おわ
自らの過ちを告白するため、ギルドマスター室に足を運んだ。
仲良いおっさんの手助けをするためにウェイラ帝国を追い返してしまった。しかも、演技が下手すぎて正体バレバレだったし……。
ロクに人と喋ったことすらないのに、無理して嘘なんか付くんじゃなかった。
「――と、いうわけなんだ。変なマネをして、すまない」
「別に良いぞ。どうしてそんなに重々しい態度なんじゃ?」
「え、良いの?」
あっさりとリフが言う。
むしろ『なんでそんな反省しているんじゃ?』と怪訝そうだ。
「イタズラにギルドの看板を背負ってウェイラ帝国と対立したのならば処罰も考えよう。しかし、お主は依頼という正当な目的があり、そのための手段を講じただけじゃ」
「いや、俺が戦場に混ざったのは」
「クエナやシーラを救うためじゃろう? それにカリスマパーティーの一員であるユイを助けるため。じゃな?」
「ああ。だから依頼ではないんだが」
「同胞を救おうとした者をどうして責められようか。そもそも、依頼があるのだから何とでも言える。気にするな」
「……すまん」
「じゃが、一つだけ。何かあれば相談せい。妾やギルドは敵でない。お主は特にSランクであり、さらに重要なパーティーに所属しておる。なにかあれば融通するし、手を貸す」
リフが不敵に笑ってのける。
この幼女、頼もしすぎる……!
「しかし、予想通り仮面の男はジードであったか」
「ん? どういうことだ?」
どうやらリフの耳にはスティルビーツでの話が聞こえていたらしい。つい先程の出来事であるにも関わらず耳聡い。
なにやら事情を握っていそうだ。
「女帝が『帝王』を選んだと既に話題になっておるぞ。帝国軍の第0軍から第十軍まで退けた怪物だとも」
「えっ。ニュースになってるのか?」
慌てて冒険者カードを確認する。
しかし、リフが首を横に振って否定した。
「あの戦場に映像を撮る余裕のある者なんぞおらんよ。あくまでも噂話程度じゃ」
「なるほどな」
「くふふ、妾も帝王なんて地位を用意されれば引き抜かれてもしょうがない。今日は他にも用事があるのじゃろう?」
なにか悟っているような様子でリフが言う。
他にも用事……?
おそらく前の言葉で『引き抜かれる』とあるから、俺がウェイラ帝国に行くとでも思っているのだろうか。
「いや、俺はギルドにいるが?」
「……む? しかし、あのウェイラ帝国の帝王じゃぞ? 傘下の国々が怪しい動きをしているとは言え、あそこは未だに格別の国力を持っておる」
「知ってるよ、色々と学んでいるからな」
依頼を受けていない時はギルドの図書館に行ったりもしている。ただ暇を持て余しているだけじゃない。
「それでも行かんと?」
「俺からすればギルドは居心地が良いからな。気が変わらないうちは籍を置かせてもらうよ」
「くふふ、おかしな奴じゃ。帝国が引き抜こうとした人材はどれも去っていったというのに」
「ああ、そういや色々と引き抜かれてたな」
「そうじゃな。だからお主が愛おしく感じる」
大きな瞳でリフが俺を見る。
なんか気恥ずかしい。
「気が変わらないうちだからな。俺もそのうち引き抜かれるかもしれないぞ」
「引き抜かれないよう努力するのじゃ。それに、たった一度でも断ってくれたのが嬉しい。それだけじゃよ」
「……そうかい」
リフが素直に感情を吐露している。
どこか初めて本心が垣間見えたような気がした。
「それはそうと。お主、大変じゃぞ?」
「なにがだ?」
いきなりの話題転換だ。
省略された諸々の言葉に思い当たることがなく首を傾げる。
「言ったろう、女帝とキスした現場を目撃された上に話が広がっておると。クエナにも情報が行っておる頃じゃろう。あやつは情報筋が複数あるからの」
「はは、そりゃ怖え……。俺このあとクエナの家に行ってシーラの作った飯を食べる予定なんだがな」
「大変そうじゃの」
リフがにやにやと毎度のことながら他人事として笑う。
「面倒になる身にもなってくれよ……」
「そう言いながらも嫌いではないじゃろう」
「まぁ、そうだな。イヤではない」
リフの鋭い言葉に頷く。
好意を抱かれているということ。それ自体は心を温めてくれるような感覚になる。しかも、あんな美女と美少女だ。
誰がイヤになれるものか。
「ならば受け止めてやるのも責務というもの。頑張るのじゃ」
リフがビシッ! と親指を立てる。
良いことを言っているようだが楽し気な幼女は、やはりどこか憎らしかった。
「ああ、それとな。カリスマパーティーに依頼がある」
「依頼?」
「うむ、今度はギルドからじゃ」
「ギルドから? どういうことだ?」
「今まで著名なSランクパーティーやAランクパーティーまでもが失敗した依頼。――エルフ・ギルド支部からの依頼じゃ」
リフが依頼書を取り出しながら言った。
「ああ、それが依頼なら受けるよ」
俺はその依頼を自主的に受け取る。
旧騎士団なら仕事なんて嫌々と引き受けていたところだ。
それが今や楽しみになっている。ハッキリと好きだと言えるほどに。




