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出来事の

「フィル、ユイ」


「分かってる。行け」


「……」こくり


 まだ外に怪しい気配が幾つもある。


 しかし、それらは既にフィルとユイも確認しているようだ。俺がなにも言わずとも気配の方を睨みつけている。


 彼女たちに任せて俺は支部の中に入る。


「ジ、ジードさんっ!」


「……ちっ」


 ルックが肩の傷を手で抑えながら俺の方を見て叫んだ。


 黒い衣装に顔を包んだ暗殺者らしき男達が俺へ振り向く。数は三人。


「ま、客じゃないわな」


「死ねッ!」


 身軽な動きだ。


 一人が短剣で俺へと迫って視界を奪う。


 その隙にもう一人は弓、もう一人は魔法で俺を狙い撃つ。


 良い連携力だ。


「物騒だな」


 短剣を受け止めて男を宙にぶら下げる。それぞれ迫ってくる矢と魔法を男の背で受け止める。


「ぐぁっ!?」


「き、貴様っ!」


 魔法を放った男が反射的に口を開いた。


 俺の行動が意外だったのだろう。短剣を持つと想像していなかったのだろう。


「まだやるか? こいつ死ぬぞ?」


「……くっ。卑怯な!」


「どっちがだよ。俺らが来なきゃルックを殺す腹積もりだったんだろ?」


「……」


 俺の言葉に魔法男が黙る。


 と、思ったが弓の方はお構いなしのようだ。


「例え死のうとも我らは任務を成し遂げる!」


「おいおい、まじかよ」


 容赦なく矢を放ってきた。


 仕方ない。短剣男を地面に放り投げて矢を受け止める。


 バキッと矢をへし折って木くずを手に持つ。


「ちと、痛いかもな?」


 木くずに魔力を乗せて弓男に投げる。


 弓男の身体に幾つも小さな穴ができる。


「ぐぁっ!? い、いてぇ……! 死ぬ……!」


「バカか、短剣の奴よりマシだ。そんで、おまえもやるか?」


 魔法男の方を見る。


 ふるふると首を左右に振って戦闘意思を明確に拒否した。


「よし。じゃあ顔見せろ」


「……ああ」


 魔法男が顔を見せる。


 長い耳。エルフだ。


「ルック、大丈夫か?」


「ええ、なんとか。でも、どうして襲われると分かったんですか……?」


「偶然だ。……俺を襲おうとしたユイに感謝したほうが良い」


 一連の出来事を思い出して言う。


 あれがなければルックが襲撃されることも気づけなかった。


「は、はぁ。なにはともあれ助かりました」


「ああ。それよりも、こいつらの顔に見覚えは?」


 ルックが首を傾げる。


「うーん……ないですね」


「そうか。面倒だな」


 そんな会話をしていると支部の中にフィルとユイが入る。


 外には意識を失った黒づくめの男たちが倒れていた。


「ルックさんは無事のようだな。こっちも終わったぞ、ジード」


「そのようだな。さて、それじゃあ」


 魔法男を見る。


 目が合うとビクリと震えた。


 これから自分がどうなるのか理解できているようだ。話が早い。


「すんなり口を割ってくれると助かるんだがな」


 そう呟くと、後ろから歩いてくる一団の気配があった。


 見知った魔力もある。


 振り向くと昼間に会ったシルレとオッドがいた。


 護衛のエルフ達も一緒にいる。


「騒ぎを聞き、やって来た。これは一体どういうことだ?」


 オッドが開口一番にそう言った。


 周囲は黒づくめのエルフ達が倒れていて、ギルド支部の中は荒らされている。


「きゅ、急に彼らが襲ってきたんです。ジードさん達は偶々居合わせて助けてくれました」


「……ふむ。あなたは?」


「……」


 シルレが魔法男を見て説明を求めた。


 しかし、顔を青ざめながら口を開こうとしない。


 まるで何かに怯えているような。


「シルレ様、この様子では満足に会話もできそうにありませんな。ここはどうでしょう? 牢屋に放り込んで尋問するのは」


「しかし、それでは……」


「私になにか異存でも?」


 シルレが意見を出そうとすると、オッドが睨みを利かせた。


 なんだ?


 シルレが押し黙り、頷く。


「そう……ですね。夜も遅い。無駄にみんなを不安にさせたくない。連れて行きましょう」


「待ってくれ。ここでルックが襲われた理由を吐かせなければ、次またいつ襲ってくるのか分からないだろう」


 勝手に進んでいく話に待ったをかける。


 フィルも続いた。


「彼らは手練れのようで、何らかの組織立った動きでした。ルックさんが狙われているのは確かです」


「では、エルフから護衛を付けましょう。それで如何ですかな?」


 オッドが妥協案を出す。


 しかし、ルックが首を横に振った。


「いえ。それには及びません。自分の身は自分で守れますので」


「そうですか、そうですか。では、我らはこれで」


 オッドとルックは互いに薄ら笑みを浮かべている。だが、その表面とは裏腹にどこか水面下で攻防しているようだった。


 オッドが踵を返す。護衛達が黒服の連中を抱えて連れて行く。


 残ったシルレがこちらを見た。


「悪いことは言いません。あなた方では依頼を達成できないでしょう。それに、エルフの里にいても危険なだけです。人族の領地に帰りなさい」


 それは警告の色を含んだ言葉だった。


「心配ありがとな」


「なっ。わ、私は別に気遣っては……!」


 シルレが恥ずかしそうに顔を赤らめる。


 否定しようとしているが。


「――一連の会話と今の言葉ではっきりした。おまえはこの暗殺には関わっていない。そして恐らく、今まで外部の組織を追い出したことにも」


 シルレは俺達やギルドに気を配っている。


 言葉が刺々しいのは訳があってのことなんだろう。


 むしろ怪しいのは……


「……変に詮索はしないことです」


 すとん、っとシルレの表情が曇る。


 やはり何かあるようだな。


 シルレが踵を返す。


 彼女の背に言葉を放る。


「受けたからには達成するぞ、依頼」


「……」


 返事はなかった。


 だが、あれだけ立派な耳を持っているんだ。聞こえていただろう。


 シルレが帰路に着き、場には俺、フィル、ユイ、そしてルックとなった。


「大丈夫か?」


「ええ、妻が治癒魔法に心得があるので帰って見てもらいます」


 疵は酷くはなさそうだが、根性のある言葉だ。


 しかし、俺の『大丈夫か?』にはもう一つの意味がある。


「傷もそうだが、護衛は要らないのか?」


 俺が言うと、ルックが苦笑いを浮かべた。


「実はこれが初めてじゃないんです。今日は資料整理や報告書などで遅くまで残っていただけで、普段は嫁家族が守ってくれているんですよ」


「苦労の多そうな話だな。しかし、あんな奴らと渡り合うとか何者だ」


「はは、それをジードさんが言ってくれてたって自慢できますよ。昼に会った守衛を覚えていますか?」


「ああ、覚えてるが」


「あれは祖父です」


「…………エルフは長寿だったな」


 歳はルックとさほど変わらないように見えたが、どうにも世界観が掴めない。


 まぁ、神樹の守衛を任されているほどだから強いのだろう。そこだけは安心してもいいはずだ。


「よいしょ」


 言いながらルックが荒らされた紙類をまとめていた。


「俺も手伝う。フィルは先に戻っていてくれ。下手に待ち伏せされていたり、変な罠を仕掛けられないよう貸家を見ていてくれ」


「わかった。しかしユイは……あれ? あいつどこ行った?」


 フィルが辺りを見回す。


 ユイの姿はもうここにはない。


 探知魔法に掛かっていた状況を説明する。


「あいつならシルレやオッドの後を追ってたぞ」


「後を? ……なるほどな。じゃあ、私はもう帰るとしよう。ルックさんの自宅までの護衛はおまえに任せる」


 言うとフィルも部屋から出ていく。


「夜遅くまで残ってやってた作業ってのはこれか」


 ルックの手伝いで紙を拾いながら言う。


「……ええ。諦めきれませんから」


 書かれていたのは、エルフの未来を思い描いて必要とされるであろうもの――。


 彼の想いは大きいのだろう。


「じゃあ早いところ行こうか。傷は浅いようだが、おんぶでもするか?」


「そ、それは大丈夫ですっ」


 ルックがすこし恥ずかしそうに両手を振って拒み、傷のせいで「痛っ」と天然のようなことをかました。


 それからルックを家にまで送り、俺は借家にまで戻った。


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