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出撃!スライム小隊

 街を出た俺はデスペナルティも残っているのでのんびりと歩いて南東の湿地を目指すことにした。

 道中に出てくる魔物はスライムたちが積極的にポンポン飛び跳ねて倒しに行ってくれるので平和なものだ。


「それにしても。

 最初はウサギ1匹倒せなくて大丈夫かと不安に思ったものだけど、育てていけば強くなるものだな」


 今では野犬程度なら正面から戦いを挑んでも勝てるようになっている。

 もっとも、移動手段が基本的に飛び跳ねるか擦り歩くだけなので、獣のように高速で駆け回ることは出来ないし、攻撃手段も体当たりがメインだ。

 爪も無ければ武器も持てないし、魔法も使えないからプレイヤーや他の従魔ほどダメージを稼げることは無いかもしれない。

 それを補うために再召喚時間や召喚コストが低く設定されているんだろうけど。

 気が付けば多重召喚スキルもLvが6になり、同時に召喚できるスライムが64体まで増えている。

 教会の警備に念のため10体置いてきたけど、それでも50体以上が俺の周りでポンポン楽しそうに飛び跳ねている。


「これって傍から見たらどう映るんだろうな」

「すらっ♪」

「ピクニックって。いや、確かにいい天気だけどな」

「すら」

「仲良し家族の団欒……それだと俺はお父さんポジか?」


 俺がスライムのお父さんって。

 え、じゃあお母さんはスライム?じゃないとスライムの子供は出来ないよな。


『ぽよよ~(あなた~)』


 ぶるぶるぶるっ。

 一瞬ヒトガタになったスライムを連想してしまった。

 いや、そりゃまぁ、スライムだから? 俺の理想の体型の女性の姿とかにもなってくれるだろうけど?

 おっぱいとかもスライムですかってくらいぽよんとしてて……もちろん全身ふにょんと柔らかくて……。

 いかんいかん。欲求不満なんだろうか。

 いくら何でもスライムに欲情とかないわ。うん。


「よし、雑念タイム終了!」


 両手で自分の頬をパシンと叩いて気合を入れる。

 デスペナも終わったし、周りの景色も鬱蒼としてきた。多分この先が問題の湿原エリアなんだろう。


「よし、全員整列」

「「すらっ」」


 俺が声を掛ければスライム達は軍隊よろしくびしっと並んだ。

 お、1体びしっとしようとしてこけた。

 うん、それくらいの方がスライムらしいよな。


「これより部隊を3つに分ける。

 1班2班は20体ずつで左右に展開。魔物を見つけ次第、倒していってくれ。

 ただし、倒せない程強い敵が出てきたら無理せず俺のところまで引き付けてくれ。

 3班は採集活動を中心に。魔物を見つけたら他の班に連絡して戦闘はお願いしてくれ。

 俺自身はまっすぐ湿原の奥地に向かってみる。

 もしかしたらダンジョンなんかもあるかもしれないからな」

「すらっ」

「よし、特に質問も無ければ作戦開始だ。

 今日は初日だからな無理しないようにな」


 号令を出すとスライム達はぴょんぴょこ湿原の中へと突入していった。

 さて、俺自身は最初は様子見と行くか。

 魔物の強さは鉄蟻とそう大きく違いは無いとは思うけど、何が起きるか分からないしな。

 俺の見通しが甘くてあっさり壊滅したり大量の魔物を引き連れて戻ってくる、なんて事も考えられるし。


 程なくして。

 俺の考えは大きく間違っていたことに気が付いた。

 それも良い意味で。

 さっきからアイテムボックスに次々と放り込まれていく素材たち。

 それも薬草なんかの植物だけじゃなく、魔物のドロップ品と思われる『針蜘蛛の糸』とか『リトルベアーの肉』などもある。

 というか、スライムってすでに熊にも勝てるんだな。

 ただまぁ流石に無傷とはいかないらしく、ちょいちょいスライムも倒されている。

 けどそれも再投入が十分間に合うし戦線が崩れる程の被害は出ていないから、まだまだ安心して見ていられる。

 しかしこれは急ぎ突入しないと。

 俺の出番が無くなる。


 そうして湿原へと踏み入れた俺が最初に抱いた感想は『自然公園か?』だった。

 いや何が言いたいかというと、舗装がされている訳じゃないんだけど、ある程度雑草とかが抜かれて木と木の間隔も絶妙に空いていて、木洩れ日が差し込み散歩に丁度良くて。

 強いて問題点を挙げるなら、木の根がところどころに出ていて引っ掛かりそうではある。

 休日の散歩に丁度よさそうだな。それに。


「魔物……居ないな。薬草類も摘み取られた後か」


 これは完全に出遅れたな。

 もちろん少し待っていれば魔物はリポップしてくるんだろうけど、そこまでする必要もない。

 それにスライムたちの採取能力の高さも甘く見ていたな。

 見上げれば枝を伝って木から木へとポンポン飛び移ってるし。

 ギルドはここの生態系を守るためにクエストを発行したはずなのに、俺たちが逆に蹂躙してしまっている節があるな。

 仕方ない。根こそぎ取る訳にもいかないし、俺は俺で何か珍しいものでも探しながら歩くか。


 そうして歩くこと2時間。

 俺の目の前には細長い池が広がっていた。

 池の幅は狭いところで3メートルほど。

 頑張れば飛び越えられないこともない、かな?

 もしくは適当な倒木を使って橋を作るのもいいかもしれない。

 というか、この感じだと左右どちらかに行けば川になっているだろうから上流と思われる方に行けば普通に渡れるだろう。

 その前に、水辺の景色がきれいだしここで休憩でもしていく、ん?


「すらっ」

「東側で大物、ね」


 どうやら俺一人のんびりはさせてもらえないらしい。

 俺は散開していたスライムたちに集合を掛けると池のそばを離れた。

 戦いにくいってのもあるかもしれないけど、せっかくの綺麗な池を荒らすのは忍びないからな。

 少し戻って開けた場所で待っていれば、程なくして東側に行っていた1班のスライムたちも合流してきた。

 そしてその後ろから木々をなぎ倒しながら巨大な熊が現れた。


「GRRRRR」


 立ち上がれば身長4メートルはありそうだ。

 手足から伸びる爪も太く鋭く、直撃すれば俺なんか1発で拠点送りにされそうだな。

 さて、どうしたものか。

 こいつが進化した個体なのか元々フィールドボスの位置づけだったのかは分からないけど、放って置く訳にはいかないよな。

 スライムで勝てれば良いんだけど。


「1班は引き続き正面で敵の気を引き付けてくれ」

「すらっ」

「2班は両サイドから奴の後ろ脚に集中攻撃。3班は木の上から飛んで頭を狙え」

「「すらっ」」


 俺の指示に従って攻撃を開始するスライムたち。

 まずは1班のスライムたちがボスの目の前でぴょんぴょん飛び跳ねて挑発を繰り返す。

 ボスは邪魔くさそうに腕を振り回してそれを薙ぎ払っていく。

 それを食らったスライムは、当然のようにあっさりと光になってしまうのですかさず補充。

 ボスからすれば抜いても抜いても生えてくる雑草のように思える事だろう。

 しかも何体かは微妙にバックジャンプで避けたり、逆に前に飛び込んで距離感を狂わせている。

 ちょっとした時間差攻撃も出来ているな。

 その間に後ろに回ったスライムたちがボスの足めがけて突撃。

 これでボスが振り向くようなら今度は1班が攻撃に転じる予定、だったんだけど、全く動じてないな。

 分厚い脂肪と毛皮が天然の防具になっているせいでダメージがほとんど通ってない。

 それでも足を持ち上げようとした瞬間で粘着で邪魔をして逆に踏ん張ろうとしたタイミングで後ろに引っ張るようにして邪魔をされるのは嫌そうだ。

 続いて3班のスライムたちが採取で培った木の上移動を最大限利用してのダイビングアタック。

 しかしこれも、ボスからしたら頭にどんぐりが落ちてきた程度の衝撃だったようだ。

 でもそこからボスが頭に乗っかったのを邪魔くさそうに払い落とそうとしたところを薄く張り付くことで時間稼ぎをしている。

 うーん、全体的にいやらしい攻撃が増えたな。

 これで相手の防御を貫通できる攻撃力さえあれば勝てるんだろうけど。

 この様子だとスライム投げをしても大したダメージにはならないだろうな。

 他に有効な攻撃手段は……あ、これなんか使えそうだな。


「スライムたち。もう少し時間を稼いでくれ」


 スライムたちにボスの相手を任せた俺は、アイテムボックスに格納されていたアイテムを取り出した。

 そしてそれを同じく取り出したすり鉢の中に投入。

 急いですりつぶして混ぜて水に溶かせば、あら不思議。3分クッキングもびっくりな『虚脱麻痺毒薬』の完成だ。

 南のフィールドからは状態異常持ちの魔物が多く移動してきたらしいから、材料はそいつらからのドロップアイテムだ。

 後はこれを奴の口の中に放り込めば。


「スライム。この薬を持ってアホ面して開けた奴の口に飛び込め!」

「すらっ」

「たぁっ」

「GRRッ!?」


 木の上からダイブアタックしたスライムがボスの耳を後ろに引っ張る。

 溜まらず上を向いたところにスライム投げを敢行。

 普通に薬瓶を投げたなら口に当たって割れて半分も入らないところをスライムが粘着スキルを活用して鼻の穴を塞ぐように軟着陸。

 慌てて開いたボスの口の中へと突撃した。


「……あれ?」


 そこで予想外の出来事が起きた。

 俺はてっきり口の中に突撃したところでスライムは光になってしまうものとばかり思っていたけど、一向にそうなる気配がない。

 むしろ薬を飲んだボスが予想以上の効き目だったのか、1分ほど喉を掻きむしる様にもがき苦しんだ後、白目を向いて倒れこんだ。

 HPバーを見ればグングン赤くなっていることから継続して強力なダメージを受けていることが分かる。

 ……あ、ボスが死んだ。

 後には口の中に飛び込んだスライムだけが残っている。


「一体何をやったんだ?」

「すらっ。すら」

「『喉で固まって毒撃をし続けた』?」


 つまり呼吸困難に陥らせてたのか。

 それであの異常なほどの苦しみ方だったんだな。

 そんなこと指示してなかったんだけどな。

 スライムもどんどん賢くなって自分で戦い方を編み出していってくれるってことか。


「そうかそうか。よくやったぞ。

 ほかの皆もご苦労さん」

「「すらっ」」

「じゃあ今日はここまでにしようか。

 幸い熊肉も大量に手に入ったし、街に戻ったら熊鍋パーティーでもしよう」

「すらっ♪」


 そうして俺はポンポン飛び跳ねて喜ぶスライムたちを引き連れて街へと帰っていった。



後書き掲示板:

No.411 通りすがりの冒険者

街の物価が高騰している件について


No.412 通りすがりの冒険者

みんなイベントに行っちゃったからね~


No.413 通りすがりの冒険者

イベント魔物はなぜか装備用素材しかドロップしないから


No.414 通りすがりの冒険者

鳥を撃ち落としても鶏肉が手に入らない罠


No.415 通りすがりの冒険者

この機に金策に走るべき?


No.416 通りすがりの冒険者

金策というより街に貢献して好感度を上げると考えればやる価値はあるか


No.417 通りすがりの冒険者

ボスは前線攻略組が出張ってきてるからな。

エンジョイ勢は厳しいものがある


No.418 通りすがりの冒険者

薬関係は特に攻略組も消費するからな。

このままだと現地の商店が俺達プレイヤーに売り制限を掛けることもあるって


No.419 通りすがりの冒険者

大手攻略クランは生産と攻略を両立してほしいものだ


No.420 通りすがりの冒険者

あいつらの上から目線はどうにかならないかね

薬草採取してきても、やってきてやったんだぜ感を出しそうでむかつくんだが。


No.421 通りすがりの冒険者

狩場とか獲物譲れっていう奴もいて何様だって話だよな


No.422 通りすがりの冒険者

そういうのに限って下っ端と思われる


No.423 通りすがりの冒険者

だな


No.424 通りすがりの生産者

朗報)薬草類+イベント外素材大量入荷

何でも街の南東側、つまりイベントフィールド外から採取してきたそうだ


No.425 通りすがりの生産者

おぉ救世主現る!!


No.426 通りすがりの生産者

こういう時に地道にコツコツ頑張れる人こそリスペクトされるべき


No.427 通りすがりの冒険者

冒険者ギルドから、イベントフィールドの隣のフィールドは素材も魔物も大量にあるという情報をゲットした

なんでもイベントフィールドの影響でそこに居た魔物が移動した影響と思われる


No.428 通りすがりの冒険者

つまり魔物とのエンカウント率アップか

……あれ、それってスタンピードに発展したりしね?


No.429 通りすがりの冒険者

可能性はあるそうだ。

だからぽつぽつ討伐クエストも発行されてた


No.430 通りすがりの冒険者

それも含めてイベント、なのか?


No.431 通りすがりの冒険者

それならそれで何か特典がありそうだが。


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