大人になるのはまだまだ早い
翌日。
教会の礼拝堂にみんなで集まった。
子供たちは若干緊張した面持ちで俺の言葉を待っている。
「さてみんな。難しい話もあるんだけど、まずは嬉しい報告からな」
その言葉にざわつく子供たち。
何人かは難しい話って聞いてこの後怒られるんじゃないかとビクビクしている。
「昨日の薬草採集と道中の魔物討伐の結果、2600Gとウサギ肉が6つ手に入りました」
「にせんっ!?」
「わぁ、お肉がいっぱいだぁ」
お金の知識がない子供は単純にお肉に喜び、知識がある子供たちは昨日1日で自分たちがそれだけ稼げたことに驚いている。
「今後もこれだけ稼げると誤解されるといけないから、先にネタ晴らしするけど。
2600Gのうち、1800Gは狼討伐の報酬だからな。
薬草の代金だけだと500G、ウサギの毛皮で300Gだ。
だから今後は800G前後が1日の稼ぎだと考えてくれ」
「兄ちゃん。800Gもあったらパンを買って皆で食べられるよ」
「そうそう。今までだったら1つのパンを皆で分け合ってたのに、今度からは一人1つ食べられるようになるかもしれないな」
「そうか。良かったな」
スラムの教会だものな。きちんと食べられるだけでも凄い事か。
「じゃあ次にちょっと難しい話だ。
昨日の狼に襲われた時、みんな凄い力を発揮していたよな。
ジョンはスライムを、まるで別物のような動きをさせていたし。
ミーニーは白い大型犬を召喚していたよな。
ビスケも物凄い力で石を投げて狼を攻撃して、ラナリンに至っては見たことも無いほど強力な火炎魔法を放ってた。
ローラさんの防御魔法は前から使えたんですか?」
「いえ。私が出来るのは簡単な傷の治療くらいで、あんな炎を防ぐような魔法は使えなかったはずです」
「なるほど。なら考えられる事は2つかな。
子供たちが何らかのジョブに就いた可能性が1つ。
そして俺の庇護下に置かれたことで何かしら影響を与えた可能性が1つ。
他にもあるかもしれないけどな」
そこまで聞いてた子供たちの口があんぐりと大きく開いていた。
あれ、俺何か変な事言ったか?
「兄ちゃん……」
「ん?」
「ジョブってあれだろ?大人になったお祝いに神様がプレゼントしてくれるやつだよな!?」
「え、そうなのか?」
「はい。通常であれば15歳の誕生日に神様から与えられる祝福です」
俺の疑問にローラさんが答えてくれる。
この世界ではジョブを授かるということは大人になった証拠らしい。
つまりジョン達にとっては大人として認められたとも言える。
「まぁ待て。喜ぶのは確認が済んでからだ」
「お、おう」
驚きと興奮で爆発寸前のジョン達を宥める。
もしこれで実はジョブではなかったってなったらショックが大きいだろうな。
何とか落ち着いたところでローラさんに声を掛けた。
「ではローラさん。よろしくお願いします」
「本当はこれ司祭様の役割なんですけど。今の私で出来るのかちょっと不安です」
ジョブやステータスを確認するなら教会で、がこの世界の常識だ。
鑑定スキルなどが無くても、教会内であれば神託と言う形で確認が行えるらしい。
「大丈夫ですよ。
心配だったらまずは俺のを見てください。
それで見えたら安心でしょう?」
「そう、ですね。では失礼しますね」
ローラさんは一言断ってから俺のおでこにそっと右手を当てた。
すると二人を包み込むように淡い光が漏れる。
そして何事かを呟くとフッとステータスボードが俺とローラさんの間に出てきた。
「うぉっ。すげぇ。シスターカッコいい!」
「女神様みた~い」
「あの板にお兄さんのステータスが乗っているのか?」
「見せて見せて~」
「これ。人のステータスを勝手に覗いてはだめですよ!」
「えぇ~ケチ~」
「ケチじゃありません。人によっては一番大事な事だったり隠しておきたい事が書かれている場合だってあります。
ジョンで言えば、そうね。タンスの2番目の引き出しの……」
「うわぁ、分かった。見ない。見ないから!!」
「ふふっ、よろしい」
ジョンのタンスには一体何が隠されているんだろうか。
ちょっと気になるけど、流石にそっとしておいてやるべきか。
ちなみに表示されたステータスはこんな感じだ。
「
名前:シュージ
種族:人間
ジョブ:固有召喚士(スライム)
冒険者ランク:F
基礎レベル:8
ジョブレベル:10
」
どうやら細かいパラメータやスキル構成なんかは出てこないらしい。
これなら別に見られても問題はないな。強いて言えばレベルがばれるのである程度の強さを推し量られることくらいか。
ちなみに自分でパラメータを出すと今まで通り全部確認できる。
「
名前:シュージ
種族:人間
ジョブ:固有召喚士(スライム)
冒険者ランク:F
基礎レベル:8
ジョブレベル:10
HP:195/195
MP:256/256
STR:30
INT:47
VIT:35
DEX:32
AGI:27
LUK:36
スキル:
投擲術 Lv5、格闘術 Lv3、盾術 Lv1、高速召喚 Lv4、多重召喚 Lv3、HP自然回復Lv1、MP自然回復Lv2、毒無効化、精神異常無効化、薬草知識Lv3、調合LV1、料理LV2、共有LV1
魔法:
召喚(スライム)Lv19、身体強化(自) Lv3、身体強化(他) Lv3、生活魔法Lv2
称号:
意志を貫くもの、ゴブリンバスター、蜂の天敵、闇を照らす者
配下:
ローラ、ジョン、ミーニー、ラナリン、ビスケ
」
こうしてみると順調に強くなっているな。
相変わらずスライムの召喚レベルだけ異常に高いけど。
あとはちょいちょい新しいスキルとか増えてるな。共有とかいつ手に入ったんだっけ?
とにかく無事にステータスが出せる事が判明したので、続いて子供たちのステータスも確認していく。
すると次々と上がる歓声。
この様子だと無事にジョブが登録されているみたいだな。
4人のステータスを表示した後、ローラさん自身も自分のステータスを確認してもらう。
その結果、ローラさんもシスターから司祭へとジョブチェンジしていたらしい。
喜ぶ皆を見ながら、結局どんなジョブだったんだろうと聞こうとして、皆の頭の上にステータスが表示されていて驚いた。
「
名前:ジョン
種族:人間(犬人族)
ジョブ:魔獣奏士
基礎レベル:2
ジョブレベル:1
」
「
名前:ミーニー
種族:人間(妖精族)
ジョブ:霊獣使い(守護獣:シロ)
基礎レベル:1
ジョブレベル:1
」
「
名前:ラナリン
種族:人間(巫女族)
ジョブ:召喚憑依術士
基礎レベル:1
ジョブレベル:1
」
「
名前:ビスケ
種族:人間(鬼人族)
ジョブ:ハイエンチャンター
基礎レベル:1
ジョブレベル:1
」
「
名前:ローラ
種族:人間(天使族)
ジョブ:司祭
基礎レベル:12
ジョブレベル:1
」
これまで見えなかったのになんでだ?
と疑問に思っていたらステータス表示が消えた。
……何で見えたんだ?
皆が俺の配下だから、っていうのが一番妥当な線ではあるけど。
改めて注視しても出てこないところを見るといつでも見れるわけでは無さそうだ。
ま、便利だから良いか。
しっかし、みんなして俺なんかより恰好良いジョブに見えるのは気のせいか?
いや、もちろんスライムがダメって訳じゃないんだけど、俺が1次職だとしたら、みんなのジョブは2次職みたいな重厚感がある。
まいっか。それよりもだ。
「うおぉぉ、俺のジョブ、魔獣奏士だってよ」
「僕はハイエンチャンターだ。自分や仲間を強化できるみたい。だからあの時凄い力が出せたんだ」
「だな。これさえあればどんな奴が来たって負けないぜ」
子供たちの興奮を一度止めてやらないとマズいかもしれない。
人って予期せず強い力を得たら、その力のせいで身を亡ぼす事になりかねないからな。
「ほらみんな。ジョブが手に入って嬉しいのは分かるけど。
言ってしまえば大人になったばかりのド新人も良いところなんだ。
それくらいで何でもできる気になったらだめだぞ」
「だけど兄ちゃんだって見ただろ?
俺が声を掛けたスライムは兄ちゃんが指示してたスライムの何倍も良い動きしてたの。
今なら俺、兄ちゃんにだって勝てちゃうかもしれないぜ!」
「ほぉ」
「ちょっとジョン。マズいよ」
「そうよジョン。お兄さんに謝りなさい」
「はぅ」
「だって事実だろ?」
「そうか」
ジョンは皆の方を振り返ったせいで俺の様子が見えていないみたいだ。
他の3人がオロオロするなか、へへんと鼻を擦るジョン。
その頭にポンっと手を置いた。
「じゃあジョン。今から俺と勝負しようか」
「おういいぜ。俺の実力を見せてやるぜ」
「ここで暴れる訳には行かないから中庭でな」
「分かった。先行くよ!」
元気に教会を飛び出すジョンを見ながら俺もゆっくり外へ向かう。
「あの、シュージさん」
「大丈夫です。ちょっとお灸をすえるだけですから」
「はい」
心配そうなシスターや皆を引き連れて中庭に行けば、ジョンが腕を組んで待ち構えていた。
「遅いぜ兄ちゃん」
「ああ、悪い悪い。しかしジョン。お前のジョブは従える魔物が居てこそだろ。
そのままでどうやって戦うんだ?」
「あっ、そうだった。兄ちゃん早くスライム出してくれよ」
「今から勝負を挑む相手にねだるな、馬鹿者」
「ぶわっ」
ブンッと召喚したスライムをジョンに投げつけた。
ジョンはスライムを顔面で受け止めてひっくり返った。
慌てて飛び起きては顔を真っ赤にして怒り出す。
「不意打ちとは卑怯だぞ、兄ちゃん!」
「はいはい、悪かったよ。だけど一応言っておくと、これが実戦だったら今のでお前死んでるからな?」
「ひぃ」
殺気を込めてジョンを睨めば短い悲鳴を上げるジョン。
実際、今回は攻撃の意志なくただ投げただけだったけど、今の俺とスライムのステータスを考慮すればゴブリンファイターだってスライム投げ1発で消滅させられるはずだ。
さすがに大人げないから今ので勝負は終わりだ、なんて言わないけど。
ブルブルと首を振って気合を入れなおすジョンを見ながら淡々と話を進める。
「さて、ルールを決めよう。
降参はもちろんありとして。ジョブの内容から考えてジョンは従魔ありきだろう。
体格差もあるし俺に捕まったら勝ち目はほぼ無い。
だからジョンの操るスライムが俺に有効打を与えられたらジョンの勝ち。
逆にスライムの攻撃を掻い潜って俺がジョンのそばまで行けてしまったら俺の勝ちだ。
それでいいいか?」
「あ、ああ。良いぜ」
「ジョンに預けたスライムはジョンの指示に従ってくれ」
「すらっ」
「ローラさん、審判と開始の合図をお願いします」
「分かりました。二人とも怪我の無いように。良いですね?
では、始め!」
「よっしゃ、行っけぇ」
「すらっ」
ローラさんの合図と同時にジョンがスライムに指示を出せば、通常のスライムが歩く速度の倍の速度で飛び跳ねて俺に向かってくる。
俺はというと、召喚したスライムをそっと目の前に置いた。
「スライム、俺が合図したらジャンプして粘着粘着な」
「すら」
そうしている間にジョンの操るスライム(スライム・ジョンと呼ぶか)が目の前に迫っていた。
「よっしゃそこで右ストレートだ!」
「スライム」
「すらっ」
ぽよんと飛び上がる俺のスライムは、俺に飛び掛かってきたスライム・ジョンに接触。
粘着スキルでくっつかれたスライム・ジョンは自重が上がったせいで動きが鈍り、俺は余裕でその攻撃を避けた。
そしてそのまま地面に落ちれば今度は地面と粘着したスライムによって身動きが取れなくなっていた。
それを横目にスタスタとジョンのところに歩いていく。
「はい、俺の勝ち。っと」
「ひ、卑怯だぞ!」
「そうか?」
「そうだよ。だってスライムにそんなくっつくスキルがあるなんて知らねぇもん」
「事前に確認しておかないジョンが悪いな。
それに、今はスライムのスキルで対処したけど、代わりに網で捕まえる事だって出来るし対策は他にもあるさ。
ただまぁこれじゃあ納得しないだろうし、もう1勝負するか?」
「お、おう。今度は負けないからな」
意気込むジョンを横目に最初の立ち位置に戻りつつ、スライムに粘着スキルを解除させる。
そして2回戦。
今度は俺のスライムは横に避けていてもらう。
「くそっ、今度こそ!!」
そうしてまたしても正面から飛び込んでくるスライム・ジョン。
俺は半歩下がりながら限界まで伸ばされたスライム・ジョンの腕を掴むと上に思いっきり放り投げた。
投げられたスライムは教会の屋根より高く飛んでいった。
「はぁ!?」
「いやあ、スライムは軽いな~。
あ、スライム。落下ダメージで死なないように受け止めてあげて」
「すら」
そしてスライム・ジョンが地面に落ちてくる前に、俺はまたしてもジョンに接近。
俺の勝利が確定した。
「くそぉ、何で勝てないんだよ。
スライム、お前が弱いからいけないんだぞ!」
2連敗したジョンは、自分が操っていたスライムに八つ当たりするようにそう言った。
うーん、男の子として負けて悔しいのは分かる。分かるんだけど、うちのスライムを悪く言うのはいただけないな。
「こらジョン。スライムはな、他の魔物に比べたら確かに弱い」
「え……兄ちゃん?」
「でも弱いなりに戦いようはあるんだ。
その証拠に俺はこのスライム達と一緒にゴブリンの巣だって攻略してきたし、キラービーのハチミツだって回収出来た。
要は戦い方だ。
今のジョンに圧倒的に足りないのは戦闘経験だ。
自分たちに何が出来て、相手が何をされると困るのか。周囲の状況は何か有利になるものはないか。
足運び、息遣い、視線。小さな癖に至るまで。
そう言ったことを見極められるようになれば、自分より格上にだって勝てるようになるさ」
「う、うん」
「だから当分は薬草採集の合間にウサギや時々出てくるゴブリンを相手に経験を積みなさい」
「分かった」
「後はジョンならスライム以外も使役出来るだろうから、機会があれば他の魔物を使役してみるのも良いだろう。
他の皆も、普段からスキルを使う練習をしてほしい。もちろん、周りに迷惑が掛からないように注意してくれよ」
「「はーい」」
子供たちの元気な返事が中庭に響く。
よしよし。これで子供たちは時間を掛けて成長していってもらえば良いだろう。
後書き使役系掲示板:
No.49 通りすがりの召喚士
鳥系モンスが欲しいんだけどどこのダンジョンに行けば?
No.50 通りすがりの召喚士
天空ダンジョン的な?見たことないけど
No.51 通りすがりの召喚士
野良モンスを捕まえて好感度上げまくるしかないんじゃない?
No.52 通りすがりの召喚士
あれ、それって都市伝説じゃないの?
No.53 通りすがりの召喚士
以前友人が柴犬連れててどうしたのか聞いたら街の飼い犬と仲良くなったら召喚出来るようになったって。
No.54 通りすがりの召喚士
柴犬……可愛いけど魔獣カテゴリなのか?
No.55 通りすがりの召喚士
みたい。むしろそれをペットとして飼ってる街の人コワい
No.56 通りすがりの従魔士
ちなみに街の外の魔物と仲良くなるなら使役系スキルが必須と思われる
No.57 通りすがりの召喚士
鳥なら卵から孵せばワンチャンありかな。
No.58 通りすがりの飼育士
牧場に行けばニワトリ(?)の卵は貰えるかも
No.59 通りすがりの従魔士
ニワトリて、あれダチョウ並みにデカいじゃん
No.60 通りすがりの飼育士
時々牧場に侵入してくるゴブリンを食べてますよ
マズいからペッしなさいって言ってるんですけどね
No.61 通りすがりの従魔士
探せばニワトリ剣士とか居そうだな
ニワトリに騎乗しているって意味で
No.62 通りすがりの従魔士
騎獣かぁ。
うちのにゃんこが1段階進化して大型犬サイズになったから、もう1回進化すればトラかライオンくらいになるかな。
そうしたら背中に乗せてくれるかも。
No.63 通りすがりの従魔士
トカゲって進化したらドラゴンになるよな
No.64 通りすがりの召喚士
進化って言っても大きさだけ変わっていくケースもあるからな。
No.65 通りすがりの召喚士
一番確実なのはドラゴンダンジョンを見つけることだろうね
No.66 通りすがりの召喚士
それ攻略できる時点で最強伝説