何事も順風満帆とは行かないようで
なんだろう。
最後の最後でものすごく残念なお知らせが流れた気がする。
いや、もしかしたらそうじゃないかと思ってたけど、やっぱり俺って2次職にすらなれないんだな。
ついでにスライムも進化出来ないと。
「すまないな、スライム。俺と一緒にいる限り、お前を進化させられないみたいだ」
「すらっすらっ」
スライムに肩をぽんぽん叩かれて慰められる。
僕たちはマスターと一緒に居られるなら今のままでいいよって、健気過ぎるだろ。
よし、それなら俺はお前たちを最高のスライムに育て上げてやるからな。
これまでの経験から言ってお前たちも日々成長していってるし、ダンジョン攻略を始めとした各種イベントを通過するたびにスライムの強化が出来るようだ。
さっきだって1ランク上と思われるレッドスライムと互角以上に戦えてたしな。
「よし、いつかはさっきのデカいスライムとだってタイマンで勝てるくらい強くなろうな」
「すらっ!」
力強く敬礼したスライムに頷き返す。
さぁそうと決まったら立ち止まってなんて居られないな。
別にTOP攻略組に張り合おうって気はサラサラ無いし、正規の攻略ルートとは大きく逸脱している自覚はあるから今更他人と比べるつもりはない。
他のプレイヤーと絡めないのは残念な気がしなくもないけど、その分スライムや教会の皆が居るし、リャンさん達だって居る。まだ会えてない現地の人たちとの交流だって期待できる。
結局のところ楽しめたもの勝ちだしな。
「じゃあスライム。ここからは採取解禁だ。
トニイの街まで採取しまくるぞ!」
「すらっ」
おーって掛け声よろしく飛び跳ねて方々に散っていくスライムたち。
それを見送りつつ俺は街道をずんずん進んでいく。
時々採取に向かったスライムが10体単位で吹き飛ばされるのは強めの魔物にぶつかったんだろう。
それでも30体を応援に向かわせれば無事に撃退に成功したようだ。
そんな中。
街道のすぐ脇に、今度こそ見慣れたスライムの姿を発見した。
「こんにちは」
「すらっ」
「ぽよぉ?」
俺達が挨拶するとすごくのんびりとした返事が返ってきた。
動きもすごくのんびりだし、危険は無さそうだ。
「別に襲う気は無いからな。達者で生きろよ」
そう言って立ち去ろうとした俺だったけど、スライムの方は違ったようで。
「すらっ」
「ぽよ」
「すらっすらっ」
「ぽよ~」
楽し気に会話したかと思ったらなぜか一緒に行こうと勧誘していた。
そして話が纏まったところでうちのスライムが野良スライムの上に体の一部を乗せた。
すると一瞬にして2体のスライムの境界線が無くなり一体化してしまった。
「もしかして食べちゃったのか?」
「すらっすらすら」
違うらしい。
どうやらスライムは合体と分裂を繰り返して数を増やしたり強くなったりするのが一般的だったようだ。
そう考えると1体の中に沢山の魂があったりするんだろうかと思ったけど、中で混ざり合って1つになるようだ。
その結果それまで培ってきた経験や技術も統合されるらしい。
……何気にさっきのクリムゾンスライムに俺のスライムが合体されてたら勝ち目がなかったかもしれないな。
むしろ倒す前にこっちが主導権を握りつつ合体出来たら大幅なパワーアップも期待できた?
まぁ過ぎた話か。
ちなみによくよく他のスライムの状況を確認すると他でも同じように出会った野良スライムと合体しているようだ。
「乗っ取られないようにだけ注意してくれよな」
「すらっ」
任せてって言うけど、時々ノリで生きてるところがあるから若干不安だな。
とにかく今は先に進むしかないか。
そうして街の外壁が姿を現したのは翌朝になってからだった。
だけど肝心の門が閉まってるな。
時間的には開門する時間はとっくに過ぎていると思うんだけど、何かあったのか?
俺が門の前まで来ると、監視塔から声が掛けられた。
「そこの君。もしかして境界村から来たのかい!?」
「はい、そうですけど」
「よく無事だったな。昨日街道の途中に巨大な魔物が出現したという報告があってこちらの門は閉鎖しているんだ」
「そうだったんですか」
「ここに来る途中、見かけなかったかい?」
うーん、ここに来る途中の巨大な魔物って言ったら、あのレイドボスだよな。
「それってもしかして赤い巨大スライムですか?」
「おおそうだ。もしかして見たのか?」
「見た、というか、倒してきましたけど」
「は?な、なんだって!?
詳しい話が聞きたい。直ぐに門を開けるから少しだけ待っていてくれ」
そう言って監視塔の窓から人の気配が遠ざかると、すぐに門が開いた。
そこには10人からなる統一された装備の武装集団が立っていた。
その中からダークエルフっぽい見た目のお兄さんが前に出てきた。
「警備隊第2中隊隊長のアッテンだ。
君が街道の巨大ボスを倒したという話だが、そんな初心者装備でにわかには信じがたい。
他に仲間はいないのか? まさか君一人で倒したってことは無いだろう。
それとも何か討伐の証拠になるようなものを持ってたりはするかね?」
矢継ぎ早にそんな事言われてもな。
俺は今も昔も一人だし。
ドロップアイテムとか何かあったっけ……あ、魔石があったな。
取り出してみればバレーボールくらいの大きさの真っ赤な魔石だ。
それを見たアッテンさんの目がギラリと光った気がした。
「ボスが落とした魔石ならありましたけど、これで証拠になりますか?」
「ちょっと見せてくれ。
これは……確かに大きい魔石だ。これを持つ魔物と言ったら巨大なことに間違いはないだろう。
ただ残念だがそれが街道の魔物のものという証拠にはならないし、君が倒した魔物という証拠にもならないな。
悪いが君にはこれから私と一緒に詰所まで来てもらおう。
お前たちは予定通り街道の調査だ。くれぐれも油断するなよ」
「はっ」
アッテンさんの号令によって後ろに控えていた人たちが街の外へと駆け出していく。
全員それなりに重装備なのにその足取りは軽快だ。
かなり訓練を積んでいるのかステータスが高いのか。
恐らく両方だろう。
流石魔界と言ったところか。
「さぁ、私たちも行くぞ。付いてこい」
そう言ってずんずん歩いていくアッテンさんに付いていくと武骨な建物へと入っていった。
受付で何かしら話をした後、そのまま地下へと移動する。
「ここだ。入れ」
そう言って通されたのは窓一つない薄暗い部屋だった。
部屋の中には簡素な台が1つあるだけ。この台ってもしかして寝台か?
「あの、この部屋ってもしかして」
アッテンさんに質問しようとしたところで、後ろでガシャンと扉が閉まった。
続いてカチリと鍵のかかる音。
どうやら閉じ込められたらしい。
「アッテンさん!」
扉を叩きながらアッテンさんを呼んでも返事は無い。
どうやら既にその場を去ったようだ。
どうなってるんだ、一体。
監禁される理由に心当たりが全くないんだが。
一瞬教会とか賞金首とかが頭を過ぎったけど、それにしては俺の事を全く知らないようだった。
あと考えられるのはさっきの魔石か?
そう言えばアッテンさんに見せた時に渡したままだな。
まさか俺を闇に葬ってネコババするつもりか?
あれにどれくらいの価値があったか分からないけど、わざわざこんな事するだろうか。
「はぁ。考えても分かる訳ないか。ならボス戦からの移動で疲れたし、少し休むか」
「すらっ」
そうして俺は考えるのをやめて、硬い寝台の上に毛皮を敷いてゴロンと横になるのだった。
あ、あの。アッテンさん?作者のあらすじガン無視してなにやってるんでしょうか。
後書き掲示板:
No.602 通りすがりの冒険者
レイドボス討伐完了!!
No.603 通りすがりの冒険者
うおぉぉぉ
やり遂げた。俺たちは遂にやり遂げたんだ!!
No.604 通りすがりの冒険者
人間、命がけでやれば何とかなるんだよ。
No.605 通りすがりの冒険者
実際5回は死んだけどな!!
No.606 通りすがりの冒険者
というか、HP2割切った後のあれはひど過ぎる。
むしろあれで生き残れる奴居るのか?
No.607 通りすがりの冒険者
遠距離持たない奴なんて相打ち覚悟の特攻だったしな
No.608 通りすがりの冒険者
ただまぁ。討伐後に流れたアナウンスを考えればあの強さも分からなくもない。
No.609 通りすがりの冒険者
3次職開放だもんな。
後はレベルが50に到達出来れば遂にって感じだ。
No.610 通りすがりの冒険者
むしろあれに勝てないと3次になれないのか?
No.611 通りすがりの冒険者
>>610
多分レベル60になれば別途開放なんじゃないかな
No.612 通りすがりの冒険者
あ、だから50~60で3次なんだ
ちょっと納得
No.613 通りすがりの冒険者
そんな中、俺は特殊2次職に転職
つ『シャドウブレイカー』
No.614 通りすがりの冒険者
!?!?!?
No.615 通りすがりの冒険者
ちょっ、まぢか!!
No.616 通りすがりの冒険者
期待の性能は?
No.617 通りすがりの冒険者
全パラメータ微増+不意打ちによるダメージ倍増(既存の倍率と合わせて4倍)
あとスキルが幾つか増えてる
No.618 通りすがりの冒険者
なかなかにぶっ壊れ性能だな
その分当てるのが難しいんだろうけど
No.619 通りすがりの冒険者
まあな。実は正面からの攻撃にマイナス補正も付いてる。
No.620 通りすがりの冒険者
つまりハイリスクハイリターンが特殊2次ってことか
No.621 通りすがりの冒険者
あと気になるのはドロップ品か。
皆何出たんだ?
俺は普通の魔石と素材が幾つか
No.622 通りすがりの冒険者
>>621
似たようなもんだ
No.623 通りすがりの冒険者
俺も
No.624 通りすがりの冒険者
同じく。周りの攻略組もだ
どうやら死に戻り過ぎたのか人数多すぎたのかどっちかの影響でドロップがショボくなったと予想
No.625 通りすがりの冒険者
まぁそうじゃなかったら、ばら撒き過ぎか
No.626 通りすがりの冒険者
レア装備とかドロップさせるなら最低でも初期制限人数以下だろうな
No.627 通りすがりの冒険者
あれを100人でか。
少なくとも3次職まで待ってほしい
No.628 通りすがりの冒険者
むしろ3次職で勝てるんだろうか
No.629 通りすがりの冒険者
そこまで行けばタンク職が抜かれなくなるしアタッカーもあの速度についていけるようになると期待
No.630 通りすがりの冒険者
ちなみに、ギルドで確認したら、あのレイドボスはレイドボスの中では下から数えた方が早いそうだ。
上にはまだまだ沢山居るらしい。筆頭は北のドラゴンとかだって。
No.631 通りすがりの冒険者
やっぱいつかレイドバトルで戦うことになるのか