厄介ごとは向こうからやってくるもの
普通に大団円で終わる予定だったのに。
運命の赤い糸はこじれる宿命なのか。
教会に帰ってきた俺達をローラさん達が一列に並んで迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。シュージ様」
「ただいまです」
「クディー」
俺達の挨拶に合わせてクディも優雅に翼を広げながらお辞儀を披露する。
それを見たローラさん達は顔を紅潮させた。
「あ、あの! そちらの鳥はもしかして新光鳥ですよね!?」
「え、ああ、はい。そうらしいですね」
「やっぱり!! あぁ神よ」
俺の答えを聞いたローラさんは感極まって祈りを捧げだした。
子供たちもローラさんに倣って祈り始めた。
……何事?
「……あの、ローラさん。説明をお願いしても?」
「あ、そうですよね。シュージ様は異界から来られたのでご存じないんですよね。
新光鳥は神の使いとも呼ばれる鳥で、時代の夜明けに現れるという伝説があるんです。
その美しい純白の翼を見れた人は生涯幸せになれるという言い伝えもある程です」
「そうか。お前そんなに凄かったんだな」
「クディ?」
クディ自身はイマイチ分かってないっぽいな。
元々ただの魔物だし、伝説なんて人が後付けででっち上げたものがほとんどだからな。
偶然昔の神様が気まぐれでボス鳥に餌を上げてみたとかそんなところだろう。
と、そうだ。
神様と言えば教会に貢物があるんだった。
「ローラさん。教会に貢物を捧げる時はどうすればいいでしょう?」
「それなら礼拝堂の祭壇に貢物を置き祈りを捧げれば大丈夫です」
「分かりました。
と、クディは基本、他人に迷惑を掛けなければ自由にしてて良いからな」
「クディー」
「あ、あの。それなら、少し触らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「クディが嫌がらなければどうぞ」
「ありがとうございます!!」
俺の答えを聞いてローラさんを始め、子供たちも「わぁ」っとクディに駆け寄った。
クディもまるで雛をあやすように子供たちに接しているから大丈夫そうだ。
皆の歓声を後ろに聞きながら俺は礼拝堂へと向かった。
さて祭壇は、あれか。
「お待ちください、シュージ様」
祭壇前に来たところでローラさんが慌てて入ってきた。
「ローラさん、クディの方はもう良いんですか?」
「えっと……はい。
それより大切な儀式の場に居ない方が問題ですから」
「そうですか」
だいぶ名残惜しかったようだ。
それに花を1輪捧げるだけで別に大切な儀式ってほどでもないんだけど。
がっかりさせないかだけ心配だな。
俺はアイテムボックスから『純白のマテリアルハート』を取り出して祭壇に置き、ローラさんと並んで手を合わせた。
「天にまします我らが神よ……」
ローラさんが厳かに祝詞を口にすると、次第にローラさんと祭壇が光り出した。
光は段々と教会全体を包み込み、そして一層光が強くなったところで屋根の上からクディの鳴き声が響く。
『クディーー』
時間にして1分程で光は納まり、『純白のマテリアルハート』もいつの間にか消えていた。
これで無事に奉納は完了ってことだろう。
……何か変わったりするのかは知らないけど。綺麗だったからいいか。
ざわざわざわっ
ざわざわざわっ
「ん?」
「なんでしょう。外が騒がしいようですね」
「シスター大変だ!!」
子供たちが慌てて礼拝堂に入ってきた。
その後ろから数人の身なりの良い大人たちが続いている。
「失礼しますよ」
「あなたは?」
「む、私の顔に見覚えがありませんか」
「大司教様に向かってなんと失礼な!」
「神に仕える者として有るまじき事だ!」
ローラさんが先頭のおじさん(大司教?)の事を知らなかったのが許せないのか、一緒について来ていた男たちがめいめいに騒ぎ出した。
「まぁまぁ待ちなさい」
「ですが」
「こんな辺鄙なところに建っている教会です。
たかだかそこの1シスターが一度も大聖堂に来たことが無くても仕方がない事でしょう」
「言われてみればその通りですな」
「流石ご慧眼でございます」
うん。彼らが何しに来たかは置いておいて、少なくとも好意的な客ではないことは間違いないようだ。
出来るだけ穏便にお帰り頂きたいものだ。
「それで、その大司教様ともあろう方がどのような御用ですか?」
「貴様! 許しもなく大司教様に声を掛けるとは何事だ」
「まぁお待ちなさい。異界からの来訪者は礼儀を知らないというのは周知の事実。
寛大な心で受け入れてあげるのも我らの務めでしょう」
「なるほど」
(いや、なるほどじゃないんだが。どうでもいいけど話を進めて欲しい)
「本来なら正式に挨拶をすべきところですが、それは今回は良いでしょう」
そんな俺の思いが通じたとは思えないけど、ようやく本題に入ってくれそうだ。
「単刀直入に言おう。
悪い事は言わない。あの新光鳥を大聖堂に寄贈なさい。
新光鳥は神の使いとも呼ばれる吉鳥。このような鄙びた教会には似つかわしくありません」
「はぁ」
「もちろん返礼には相応のものが送られることでしょう。
それがあれば子供たちも飢えることもなくなり、教会の立て直しも出来る事でしょう」
「……」
ちらっとローラさんに視線を向けると「どうぞご自由に」というようにそっと頭を垂れた。
なら自由にやらせてもらおう。
「異界の逸話にこういうものがあります。
『籠に閉じ込められた、幸せを連れてくる青い鳥は、ただの鳥である』と」
「なにを」
「あの新光鳥は自分の意志でここに来ました。
もし今後ここを去るとすれば、それも彼女の意志でしょう」
「ふむ。つまり我々があの新光鳥を連れて行こうとも構わないということだね」
「それが彼女の意志であれば」
「なるほど。賢明な判断だ。おい」
「はっ」
大司教がお付きに合図をするとサッと外へ駆け出して行った。
恐らくクディを連れ去る用意をさせに行ったんだろう。
「それにしても君は新光鳥を『彼女』と呼ぶのだね」
「ええ、雄か雌で言えば雌ですし」
「新光鳥の性別を見分けられるというのも稀有な技能だ。
しかしそうか。メスなら今後子供を産むことも出来るという事か。
子供を産んだ後は剥製にして飾るのも良いかもしれないな。ふふふっ」
皮算用にほくそ笑む大司教。
彼の頭の中にはクディとその子は良い商品にしか見えていないんだろう。
「さて、私も暇ではないのでね。これで失礼させて頂くよ」
そう言って大司教が身を翻した時。
外から悲鳴が聞こえてきた。
「大司教様。大変でございます」
「何事ですか騒々しい」
「新光鳥を捕らえに向かった者たちが反撃を受けています」
「なんだと!?」
慌てて外に出てみれば、まず目に入ったのは教会を囲む大勢の人達。
続いて教会の屋根に登るロープを持った男たち。
いやいや。クディをそんなロープで捕まえるのは無理だと思うぞ?
案の定、一人がクディの嘴に肩を突かれて屋根から落ちた。
へぇ。
クディも急所を外して攻撃している所を見ると、だいぶ手加減してくれているんだな。
でだ。ここで一つ気になるのは外の人達がどちらの味方か、だ。
男たちがクディに襲い掛かるたびに上がる悲鳴と歓声。
それを聞けばおのずと分かるというもので。
「危ない、うしろ!」
「逃げて~新光鳥様~!!」
「くそ、警備隊はまだか!?」
どれもクディの身をあんじるものばかりだ。良かった。
と、クディが10人の男たちに囲まれた。
クディも飛べばいいのにわざわざ屋根の上に留まっているからな。
囲まれるのも時間の問題だと思ってた。
だけど、この教会のガーディアンを忘れて貰っては困る。
「クディー」
「「すらっ」」
クディの協力要請に様子を見守っていたスライム達が立ち上がった。
あ、立ち上がったと言ってもスライムは丸いままだけど。
そこからは一方的だった。
ただでさえ不安定な屋根の上だ。
そこをスライムのジャンピングアタックを受けて屋根から落ちる者。
片足を粘着で縫い留められてバランスを崩し落ちていく者。
顔面に粘着されて呼吸困難でもがきながら落ちていく者。
などなどなど。
しかも下に落ちた者たちも待ち構えていたスライムが死なない程度にキャッチ。
そのまま両手足を粘着で拘束すれば程なくして全員が行動不能に陥った。
それを見た大司教たちは顔を青くしている。
「あ、あの魔物はいったい」
「うちのガーディアンですよ。
安心してください。"善良な一般市民"に危害を加えることはありませんから」
「何を馬鹿な。君はさっき我々の邪魔はしないと言ったばかりではないか」
「いえ。俺が言ったのは彼女、新光鳥の意志を尊重する。とだけです。
どうやら彼女はここから離れる気はないそうですよ」
「クディー」
「ほら、彼女もそう言ってます」
「馬鹿な事を言うな。新光鳥はただ鳴いているだけじゃないか」
「ええぇ! もしかいて大司教様ともあろう方が神の使いの言葉が理解できないと仰るのですか!?
しかも先ほどは剥製にするとか仰っていましたよね!!!」
俺がわざと大声でそう言うと周囲の空気が1段下がった。
観衆からの無言のプレッシャーが大司教達に掛かる。
「ぐっ……くそ。後悔するぞ」
周囲の様子から流石にここは分が悪いと見たのか、捨て台詞を吐いて逃げていく大司教達。
それを見て観衆からわぁっと歓声が上がる。
更にクディが屋根から降りてきて俺の前で翼を広げて一声鳴くと、再び大歓声が巻き起こるのだった。
後書き掲示板:
No.124 通りすがりの冒険者
2週間も開けてると第2の街が懐かしい
No.125 通りすがりの冒険者
皆お揃いの装備でちょっとウケる
No.126 通りすがりの冒険者
ベースの素材で4通り。
とは言っても金属鎧は北の素材1択だし、皮鎧は東の素材1択。
多少色や意匠をアレンジしても大体似通う罠。
No.127 通りすがりの冒険者
腕や下半身もそれに合わせてコーディネートするのが普通だろうし
No.128 通りすがりの冒険者
あれ、じゃあ、南や西の素材ってどこに使うん?
No.129 通りすがりの冒険者
南の木材なら弓、軽盾、杖など木で出来た武器って意外と多い。
西の羽毛と嘴はアクセサリーや頭装備、靴装備
No.130 通りすがりの冒険者
複合装備って手もあるけど、作れる腕の良い鍛冶師は限られてるからね。
もう少ししたらもうちょっと個性が出てくるよ、きっと。
No.131 通りすがりの冒険者
あと南は毒耐性なんかのデバフ耐性、西は加速などのバフが付くものが多い。
No.132 通りすがりの冒険者
複合して羽のように軽い金属鎧も作れたら面白いんだけどな。
No.133 通りすがりの冒険者
しっかし、みんな移動早くね?
No.134 通りすがりの冒険者
え、だって転移門使えば一瞬じゃん
No.135 通りすがりの冒険者
は?
No.136 通りすがりの冒険者
え、もしかして知らないの!?
No.137 通りすがりの冒険者
中央広場にあるモニュメント。
あれが街を行き来するための転移魔道具になってる
No.138 通りすがりの冒険者
そうだったのか。それで。
No.139 通りすがりの冒険者
ん? なにかあったんか?
No.140 通りすがりの冒険者
さっきなんか偉そうなおっさん達がモニュメントに吸い込まれていったからさ
No.141 通りすがりの冒険者
現地の人も普通に使える。
といっても利用料はそれなりに取られるんだけどな。
No.142 通りすがりの冒険者
その金はいったいどこに消えていくのか……
No.143 通りすがりの冒険者
それに下手に首を突っ込むと消されるぞっ
No.144 通りすがりの冒険者
きっとヤの付く人とか暗な人が来るイメージ
No.145 通りすがりの冒険者
ひぇっ
No.146 通りすがりの冒険者
ま、そういうのは忘れて攻略を進めよう。
No.147 通りすがりの冒険者
だな。この先はルート分岐が多いみたいだし。
No.148 通りすがりの冒険者
北の火山地帯に向かうべきか、西の海を探しにいくか。
No.149 通りすがりの冒険者
南の街には闘技場があるという噂もあるし




