え、育ての親?俺が?
私の作品はいつもいつも、私の計画をばっちり無視して自由に飛んで行ってしまいます。
まぁ子供はのびのび成長してくれれば良いんですよね。
子育てしたことないけど。
ボスの曇鳥(正しくは暗雲鳥)に捕まれた俺はなす術なく空の旅を堪能することにした。
幸いHPは減っていないし、今すぐ俺を傷つけるつもりは無いのだろう。
「クケェーー」
「なんて言ってるんだろうな」
「すら……すらっ」
どうやらスライムはボスの言葉が分かるらしい。
以心伝心のスキルでスライムの思考は何となく分かるので、ボスの通訳をしてもらえそうだ。
「クケ、クケッ」
「すらっ」
「ん?我が家に招待したい?」
「すらっ」
ふむ、間違いないようだ。
まだ飛べない子供たちに食べ物を分けて欲しいみたいだ。
まぁいちいち地上で俺が出した魚を持っていくより効率的だよな。
そうして上昇を開始したボスは雲を突き抜けた。
上を見上げれば青空が広がり、眼下には雲海がある。
またよく見ると雲海の上にぽつぽつと緑色の何かがある。
「……曇鳥の巣かな」
「クケ」
当たりらしい。
雲海の中でひと際黒い雲の上に来たところでボスはぽいっと俺を放り投げた。
受け身も満足に取れずに雲に突っ込んだ俺だけど、ふわふわの雲がクッションになったお陰で怪我一つ無い。
むしろこの雲の感触は人をダメにするタイプの柔らかさだ。
「「ケーケー」」
雲のクッションの感触を堪能していた俺を1トーン高い鳴き声が迎えてくれた。
見れば曇鳥の雛、と言ってもかなりのサイズだけど、が俺を興味深げに眺めている。
「すらっ」
「『お腹空いたっ。これ食べられる?』って俺は食べちゃダメだぞ」
「すらっすらっ」
「ケェ」
食べられないと伝えたら悲しそうな鳴き声を立てた。
「まぁ待て。直ぐに出してやるからな」
「「ケケケケケッ」」
小魚をアイテムボックスから取り出すと、雛たちは色めき立った。
もう今にも襲い掛かってきそうな勢いである。
でもこういう時ってしつけは大事だよな。
「『待て』」
「ケェ?」
「『待て』が出来ないとあげないぞ!」
「ケッ!?」
身振り手振りを交えて『待て』をさせる。
犬じゃないけど魔物は知性の高いのが多いしな。
スライムと会話ができるレベルなら意思の疎通も出来る事だろう。
そうして目が血走りつつも何とか自制した雛たち。
「よし。食っていいぞ。でも順番にな。量は十分あるから」
「「ケェーー」」
俺が合図を出して魚を差し出すと、だいぶ従順になった雛たちが順番に口を開けて待っているので放り込んであげる。
「「ケェ」」
「そうか、美味いか」
魚を一飲みにした雛たちは嬉しそうな鳴き声を上げる。
それを聞きながら次々と魚を与えていたら、親鳥も降りてきた。
「お前にはこっちのデカいのだな」
「グケェー」
親鳥用に5メートル級のマグロっぽい魚を出してあげる。
親鳥は鋭いくちばしで器用に魚を捌き、啄んでいた。
「ははっ、流石に丸呑みは出来ないか」
「クケェー」
「「ケー」」
親鳥が食べやすく捌いたので雛たちも一緒になって啄みだした。
お前達つい今しがた大量に魚食っただろう。底なしか?
そう呆れていたら日差しが陰った。
「何が……げっ」
雲の上なのに更に曇るなんて無いと思ったら、空を覆うように大量の曇鳥が飛んでいた。
「「グケェー」」
「あぁはいはい。分かってるよ」
もう言葉なんて分からなくても言いたいことは分かる。
出せば良いんだろ出せば。
「毒を食らわば皿までってな。全部放出してやるよ」
俺はまた釣ってこれば良いだけだからな。
ほら並べ。順番だ順番。そこ、横入りするな!
全く、俺はなんのゲームしてるんだっけな。
これじゃあまるで動物園の飼育員だ。
まぁ。召喚士なんて召喚獣を使役することを考えれば半分飼育員みたいなものか。
結局魚だけだと足りず、アイテムボックスに残していたウサギ肉なども出す羽目になった。
途中から俺達もお腹が空いて来たので雲の上で焼肉パーティーだ。
すると鳥たちも焼肉を求めだしたんで、半分はくれてやる事にした。
……後からグルメになって生魚食べられなくなった、とか言わないよな。
流石にこんなのは今回だけの気まぐれだからな。
こらそこっ。
悲しそうな鳴き声を出すな。袖を引っ張るな!
あぁもう、分かったよ。また来るよ。ただしイベント期間中だけだぞ。
明日も? まだ満足に食べれてない子がいる? 仕方ないなぁ。
ところで俺はどうやって地上に戻れば良いんだ?
あ、送ってくれるって。そうか、すまないな。
そうしてなぜかイベント期間中、気が付けばほぼ毎日、湖と雲海を往復することになった。
3日目からは釣り場まで迎えに来る始末だ。
そしてイベント最終日の朝。
最初に連れてこられたボスの巣のそばで大勢の曇鳥たちに囲まれていた。
「今日で最後か。雛たちもすっかり大きくなって、もう雛とは言えないな」
「「クケェーー」」
「はいはい、よしよし。いつの間にかすっかり野生らしさが消えてないか?大丈夫なんだろうな」
「ケェ?」
「まぁお前らは渡り鳥みたいなものだろうから、また来年になれば似たようなイベントで来るのかもしれないけど。
達者でな。元気で暮らせよ。って魔物に言うのも変な話か」
「クケェー」
「お礼?別に気にしなくて良いけどな」
「ケェッケェッ」
「駄目?義理人情は大事って教わった?誰にって俺にか」
そう言えば魚を食わせながら色々話もしてたからな。
そんなことも言ってたかもしれない。
「とは言ってもなぁ。ん、良いもの持ってくるから待っててほしい?まぁ良いけどな」
この数日、こいつらの世話をしてたお陰で言葉が分かるようになってしまった。
ステータスを見れば『以心伝心』がLv10になり、『魔物言語』なんてものまで増えていた。
正直会話が成立する相手と戦う気はしないんだけど。
今後の活動に支障が出たりしないか心配だ。
そうして待っていると数羽のボス鳥が何かを加えて飛んできた。
「クケェーー」
「『お礼の品です。お納めください』ってどこのお代官様だかな。
まぁ貰えるものは貰っておくか。みんなありがとうな」
「クケェーー」
さて何を貰えたんだろうと確認してみると、1つは見覚えのあるアイテムだった。
『純白のマテリアルハート』
これって確か北のイベントフィールドのボスドロップじゃないか。
ということは、まさか他のもか?
『不屈のマテリアルブレイブ』
『英知のマテリアルフルーツ』
『親愛のマテリアルエッグ』
名前からして、ぽいな。うん。
ちなみにブレイブはユニコーンの角のような形をしてて、フルーツはマンゴーとリンゴを合わせた感じだ。エッグは卵というか宝石で作ったイースターエッグだ。
問題はこれらをどうするか、だな。
またどこかのプレイヤーに見つかって恨みを買うのも面倒だし。
「スライム。食べるか?」
「すら!!」
やったー♪と喜ぶスライムに次々とプレゼントしていく。
あ、マテリアルハートは以前食べたから食べられない?そうか。
どうやら1回ずつしか食べられないようだ。
なら残ったこれは教会にでも飾るか。
「よし、じゃあ今度こそこれでお別れだな」
「クケェーー」
「すらっ」
「クケェーー」
「すらっ」
お別れの舞を最後に披露してもらいつつ、俺は最初にここに連れてきたボス鳥の背に乗って曇鳥達の巣を後にした。
そして最初の街に戻る、ってちょっと待て。
「仲良くなったとはいえ魔物だろ、お前。このまま街に入ったら大騒ぎになるから」
「クディーー」
「はぁ!?」
心配ないと一言答えたボスは突然全身が光に包まれた。
光が消えた後に残ったのは純白になったボスだった。
「クディーー」
「もう魔物じゃないから大丈夫? 本当だろうな」
そんな俺の心配は杞憂に終わったような終わらなかったような。
少なくとも軍の出動とはならなかったけど、代わりに上空を飛ぶ俺達を見た街の人達がなぜか歓声を上げていた。
祈りを捧げるようなポーズの人も大勢いるのだが、本当に大丈夫なんだろうな。
一応後で聞いた所、この姿のこいつは時代の夜明けを呼ぶ吉兆の鳥なんだとか。
<限定フィールド『曇鳥の住処』の特殊攻略を達成しました>
<限定フィールド『曇鳥の住処』の攻略に伴い、暗雲鳥召喚スキルを開放……失敗。代わりに既存の召喚スキルの強化を行います>
<新光鳥「クディ」が傘下に入りました>
後書き掲示板:
No.411 通りすがりの冒険者
イベント終了~
No.412 通りすがりの冒険者
みんな乙カレー
No.413 通りすがりの冒険者
各ボス討伐の貢献ランキング出た
No.414 通りすがりの冒険者
報酬はボスの特殊ドロップか
No.415 通りすがりの冒険者
生産職曰くなんにでも加工できる万能アイテムらしいな
No.416 通りすがりの冒険者
ん?なんか街が騒がしいんだけど。
……お祭り騒ぎ?
No.417 通りすがりの冒険者
このイベントって街が何か絡んでたっけ?
No.418 通りすがりの冒険者
いや、そんなことは無い筈。
どっちかと言えば災害的な位置づけ。
No.419 通りすがりの冒険者
外に出てる人、屋根に上ってる人ほか
総じて空を見上げて……なんだあれ!?
No.420 通りすがりの冒険者
純白の鳥だな。
住民が手を合わせて拝みだした。
No.421 通りすがりの冒険者
しあわせの青い鳥みたいなものか
No.422 通りすがりの冒険者
街の上空を一回りした後、どこかに降り立った模様
No.423 通りすがりの冒険者
うぉ!?
住民が一斉に走って行ったぞ
No.424 通りすがりの冒険者
なぁ、あっちって確か、スラム街じゃなかったか?
No.425 通りすがりの冒険者
そうなのか?
なんにせよ人が多すぎて近づけないんだけどな
No.426 通りすがりの冒険者
ただ一つだけ言えるのは
No.427 通りすがりの冒険者
ん、なんだ?
No.428 通りすがりの冒険者
俺達のイベントの影が薄くなり過ぎ!!
No.429 通りすがりの冒険者
うぐっ
No.430 通りすがりの冒険者
言ってしまうか、それを
No.431 通りすがりの冒険者
それもこれもあいつのせいだな
No.432 通りすがりの冒険者
??
あいつって?
No.433 通りすがりの冒険者
ほら、チート疑惑が出たスライム餅
No.434 通りすがりの冒険者
そういえば西のフィールドで何かやらかしたって言ってたしな
もしかしてこれもそいつの仕業ってか?
No.435 通りすがりの冒険者
可能性は高いと思われる