表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/59

初めてのPK(されました)

 採掘もボスのHPを削るようで、ボスの残りHPが1割を切ったタイミングで、ボスは手足を引っ込めた。


「来るぞ。気を付けろ!」

「GAAA」

「おう。っぐは」


 注意喚起の直後。

 背中の山がボロボロと崩れ始める。

 更にボスがコマのように回転すると、上に乗っていたプレイヤーが全員振り落とされた。


「ぐおおっ」

「きゃあっ」


 崩れ落ちる岩が弾き飛ばされて散弾のようにプレイヤーを襲う。

 振り落とされて体勢が整わないところに直撃を受けた何人かが光に変わって拠点送りにされたようだ。

 ただそういったプレイヤーは初心者組だったようだ。

 鬼男組を始めとした熟練プレイヤーはきっちりと早めに退避して攻撃タイミングを窺っている。


 そして、程なくして再開された攻撃によりボスのHPは0になった。

 光になって消えるボスを背景に各プレイヤーにリザルト画面が表示された。


<ボス討伐ポイント:0

 取得アイテム  :なし>


 まぁ当然だな。俺はただ見ていただけだし。


「すら?」

「ん?どうした」


 スライムに袖を引っ張られた。

 あ、そう言えば最初に採取に向かわせたスライムは何か取れたんだっけ?

 えっと……これか?

 取り出してみると真っ白な金属で出来た花だった。


『純白のマテリアルハート:

 マウンテンタートルの頂上に咲く花。マウンテンタートルの命の結晶とも言われ、マウンテンタートルが傷つくとその輝きも失われていく。

 純白の輝きは傷一つ無かった事の証』


 ふぅん。

 つまり今回、誰かに攻撃される前に採取出来たお陰で最高の状態で採取出来たって訳か。

 岩山に咲く一輪の花って中々に雅だな。

 太陽の光に当てれば独特の光沢が綺麗だ。

 教会の礼拝堂に活けたら映えるかもしれないな。

 と、そうやって呑気に眺めていたのが悪かったんだろう。


「あああああっ!!」

「どうしたっ。そっ、それは!?」


 俺を指さして驚くプレイヤー達。

 正確には俺の持っている花か。


「ありえねぇ。なんて白さだ」

「おい兄ちゃん。それってマテリアルハート、だよな。

 今のボスからドロップしたのか?」

「え、はい。そうですけど」


 ドロップというか採取したんだけど、意味合いは同じで良いよな。

 何人かのプレイヤーは目を凝らして見ているところを見ると、鑑定をしようとしているのか?

 首を横に振ってるから失敗したっぽい。

 騒ぎを聞きつけてどんどん人が集まってくる。

 それにしても、何でこんなに注目されているんだろう。


「すげぇ。真っ白だよ」

「採掘スキルの違いなのかな。なぁあんた、今レベルいくつなんだ?」

「金なら出すから譲ってくれねぇか。なぁ」


「ちょっと待てよ、みんな。俺は見てたぜ。

 そいつは戦闘にも参加せずに後方からぼぉっと眺めてただけだ。

 採掘にだって向かってなかったな!」


 そう言って周りの声を遮ったのはさっきストーンゴーレムを召喚していた人だ。

 確かに彼も後方からゴーレムを差し向けるだけだから周りのプレイヤーの様子をみる余裕があったんだろう。


「それなのにボスのレアドロップアイテムを持ってるなんてありえねぇ。

 しかもその白さ。絶対何か不正をやったんだろ!!」

「はぁ?」

「そうだな。今回頂上に1番乗りしたのは俺だったが、その時には既に奪われた後だった」

「つまりお前はチートを使って奪ったに違いない」

「なんだズルかよ」

「くそ許せねぇ」


 何言ってるんだ、こいつら。

 俺にチートなんて使える訳ないだろ。

 それともスライムがチートだったか? 無いよな~、うん。ナイナイ。

 ただこの状況、俺が何言っても聞く耳持たないだろうな。


「おいてめぇ。その花を置いて消えるならGMコールせずに見逃してやる。

 こんなの通報すれば即垢BANだろうしな」

「そうだそうだ。花を置いて消えろ!!」

「「そうだそうだ」」

「「置いていけ!!」」

「「とっとと失せろ」」


 群衆心理ってのは恐ろしいものだ。

 今や周りに居る100人近いプレイヤー全員が俺を糾弾している。

 こうなってしまえば真実が何かなど考えることもせず、流れに乗ってしまうのが人と言うものだ。

 さて、どうしたもんかな。

 もうPKされるのも時間の問題な気がする。

 かと言って100人も居るのに花は1つ。誰が受け取るんだっていう話もあるし。

 なにより折角スライムが採取してくれたものを変な難癖付けられて奪われるのは許せないな。


「まぁ待てよ、諸君」

「……鬼男組のイッキ」

「皆だってこんなところでPK(プレイヤーキル)して赤ネームになるのは本望じゃないだろう」


 赤ネームってのは犯罪者扱いになって街で買い物が出来なくなったり衛兵に追われたりする状態の事だ。

 赤ネームの他に黒ネームっていうのもあって、NPCつまり現地の人を無為に殺すとなるそうだ。

 以前あった闇ギルドのクエストに暗殺もある気がするが、恐らくクエストでの殺しはノーカンになるんだろう。


「そこでだ。俺が彼に決闘を申し込み、彼が負けたらその花を俺に譲渡する、というのはどうだろう?」


 大仰に宣言するイッキ。

 まぁ確かに、ほぼ初心者装備の俺と攻略組トップの彼が戦えば10中8,9彼が勝つだろう。

 つまり合法的に公開処刑をするぞと言っているようなものだ。


「いいぞー。流石イッキさんだ」

「殺れ殺れぇ!」

「そんなチーターぶっ殺せ!!」


 周りのプレイヤーが観戦モードで囃し立てるのを受けて、ふふんっと鼻を鳴らすイッキ。

 気分はどこかの花形スターか何かかな。

 結局花が1つしかない問題は何も解決されていないし、この流れだと花を確保するのは彼だろう。

 俺の中では彼こそ詐欺師ないし扇動者ではないかと疑っている。

 そんな奴に何一つ渡すものなんてないな。


「スライム、食えるか?」

「すら?」

<召喚獣に対して純白のマテリアルハートを使用しますか?>

「ああ。争いの種になるくらいなら食っちゃっていいよ」

「すらっ」


 一瞬確認ダイアログが出た気がするけど気にしない。

 スライムに花を渡すとパクっと取り込んだ後、一瞬の光と共に花は消えていった。


<純白の…………>

「あああああーーーっ」

「貴様なんてもったいないことを!」

「そんな雑魚従魔に貴重なアイテムを使うなんて正気か!?」

「しかもそれ、召喚獣だろ!?」


 何かまた通知が出てたけど、周囲から怒りとも嘆きともとれる叫び声が上がって聞き取れなかった。

 カッコつけて出てきたイッキも赤くなってプルプルと俺を指さしている。


「おま、おま、お前。自分が何をしたか分かっているのか!」

「ボス1体につき1つ手に入るレアアイテム(笑)を消費しただけだ。

 ボスがどれくらいの頻度で出てくるか知らないけど、欲しかったら次のボスを探せば良いだけだろ?」

「んな訳あるか!!

 くそっ。こうなったらGMコールした上で、二度とまともにプレイできないようにしてやるから覚悟しろ!!」

「はいはい。どうぞご勝手に」


 流石にこれ以上はもう付き合いきれん。

 俺は手をひらひらと振りイッキに背を向けると街に向けて歩「しねぇ!!」こうとして誰かに殺された。



 次に目が覚めたのはうちの教会の礼拝堂だった。

 そう言えば初めて死んだけどリスタートポイントは自分の拠点ここになっていたようだ。

 寝起きのようにぼーっとしてた俺の顔をローラさんが覗き込んだ。


「ご気分はいかがですか?」

「ローラさん、おはようございます」

「すら?」

「スライムもおはよう」


 召喚獣って召喚者が倒れても無事なのか。

 てっきり自動で送り返されてるものかと思ったけどな。

 ただこの様子からしてだいぶ心配を掛けてしまったようだ。

 俺としては手っ取り早く街に帰れたからラッキーくらいの感覚なんだけど。

 一応ログから俺を殺した相手を確認しておくか。……『ブルタン』ね。いつかお礼参りをしてあげないとな。


<GMよりご連絡致します。

 先ほど、シュージ様に対して他のプレイヤーから不正行為疑惑があるとの報告がありました。

 こちらで行動ログ、アクセスログ等を確認したところ、不正は見つかりませんでした。

 問題となったアイテム取得の方法についても、こちらで想定した範囲を大きく逸脱したものではありません。

 シュージ様におかれましては、今後ともご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。>


 早っ。

 さっきの今でもう調査が終わったらしい。

 ここの運営はどんだけ優秀なんだ。



鬼男組のリーダーの名前をイチドーにしようかと思いましたが思い留まりました。

もうちょっとマシなキャラクターだったら良かったのですが、今のままだとそれこそクレームものな気がしたので。

なお鬼男組は鬼+パワーファイターを主軸としたプロチームで、奇〇組とは一切関係ありません。


後書き掲示板:

No.655 通りすがりの冒険者

チート野郎発見。

ボスの特殊ドロップ強奪許すまじ


No.656 通りすがりの冒険者

今時チートが出来ること自体がちょっと凄いとは思う

技術的にもリスク的にも


No.657 通りすがりの冒険者

悪質なものだと100万以上の罰金だからな


No.658 通りすがりの冒険者

そしてその後、プログラム業界からヘッドハントされるというな


No.659 通りすがりの冒険者

それを考えたらやるメリットはある?


No.660 通りすがりの冒険者

出来るならな。

ただそれが出来るなら間違いなく天才プログラマーだ


No.661 通りすがりの冒険者

セキュリティとか何重にもロック掛かってるって言うしね


No.662 通りすがりの冒険者

で、そのチート野郎はどうしたんだ?


No.663 通りすがりの冒険者

天誅を加えたうえで通報したから、既に垢BANされてると思われる


No.664 通りすがりの冒険者

でも公式には何も挙がってな……いや待て。これか。

『先ほどのGMコールについて』

……不正は無かったとさ


No.665 通りすがりの冒険者

はぁ!?

じゃあどうやったらボスの特殊ドロップをめちゃくちゃ良い状態で確保できるんだよ


No.666 通りすがりの冒険者

気付かれていないだけで、何か方法があるってことだろうな


No.667 通りすがりの冒険者

方法ってなんだよ!!


No.668 通りすがりの冒険者

自分で考えれば?


No.669 通りすがりの冒険者

俺もその場に居たお陰でヒントは得られた。

その証拠がこれ

つ『マテリアルハート(82)』


No.670 通りすがりの冒険者

82!?


No.671 通りすがりの冒険者

接頭語が付いてない!?


No.672 通りすがりの冒険者

>>669

お前も何かズルしたんじゃないのか!!

そうじゃないならどうやったか言ってみろよ。


No.673 通りすがりの冒険者

>>672

そこまで行くと手品師にネタをばらせと言ってるのと変わらない。

俺も、そして恐らくその彼も正当な手順で取得している。

むしろ俺としては何も悪い事してないのに詰められてキルされた彼に同情する。


No.674 通りすがりの冒険者

ふむ、つまり他のボスも何か手があるってことだな


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 『鬼男組のリーダーの名前をイチドー』 笑ってしまいました! イチドーにしてもよかったような気もしますね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ