事だろうな。
ちなみに我々は肉は食い飽きた。
出来るなら今食べた物のようなものが良いぞ。
後はもっと量があれば、だな』
これでもガイエスの街で買えるだけ買い漁ってきたんだけどな。
1体1体が大きいし数も多いからな。
これ全部を賄うだけの果物を手に入れようと思ったら根こそぎ買い占めるレベルになるんじゃいだろうか。
それは流石に現実的じゃないから別の手を考えないと。
買い占めが無理ならここで育てるか?
でもぱっと見、不毛の大地っぽいし、普通のリンゴが育つようには見えないな。
あ、なら普通じゃない果物なら良いのか。
「ゾートさん。ここに果物を生み出せる魔物を誘致したいんですけど、構わないでしょうか?」
『ほう、そんな者がいるのか』
「俺も直接会ったことはないので、どこに居るか探すのもこれからですし、来てくれるかもこれから交渉になるんですけど」
『ふむ。まぁ良いのではないか?
他の者たちも先ほどのようなものが食べられるようになるなら悪さはすまい』
その言葉にコクコクと頷く動物たち。うーん、もう魔物に見えなくなってきたな。
「そうと決まればこの一帯を拠点に使わせてもらっても良いですか?
もちろん他の場所の方が良ければ移動しますが」
『いや、別にそこで構わんだろう。見ての通り、誰の住処という訳でもないしな』
「ありがとうございます。
あと、ゾートさんは空間魔法が得意なんですよね? さっき空間を切り裂いて出てきましたし。
それならここに転移門を設置することも造作もないでしょうか?」
『ふむ。そうだな。人の足ではこことお前達の住処を往復するのは大変であろう。
転移門程度なら、ほれっ。すぐだ』
ゾートさんが右手を前に差し出したかと思うと、直径4メートルほどの魔法陣が地面に刻まれた。
よし、これがあれば魔王城や他の地域に行くのも簡単だろう。
『あとは基点となる建物を建てれば、向こうから戻ってくることも出来よう』
「……え?」
あ、そうか。
転移門を通る時、転移先を指定する必要があるんだ。
死の大地、だけだとどこか分からないから、何か目印になるものを作れってことね。
だけど、流石に建材になるものまでは持ち合わせてないぞ。
『どうした』
「いえ、建物を建てる材料はどうしようかなと思いまして」
『ふむ。なれば我の鱗でも使うか?
生え変わった時に出た分が大量に住処にあるのでな。場所を取って敵わぬ。
ついでだ。適当に使っておくがよい』
そう言うとゾートさんは一度どこかに消え、1時間も経たずに戻ってくると大量の黒い板を持ってきた。
って、これ全部ゾートさんの鱗か。ぱっと見はモノリスだな。
多分1枚でも売れば相当な値段になりそうなんだけど。
そしてこれを加工するのって相当骨が折れるような。
「スライムじゃ傷一つ付かないよな?」
「すらっ……」
ぺしぺしとスライムが叩くが傷がついた様子は無い。
その代わり。
<加工可能になるまで残り……>
どうやら一定のダメージを加える必要がありそうだ。
問題はそれが1か所に穴を空けるだけで1万とか出てるんだけど。何気にこれ1枚でレイドボス並みの体力があるってこと?
「仕方ない。レイドボスの時と同じ要領で分裂で打撃回数を上げていくぞ」
「すらっ」
「ただ今回は壊すことが目的じゃなくて、四角く切ることが目的だからな。
これから俺が指定する箇所にだけ集中攻撃だ。
特に線状に切る必要があるからな。攻撃するときは右から左、上から下に順番に攻撃していってくれ」
「すららっ」
そうして何度か試しながら効率的な手法を模索した結果。
回転式のこぎりの様に円形に繋がったスライムが鱗を切り裂いていく。
のこぎりの歯が当たっている箇所が凄い光を放ってるんだけど、あれって火花じゃなくてスライムが消える光だよな。
……
…………
………………
「……出来た!」
「すらっ」
「やればできるもんだな!!」
1週間以上かかったけど、建物と言える形状のものが出来た。
きちんと壁と天井、そして扉が付いているから誰が何と言おうと建物だろう。
……床面積は1畳くらいだけどな。
試しに扉を開けて中に入ると、試着室程度の部屋になっており、部屋の中央に仕切りがあってその向こうに同じようなサイズの部屋と外に繋がる扉がある。
仕切りのせいで向こう側の部屋に行くときはぐるっと回って向こうの扉から入る必要がある。
「って何で俺はこんな構造にしたんだ?」
途中でハイになってたからな。記憶が曖昧だ。
そしてよく考えるとこの構造って、懺悔室か?
ま、まぁいっか。
また今度普通に住める建物も普通の建材で建てれば良いんだし。
後書き開発ログ
「なあ、例の彼、どうする?
相変わらずシナリオガン無視なんだけど」
「彼一人の為に割くリソースはねぇぞ」
「でもどうせ1次職でしょ?
これ以上先に行ったら1ダメ以外出ないはずだから大丈夫じゃない?」
「いや、むしろその1ダメを狙って出している節がある。
質より量を地で行くタイプだ。
先日なんてそれでレイドボスをソロ討伐しやがったしな」
「あれは凄かったね~
元の構想ではレイドボスのソロ討伐なんてLV70の3次職でやっとでしょ?」
「ってか、魔族領ってLV50以降に進ませる予定だったじゃん。
死の大地とか3徹で勢いで作ったからネタ全開のままなんですけど」
「まぁどうせ入口の強制エンカウントで叩き返されるから大丈夫だろ」
「……そう思っていた時代もありました」
「え”」
「まさかあれを倒せたのか?」
「いや、倒しては居ないんだけど、まさかの一撃がお尻にブスッと」
「うひっ」
「うひゃあっ」
「AIに女性人格を埋め込んでたのが仇になったね」
「『もうお嫁に行けない!! 責任取ってよね!!!』」
「いやいや」
「まさかね」
「あはははははっ」
「ま、まぁ。そっちは置いておいて。
カスダメ対策入れる?」
「うーん、状態異常系の攻撃ってほとんどが威力無い前提だからなぁ」
「せめてボスには自然回復付けるか」
「それが一番無難かな」
「レイドボスも戦闘終了と同時にある程度回復させるか」
「あのゾンビアタックも大概だったからね~」
「ちょっ。みんなマズいぞ」
「どうした!?」
「成金教会が壊滅寸前だ!!」
「なんだって!!
あそこって次のイベントでプレイヤーのへそくりを減らす為のシステム構築してたろ!?
そもそも国家運営にもがっつり食い込ませてあるんだからそう簡単に壊滅はずじゃないか。
いったい何があったんだ?」
「良く聞けよ。これが現状だ。
信者数:最高値の1/10
収入 :最高値の1/ 5
資金 :最高値の1/20」
「収入の減りが少ないのが救いか?」
「いや、1/5でも大概だから」
「離れた信者のほとんどが貧困層だったお陰でまだマシだったみたいだな」
「にしてもひでぇな。なんでこんなに減ってるんだ??」
「どうも対抗宗教の影響らしい。
そっちの宗教に改宗したやつらが国家運営陣にも出始めた影響で成金教会員が冷遇され始めてる」
「あれ、でもあいつらには金貸し事業もさせてただろ。
貸借人が逃げられるとはおもえないんだけど?」
「貴族が協力して一時的に肩代わりしてるって」
「なんでそんなことを!?」
「なんか謎の契約を巻いてマンパワーで新たな資金作りに走ってる」
「一体どこの誰がそんな契約書作ったんだよ」
「あ、こいつだ」
「うっわ、見落としてた。こいつ影薄すぎだろ」
「調べてみたっけ、いつの間にかほぼすべての村と街に流通網を築き上げてる。
しかもこいつが発端ってだけで、既に万単位で人が連動してるぞ」
「ねずみ講も真っ青だ」
「おい、全員こっち最優先だ。
これ何とかしないと当初のシナリオ全部差し替えだぞ!!」
「ひえぇぇぇ」




