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【連載版投稿中】負けヒロインが主人公以外を好きになるなんて許さねぇから!!

作者: 鉄人じゅす

「有馬くん、おはよー!」

「うっす、翔真」


 ある晴れた月曜日、土日の休みもあっと言う間に終わり、また1週間変わらない日々が始まる。

 俺、有馬雄太(ありまゆうた)は憂鬱な気持ちを抱えて、通う高校へ足を進める。

 隣を歩く、親友の橘翔真(たちばなしょうま)はあどけない声を出しながらも仕切りに欠伸をしていた。


「随分眠そうだな。昨日何時にログアウトしたんだよ」

「いやぁ……1時くらいには落ちようと思ってたんだけどね」

「ハマりすぎだろ。だから日曜の夜は日が変わるまでに落ちろって言ってんのに」


 同じクラスで以前は共通点が何もない俺と翔真だったが、ある時ネットゲーム【アストラルファンタジー】をプレイしていることを互いに知る。

 それから時間があったら協力プレイをするようになり、自然と会話は増え、日常でも親友同士となった。


「有馬くんは逆に早く落ちすぎだよ。稼げる緊急クエストがあるのに~」

「俺は時間を決めてプレイしてるからな」


 違いがあるとすれば翔真はわりとネトゲにのめり込んでおり、プレイ時間も非常に長い。

 逆に俺はサッカー部やバイトなど日常生活も大事しているのでどちらかというとライトユーザーだ。


「小遣い全部課金しやがって……羨ましいっての」

「ガチャ引かないともったいないって思ったんだ……」


 翔真の家は裕福で、両親も仕事重視の放任主義らしい。

 高校生にしては多めの小遣いをもらっているのが羨ましい。俺が何日もバイトして稼がないといけない額を何もしなくても得ることができる。


 そんなネトゲ命の翔真の生活が破綻していないのはきっと……彼女のおかげだろう。


「翔ちゃん!」


 学校へたどり着いた俺と翔真に声をかけたのが……優しげな顔立ちをした1人の女の子。


「あ、みどり

「あ、じゃないよ! もう時間ギリギリじゃない! また、遅くまでゲームしてたんでしょ」

「そんなに長くは……」


「明け方までやってたらしいぜ」

「有馬くん!?」


 びっくりした目で俺を見つめる翔真だが、ここは素直に怒られるべきだと思う。

 彼女の名は平坂碧(ひらさかみどり)

 同じ学校に通う、翔真の幼馴染である。おまけに隣に住んでいて、甲斐甲斐しくお世話をしているとか。


「お説教は平坂に任せるとするか」

「有馬くん、いつもごめんね」


 平坂の言葉に俺は手を振って返すことにする。

 後ろ目で平坂に怒られて、縮こまる翔真の姿を見つめて変わらない日常に笑みを浮かべてしまった。


 ◇◇◇


 放課後の部活帰りに俺は忘れ物をしたことを思いだし、教室へと戻る。

 誰もいないはずの教室で1人、ポツンと座っている女の子がいた。


「平坂、何やってるんだ?」

「あ……」


 平坂は俺の姿を見て、遠慮がちに笑みを浮かべた。

 何だろうか少し落ち込んでいるようにも見える。


「ごめんね、ぼーっとしていたみたい」

「大丈夫か?」

「私は大丈夫だよ! よくあることだから」


 平坂は確か文化部だったはず。この時間まで残っているということは誰かに告白でもされて断ったということか。

 平坂碧(ひらさかみどり)は容姿端麗でクラスでも人気が高い。幼馴染のお世話に忙しいのかそれどころではないらしいが。

 ……それを俺が問い詰めるのは違うか。

 話題を変えよう。


「翔真のやつ、またすぐ帰っちまったな」

「そうなんだよ! あれだけ怒ったのに……もう!」


 平坂は表情を一変させ、思い出したように怒りを露わにする。


「ご飯を作ってあげてるのにあとちょっとって言って全然2階から降りてこないし、言わなきゃお風呂にも入らないし、おばさんに世話を頼まれてるから……」

「でも、好きなんだろ?」

「うん……ってええええええ!?」


 平坂は頷き、少し時を置いて大げさに驚いて見せた。

 顔は紅潮し、両手を動かしてごまかそうとする。

 平坂碧が翔真を好きなのは初めて見た時から分かっていた。裕福な家に生まれて、かわいい幼馴染に好かれて、本当にうらやましいやつだな。


「私、ってそんなに分かりやすい?」


 平坂は両手を頬に当て、動揺しつつもちらちら俺を見る。


「あれだけ世話すりゃ誰だって分かるだろ。分からないのは君の幼馴染くらいだ」

「ふわぁ……」


 平坂は俺の側まで寄る。


「ぜ、絶対翔ちゃんに言わないでね」

「言わないけど、告白しないのか?」

「今はそれでいいの。翔ちゃんの側にいられるだけで……」

「でも、ネトゲにハマりまくってる今を平坂は良く思っていないんだろ?」

「それは……」


 ネトゲにハマったせいで会話も減っているんだろう。

 今の翔真にネトゲを止めさせることはできない。なら……。


「平坂も同じネトゲをやってみたらいい。翔真が今、どんな視点でゲームをしているか歩み寄ったらどうだ?」

「私、ゲームなんてほとんどしたことないし……」

「アストラルファンタジーは初心者オススメのゲームだ。PCさえあればすぐにプレイできるさ」


 平坂はまだ躊躇している。ネトゲは初めてだと敷居が高いからな。

 アスファンは基本無料のゲームだからのめりこまなきゃ課金も必要ない。


「俺が教えてやるよ。翔真と遊べるくらいまでは付き合ってやる」

「え?」

「俺も翔真が心配だったしな」


 平坂の表情が変わり、期待に満ちた視線を向けられる。


「本当!? 有馬くん、ありがとう」


 ま、平坂みたいなかわいい女の子と話せるならありなのかもしれないな。


「有馬くんは優しいね!」


 ……。

 この時、平坂に対して胸がときめいてしまったことは今でも覚えている。




 ◇◇◇


 それから2週間。翔真に気付かれないようにサブアカウントを作って、平坂を鍛えあげた。

 最初は非常に苦労したが、慣れてくると平坂もちゃんとネトゲ内で動けるようになっていった。

 ボイスチャットをしながらネトゲの基礎を教えていく。

 こうやって2人で話しながらプレイして分かったことがある。


 平坂の声はとても可愛かった。


 この2週間、平坂と話をすることが楽しく、耳心地の良い声に癒やされる。

 そしてもう1つ。

 平坂の話題は翔真のことばかりであった。

 幼稚園、小学校、中学と……ずっと一緒に育ってきたことが分かる。

 親友として翔真の話を聞くことは楽しかったが……翔真のことを話す時の平坂の声が一番……心地よく、愛に溢れていたことが少し複雑だった。


 そして……今日が翔真とネトゲ内で会う日だ。

 俺と翔真のボイスチャットに平坂を誘う。


「え!? 碧もアスファンを始めたの!?」

「そうだよ。これで翔ちゃんと一緒にプレイできるね!」

「翔真も少しは落ち着けるか」

「うー! でも、碧と一緒にプレイできるのは嬉しいよ!」

「ほんと? やったぁ!」


 ……。

 俺と話す時よりも数倍嬉しそうな平坂の声に胸がちくりと痛む。

 もともと翔真のためにこのアスファンをプレイし始めたんだ。仕方ない。

 3人でプレイしていく内にボイスチャットの声にノイズが入り始めた。

 そうする内に翔真のボイスチャットから平坂の声が聞こえ始める。


「もしかして……翔真の家に平坂がいるのか?」

「うん、私ノートだから翔ちゃんの部屋に持ってきたの」

「僕の部屋は無線の強度も高いからね。よし、3人でクエストに行こう!」


「おー!」


 翔真の声に合わせて呼応する平坂の声に、満面の笑みを浮かべた表情が想像できた。

 これでいい。平坂が好きなのは翔真なのだから。当然なんだ。


 さらに時は経つ。


 アスファンのプレイは相変わらずで翔真は廃人一歩手前、俺と平坂はライトユーザーのままだ。

 1つ違うのは……。


「有馬くんのおかげで最近、すごく楽しいよ」


 学校の休み時間に平坂に声をかけられる。


「翔真のやつ、ちゃんとメシとか風呂とか守ってるみたいだな」

「うん、私がクエストのスケジュールを管理してるからね!」


 平坂はえへんと自慢気に答えた。寝る時間はさすがになかなか制御できないようだが、それ以外の生活は安定し始めた。

 翔真と平坂、仲は深まりつつあるようだ。親友として嬉しいものはない……な。


 そんな時、翔真にある話を持ちかけられる。


「【エリー】と一緒にパーティを組んだんだ!」

「あのすっげー強いソロプレイヤーだろ? よく一緒に組めたな」

「うん、やらかして死にかけた所を助けてくれて。エリーってすごいんだよ! 僕もあれくらい上手くなりたいなぁ」


 最近の翔真は凄腕プレイヤーのエリーに首ったけだ。ライトな俺にはその嬉しさはよく分からないが、楽しさが伝わってくるのは素直に嬉しい。

 友の喜びは俺の喜びにも関係してくる。


 しかし、状況は変わったものとなる。

 3年生になった俺達のクラスに転校生が来た。


「水野エリスです。宜しくお願いします」


 びっくりするくらい綺麗な女の子であった。

 背中まで伸びたダークブロンドの髪は彼女が異国の血を引いていることを物語っている。

 ただ、周囲の評判と裏腹に水野エリスは引っ込み思案な女の子であった。


 そんな状況でまさか……翔真が水野に積極的に声をかけようとしていたことに驚いた。


「水野さんはエリーなんだよ! 出会えるなんて思っていなかった!」


 ゲームのリアルイベントで強者だけがもらえるキーホルダーを持っていたこと。

 そのキーホルダーにエリーの名があったことが理由らしい。

 たまたまだろうと思ったが……実際にその通りだった。


 当然この状況が面白くないのが……1人。


「随分と落ち込んでるな……平坂」

「有馬くん……。私はおごっていたのかも。翔ちゃんには私しかいないって思いこんでた。そんなはずないのにね……」


 なかなか周囲に馴染めなかった水野も同じゲームを通して声をかけてきた翔真に対してだけ心を開いていた。


 翔真はいいやつだ。レベルや装備も圧倒的に高いのにライトユーザーの俺や平坂にも嫌がらず一緒にプレイしてくれる。

 だけど、最近は同じ……いや、それ以上のスキルを持つ水野と2人でプレイすることが増えてきた。

 もちろんこちらから誘えば断ることはないんだが……平坂としては面白くないのだろう。


「水野さん、美人だし……。私なんか」

「そんなことねぇーよ」


 自分を卑下する平坂に言葉が荒くなってしまう。


「翔真とずっと過ごしてきたのは平坂だろ。そんな簡単に諦めてんじゃねーよ! 好きなんだろ! 翔真が好きならもっと抗えよ!」


 俺はこの数ヶ月でより平坂を想うようになっていた。

 でも俺では平坂を笑顔にすることができない。俺が好きなのは翔真のことで笑う平坂の姿なんだ。

 その笑顔を見られなくなることは嫌だ。


「じゃあ……どうすれば」

「下手に引き裂こうとすれば反感を買うかもしれん。まず相手を知ってみればどうだ?」

「知る……?」

「ああ、水野を見てると同性の友達がいないようだ。アスファンを通じて、水野を見てみろ。水野に無いものを使って……翔真にアプローチしてみろ」


 平坂は大きく頷いた。


「……有馬くんに相談して本当によかった」

「……っ」

「いつもありがと! 有馬くんは本当に優しいね!」


 その笑顔は本当に魅力的だった。……でもやはり俺に向ける笑顔じゃ満たされないんだ。


 それから俺が翔真に掛け合って、水野と平坂の4人パーティでプレイすることが増えてきた。

 始めソロ活動がメインだった水野だが、引っ込み思案なだけで意外にパーティプレイに抵抗はないようで……俺や平坂も喜んで受け入れてくれた。

 やはり話してみないと分からないものだな……。

 平坂と水野は同性ということもあり……現実でも会話する機会が増えているように見えた。


「水野と思ったより話せてるみたいだな」


 平坂は頷く。


「エリスちゃんすごく良い子だよ! 今度一緒に服とか見にいくんだ!」

「良かったじゃないか」

「翔ちゃんのことではライバルになっちゃけど……。エリスちゃんを嫌いにはなれないなぁ。この気持ちともうちょっと折り合いをつけようと思う」

「そうか。まっ、何か気になることがあれば頼ってくれ」

「うん! 有馬くんともエリスちゃんとも仲良くなれた。本当に翔ちゃんのおかげだね!」


 翔ちゃんのおかげ……か。

 それでこそ俺が好意を持つ平坂碧だと思う。俺の気持ちは伝える必要なんてない。

 翔真、平坂、水野。いい感じに均衡できているじゃないか。それでいい。


 そうだ……。夏に4人でゲーム合宿に行こう。案外楽しめるかもしれない。


 旅行の件は皆、了承してくれ、夏に1泊……ネットが繋がる旅館へ泊まることになった。




 夏が始まり、俺達4人は砂浜へ足を運ぶ。


「2人ともすっごく似合ってるよ~」


「ありがとうございます」

「えへへ、ありがとう翔ちゃん」


翔真に水着の良さを褒められ、水野も平坂も顔を赤くする。

実際の所、悪くない。平坂ってスタイルいいんだな……。


思いっきり遊んだ夜、旅館を抜け出して行く。


「翔ちゃん……」

「碧? どうしたの?」

「ちょっと歩かない?」


 翔真と平坂は夜の砂浜をゆっくりと並んで歩いて行く。

 平坂のやつ……嬉しそうだな。焚きつけてよかった。これで少し進展するならいいな。


「有馬さん」


 後ろから声をかけられる。

 ゆっくりと振り向くと満月をバックにとんでもねー美少女が佇んでいた。

 ダークブロンドの髪が海風に縒れて夜だというのに輝いているように強調していく。


「何だよ、水野」

「……碧ちゃんに告白しないんですか?」


 その言葉に心臓が鳴り響き、血圧が一気に上昇したような感覚に陥る。


「つまり俺と平坂が付き合えば、翔真を独占できるってことか?」

「ち、違います!」


 水野はあとずさって狼狽え始めた。

 しまった……。言葉が強すぎたのかもしれない。だけど、本当にそれを考えているなら水野の評価を改めなければならない。


「私は……碧ちゃんが好きです。転校してきて、1人ぼっちだった私にアスファンを通じて声をかけてくれました」


 それを指示したのは俺だけどな……。

 ただ、それをきっかけで水野と平坂が仲良くなったのは事実だ。


「碧ちゃんから翔真さんを取ろうとした私は嫌われてもおかしくないのに……本当に素晴らしい友達です」

「……それを俺に言うってことは水野はやっぱり翔真のこと」

「はい……好きです」


 頬を赤くさせ、小さく好意を声に出す仕草は非常に美しい。恋愛感情をその子に抱いていなかったとしても恋をしてしまいそうだ。


「私、前の学校でいじめられていたんです。だけど、この学校に来て翔真さんが声をかけてくれて……アスファンでもすごいって言ってくれて、大好きになってしまいました」

「そうか……」

「だけど、碧ちゃんのことを考えると……好きって言えなくて……。でも有馬さんが碧ちゃんと付き合うことが出来れば」


「無理だ。平坂は俺を見ていない。それは水野もよく分かってるだろ」

「でも有馬さんは凄く優しいから。翔真くんにも碧ちゃんにも信頼されて本当にすごいって思うんです」


 そうやって褒められると悪い気はしない。

 確かに4人で男女2人ずつ……。このまま良い関係になれたら大人になっても続けることはできるかもしれない。


 だけど……。


「俺が好きなのは……翔真のことが好きな平坂だからさ」

「そうですか……」


 翔真に向けるあの笑顔を見てしまうと……もう、好意を奪うことができない。

 もし例え一時的な感情で平坂を手に入れたとして人生の大半を翔真と過ごした思い出を簡単に破棄できるものだろうか……。

 結果的に悪い未来になるんじゃないかと思う。


 居心地の悪さに俺も水野も言葉を失う。

 俺は基本的に平坂の味方だが……。


「9月5日が翔真の誕生日だ」

「え?」

「それぐらいはいいだろ。俺は平坂に肩入れしているからそんなに助けてやれねーけどな」


 水野は手を背に微笑んでみせた。


「碧ちゃんの言うとおり、有馬さんはとても優しくて良い人ですね」

「……ふん。まっ、それで俺に惚れてしまっても何もしてやれんけどな」

「あ、それは絶対ないので大丈夫です」


「意外に辛辣だな……」



 それから秋に入り、高校3年生で受験期に入った俺達のまわりはさらに忙しくなった。


 風邪を引いた翔真のために平坂と水野が2人揃って看病するって言い出して、料理勝負するってことで

 なぜか俺が食材の買い出しにかり出されるし。


 文化祭では他校の男子に目をつけられた水野が危ない目にあって、翔真が水野を連れて何とか抜け出し、俺が他校の男子を相手にしたこともあった。


 そして何より大変だったのは……。

 1人暮らしをしている水野が実家のある東北に戻されそうになった時のことだった。


 どうやら翔真と水野の間で最後のやりとりがあり、翔真はかなり混乱していた。

 話を聞いている限りではすぐにでも電車で追いかけなきゃいけない状況となっていた。

 それをやるのは……俺でも平坂でもない。翔真がやらなきゃいけないことだった。

 ……それをやることは翔真が水野を受け入れることになる。


「……お願い翔ちゃん。エリスちゃんを助けてあげて……。それは翔ちゃんにしかできないから」

「……分かった。エリーを僕が必ず連れ戻す。行ってくるよ!」


 翔真は覚悟を決め、新幹線の乗り場に行こうとする。……が止まった。


「……お、お金がなかった」

「課金ばっかしてっからだよ! これもってけ!」


 俺は財布を取り出し、なけなしの数万を翔真に渡した。受験勉強でバイトも減ってしまったからほぼ全額だ。


「ありがと有馬くん! 行ってくる!」


 翔真はそのままチケット売り場まで走って行った。

 言葉を失ったままの平坂に声をかける。


「……よかったのか」

「……うん。今の翔ちゃんはエリスちゃんのことしか見ていないってことは分かっていたから」

「行かないでって言えば躊躇したのかもしれねーのに」

「できないよ。翔ちゃんもエリスちゃんも私は大好きだから」


 平坂は涙目ながらもそんな風に笑ってみせた。

 この1騒動が1つの区切りだったのかもしれない。

 向こうで何とか成功した翔真は水野の手をつなぎ、俺達の元へ戻ってきた。


 この段階で……平坂碧はこの恋に負けてしまったのだ。


 負けてしまった平坂は……どうなる?


 俺が側にいて、慰めて、その心を掴んでみせる?


 違う。俺が好きなのは……翔真が好きな平坂なんだ。


 負けヒロイン(ひらさか)主人公(しょうま)以外を好きになるなんて絶対許さない。



 受験期も終わった2月の終わり。

 俺は平坂を呼び出した。


「翔真に告白しろ。平坂」

「え?」


 平坂はあからさまに動揺して見せた。

 あの大きなイベントから数ヶ月。平坂がその恋を完全に振り切ったのであればこんなことをしなかった。

 しかし、平坂はまだ翔真が好きだ。その想いを伝えられていない。


「無理だよ。翔ちゃんはエリスちゃんのこと……」

「まだ2人は正式に付き合ってるわけじゃない。それに平坂の気持ちはどうなる。10年以上もずっと翔真が好きだったんだろ!?」

「それは……」

「せめて想いは伝えて来い。成功する、しないはこの際良い。今まで胸にしまってきた想いを叩きつけてやれ!」


 平坂は覚悟したように大きく頷いた。

 ……そして卒業式。平坂は翔真に……告白をした。


 もしダメだったら……何かおごってやろう。そして次は俺が……想いを伝えよう。翔真以外を好きになる必要はない。ただ、俺がその気持ちを伝えるんだ。




 平坂が翔真に告白をした次の日。

 呼び出された俺は平坂と会う。


 彼女は……笑顔だった。


「今まで幼馴染としか見ていなかったけど……1人の女の子として見てくれるって。エリスちゃんへの想いもあるからすぐに選ぶことはできないけど必ず答えを出すって」

「……そうか」

「これからは延長戦だね!」


 良かった。

 いや、良かったんだろうか。


 つまり彼女は……負けヒロインではなくなったのだ。

 正式なヒロインになったのだ。


 だったら……俺が伝えることは1つ。


「良かったな。本当に良かった」

「……有馬くんのおかげだよ。最後に諦めかけていた私の心を後押ししてくれた……おかげ」


 平坂は満面の笑顔を見せてくれた。


「有馬くんが友達でよかった。……ずっと私の友達でいてね! 本当にありがとう!」


 でもその笑みは翔真に見せるあの笑顔にほど遠いものだった。



「有馬くん」

「翔真」


卒業式の帰りに俺は翔真と一緒に帰っていた。


「碧のこと……エリーのこと、有馬くんが気を配ってくれてたんだね。本当にありがとう」

「それは構わないけど、どっちの女も手に入れたいってそれクズがすることだぞ。僕の翼って言いたいのか」

「ち、違うよ!」


翔真は焦って否定した。

まぁ翔真にそんな甲斐性はない。本当に水野も平坂も大切だからちゃんと選びたいのだろう。

その気持ちを分からなくもない。


「でもしっかりと1人を選ぶんだぞ」

「うん、分かってる」

「まぁ……困ったことがあったら俺に言え、力になってやるから」

「ありがとう。有馬くんとはずっと3年間一緒だったね。有馬くんが親友で本当によかった……」


そうやって笑顔で言われると何だか恥ずかしい。

平坂に言われるよりも何か嬉しく感じるのは……俺も翔真のことが好きだってことなんだろうか。


いやいや。


「これからもよろしく!」

「ああ」



 ◇◇◇



 それから半年が過ぎた。

 俺は裕福な家庭ではないので大学生活にバイトと大忙しの日々を送っていた。

 すっかりとアスファンにもログインしなくなり、メッセージで遊びに誘われていたとしてもなかなか参加できなかった。


 俺はスマホの表紙画像に……卒業式で4人で取った写真を表示させる。


 みんな元気にしているだろうか。

 翔真は相変わらずゲームばっかしてるんだろうな。

 水野はゲーム以外はポンコツだからな。またいろんなミスをやらかしてそうだ。


 平坂は……幸せでいるといいな。


 少し興味が出て、久しぶりにアスファンにログインをした。

 あいつらがいるだろうかと探してみたけど……今日はログインしていないようだ。

 久しぶりに共通のフレンドに声をかけてみた。


「ああ、あの3人なら【トライアングル・クエスト】方に行ったよー」


 トラクエ……。この4月に始まったばかりのネットゲームだ。

 アスファンを止めて、そっちのゲームに行ってしまったのか。連絡をくれれば……インストールくらいはしたのに。


 確かトラクエは……【3人】パーティゲームだったか。


 ……俺はスマホを起動させ、ぼっーっとインスタのタイムラインを見つめる。

 そこで……翔真のアカウントらしきものを見つけた。

 あいつ、インスタやってたっけ……。


 そこに上げられたのは翔真、水野、平坂の3人で撮る写真がずらっと並んでいた。

 4月に山へ行った写真、5月のGWに旅行へ行った写真、6月にゲームショーへ行った写真、7月に海へ行った写真。

 毎週のようにどこかへ行き、その写真がアップされていた。


 そこには1枚も俺の姿はなかった。


 何で誘ってくれなかったんだろう。

 確かに忙しかった。……でも全部の日が忙しかったわけじゃない。

 空いてる日もあった。あれだけ高校生活一緒に過ごしたというのに……1度として俺に連絡は無かった。


 そういえば高校の時も遊びに行く時は全部俺から誘っていたような気がする。

 つまり……俺から誘わなければ……あの3人は俺を誘う気はないということなんだろうか。


 そういえばあんなに一緒にいたのに……。

 一度として俺のバイト先に遊びに来てくれたことも、

 一度として俺の部活の試合を見に来てくれたこともなかった。


 翔真が風邪を引いた時、女達の買い出しに付き合わされた時も……俺には何も礼はなかった。

 そもそも俺が風邪を引いた時、あいつらは何かしてくれたっけ……。


 水野が他校の男子に囲まれた時も褒められたのは連れ出して逃げた翔真だけで、男の相手をし、殴られて、停学になった俺に何か一言あっただろうか。


 翔真が水野の実家に行った時に渡したお金は……未だに戻ってこない。バイトで生活費を捻出することも難しい俺に……今も自由に遊んでいるあいつらは何だろうか。


 平坂はずっと私の友達でいてって言ってたじゃないか。この半年間。少しの疑問も感じなかったんだろうか。


 なぁ、翔真。自分が困った時だけ連絡して、それ以外は俺に連絡してくれないのか?


 俺はあいつらが困った時にできる限り助けになったつもりだ……。


 でもあいつらは俺が困った時……何もしてくれない。


 これは俺が望んだ結末なのだろうか。

 ただ負けヒロイン(ひらさか)に負けてほしくなくて……頑張って、頑張ってヒロイン(ひらさか)に仕立てあげたんだ。

 負けヒロイン(ひらさか)主人公(しょうま)を想う気持ちが大好きだったんだ。


 なのに俺はもう見ることができない。


 主人公(しょうま)ヒロイン(みずの)第二のヒロイン(ひらさか)の3人だけで物語は完結してしまった。


 俺がその中に入る余地はまったくなかった。


 つまり負けヒロイン(ひらさか)ヒロイン(ひらさか)になったことで俺の存在意義は無くなってしまったということだ。

 俺の高校生活はなんだった。好きな気持ちを胸にしまったまま……3年間主人公とヒロイン達の手足となって道化となるこの人生。


 なぁ……俺は何なんだ。誰か(やくわり)を教えてくれ。


 俺はPCの電源を落としてベッドに寝転がる。


 俺は3人の連絡先を消去し、一切の連絡手段を断った。


 こうして俺は……サブキャラであることも捨てたのだ


読了ありがとうございます。


有馬くんの敗因は碧に想いを伝えなかったこと。

そして彼に想いを寄せる第五のヒロインが現れなかったことですね。


このようなヒロインに想いを寄せるサブキャラは好きです。

主人公の親友キャラが大好きです。


ちなみにこの後、友に裏切られたと感じ荒れまくる有馬くんを主人公とヒロインズが助けて、

真の仲間になるハッピーエンドも考えていたりします。

それは本当にハッピーかなぁ……


それを書くなら長編にしたいと思いますので連載候補とさせて頂きたいなと思います。


好評頂けたのであれば評価、ブクマ、感想を頂けると励みになりますので

宜しくお願いします。


連載版投稿開始しました。

宜しければこちらをご確認下さい。

『ラブコメ主人公の真の仲間に相応しくなかった俺が、甘えん坊で口ベタな後輩に出会って報われるまで』

https://ncode.syosetu.com/n5324ga/


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ラブコメ主人公の真の仲間に相応しくなかった俺が、甘えん坊で口ベタな後輩に出会って報われるまで


新連載です! 現代恋愛カテゴリー、こちらも応援頂けるとありがたいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公自身も間違えていた部分がある点。 思春期特有の格好つけかもしれませんが、好きな相手に向けている君の笑顔が好き、とか結構アレです。 あんなに友人達に尽くしてきたのに、というのも結構身勝…
[一言] 借りた金を返さないという一点だけでも自分なら友人関係切りますね 金の切れ目が縁の切れ目といいますが、これは別に悪い意味だけでなく金銭関係をきっちりしてる人は人間関係もきっちりしているものです…
[良い点] どんな事情があるか知りませんが、この友人(?)たちとハッピーエンド迎えるくらいなら、新天地で新たな縁をつないでくれと思います。 [気になる点] ただ、負けヒロインが主人公以外を好きになるな…
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