守られているのはどっちだろうか
いつもありがとうございます。
どうにかして主人公以外の空気も感じられたらな~と思い、後書きに掲示板っぽい書き込みを追加していってます。
お時間あれば1話目からちらっと眺めてください。
太陽が傾いて来たところで今日は帰ることにした。
多少早いが初日だしこんなもんだろう。
「ほらみんな。そろそろ帰るぞ~」
「「は~い」」
俺が声を掛ければ、子供たちが集まってくる。
護衛のスライム達もその後ろをポンポンと跳ねながら付いて来た。
子供たちの籠の中を覗けば、それなりの量の薬草が入っていた。
あ、一部毒草も混じってるな。後で注意しておかないと。
「家に帰るまでが冒険だからな。帰り道だって気を抜かないこと」
「「は~い」」
「帰り道の途中にウサギだっているだろうしな」
「「お肉!!!」」
うん、ただ注意を促すより、肉で釣るのが効果的だな。
そして、さぁ帰ろうと歩き出した矢先。
楽に帰れると思うなよと言わんばかりに森の奥から悲鳴が聞こえてきた。
「全員警戒。スライムは前に」
「う、うん」
「すらっ」
緊張が走る中、ガサガサと藪をかき分けて冒険者が2人飛び出してきた。
その人たちは俺達を見てぎょっとして慌てて90度向きを変えて右に走り去ってしまった。
あの様子だと何かに追われてたのか……っ!
「来るぞ!」
「ガルルルッ」
鳴き声と共に飛び出してきたのは緑色の狼が10匹。
ちょっと数が多くないか?
俺一人なら逃げながらスライム投げで何とかなるだろうけど、今は子供たちが居るからな。
「子供たちは1か所に固まって! ローラさんは子供たちをお願いします」
「はい!」
「スライムは1体だけ俺と一緒に来てくれ。残りは皆を守ってやってくれ」
「すらっ」
子供たちをスライムで囲んで守らせると俺は一人前に出た。
さて。先日のゴブリンと違って狼は生粋のハンターだ。
動きは速いし馬鹿正直にまっすぐ襲ってきたりもしないだろう。
その証拠に7匹が俺を囲んでいつでも飛び掛かれるように隙を窺っている。
子供たちの方に行ったのは3匹か。ならきっとスライム6体で防衛だけなら何とかなるだろう。
「ガルルッ」
スタッ
正面の1匹がうなると同時に、後方に居た2匹が飛び掛かってくる。
更に側面からも4匹が時間差で動こうとしていた。
なら俺が避けるべき方向は、前だ!
後ろの2匹の攻撃が届く前に一歩足を踏み出しつつ、分裂させたスライムを後ろに投げる。
「スライム、毒撃だ」
「すらっ」
「ぎゃんっ」
分体のスライムはパラメータが著しく下がるけど、スキルは据え置きだ。
毒撃の威力がどれくらいかは未検証だけど、こいつらを警戒させるには十分だろう。
「で。俺自身は召喚士だけど格闘スキル持ちなんだぜ」
正面に居た狼も飛び掛かってきたが、その爪よりも先に俺の蹴りが狼の右足にヒットする。
狼の体が左に逸れた隙に囲みを抜けて反転、さっきのお返しとばかりにスライムを投げる。
「おらおら、じゃんじゃん行くぜ。ってこら、一度に3匹は反則だろうが。
俺の手は2本しかないんだぞ!」
分裂させたスライムを両手で投げて迎撃するも、多勢に無勢で押され気味になる。
レスさんのところで回復ポーションを作ってなかったら、すぐにやられていただろう。
って、時間かけ過ぎだ。子供たちは大丈夫か!?
「がんばれ、スライム~」
「負けないで~~!!」
ふぅ、どうやら何とか持ちこたえているみたいだ。
スライム2体で狼1匹を相手取る事で抑え込むのに成功している。
だけど決定打が足りないな。
スライム投げは捨て身技だから俺以外がやったら、そのまま防衛力のダウンに繋がるし。
そもそも子供たちは出来ないだろう。
ここはさっさと俺がこっちの奴らを倒すしかない。
と、思っていたんだが。
「行け。ジャブジャブ、ストレート。そこでアッパーだ!!」
「すらららぁっ!」
ドゴッ!!
はい!?
今スライムが凄い動きをしなかったか?
「良いぞ。鼻っ面にハンマースイングだ。いっけぇ!!」
「すらぁっしゅ!」
ズゴンッ
ジョンの掛け声に合わせて今度は体の一部をハンマーみたいに変えて狼の顔をスイングした。
おいおい、スライムよ。いつからそんな動きが出来るようになったんだ?
まるで歴戦の戦士のように体の形を変えて攻撃を繰り出していってる。
「お前もあれできるのか?」
「すーら」
手元のスライムに聞いてみたら首を横に振った。出来ないらしい。
え、じゃああの個体だけ特別ってことか?
うわっ、今度は両手で左右から挟み込んだし。
ちょっ、投げたぞ!? すかさず踵落としだ。
どうなってるんだ一体。
驚く俺を他所に、事態はどんどん進んでいく。
「きゃっ、スライムさん!!」
「ちっ、ミーニーのところのスライムがやられたか。すぐ増援を……」
やられた分の隙間に隣のスライムが慌てて入ろうとするが、狼のほうが動きが早い。
それを見たミーニーが祈る様に手を前に組んで叫んだ。
「このままじゃもう1体のスライムもやられちゃう。お願い助けて、シロ!!」
「グルルルァーー」
ミーニーの叫びに答えるように、どこからともなく白い大型犬が飛び出してきた。
狼の倍はある大型犬はバッと狼に飛び掛かると右足を一閃。ただの1撃で狼を光に変えてしまった。
ただそれで役目は終わったのか、出てきた時と同様にサッと消えていった。
なんだったんだと驚く間もなく、反対側にいたビスケの目つきが変わる。
更に彼の筋肉がぶわっと張り出した。良く服が破けなかったな。
「俺だって皆を守るんだ!!」
ジョンの2つ年上のビスケがこぶし大の石を拾って狼に投げつける。
って、俺より投げるの上手くないか?
ただの投石のはずが某野球選手もびっくりのレーザービームのように一直線に狼の右足を粉砕。
動きが鈍ったところをスライムがタコ殴りにする。
そうしていつの間にか向こうの戦いはほぼ終わっていて、後は俺の方だけになっていた。
だけどまだ安心するには早かった。
こっちにはまだ3匹がほぼ無傷で襲い掛かってきてる。
それを見た子供たちの中で一番のお姉さんのラナリンの目に炎が灯ったように見えた。
「お兄ちゃんをいじめるなーー!!『火竜の息吹』」
「ちょ、待て待て待て」
ラナリンもってどうなってるんだよ。
両手を前に突き出したと思ったらそこに赤い光が集まり出した。
技の名前と見た目がおかしいから。明らかに上級魔法のそれだろうが。
そしてわずかな溜めの後、ゴウッと火炎放射が放たれた。
「ぎゃいんっ」
「危ない!『ホーリーフィールド』」
「あつ……くない?」
狼もろとも炎に包まれたかに思えた瞬間、光の膜が俺を包み込むと炎から守ってくれた。
今の声はきっとローラさんが防御魔法を掛けてくれたんだろう。
それが無かったらやばかった。
炎が消えた後には、焼けてむき出しになった地面が広範囲に広がっていて、狼は跡形もなくなっていた。
どんだけ高威力だったんだよ。
森の中で使ってたら森林火災になってたな。
ただ流石に今の一撃で魔力を使い果たしたのか、ラナリンはふらっとスライムの上に倒れこんだ。
俺は改めて周囲の安全を確認してからみんなと合流した。
「みんな、お疲れ様。怪我とかはないか?」
「お疲れさまでした。こちらは何とか無事です」
「兄ちゃんお疲れ! ラナリンは寝ちゃったぞ」
ジョンの言う通り、スライムの上に横たわるラナリンからは規則正しい寝息が聞こえてきた。
「あんな大魔法を使ったんだ。仕方ないだろう。
そういうジョン達も疲れてるんじゃないか?」
「へへっ。まぁな。俺自身は戦ってないはずなのに、すっげぇ眠い」
「俺も」
「うん……」
ジョンに続いてほかの皆もふらふらして危なっかしい。
恐らくは初めての実戦による緊張が解けたのと、さっきの戦いで何らかのスキルを使った影響で魔力とか気力とかを使い果たしてるんだろう。
流石にローラさんはまだ余裕がありそうだけど。
「よし。本来なら家に帰るまで気を抜くなって言いたいところだけど、みんな予想以上に頑張ってくれたからな。
後は俺に任せてみんなはラナリンみたいにスライムに乗ってゆっくりしてくれ」
「いいの? やった~」
言うが早いか、スライムの上にダイブするジョン。
スライムはその柔らかいボディで優しく受け止めていた。
残りの2人もベッドに倒れこむようにスライムの上に乗っかった。
「スライム、みんなのことを頼むぞ」
「すらっ」
子供たちを乗せたスライムがぷにぷにと体を動かして進んでいく。
若干機動力が落ちたけど、それでもゆっくり目に歩くのと同じくらいの速度で動けてるな。
俺とローラさんは子供たちの左右に並んで周囲を警戒しながら街へと向かう。
……うーむ、ローラさんが羨ましそうな顔でスライムに乗ってる子供たちを見てるから、帰ったらローラさんもスライムに乗せてあげようかな。
後書き質問掲示板:
No.11 通りすがりの冒険者
モンスタートレインでMPKしたかもしれないんですけど、どうなりますか?
No.12 通りすがりの冒険者
>>11
かもってことは確定ではない?
No.13 通りすがりの冒険者
追いかけてきた魔物擦り付けちゃったんです。
プレイヤーっぽい人の他に、なぜか子供も一緒に居たしイベントの途中だったのかも。
俺自身はそのまま街に逃げ帰ったんで、その後どうなったのかは分からなくて。
No.14 通りすがりの冒険者
ならその結果次第かな。
最悪なケースとしてはその擦り付けられたプレイヤーだけじゃなく現地の人達含めて死んでた場合。
その場合、指名手配される可能性もあり得る。
No.15 通りすがりの冒険者
プレイヤーだけなら個人的に恨まれるだけで済むけど。
No.16 通りすがりの冒険者
子供連れってあれじゃない?
夕方ごろにスライムに乗って街に帰って行ったの見たよ
No.17 通りすがりの冒険者
>>16
マジですか!! よかったぁ
No.18 通りすがりの冒険者
ただ、今回は良かったかもしれないけど、モンスタートレインを何度もやってると迷惑冒険者としてギルドや皆から目を付けられるから要注意な。
No.19 通りすがりの冒険者
はい、以後気を付けます。
No.20 通りすがりの冒険者
このゲーム、死んでもアイテムロストとかは無いから迷惑行為をするより特攻掛ける方が良いかもね。
No.21 通りすがりの冒険者
一番は死なないことだから安全マージンは確保した方がいいね。
No.22 通りすがりの冒険者
フィールドボスに遭遇したら逃げる事すらままならないからな。
No.23 通りすがりの冒険者
そこまで行くとボスが居るフィールドに居る方が悪い
No.24 通りすがりの冒険者
巻き込んだつもりが共闘して倒せて、そこから友情が芽生えるなんて熱い展開もあったりな
No.25 通りすがりの冒険者
話戻して、故意に現地の人を殺すと場合によっては黒ネームになるから気を付けてね。
犯罪者のレッテル張られて街に入れなくなるし、他の全プレイヤーから狙われることになる
No.26 通りすがりの冒険者
既に何人かプレイヤーで賞金首になってたよな
No.27 通りすがりの冒険者
賞金稼ぎっていう職業もあったから運営の想定範囲内なのか
No.28 通りすがりの冒険者
いや、あれは現地の人の賞金首を対象にしたものだと思うよ?