魔王様からの呼び出し
その後3回ほど襲撃があったものの、特に問題なく撃退に成功した。
今日で最後の襲撃から5日。
どうやら諦めてくれたようだな。
それと『副議長が更迭されたよ』というギルドマスターからの伝言もそれを裏付けてくれている。
ただ、今は新たな問題が浮上してきている。
「シュージさん。今日もお客様が見えられてますよ」
「分かりました。ありがとうございます」
宿の女将さんが指した方を見れば身なりの整ったおじさんがこちらに会釈していた。
今日はこっちの日か。
「おはようございます」
「急な訪問失礼いたします。お会いできて光栄です、シュージ様。
私、デルモント伯爵家の家宰を務めております、ビルマックと申します」
そう言って恭しく挨拶をしてくれるビルマックさん。
良かった。今日は真面な性格の人だった。
ここ数日、朝晩にこうして俺を訪ねて誰かがやってきていた。
商人のことも有ればどこかの貴族の遣いのことも有る。
その態度もまちまちだけど、要求してくることは基本2つのみ。
1つは例の魔石を売ってほしいというもの。
もう一つは俺を雇いたいというもの。こちらは貴族の場合のみだ。
「それでどのようなご用件ですか?」
「まずはこちらをどうぞ。我が領の特産品の果物でございます。
友好の印ということで」
「ありがとうございます」
差し出されたリンゴのような真っ赤な果実。
これが実は毒リンゴだった、なんて話だったら色々と面白いんだけどそんなことは無いだろう。
受け取ってそのまま一口齧ると甘酸っぱい味が口の中に広がる。
なるほど、富士リンゴではなく茜のような酸味の強い品種のようだ。
「この酸味が好きな人は癖になりそうですね。あとはお菓子にするのもいいかな」
「おぉ、分かりますか。シュージ様は食にも通じていらっしゃるようですな。
気に入られましたのならまたお持ちしましょう」
「それは嬉しいですね」
お互いにこにこと会話が弾む。
こうして警戒した状態から1つ壁を崩すのはセールスの常套手段だ。
無能な営業とかだとただ只管に自分の商材を売り込んでくるから蹴り出したくなる。
「さて、シュージ様もお忙しいでしょうし単刀直入に申しましょう。
我が主、デルモント伯はシュージ様のお持ちの特級魔石を求めておいでです。
もしお譲り頂けるなら相応の対価をお渡しする用意がございます。
またお望みであれば伯爵家の客分として領内に屋敷を用意することも可能でございます」
「そうでしたか。ご丁寧にありがとうございます」
「では……」
「いえ。申し訳ございませんが、その魔石は魔王様に献上する予定ですのでお譲り出来ません」
実際にはそんな予定はないけど、そう言えば引き下がってくれやすい。
魔石が魔道具に使えると分かった以上、それは強力な魔導兵器にも転用される可能性がある。
だからおいそれと譲渡は出来ないんだよな。
案の定、ビルマックさんも残念そうにしながらも頷いてくれた。
「左様でございましたか。では我が領にお越しいただく事はいかがでしょう?」
「そうですね。俺は既に帰るべき場所を定めてしまっています。
それに異界の住人ですので、1つの場所に留まり続ける事は出来ないのです」
「籍を置いていただくだけでもよろしいのですが」
なおも食い下がるビルマックさんに首を振って答える。
腐った貴族だと「こちらが下手に出ておればつけ上がりおって!」って怒る事もあるけど、幸いビルマックさんは終始穏やかだった。
「そうですか。分かりました。残念ながら今日の所は下がりましょう。
実はシュージ様はスライムがお好きだとお聞きしまして、珍しいスライムを数匹お渡しするご用意もあったのですが」
そう言ってちらりとこちらの様子を窺ってきた。
うーん、何か勘違いをされているな。
「ビルマックさん」
「はい」
「俺は別にスライム蒐集家ではありませんよ」
「おや、そうだったのですか。
今もそんな通常のスライムを連れている程ですから、てっきりスライムがお好きなのかとばかり思っておりました」
以前来た人でヘビ系の魔物を蒐集する趣味の人も居た。
その人の場合は世界中のあらゆる種類のヘビをコンプリートするのが夢であり、友人にも鳥や魚などを蒐集する人が居ると言っていた。
だから我々の仲間に入りませんかと誘われたけど丁重に断っておいた。
多分ビルマックさんもその人たちと同類だと思ったんだろう。
「俺は俺のスライムは大事に思っていますが、それ以外のスライムに対して何ら愛着はありません。
例の魔石の元となった災害級の魔物もスライムの特殊進化の結果っぽかったですが、ただの敵として討伐しましたし」
「ふむ。そういう事でしたら今の私にこれ以上シュージ様の興味を引けるものはなさそうですな。
後学の為に、シュージ様が興味のある事と言ったら何になるのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ふむ。相手を不快にさせないようにあっさり下がりつつもキチンと次に繋がる情報を求めてくる。
営業として当たり前といえばそうなんだけど、しっかりしているな。
「そうですね。
俺が求めるものと言えば、一つは召喚獣を強化できる何か、ですね。
ダンジョンや先日の魔物のようなものがそれに該当しますが、もしかしたら他にもあるかもしれません。
もう一つは、あるかどうかは分からないのですが、装備を一瞬で着替える魔道具があれば欲しいですね」
「換装の魔道具ですか。装備をしまっておくだけなら比較的存在しますが、装着までとなると難しいですね。
北の職人都市に行けばそう言った魔道具を専門に扱う方もいるかもしれません。
いずれにしても使用者の体型に合わせる必要もありますし特注になるでしょう。
あと我が領内のダンジョンの情報で良ければ後日冒険者ギルドを通じてお伝えしましょう」
「ありがとうございます。それなら後日機会があればそちらの領地に足を運びましょう」
「それは僥倖です。ダンジョンで産出された素材を領内で売って頂くだけでも我々にとって利益になることですから」
そう言ってビルマックさんは帰って行った。
それを見て女将さんがお茶を淹れて来てくれた。
「お疲れ様でした。何事もなくお話が終わって良かったですね」
「いつも騒がしくしてすみません」
「いえいえ。ああいうお客様なら大歓迎ですよ」
いつも以上にニコニコしている女将さん。
この様子だとチップを受け取ってそうだな。その辺も抜かりなしと。
あの人が居る領地ならそれなりに上手く運営してそうだ。
領地は王都の南側だそうだから王都に行った帰りに寄っても良さそうだな。
そう考えつつ女将さんに朝食をお願いする。
さて、少し遅くなったけど、俺は冒険者ギルドへと顔を出すか。
「あらシュージ様、良いところに」
ギルドの扉を開けた瞬間、そんな声と共に「ガシッ」と腕を掴まれる。
声の方を向けばエリーナさんがにっこり笑っていた。
ってか、今気配無かったぞ?
あと中々の握力だ。ちょっと緩めてくれると嬉しいんですが。
「あの、エリーナさん。そんな掴まなくても逃げないですよ、きっと」
「そうだと良いんだけど、実はシュージ様に指名依頼が入ってるんですよ」
「一応聞きますけど、俺に拒否権は?」
「無いわね」
「ですか」
「そうじゃなかったら拘束したりしないもの。
という訳で受けてくれるわよね?」
依頼内容を一切話さず進めるエリーナさん。
そんなにヤバい依頼なんだろうか。
「えっと、犯罪行為じゃなければお受けしましょう」
「そこは安心して良いわ。
というかごめんなさいね、こんな脅すような感じになってしまって。
実際には拒否できないってだけなのよ」
「はぁ。それでいい加減、依頼の内容をお聞きしても?」
「一言で言うと、王様が会いたいんだって。はいこれ、召喚状」
「王様っていうと、魔王様?」
「そ。だから怒らせると怖いけど普通に話す分にはきっと問題無いわ」
「きっと、ね」
逆鱗がどこにあるかは分からないけど、間違って触れたらアウトなんだろうな。
「ちなみに、要件は聞いていますか?」
「いいえ。私達の所にはこの召喚状となるべく早く来るようにって伝言されただけだから」
うーむ、何だろう。
ま、元々王都には行こうと思ってたし、予定が少し早まっただけと思おう。
「では今から向かおうと思います」
「そうしてもらえると助かるわ。
あ、飛竜便のチケットも一緒に預かってるから乗っていくと良いわ」
「それは至れり尽くせりですね」
飛竜便っていうのは境界を越えるのと同様、大都市に用意されている航空便だ。
これを使えば徒歩で10日掛かるところが半日で行けるそうだ。
もっとも、行った事のある街なら転移門を使った方が早いので、通常はまだ行った事の無い場所か、転移門の設置されてない場所に向かうのが主だ。
費用も結構高いし、徒歩でも途中に幾つか村があるから移動だけなら徒歩でも問題ない
だから普段は貴族の子供でもない限り、王都に向かうのに使うことはないだろう。
そんな訳で俺は飛竜便に乗って王都に向かうことになった。
飛竜便の乗り心地は、強風に煽られる気球というか。
乗る前に「風防の魔法は自分で使ってくださいね」とか言われたけど「使えません」って答えるより早く飛び立ちやがった。
お陰でぐわんぐわん揺れる籠の中でいつか落ちるんじゃないかと戦々恐々としながら過ごす羽目になった。
これは、確かに使いたがる人が居ない訳だ。
後書きスライム教掲示板:
No.767 通りすがりの信者
イニトの街の周辺4か所の集落にて布教率100%を達成
現行宗教に対しては偽情報を流すことで対応中
No.768 通りすがりの信者
ご苦労。
奴らが直接乗り込んでくる可能性はほぼゼロだが警戒は怠らないように
No.769 通りすがりの信者
委細承知。
成金野郎共に渡すものなどGはGでもGOKIBURI以外はない。
No.770 通りすがりの信者
表面上は極貧の農村を装いつつ生活水準の向上を図るのが当面の目標だ
No.771 通りすがりの信者
しかし意外と村や集落は多かったんだな
No.772 通りすがりの信者
>>771
先日のイベントで実装された模様
農村ごとに特産品があるので互いに流通網を構築すれば収益も見込める
No.773 通りすがりの信者
これまでは周辺の魔物が危険だったために滞ってたっていうことらしいし
我らでそこを補ってあげれば立派なギブアンドテイクの関係が築けた
No.774 通りすがりの信者
更に宗教を通じて村同士の仲間意識を強化出来たからな
これで強大な敵にも立ち向かえる
No.775 通りすがりの信者
都市部の方の状況はどうか
No.776 通りすがりの信者
イニトの街と王都はスラム街と一般市民側から布教を拡大中。
他宗教との掛け持ちを認めているお陰で受け入れられやすいな。
No.777 通りすがりの信者
一部貴族階級でも協力の申し出があるぞ
No.778 通りすがりの信者
>>777
その辺りはしっかり吟味してくれ
こちらの利権を奪おうと企む奴らが出ないとも限らないからな
No.779 通りすがりの信者
分かっている。
我々は聖女様がトップ。それ以外は対等であることを徹底している。
扇動などもっての外。聖女様は平和のみを望んでおられる。
No.780 通りすがりの信者
あれ、そういえば教主は?
No.781 通りすがりの信者
あれはただの象徴。
No.782 通りすがりの信者
もしくは万が一のスケープゴート
No.783 通りすがりの信者
>>782
流石にそうならないように最大限動くけどな
No.784 通りすがりの信者
今一体どこに行ってるのやら
No.785 通りすがりの信者
魔界へ布教活動に行ったと報告が上がった後、一切の報告がないんだよな。
まぁぶっちゃけ魔界に関する情報が全く出てきていないんだが。
No.786 通りすがりの信者
行商人が時々魔界産のアイテムを売りに来てるぞ。
同時に我らスライム教の教義も魔界へと流れているらしい。
No.787 通りすがりの信者
話変わってスマン
今、北の火山地帯に来てるんだが
そこで龍の巫女という人に会った
No.788 通りすがりの信者
おぉ。巫女様。
No.789 通りすがりの信者
その巫女様曰く、龍神様と教主が友好関係にあるとか
No.790 通りすがりの信者
ブフッ!!
No.791 通りすがりの信者
いつの間に!?というかどうやって??
流石教主は伊達では無かったという事か。
No.792 通りすがりの信者
そのうち人を辞めて神になってるんじゃなかろうか
No.793 通りすがりの信者
その暁には我らが聖女様が女神様にクラスチェンジしてるかも。
No.794 通りすがりの信者
おぉ夢が広がるな!!




