表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/59

今度は西のイベントフィールド、の南へ

「あの、シュージさん」

「は、はい」

「何なのですか、これは?」

「えと、その……」


 おかしいな。

 俺はなぜエリーゼさんにジト目で詰問されているんだろう。

 街の南東に調査兼魔物の間引きに行ったのが昨日。

 昨夜は教会に直帰してスライムたちと教会の皆で熊鍋パーティーで盛り上がった。

 終わった頃には時間も遅くなっていたので報告は明日にしよう、ということで一夜明けた今、こうして冒険者ギルドに来たんだけど。


「ですから依頼通り南東の湿原で魔物を討伐して回収してきた素材なんですけど」

「それは見れば分かります。

 東側や南側に出没するはずの魔物の素材があるのも報告にあった通りなので納得できます」

「ですよね。良かった」

「でも!!」


 ドンっと机を叩くエリーゼさん。

 その振動で机の上に積み上げていた素材がガラガラと崩れ落ちる。


「どれだけ討伐してきたんですか!!

 私はてっきりシュージさんがお一人でクエストを遂行するものと思ってたんですよ?

 これじゃあまるで10人以上の手練れの狩人と山師が一斉に狩りに行ったかのようです」

「だってさ、スライム。手練れの狩人並みだってさ」

「すららっ」


 褒められてぽんぽん飛び跳ねて喜びを表現するスライム。

 俺も随分沢山とれたなぁとは思ってたけど、まさかそこまで凄いとは思ってなかった。

 そしてエリーゼさんも、まさかスライムの手柄だとは思ってなかったようだ。

 まるで信じられないものを見るように俺のスライムを見ている。


「あ、あの。もしかしてこれ全部、そのスライム1体で集めたんですか?」

「いえいえ、流石に違いますよ」

「ですよね~。ははは」

「スライムならまだまだ沢山召喚出来ますから」

「はぁ!?」


 両手、両肩、頭の上と計5体のスライムを召喚して見せる。

 するとまたしてもエリーゼさんは口をあんぐりと開けていた。


「多重召喚スキル……5体ってことは最低でもLv3、ですか。そんな馬鹿な。

 一流の召喚士が多重召喚スキル3のはず。でもシュージさんは2次職にジョブアップした形跡はない。

 かといってこの年では長年召喚スキルを使い続けたとも考えられない。

 それに今一瞬でスライムを4体召喚した? 高速召喚!?

 これも異界の冒険者の固有技能なの?

 確かに異界の冒険者は並外れた成長速度を持っている可能性があるという報告はありました。

 でもまだFランクのシュージさんが……」

「あのぉ」


 どうしたんだろう。

 何かブツブツと呟いてるんだけど。俺そんなに変なこと仕出かしたかな。

 ひとまずスライムを返しながらエリーゼさんが返ってくるのを待った。


「……すみません。少々取り乱しました」

「いえ、それは大丈夫ですけど」

「シュージさん。今は諸々大変だと思いますので後日で良いのですが、早めにランクアップしませんか?」

「ランクアップ、というと冒険者ランクですか?」

「もちろんです。正直1日でこの成果を出せる人がFランクなのは問題があります。

 本来ならクエスト達成ポイントの積み立てが必要ですが、実力が認められれば最低限のクエスト達成でCランクまでは上げられますから。

 今のシュージさんなら最低でもDランクにはなれるかと思います」


 そうだったのか。

 というか、今回の評価って全部スライムのお陰だよな。

 俺自身はレベルは上がったものの装備とか初心者に毛が生えた程度だし。

 それなのに突然ランクが上がっても対応しきれないかもしれないな。


「ひとまず検討だけしておきます」

「そうですか。出来れば前向きにお願いしますね。

 ……それで、シュージさんはこの後の予定とかは決まっていますか?」

「そうですね。他に急ぎの用事が無ければ今回のイベント……預言にあった地域を回ってこようと思ってます。

 北側は先日行ったので、西から順に南、東と回れたらなって思ってます。

 南東の2回目の調査もその途中で行けば丁度良さそうですし」

「なるほど」

「ちなみに、西側の地域の魔物について情報はありますか?」

「はい。そちらに出没している魔物は『曇鳥』と呼ばれる怪鳥です。

 雲を操り雲の上に巣を作ると言われています。

 通常は渡り鳥の様に雲と共に移動し続けますが、子育て時には餌を求めて1か所に留まる事もあるそうです」

「つまり今回も雛の餌を確保する為に湖に来たという事ですか?」

「その可能性が高いと思います」


 そうなのか。って、待てよ?

 それだと今回のイベントは子育てを頑張っている所を冒険者が襲撃していることになるのか。

 弱肉強食とはいえ、冒険者側が悪役だな。

 正義の味方を気取る気はないけど、折角『闇を照らす者』なんて称号もあるし悪役ロールは避けたいところだ。


「餌の為に湖に来たって事は、魚が好物って事ですよね?」

「流石にそこまでは分かりかねます。肉食であることはほぼ間違いないでしょうが」

「そこまで分かれば大丈夫です。ありがとうございます」


 エリーゼさんにお礼を言って冒険者ギルドを出た。

 魚が好物ってことは魚を持っていくと何か良い事あるかもしれないな。

 その為には釣り具が必要だけど、ここはゲームの中だからな。釣れる魚も普通とはサイズとか諸々違うだろう。

 そんなのを俺とスライムで釣るには色々と手を打たないといけない可能性があるので俺はガントさんの鍛冶場へと向かった。


「……どうでしょう?」


 俺の説明を聞いたガントさんは渋い顔で頷いた。


「……ふむ。材料さえあれば作れない事は無い。だけどそんなもん、何に使うんだ?」

「一言で言えば繋留用のビットです。

 俺のスライムは軽いので今のままだと綱引きをしたら勝てないんですよ。

 鉄蟻の甲殻なら大量にあるのでお願いします」

「分かった。だが半日は時間をくれ。明日の朝には用意しておこう」

「はい、ありがとうございます」


 続いて街の西にある釣り具屋へ。


「すみません。西の湖で釣りがしたいので、釣り竿を20本欲しいんですけどありますか?」

「いらっしゃい。ありはするけど、随分多いな。

 なんだ、友達と一緒に釣りでもするのか?

 やるなら湖の南側に行けよ。今北側は鳥の化け物が大量発生しているからな。

 奴ら魚を見ると群がってくるぞ!」

「そうなんですね。貴重な情報をありがとうございます」


 よしよし。

 やっぱり曇鳥は魚が好物と。

 最大の問題は俺の腕でちゃんと釣れるかって問題だな。

 ここはやっぱりプロに教えを乞うのが早そうなんだけど……。


「あのぉ」

「なんでい」

「釣り具屋のご主人は勿論、釣りの天才ですよね?」

「てて、天才!? んまぁ、そうとも言えなくもないな」


 顔を赤くして頬を掻くご主人。

 予想以上の反応だな。これなら行けるか。


「やっぱり。その引き締まった身体といい、ご主人にかかればどんな魚でもちょちょいのちょいですよね」

「なはははっ。よせやい、このぉ」

「その神業、見てみたいなぁ」

「へへへっ、しゃあねぇな。よし、これからいっちょ披露してやろうか」

「よっ。釣り名人!!」

「なぁっはははは」


 ちょろい。ちょろ過ぎる。

 褒められ慣れてないのか、もともとの気質なのか。

 釣り竿を担いだご主人は意気揚々と外へ出て行ってしまったので、慌てて後を追いかける。


「へぇ、お前さん。召喚士なのか。

 スライムって言ったか、その魔物。ここらじゃ見たことないけど面白い見た目だな。

 だがそんななりで戦えるのか?ってゴブリンを一撃!やるじゃないか~こいつめぇ」


 凄いご機嫌だ。

 鼻歌でも歌い出しそうな勢いで軽快なトークを繰り広げつつ湖へとたどり着いた。


「よし、ここいらで良いな」


 そう言って立ち止まったのは湖に沿って500メートルほど南下したところの岩場。

 そこでご主人は自分の釣り竿と釣り餌を取り出した。


「良いか、釣りで重要なのは釣りを開始する場所、投げ込む位置、時間帯、釣り竿、釣り餌。この5つだ。

 3メートルを超える大物を釣りたいなら、より沖に投げ込む必要があるが、1メートルまでなら普通に投げ込める距離で十分だ。

 釣り餌の種類である程度釣れる魚を絞れるぞ。

 魚が掛かった後に無事に釣れるかどうかは釣り竿と自分の腕次第だ。

 時々馬鹿なやつが実力も無いのに大物を釣ろうとして逆に水中に引きずり込まれて食われることもあるから気を付けろよ」

「はいっ!」


 湖に視線を向けるご主人はさっきまでの陽気さが鳴りを潜めてプロの目になっている。


「釣り方は簡単だ。

 釣り針に餌を付けて適当なポイントに投げ込むっ!」


 ビュンっと飛んで行って岸から5メートルくらいのところに着水。


……

…………ビクッ


「よし来た。そぅらよ!」


 投げ入れてから15秒くらいで引きがあり、あっさりと1匹釣りあがった。

 大体130センチくらいの大物だ。


「ふん、まぁまぁだな」


 リアルだとかなりの大物なんだけど、この世界だと普通サイズみたいだ。

 再び投げ入れられた釣り針は今度は20メートルは離れたポイントに着水した。


…………ビクッ


 再び10秒くらいで食いつかれた。

 どんだけ入れ食いなんだ。


「くっ、この。……ぬうおりゃああ!」


 今度はかなりの大物だったらしく、ご主人の気合の入れ方も尋常じゃない。

 そうして出てきたのは全長5メートルの大なまず。


「っあぶない!!」

「うぉっ」


 釣り上げられた大ナマズはご主人を食いつこう飛び込んできた。

 慌ててご主人を突き飛ばして難を逃れた俺は、久しぶりにスライム投げを連射して無事に倒した。

 所詮は陸に上がった魚。

 幾ら大きくても脅威度は大したことないな。



後書き掲示板:

No.75 通りすがりの冒険者

西のフィールド、高所恐怖症の俺には怖すぎる


No.76 通りすがりの冒険者

>>75

言いたいことは分かるが、なら行かなきゃ良いんじゃないか?


No.77 通りすがりの冒険者

弓士としては敏捷UP素材の西は避けては通れない道


No.78 通りすがりの冒険者

ゲームとはいえ皆よくあの高さから飛び降りれるよな


No.79 通りすがりの冒険者

唯一の救いはボス雲に無事に飛び降りれた後、雲から降りる時は上昇気流で軟着陸できる事だよな


No.80 通りすがりの冒険者

>>79

そうじゃなきゃ墜落死必須だからな。

クレームもの間違いなしだ


No.81 通りすがりの冒険者

ちなみに雲にダイブしなくても、雲の真下に居ればボス倒された直後に降ってくるようになったぞ


No.82 通りすがりの冒険者

まぢか!!!!


No.83 通りすがりの冒険者

イベント4日目にして修正が入った模様。

他のフィールドでもそれぞれボスアイテムが手に入りやすくなっているって。


No.84 通りすがりの冒険者

ただし元々の方法で取得した場合に比べて質は落ちるらしいな

俺は元のを手に入れてないから比べられんけど


No.85 通りすがりの冒険者

まぁ北の亀なんてボス1体に1つしか手に入らないから、早い者勝ちから足の引っ張り合いに発展して遂には世紀末なバトロワに陥ってたとか


No.86 通りすがりの冒険者

それってあれだろ?

例の高品質を持ってたプレイヤーを背中から刺し殺したのが始まりっていう。


No.87 通りすがりの冒険者

そうそう

それ以来、他者をPKしてでも奪い取れっていう暗黙のルールが出来たんだったよな


No.88 通りすがりの冒険者

北フィールドは赤ネだらけになって、更に賞金稼ぎもやってきて血みどろ


No.89 通りすがりの冒険者

どこの世紀末だよ、ほんと


No.90 通りすがりの冒険者

結果としてその流れに付いていけなかった人たちがごっそり別フィールドに移動したせいでボスの討伐が困難になってボスの採掘が出来なくなったらしい


No.91 通りすがりの冒険者

自業自得だな




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ