魔界のスライムは化け物か
ミーシャと別れた後、ひとまず教会によって転移門の設定を更新しておいた。
これで万が一やられても、いつでもイニトの街から転移してこれる。
「では、魔界探検と行くか」
「すらっ」
スライムを連れた俺は意気揚々と境界村(魔界側)を出て一路東へ。
村の外にはずっと先まで穏やかな草原が広がっている。
別に魔界だからって不毛な大地だったりどんより暗かったりすることはなく、いたって普通だ。
ただ強いて言うなら。
「GRRrrr……」
遠くに見える魔物の姿が強そうだってことくらいだろう。
ただミーシャが言っていた通り、街道を歩く俺たちに向かってくる様子はない。
逆に言えば街道から外れたらアクティブに向かってきそうだけど、試すのはやめておこう。
前なら採取に行かせていたスライムも魔物を釣ってこないようにおとなしくしてもらっている。
そうして進むこと1時間。
それは俺たちの前に現れた。
直径約5メートル、高さ3メートルほどの巨大な、お饅頭型をした赤い物体。
「……あれって、スライム、だよな?」
「……すらっ」
「魔界のスライムって大きいんだな」
「すらぁ」
うちのスライムもびっくりしているところを見ると一般的ではないのかもしれない。
これまで話を聞いてきた限り、スライム=最弱っていうのは揺るがないものだし、あのスライムが置物並みに動かないのならそれも分かるが、今もどっすんどっすん飛び跳ねている。
俺なんかあれに潰されるだけで死ねるだろうな。
「どうしよう。折角こっちのスライムに会えたんだし挨拶くらいしてみようか?」
「すらっ」
「そうだな。もしかしたら仲良くなれるかもしれないしな。よし、じゃあ行ってこい!」
「すらっ!」
びしっと敬礼したスライムはぴょんぴょん飛び跳ねて巨大レッドスライムの元へ。
以下、スライム同士の会話である。「」はシュージのスライム、『』は赤いスライムだ。
「こんにちは」
『あん? なんだお前』
「僕スライム。マスターはシュージなの」
『はっ。ただのスライムが俺様に話しかけてくるなんて100年早えっての。
せめてレッドスライムに進化してから来いよ。そしたら俺様の一部に取り込んでやってもいいぜ』
「僕のマスターはシュージなの。だからあなたの一部にはなれないの」
『さっきからそのマスターってのはなんだ?あっちにいる弱っちそうな人間か?』
「シュージはすごいの。ごはん美味しいの」
『獲物にウマいマズいがある訳ねえだろ。食うか食われるかだけだ」
「……なんで?おいしいのに。
それにね。シュージのお陰で僕ら強くなれたの。
今ならゴブリンだってやっつけられるんだよ」
『はあぁぁ。まぁ確かに?ただのスライムのくせにゴブリンに勝てるのは凄いかもな』
「でしょ?」
『でもレッドスライムに進化すればそんなの簡単だろ。
それなのに進化もせずにできたって胸張られてもな。
そもそもなんでお前は進化しないんだ?ゴブリンに勝てるならレベルは足りてるだろ』
「それは……なんでだろ。」
『おおかたお前が自分より強くなると困るから弱いままにしてるんだぜ』
「そんなことないもん。シュージは凄いもん。
僕らと力を合わせれば君にだって勝てちゃうもん!」
『……おいおい、それは聞き捨てならねぇな。
俺様はサイクロプスにだって勝てるんだ。あんな弱そうな奴と進化もしてないお前に負けるわけないだろ』
「絶対絶対勝てるよ!!」
『そんなに言うなら勝負だ。ま、お前なんてワンパンで終わりだけど、な!』
少し離れたところからスライムたちのやり取りを眺めていた俺は、2体の会話はほとんど聞こえなかった。
でも赤いスライムがフワッと1段大きく膨らむと同時に殺気を放ったのは見て取れた。
そして。
多分、赤いスライムとしてはほんの小手調べだったんだろう。
俺のスライムに向けて体の一部がビッと伸びたかと思うと、俺のスライムを串刺し、いや押しつぶしていた。
きらんっ
「スライムーーーッ!!」
<レイドボス:クリムゾンスライムと交戦状態に入りました。戦闘参加人数1/100>
それが開始の合図だったようで、突然システム通知が流れた。
どうやらただのスライムじゃなかったようだな。
レイドボスって。これ俺一人で倒すの?
まぁもっとも。俺のスライムに攻撃した時点で俺もただで引き下がるつもりはないけどな。
「スライムの仇はスライムで取る。いくぞスライムたち!」
「「すらっ」」
「幸い向こうはデカいからな。全員で全方向から突撃だ!」
「「すらっ!」」
俺は今出せる全てのスライムを召喚しまくりクリムゾンスライムへと突撃を命じた。
しかし。
『はんっ。雑魚が何匹集まっても意味ないんだよ!【針千本】』
ずぼっと音がした錯覚を覚える勢いでクリムゾンスライムの表面が針のように突き出し、スライムたちを光に変えていった。
くそっ。流石レイドボス。カスリダメージでも俺のスライムは即死だ。なら。
「スライム。飛び込む瞬間に分裂するんだ!」
「すらっ」
まるで砂で出来た球が破裂するようにスライムがバラバラになりつつボスに突撃を掛ける。
最初のころはこの分裂も5等分くらいが精々だったのに、今では100等分くらいに分裂出来ている。
そしてその1つ1つにダメージ判定があるんだ。
例えボスの防御力が高かろうと1発1のダメージは入るはず。
HPが100万あったとしても1万回突撃すれば勝てるだろ!
俺のその考えは正しかったようで、確かにボスのHPバーが赤く染まっていく。
『くそっ。しゃらくせぇ。【暴食】!』
ボスがスキルを発動させた。
俺から見たら一瞬ボスがハンバーガーよろしく体の横に亀裂が入って2つに分かれたように見えた。
実際には工の字のように中央に芯を残しながら口を開けたのだった。
その口に飛び込んだスライムたちは、次の瞬間バクっと食われた。
するとボスのHPが若干だけど回復したように見える。
『ちっ。こんなんじゃ腹の足しにもならないな。もっと真面な魔法とか撃ってこれねぇのかよ』
そんな愚痴をこぼすボススライム。
なるほど、あれは相手の魔法を吸収するスキルだったんだな。
それが本来なら最弱モンスターのスライムが20体分では大した回復にはならないんだろう。
「そんなに言うならもう1撃やってやるよ。行け、スライム」
「「すらっ」」
『何度来ても一緒だ【暴食】』
「スライム、毒撃と麻痺撃全開」
「「すらっ」」
『ぐえっ。不味いぃぃ』
ぺっぺっと吐き出すようなモーションをするボス。
HPも回復するよりダメージの方が大きかった。
それとこいつは一つ大きなミスを犯している。
「お前さっきから急所丸見えなんだよ!」
俺の連続スライム投げが口を開いたボスの中心、ちょうど工の芯の部分に突き刺さる。
ズボボボッ
『ぎゃあああぁぁ』
するとさっきまでビクともしなかった巨体がもんどり打って転がった。
やっぱり急所だったか。他より赤みが強いからそうじゃないかと思ったんだよ。
これでHPも一気に5%近く減って、残り6割ってところだ。
『くそっ。雑魚のくせに!
お前たちが数で来るならこっちも数で勝負だ【分裂】!!』
今度はこっちのスライムを真似て分裂してきた。
本体は最初の半分くらいになり、俺のスライムとそう変わらない大きさの赤いスライムが数百体フィールドにまき散らされる。
『どうだ!』
どや顔(?)をするボススライム。
これ本来なら大勢でボスを囲むレイドバトルだからボス1体vsプレイヤー100人の数の優位を覆す大技なんだろう。
だけどボスの生み出した有限の数百体と、俺の無限に召喚出来る200体なら俺の方がまだ有利だ。
なぜなら数百体全部が一度にこっちを攻撃できる訳じゃないからな。
それに分裂スキルには2つ大きな問題がある。
一つは分裂する度に本体のHPが消費されることだ。
その証拠にボス本体のHPは半分まで減っている。
そしてもっと大きな問題は、分裂体は本体より大幅に弱体化しているってことだ。
恐らくこの分裂体はランク2程度の強さしかない。だから。
「スライム。敵の分裂体を叩きのめせ!」
「「すらっ」」
『こなくそっ』
予想通りだ。
ボスを挟んで反対側はほぼ何も出来てないし、こっち側に居る分裂体は俺のスライムとほぼ互角のステータスしかなさそうだ。
それなら俺のスライムが負けることは無い。
なにせこっちのスライムはずっと色んな経験を積んできたからな。
殴り合い一つ取っても空手の白帯と黒帯くらい技のキレが違う。
そうして30分もするとボスが出した分裂体はほぼ無くなった。
「どうした、もう打ち止めか?」
『なめるなぁ!!』
挑発すれば2度3度と分裂スキルを使ってきたボスだけど、正直それはただの悪手だ。
こっちの消耗はほとんどないのに向こうは勝手に3割までHPを減らしている。
馬鹿の一つ覚えというより、多分こいつ、戦闘経験が圧倒的に足りないんだ。
どうやってレイドボスまで進化したかは知らないけど、寄生プレイみたいに経験値だけ手に入れたんじゃないだろうか。
『はぁっはぁっはぁっ』
「今度こそネタ切れっぽいな」
スライムが息切れするっていうのも変な話だけど、気が付けばボスの体はかなり小さくなってもう直径1メートルくらいしかない。
意外と楽だったなと思うのはきっと、相性が良かったんだろうな。
本来だったら近距離プレイヤーは最初の棘攻撃で封殺されるだろうし、遠距離プレイヤーは暴食で防がれたうえに回復され、分裂でかく乱されていたはずだ。
あと、いちいちスキル名とか言ってくれるからどんな攻撃が来るのか予想しやすいんだよな。
って、それは言葉が分かるからか。
「なぁ。スライムのよしみで逃げてくれるなら追わないけど、どうだ?」
『へんっ。この姿に進化した時から俺様に撤退の2字は無いって決めてるんだ。
それにまだ最終奥義が残ってるんだからな!
くらえ【スライムバーストショット】!!』
「どわっ」
まるで弾丸のようにぶっ飛んできたボスを間一髪避けた。
『まだまだ行くぜ!』
その言葉の通り、まるで壁に跳ね返るピンポン玉の様に180度方向転換してくるボス。
恐らく俺がこれを直撃されたら1発アウトだろう。
しかし続けざまに飛んでくるボスを何度か避けていると一つ気付いてしまった。
(……こいつフェイントとか使わないんだろうか)
避けた後、跳ね返る前に移動すれば、移動後の位置に向けて跳ね返ってくるんだけど、毎回俺めがけてまっすぐ飛んでくる。
お陰で闘牛士よろしく避けるのは難しくない。
まぁ赤いのは俺じゃなくてあっちだけど。
これ本来なら複数のプレイヤーにランダムで飛んでいく仕様だったんだろうな。
ま、お陰で色々楽させてもらえるんだけど。
「スライム。魚釣りだ」
「すらっ」
俺の言葉にうなずき密集するスライムたち。
何を隠そう、うちのスライムは魚釣りの名人だ。
西の湖では毎日大物を何匹も釣ってた実績がある。
そして釣れた大物はなぜか一直線に向かってくる性質があった。
だからこの状況はお手の物な訳で。
「「すらっ」」
『ごはっ』
飛んできたボスを見事粘着でキャッチ。そのままバックドロップの様に地面に叩きつけた。
そうして足を止めたボスをみんなで囲んでタコ殴りにする。
流石にボスは魚程もろくは無いけど、さっきこいつ『最終奥義』って言ってたからな。
多分これ以上の奥の手は無いだろう。
ほら、何とかスライムの包囲を抜け出したと思ったらまた、突撃に戻った。
『そう何度も同じ手に引っ掛かるような俺様じゃないぞ』
そう言って今度はちゃんとフェイントとカーブを交えて来た。
でもなぁ。
うちのスライムたちは最近教会の子供たちとも色々遊んでてな。
「すらっ」
カッキーーン!!
「ホームラン」
飛んできたボスを今度は打ち返していた。
それでもう万策尽きたらしく、ボスはスライムの海に沈んでいった。
<レイドボス:クリムゾンスライムの討伐を達成しました>
<レイドボス:クリムゾンスライムのソロ討伐を達成しました>
<レイドボスの攻略に伴い、3次職へのランクアップを開放……失敗。
代わりに特殊2次職へのランクアップを開放……失敗。
代わりに1次職の強化を行います>
<クリムゾンスライムの攻略に伴い、レッドスライム召喚スキルを開放……失敗。
代わりに既存の召喚スキルの強化を行います>
後書き掲示板:
No.599 通りすがりの冒険者
急募:第3次レイドボス『ダークネスウルフ』攻略隊
場所は王都とカジノ街の間
要LV30以上
No.600 通りすがりの冒険者
1次と2次はいつの間に過ぎたんだ?
No.601 通りすがりの冒険者
1次は10人で行って瞬殺
2次は50人で挑んだけどボスのHP半分削れずに壊滅
今度は100人フルで揃えて突撃する予定
No.602 通りすがりの冒険者
頑張れ。俺じゃ戦力外だ
No.603 通りすがりの冒険者
しかし徘徊型のレイドボスか。
完全に災害クラスじゃないかこれは。
街に突っ込んだら街壊滅するんじゃなかろうか。
No.604 通りすがりの冒険者
はっ!!
あのクソ成金都市にモンスターアタックするチャンスか!!
No.605 通りすがりの冒険者
失敗して神敵扱いされるオチだな
No.606 通りすがりの冒険者
それにその場合、レイドボスのドロップは手に入らなくなりそう
No.607 通りすがりの冒険者
何がドロップするんだっけ?
No.608 通りすがりの冒険者
公式曰く希少装備とかと魔石
No.609 通りすがりの冒険者
確か少人数で行った方が価値が高いんだっけ
No.610 通りすがりの冒険者
それで最初は10人で挑んだらしい。
見事に返り討ちにあったんだけどな
No.611 通りすがりの冒険者
と言ってる間に第3次はじまた
No.612 通りすがりの冒険者
ギャラリーも結構いるな
No.613 通りすがりの冒険者
ボスに集中しすぎて後ろから一般のに襲われてる奴も居るけど
No.614 通りすがりの冒険者
参加上限に達してると戦い終わるまで入れないのか
No.615 通りすがりの冒険者
おっHP半分削れた
っ!?
No.616 通りすがりの冒険者
シャドウウルフ大量発生!!
No.617 通りすがりの冒険者
ああっヒーラーがやられてく
前衛早く戻れって
No.618 通りすがりの冒険者
連携がなってないんだよな。
野良レイドだから仕方ないんだけど
No.619 通りすがりの冒険者
そしてダメ押しのボスのブレス攻撃
No.620 通りすがりの冒険者
しゅーりょー
No.621 通りすがりの冒険者
と思ったらギャラリー陣で第4次スタート!?
No.622 通りすがりの冒険者
HP引継ぎだ。これならワンチャンあるか!?
No.623 通りすがりの冒険者
……なかったな
No.624 通りすがりの冒険者
ああ、なかったな
No.625 通りすがりの冒険者
むしろみんな死に戻るの早すぎてテラワロス
No.626 通りすがりの冒険者
今はHP引き継ぐのが分かったので波状攻撃を仕掛けているらしい。
No.627 通りすがりの冒険者
最も恐ろしいのは不死身の化け物ってことか




