ランクアップの宴会芸
これからすぐに向こうに渡るというリャンさんと別れて冒険者ギルドの出張所に向かう。
どうやらリャンさんは俺の安否が気がかりで待っていてくれたようだ。
別れ際にモモとも会う事が出来た。
これで今生の別れという訳でもないだろうけど、次に会えるのがいつか分からないから会えてよかった。
そして境界村の冒険者ギルドはというと、普通の酒場だった。
日が暮れたこのタイミングでは誰もが酒を飲み陽気に会話を楽しんでいた。
「さて、ギルドの受付はどうするんだ?」
そんな俺の呟きに答えた訳じゃないだろう。
カウンターに座っていたひげ面のじいさんが俺を見て手招きした。
「おう、そこの若いの。見ない顔だな、今日来たのか?」
「こんばんは。ええ、今日の夕方に着いたところです」
「そうか。今朝はドラゴンが街道に出たとか大騒ぎになっていたが大丈夫だったのか?」
「ええ、なんとか」
「見た所、冒険者だろう。
冒険者と言っても命あってのものだからな。
ああいった危機を回避するのも立派なスキルよ」
「いえ、回避は、出来ませんでしたね。ばっちり絡まれました」
「……嘘じゃ、ねえのか」
「ええまぁ」
驚きのあまり立ち上がるじいさん。
その勢いで座っていた椅子が倒れ、バタンと大きな音がギルド内に響く。
一瞬静まり返る室内。同時に全員の視線がこっちを向いた。
それに答えるようにじいさんが声を張り上げた。
「おい野郎ども。英雄様のお出ましだ!
今朝のドラゴンに遭って無傷で切り抜けてきたんだとよ!!」
「なんだって!?」
「すげぇな兄ちゃん。そんなヒョロイ体なのにドラゴンに立ち向かったのか」
「まさか撃退した、なんて言わないよな?」
「そんなこと出来たらドラゴンスレイヤーでAランク間違いなしだぞ」
「おぉ未来のAランク様か。こりゃめでたい。乾杯するしかねえな!」
じいさんの一声に途端に騒ぎ出す酔っ払い達。
しかもいつの間にか話が大きくなって「Aランク冒険者様に乾杯だ!!」と勝手に盛り上がり始めた。
こいつらは多分なんでも良いんだよな。楽しく騒げて飲めれば。
「俺まだEランクなんですけど」
「なに、そんなのすぐだよ。それにこの村に来たってことは、もうDランクには上がれるんだろう?」
「?? 確かに元々受けてたクエストが終わればDランクにはなれるだろうって話でしたし、先ほど審査してくれた人からCに上がれるって聞きましたけど。
ここに来るのに冒険者ランクが関係するんですか?」
「まあな。この村に来るには他の街で認められないといけないのさ。
お前さんの場合はそのクエストが認められた証拠だ。
認められるには相応の活躍をしないといけないから必然的にランクも上がるって寸法よ」
「なるほど。ところで、ギルドの受付は誰に言えば良いんですか?」
「それは私がお受けしましょう」
「ん?」
そう間に入ってきたのは酒場のマスターだった。
スッと俺にカクテルを差し出しつつ、いつの間にかカウンターの向かい側に立っていた。
「驚かせてしまいましたか? 職業柄、お客様の会話を邪魔する足音や気配は消しているもので。
私、ここの酒場のマスター兼冒険者ギルドの受付担当のキッシュと申します。以後お見知りおきを」
「冒険者のシュージです。クエスト票はこちらに」
「お預かりしましょう……ほう、リャン様の推薦付きですか。
これは確かに未来のAランク様かもしれませんね。
どうでしょう。ここで一つ、シュージ様のお力でここにいる皆の度肝を抜くような何かを披露して頂けませんか?」
「はぁ」
「もちろんタダでとは言いません。披露して頂いた暁にはシュージ様をCランクへとランクアップさせて頂きますし相応の対価もお出ししましょう」
「そうですか。ちょっと考えさせてください」
「どうぞどうぞ」
これは何だろうって考えたら、恐らくランクアップ試験の延長みたいなものだろう。
ここでって事は非殺傷系の能力で、かつ海千山千の猛者たちが驚くような何かだ。
腕自慢なら腕相撲大会で勝ち抜くなんてのもありかもしれないけど、俺には無理だろうしな。
いつもながら俺に出来る事なんてスライムを使った何かだ。
そのうえで皆の度肝を抜く、か。よし。
「分かりました。じゃあ、相応の対価には今日ここに居る皆の飲食代も含めてください」
「ほほぉ。分かりました」
「聞いたか野郎共!! 未来のAランク様が何か披露してくれるってよ!
しかもそれが上手く行ったら今日の飲み代は全部おごりだ!!!」
「「「よっしゃああぁぁぁ!!!」」」
おごりと聞いた瞬間、店内が最高潮の盛り上がりになる。
全く現金なものだ。
「じゃあ皆さん。まずはこのスライムにご注目してください」
そう言って俺は右手にスライムを持って高く持ち上げた。
皆も何が起きるのかと固唾をのんで見守っている。
「このスライム。一見ただのスライムですが、実はすごい技を持っているのでお見せしますね。
ていっ」
俺はスライムを天井に向けて投げ飛ばした。
皆の視線もそれに合わせて天井へと向けられる。
「スライム『増殖』だ」
「すらっ」
分裂スキルが上位化して出来た増殖スキルで一気にその数を30体まで増やした。
そのスライム達は落下と共に皆の頭にぽんっと乗った。
「とまぁこんな感じです」
「ん?なんだ?」
「まさかこれだけ、なのか?」
店内に残念感が漂ったその時。
「おい、俺の飯どこ行った!?」
「は? お、俺の酒もねぇ!!」
「俺もだ」
「いつの間に!?」
全てのテーブルから酒も料理も消え去っていた。
恐らくその一部始終を見ていたのは俺以外だとマスターだけだろう。
「という訳でマスター、皆に酒と料理を」
「ふふっ、畏まりました」
「なっ、ということはこれはシュージがやったのか!?」
驚くじいさん。その手には空になった皿とジョッキが握られている。
「そうですけど、やったのは古典的な視線誘導ですよ?」
「そりゃ、お前さんがスライムを使ってみんなの視線をテーブルの上から離したのは分かる。
だが、どうやってテーブルの上を空にしたんだ?」
「簡単です。食べたんですよ。
皆さん、テーブルの裏側を見てください」
俺の言葉に慌ててしゃがみ込む皆。
そしてすぐさま驚きの声が聞こえてくる。
そこにはテーブル1つにつき3体のスライムがくっ付いていたからだ。
「俺の特技はスライムを召喚することです。
皆さんが上に注目している間に各テーブルにスライムを忍び込ませてテーブルの上の料理を回収してもらいました」
「おいおい、いったい何体召喚出来るんだよ」
「いつの間にそんな」
「たかがスライムとは言え、この数は尋常じゃねえな」
「むっ」
今たかがとか言ったか?
それはちょっと聞き捨てならないな。
「マスター、ここの一番高いお酒を瓶ごと貸してください」
「はいどうぞ」
「さて皆さん。今のじゃ満足出来なかった方はどうぞこちらへ。
1分以内に俺のところに辿り着ければこのお酒を差し上げましょう!」
「「おおぉぉ」」
俺がそう言って酒瓶を高々と持ち上げると、みんなスライムに驚いていたのも忘れてこっちへ殺到しようとする。
そして。
「ぬおっ。動けねぇ」
「足がっ!」
「うわっち」
両足が地面に縫い留められて、身動きが取れなくなっていた。
何人かはバランスを崩してこけてしまう。
「とまぁ、スライムはこんなことも出来るんです」
「くっ、足止めか」
「こりゃ確かに相手の隙を作るのには有効だな」
「だけどそれだけか、すぐに抜けられるだろ」
「ちなみに今の時間があれば、そこから毒や麻痺の状態異常にさせることも可能でしたよ?」
「「げえぇぇ!!?」」
若干青褪める姿に満足した俺は、スライム達を撤収させた。
そしてそうこうしている間にマスターが手早く料理を作り上げていた。
「さあ皆さん。驚かせてしまったお詫びにマスターの料理を食べてください」
「お、おう」
「いや、すげえや。ただのスライムだと思ったのに侮れねぇもんだな」
「ああ、俺も今度からスライムを見かけたらもっと警戒するようにするよ」
めいめいに驚きの感想を言いつつ、酒とマスターの料理を手にして落ち着きを取り戻す皆。
各テーブルでは「スライムマスターに乾杯だ!」とまた盛り上がり始めた。
そしてマスターも料理の提供がひと段落したところで、俺のところに戻ってきた。
「いやぁ。私の無茶ぶりに応えて頂き、ありがとうございます」
「いえいえ。期待を裏切らずに済んでほっとしていますよ」
「ではシュージ様。これにてCランクへの昇格とさせて頂きます。
今後の活躍を楽しみにさせて頂きますよ」
そう言って空になった俺のグラスに新たな酒を注いでくれるのだった。
後書き掲示板:
No.811 通りすがりの冒険者
Dランク来たぜ!!
No.812 通りすがりの冒険者
乙カレー
No.813 通りすがりの冒険者
ただ冒険者ランク上がると良い事ってなんかあんの?
No.814 通りすがりの冒険者
Eランクまでは半人前
Dランクからは1人前と見なされるらしい。
Bランク以上は一流と見なされる。
だっけ
No.814 通りすがりの冒険者
そうそう。
ぶっちゃけEランクまでとDランクからだとあからさまにギルドの態度が変わる。
No.815 通りすがりの冒険者
まぢで!?
もしかして俺のエリーゼちゃんがデレる可能性があるのか!!
No.816 通りすがりの冒険者
>>815
ないな
No.817 通りすがりの冒険者
>>815
ない
No.818 通りすがりの冒険者
>>815
そもそもお前名前覚えられてるか?
ランク以前に隠しパラメータで好感度あるっぽいからな
むしろ俺はあの人が怒ってる姿を見たことが無い
No.819 通りすがりの冒険者
ばっ、お前あの人のツンを見るのがこのゲームの醍醐味だろ。
No.820 通りすがりの冒険者
>>819
ただの迷惑プレイヤー疑惑
No.821 通りすがりの冒険者
>>819
むしろお前のせいで俺たちの好感度まで下がってるんじゃねえのか?
No.822 通りすがりの冒険者
まぁそんな変態ストーカー君は置いておいて話を戻そう
No.823 通りすがりの冒険者
なんだっけ、ランクのメリット?
No.824 通りすがりの冒険者
確かこんな感じ
・受注可能クエストの増加
・指名依頼があったりなかったり
・侵入可能エリアの拡大
・提供される情報量UP
No.825 通りすがりの冒険者
あと拠点もしくはクランハウス作るのにもリーダーがDランク以上って制限があるな
No.826 通りすがりの冒険者
お金凄い掛かるけどね
No.827 通りすがりの冒険者
その分のリターンは十分あると思うよ
No.828 通りすがりの冒険者
そうだな。生産施設の拡充とバフ効果、デスペナの減少なんかも地味に嬉しいな
No.829 通りすがりの冒険者
その辺りは拠点のタイプによって大きく変わるぞ。
おすすめはバフ効果の高い司令部型だな。
No.830 通りすがりの冒険者
いやいや、高レベルの素材の生産が出来る農場牧場タイプもいいよ。
時々魔物が家畜を襲ってきたり逆に家畜が逃げ出そうとしたりするけど。
No.831 通りすがりの冒険者
それはもう牧場経営ゲームと化してるだろ
No.832 通りすがりの冒険者
ちなみに育てた牛100頭でボス狩りとかも出来ます。
No.833 通りすがりの冒険者
犠牲になった牛は後で美味しく頂きましたってか
No.834 通りすがりの冒険者
でも別ゲーで確かにあったなそういうの




