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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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ぶつかりあう

「『なんか私クエナに良いとこばかり取られる……』」


「取ろうと思って取ってるんじゃないわよ。そもそも戦闘に良いところなんて――って。そんなこと言ってる場合じゃないわよ」


 斬りつけたはずの巨人の手が再び形を戻して浮かび上がる。


 今度は両手を空に掲げている。


「まだ慣れない。けど、今度はもっと早く行く」


 ユイが冷淡に告げる。


 あの衝撃が今度は二度も来る。今度は敵味方関係なく風圧で吹き飛ぶ。誰もが理解して、今度は全員が影の巨人に対して背を向けた。クエナとシーラを除いて。


「今度はしっかりやりなさい。私はユイの方に行くわよ」


「『はーい。今度は手助けなんかいらないからね!』」


「……本当に大丈夫なのかしら」


 クエナが不安そうに言う。


 それでもこれ以上の手助けは不要だと言い切ったのだ。クエナは自分の相手であるユイを見据える。


 ユイは泰然自若と立っていた。


「その余裕が仇になるわよ」


 クエナが両手に剣を掲げて一気に振り下ろした。


 剣に纏っていた炎が地面に張り付いてユイに真っすぐ伸びていく。


 だが、ユイの巨人とは別の影が眼前に壁を作って炎を防ぐ。――瞬間。


 ユイに四方から烈火が襲う。


 真っすぐに伸びた炎が燃え盛ったのだ。


 影の壁が四方を囲むようにしてユイを守る。


 ギンッという高い音を伴って影の壁に赤い刀身が刺さる。


「蒸し焼きにしようと思ったけど、やっぱり丸焼きにするわ」


 クエナの言葉と共に刀身から灼熱の炎が生み出される。


 一気に壁の中が高温に包まれる。


 数瞬してクエナが壁から剣を抜く。炎が止むと壁も消えた。――ユイの死体はない。


「なっ、どこに……!」


「おわり」


「ッ!」


 クエナの首筋に短刀がかかる。


 ユイはいつの間にか背後に現れていた。


 死


 クエナの脳裏にそんな文字が過る。


 どうやって気づけないまま背後に回られたのか知ることもないまま――


「『あぶないっ!』」


 間一髪のところでシーラがユイの短刀を跳ねのける。


 見れば、巨人の身体には幾つもの穴が空いていた。


 シーラがドヤ顔でクエナを見る。『どうだ、私が助けてやったのだぞっ』と言わんばかりに。


 しかし、クエナは命が助かったと理解した瞬間にユイへ斬りかかる。正しく臨機応変な判断だ。が。


 ユイが消える。


 それは比喩でなく姿がそっくりそのまま無くなった。


 一面を見渡す。いない。


 ふと、巨人の影からユイが現れる。


「……そういう仕掛けね」


 クエナの得心が行く。さっき、壁の中からどうして急に消えることができ、急に背後に現れたのか。


 ユイは影の間を自在に移動することができるのだ。


 使い手は稀であるが、似た系統の魔法ならクエナも聞いたことがあった。


「シーラ。すこしだけ時間を稼いで」


「『合点!』」


 クエナに言われてシーラが純黒の剣を持ち直す。今まで一緒に戦ってきた経験からクエナの行おうとするものに理解が及んだ。


 クエナが剣を掲げる。剣先から小さな炎の球が浮かび上がる。それは次第に巨大化していく。


 二倍、三倍、四倍……着実に大きくなる。しかし、それは緩慢であった。


 当然ユイとしても狙い目だった。


 だが、シーラが構えている。


「『しばらく相手になってあげる』」


「……!」


 ユイの目つきが変わる。


 穴ぼこになった影の巨人が霧散すると同時にユイがシーラに迫る。砂ぼこりが一秒遅れて舞うほどの速度で。


 互いの間合いに入る。


「死ね」


「『うそっ!』」


 ユイの斬撃が複数に分裂する。最初は残像かと思ったが違う。


 そのまま『分裂』しているのだ。


 ユイの影が手の付け根から複数生えている。


 だが、シーラは急所を狙ったものに限定して跳ねのける。多少の傷は負ってしまうが仕方ない。すべてを返せるほどの力量は持ち合わせていない。


(けど――ジードの特訓がなければ死んでた!)


 ユイの攻撃速度。即座の判断能力。それらに対応する術。すべての能力値が桁違いに増えている。


 実力がついている実感がある。


 楽しくて、斬り合う。


 たまにユイの攻撃で背後から影の刀が迫ったり、あるいはクエナ本人に危害を加えようとする。


 しかし、それらは純黒の剣が攻撃を届かせない。


 絶対に壊れない。かつ自分に魔力を与えてくれる。――邪剣。


(ありがとね、邪剣さん)


(あなたの悪い癖よ。戦闘中はなにも考えない!)


 シーラは頭の中で邪剣と会話する方法を身に付けていた。


 さらに言えば邪剣は戦闘経験が豊富だった。


 ジードとは別に、シーラは邪剣からも戦闘訓練を受けていたのだ――。


 それでも。


 ユイとの単騎決闘は厳しいものがあった。


 傷は広まり増えていき、可動領域が狭まる。スタミナでも差があった。


 まだ埋まり切っていない実力だ。


(くぅ……! 邪剣さん、こうなったら――!)


(いいえ、大丈夫。後ろを見て)


(……!)


 邪剣に言われるがままユイの攻撃をいなしてタイミング良く後ろを見る。


 ――クエナの剣先に巨大な炎が乗っていた。


 それはユイの巨人と同等とも言える大きさだ。


 戦闘に集中しすぎていたため気が付かなかったが、シーラの背は焼けるような熱さに堪えていた。


 辺り一帯も陽炎が支配している。


「――待たせたわね、シーラ」


「『待たせすぎよ。あとは頼んだわ、相棒っ』」


「ええ、まだ扱い切れないから時間がかかるけど、ようやくできたわ。喰らいなさい――炎炎ノ大玉(エンデイバー)!」


 巨大な炎の塊がウェイラ帝国軍に肉薄する。


 本来なら、ユイはこんな泥仕合をする前に撤退する。それが彼女の強さであり判断力であり性質だった。


 だが、彼女に与えられた任務は『英雄格』になることである。


 ここで退く真似はできない。


「……ぁぁああ! 影の巨人(アルティエゴ)!」


 再び、巨人が現れる。


 今度はユイも多量の魔力を使い、クエナの炎炎ノ大玉を受け止める。


 それらは互いにぶつかり合った――。


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